LABCAR ― ドライブに ガソリンは不要

DEVELOPMENT
SOLUTIONS
LABCAR ― ドライブに
Mercedes-AMG
ガソリンは不要
セルヴェーヌ・レッシ
Mercedes-AMG、LABCAR-OPERATOR V3で
初の実験
LABCARリアルタイムテストシステムは、爽快なロードテストの気分をそのまま再現します。言うまでもなくECUは一切動作せず、疾走するスピード感や油温
の上昇などは、制御コマンドとモデル化された車両機能が作り出す想像の産物に過ぎませんが、想定されるあらゆる事態を経済的にテストするといった観点に
立てば、このテストシステムは最高の環境といえるかもしれません。LABCAR-OPERATOR V3最新版のベータテストを終えたMercedes-AMGは、その良
好な結果に満足しています。AMGの乗車が楽しみな適合エンジニアでさえ、LABCARの好感度は上々のようです。
Mercedesがエンジンブロックを
供給し、Mercedes-AMGが
エンジンを製造
46
RT J 2 . 2 0 0 5
Mercedes-AMG量産V8
自然吸気エンジンのECUは
LABCARでテストされた
DEVELOPMENT
SOLUTIONS
(Simulink®用モデリングコネクタ)と呼ば
ABCARは、ETASが提供するハードウェ
れたノウハウは、その後スタートした第2の
アインザループ(HiL)テストシステム
れるコンポーネントが新 たに加 えられ、
です。この種のテストベンチは通常4種のコ
プロジェクト(既 存 の AMG 5.5L V8
Kompressorエンジン用ECU)の土台とな
ンポーネントで構成されており、具体的に
りました。このプロジェクトは完了目前で
ロジェクトに直接組み込むことが初めて可
は実験操作を制御するためのソフトウェア
あり、作業のほとんどはAMG社内で行われ
能となりました。
(LABCAR-OPERATOR)や、制御ユニット
ました。Mercedes-AMGでこのような進
これはかなりの前進です。以前のバージョ
に入力信号を送りそのレスポンスの出力を
展が実現されたのは、出向の効果を始め、
ンでは間接的にしか組み込むことができず、
測定するハードウェア、関連する車両コン
親会社DaimlerChryslerの研究開発部門が、
かなりの労力を伴いました。最新バージョ
ポーネントの挙動をシミュレーションし、そ
小規模なHiLシステムを用いて燃料電池車の
ンのLABCARでは、モデルの階層全体がラ
れを制御ユニットに送るモデル、そして複
ノウハウを収集し提供してくれたことによ
ベル名とともにマッピングされており、パラ
雑なテストシナリオを生成し自動実行する
るものです。ついでながら、量産車開発部
メータと測定変数に対するアクセスがきわ
プロセスをサポートするソフトウェアなどが
門より研究部門のエンジニアの方が、この
めて簡素化されています。また開発工程の
あります。
種のシステムに価値を置くのは当然で、つ
後半でモデルに変更を加えた場合でも、そ
まり研究段階では実際の車両はまだ存在し
の変更をほとんどの場合ボタン一つで自動
世界で最もパワフルなV8自然吸気エンジン
ておらず、仮想的とはいえ、徹底したロー
によるウォームアップトレーニング
ドテストを行える唯一の手段がハードウェ
2004年12月Mercedes-AMGがLABCAR
アインザループシステムであるからです。
的に統合できるようになっています。AMG
5.5L V8 Kompressorエンジンのモデルは、
実績あるMercedes-AMG 6.3L自然吸気
L
Simulink®で生成したモデルをLABCARプ
の発注を決めた際、当面の目的は、新規開
発の6.3L自然吸気式エンジンのECUをテス
トすることでしたが、その他のエンジンの
ECUについてもテストが見込まれていまし
た。この新しいV8エンジンは自社開発によ
るものですが、ここで使用しているECUは
Mercedes-Benzでも使われているもので
LABCARプロジェクトにおける
Simulink®モデルの統合
LABCARプロジェクトのセット
アップ段階において、車両コン
ポーネントのモデルを新たに開発
したり、既存のモデルを修正する
セルヴェーヌ・レッシ氏
す。アセンブリを構成するセンサとアクチュ
といったような場合は、
1979年フランス生まれ。2001∼2003年、欧州の共同学位プログラムを利用し
エータは、当然の事ながら数や種類が異なっ
Simulink®の操作に習熟している
てベルリン工科大学で電子工学を学び、シュトッゥトガルトのDaimlerChrysler
ていますが、LABCARが評価された理由は、
ことが絶対条件となりますが、ア
AGに勤務の傍ら、学位論文「燃料電池ハイブリッド車の制御手法に関するシミュ
まさにこのような違いが存在することによ
プリケーション開発の段階に入
レーションと公式化」を発表。2004年、Ingenieurgesellschaft Auto und
るものです。つまりMercedes-AMGでは
AMG固有の問題を自ら解決しようと考え
れば状況は異なります。
ていたのです。世界で最もパワフルな量産
ユーザーにはSimulink®に関する
V8自然吸気エンジンはほどなく実用化を迎
スキルは一切要求されません。な
え、今では公道で素晴らしい走りを見せて
ぜなら実験の条件を設定する上
Verkehr( IAV Group)の Engine/Drive Engineering部 門 より Hermann-Appel発明賞を受賞。2005年1月より、DaimlerChryslerを代表し
Mercedes-AMGにおけるLABCARプロジェクトの準備に取り組んでおり、年
末より3年間デトロイトに赴任し、General Motorsとの共同プロジェクトの一
環によるハイブリッドシステムの開発プロジェクトでHiLシステムの構築について
います。
で必要となるパラメータはすべ
支援作業を行う予定。
この段階に進むと、 LABCAR
て、LABCAR-OPERATORから
このプロジェクトにLABCARの採用を決め
直接アクセスできるからです。し
たMercedes-AMGは、ETASに定常的なサ
たがってLABCAR をMercedes-AMG で
V8エンジンの機能モデルをベースに作成さ
ポートを求めました。ETASの提供するガソ
セットアップする目的は、前述の2種類の
れたため、まさに最高のタイミングでした。
リンエンジン車両のモデル(GEVM)を、
る作業にはサポートが必要なため、この要
V8エンジンの場合と同様に、ユーザー自身
が外部のサポートなしにエンジンのECUを
実験できるよう、LABCARプロジェクトを
求は妥当なものでした。なおこのような修
準備することにあります。
AMGのV8エンジン専用にチューニングす
正作業により、今ではSimulink®モデルに
AMG仕様のターボチャージャモデルが追加
されています。この他にもETASのエンジニ
LABCAR-OPERATOR V3に は MCS
Mercedes-AMGは最新のV8プロジェクト
の準備段階で、ベータバージョンのLABCAR-OPERATOR V3を提供されたため、
Simulink®モデルの適用に際して多少の工
夫が必要でしたが、LABCAR-MCS コン
ポーネントが期待を裏切らなかったことは
アは、LABCARとECUを結ぶハードウェア
確かで、統合作業はほとんど自動的に行わ
インターフェースの調整と、AMG V8エン
ジンプロジェクトの立上げに関して、Mer-
れました。
cedes-AMGを支援しました。ここで得ら
➔
■
47
J 2 0 0 5 . 2 RT
DEVELOPMENT
SOLUTIONS
使い勝手の良い
LABCAR-OPERATOR:
半日のトレーニングで
最初のテストを開始
プログラムには単発的にクラッシュが発生
しましたが、その一部は操作ミスによるも
のでした。オンラインモードからベクター変
数を勝手に変更した等はその一例です。こ
の操作はオフラインでしか認められていま
せん。新しいソフトウェアに習熟する過程
で、Mercedes-AMGはETASのサポート
チームと緊密に連絡を取り合いました。
ユーザーによるLABCARの使用
Mercedes-AMG のLABCAR ユーザーに
とって、現実のAMG車両からHiLシステム
への移行は容易ではありませんでした。シ
ミュレーションやシミュレーションモデルの
経験がない彼らは、LABCARがテスト車両
と同様に振舞ってくれるものと本能的にと
らえていましたが、現実のHiLシステムはそ
Mercedes-AMG 会社概要
1960年代半ば、ハンス・ウェルナー・アウフレヒト(A)とエアハルト・メルヒャー
(M)により、グローザスバッハ(G)近郊の町ブルグシュタールで初代の会社が誕
うではありませんでした。LABCAR ユー
生。当初の社名「レース用エンジンの設計、製造、テストを行う会社」は、後に
ザーが直面したこの大きな問題は、すべて
AMGへと改定されました。
1978年 創業地の工場が手狭になり、現本社所在地のアファルターバッハに移転、
AMGの3文字はモータースポーツ界で有名になりました。
1988年 ドイツツーリングカー選手権(DTM)参戦をきっかけに、モーターレー
シング界に復帰したMercedes-Benzとチームを組み、その連携は年々強化されま
の車両コンポーネントがAMGの仕様要件に
従ってモデリングされていなかったという点
に原因があったのです。例えばAMG仕様の
冷却システムに対し、標準的な冷却システ
ムのモデルが使われていました。こうした代
した。
用モデルを用いることは、当然負荷テスト
1999年 両社合併によりMercedes-AMG GmbHが誕生、現在650名の従業員
を通じて検討されるべきことです。しかし
を有しています。
ユーザーがシミュレーションすべき対象を事
前に知らされ、扱うモデルのバージョンに
習熟しているならば、問題なくLABCARを
なぜなら調整可能なパラメータを変更して、
もう一つの精査すべき課題は、LABCAR内
扱えるはずです。オイルセンサのテストなど
運転サイクル全体を即座に完了でき、さら
でAMG車をシミュレートした結果が、実際
は、LABCARを使って実現できる費用対効
にその結果をすぐに検証可能だったからで
のロードテストと一致するかどうかという点
果の高いテストの典型的な例です。LAB-
す。従来のテスト方法では、テスト車両の
でした。適合エンジニアはその問いに答え
CARは実験に大きな自由度をもたらし、実
調達・準備に始まり、指摘された不具合が
るため、LABCARで行ったロードテストを
際のテスト車両を軽々と「追い越して」い
再現されるまで延々と走らねばなりません。
実際の路上で何度も繰り返して比較を重ね、
くような優れた環境を提供します。
テスト結果が一致することを明らかにしま
LABCARとAMGテスト車両の勝負
LABCARとAMGのテスト車両を競わせた
タッフの認識としては、シミュレーションに
結果に参加者は目を見張りました。これは
要であり、LABCARは実車テストを補強す
可変カムシャフトアジャスタの潜在的な問
る重要な役割を担うものであっても、実車
題を、LABCARと実車の両方で調査したも
テストの代替ではないということです。
した。それでもなおMercedes-AMGのス
ので、勝負を制したのはHiLシステムでした。
48
RT J 2 . 2 0 0 5
は必ず実際のロードテストによる検証が必