人生を豊かにするということを 金融とリスクから理解する 刈屋 武昭 京都大学経済研究所 金融工学研究センター www.kier.kyoto-u.ac.jp/fe/ 1 金融は大きな視点から見ることが大事 Ⅰ 人生を豊かにすることは、日本を豊かに すること Ⅱ 企業は、社会全体の価値創造の機構(手段) である Ⅲ 家計・企業は金融商品をとおしてリスク マネジメントをする Ⅳ 企業の新生・成長には、リスクテイカーが 必要であり、株式や社債、投資信託 ベンチャーファンド等へ投資する人が必要で ある 2 金融とは何かを理解する基礎的枠組 { { { { 経済主体:家計,企業,政府 家計と企業の関係のダイナミズム:雇用・所 得と生産消費の関係(経済学) 企業の競争力を連続的に高めるリスクマ ネーの供給 企業の持続的成長をするための投資に対 する金融システムとリスクテイカーの機能 堺屋・刈屋・植草『あるべき金融』東洋経済新報社 3 豊かになること:完全燃焼 ライフサイクル のリスクマネジメント したいこと、なりたいこと、ほしいもの 大学、就職、結婚、子供の教育、住宅ローン、転職、生涯学習、 退職、老後;親の介護問題 リスク:人生の目的に対して変動性を与えるもの、不確実性 生活:病気、事故、不動産の価格変動、所得減少、失業、倒産、 老後:自己の競争力の陳腐化 資産:不動産の価格変動、インフレ、株価・金利・為替の変動 社会経済の知識の蓄積・知力の育成 生活教育の必要性・生涯学習 金融とリスクの関係を理解する能力 生活設計のための自己投資(貯蓄)を意識する 機会とリスク関係のリスクマネジメント能力(運力) 4 人生を豊かにすることは、 日本を豊かにすること ・税金をたくさん払える人になる (たくさん稼ぐことは人のためになる) ・税金をたくさん払える企業を作る (雇用や新しい需要を作る:技術・新産業) ・税金を有効利用する政府を作る (福祉・安全・教育・環境): 小さな政府、将来の成長を確保する教育投資 家計 企業 政府・地方公共団体 5 21世紀前半の日本はグルーミー <日本の現状> 大卒就労率(80%)、失業率(5.1%)、 国債等の政府の累積負債(700兆円以上) 地方公共団体の赤字130兆円以上,その他特殊法人リスク 倒産企業数(2002年 史上2位19500件) 金融不良債権、(賊課方式)年金制度の危機、 少子化、老齢化、グローバル化、低成長化、 自由化・競争化 中国の台頭 しかし個人金融資産:1400兆円もある。 6 人生のオプションを意識する 自分の究極の資産は知力、体力、運力 ・成長企業に就職 (専門性により自分の市場価値を高める) ・自分で起業する (専門性に加えて、リスクと機会を理解する能 力と資金が必要) ・終身雇用は終わる: 稼いだお金をきちんと投資運用する (リスクについての理解を自分で判断できる) 長期的視点に立ったポートフォリオ ビジネススクールなどで知力・運力をつける 7 Ⅱ 企業こそが基本的な社会的価値創造 機構(手段) 企業の役割・機能: ・一人ではできないことを皆で協力することで大きな価 値を作る(高度専門性) ・資本(株式、社債、銀行借入)をもとに労働、技術、 機械、不動産、経営などを組み 合わせて大きな価値 を作る社会的手段 ・雇用、技術開発、法人税の支払い、利益配分(リスク の取り手への報酬) ・ニーズ発見機能,イノベーション機能,資本蓄積機能 ・新技術や新商品の開発は将来世代の生活の基盤(基礎 研究は大学で) 新しい企業と古い企業の交代:日本の企業では進化に対 応が遅い 8 株式・社債の購入 企業の事業リスク の取り手になること リスクのとり手になること=社会にイノベーションを引き起こす こと=日本の競争力を確保していくこと(株も上がる) ・経営の機能:将来の不確実性の中から利益 を作り出すこと(需要、競争、技術、規制) ・ 複雑な事業リスク構造 ・ 企業のリスクマネジメント(経営能力) ・ 企業の価値 事業からの将来の利益を現在時点で評価 したもの(株価の見方) 社会のリスクは減少しない 企業へ資金を提供するリスクテカーとより良い仕組みの 必要性 9 III 昔の金融(資金不足の時代) 鉄鋼業など,政府の産業育成政策による銀行貸出 高度経済成長 所得の平準化と平等意識の浸透 教育の高学歴化 進学率の上昇 1975年までの上昇: 高校進学率 90%(1960年では60%) 大学進学率 30%(1960年では10%) 高度成長後にも政策転換できず,その結果 高福祉国家化(大きな政府) 年金の危機問題、不完全 燃焼社会(人間を幸福にできない) 必要な投資と無駄な投資の峻別できず、借金の累積 10 これからの金融:資金過剰の時代 ノーリスク、ノーリターン 金融商品(契約):資金とリスクの移転の手段 リスクとリターン、時間の属性 定期預金 金融とは 金融商品(契約)をとおして企業、家計、国の間 に「最適な資金とリスクの移転」を作ること 投資資金のほしい企業:株式発行、社債発行、銀行借入 住宅ローンを借りたい個人:銀行からのローン商品 税収不足の国: 国債の発行 その結果、企業にリスクマネーが提供され,企業の持続 的価値創造機能が発揮され,雇用の拡大,賃金の上昇, 税収の増加、リスクテイカーに利益配分 11 資本市場とは ・間接資本市場:銀行発行の金融商品(預金、貸出)に よる資金移転の市場 ・直接資本市場:企業や国などが直接に金融商品を発 行:株式、社債、国債 発行市場:企業や国が新しく資金調達をする市場 流通市場:既に発行された株式や社債などを取り 引きする市場:価値の発見 株式の場合 リスクとリターンの権利の移転 12 金融商品とリスク 銀行預金 :企業貸出・国債などの運用:銀行倒産リスク 株式(発行市場) 企業の投資資金(資本金: 事業のリスク バッファー): 倒産(信用)リスク 社債 : 直接資本市場から事業のため借金:倒産リスク 投資信託: 成長株式ファンド、ベンチャー企業ファンド、 国債 ファンド:収益変動リスク 生命保険: 郵貯 : 特殊法人などへの投資・貸出:株式、国債などで運用 国債 政府 政府のディフォルトリスク ポートフォリオによるリスク管理:一つのバスケットに全ての卵 を入れるな 13 民間の価値創造ダイナミズムの活性化 投資信託 家計 銀行預金 最終的リスク・テイカー 損保 間接資本市場 (銀行) 直接資本市場 (証券発行・流通) 株式・社債・投資信託・国債 企業 価値創造リスク・リターン 生保 郵便貯金 政府 公的年金 14 機関投資家とは 生命保険会社・民間年金基金 公的年金・郵便貯金・(地銀) ・ これらの機関の運用成績を上げるには、 日本の経済成長がないと難しい ・ 企業が元気にならないと株価は上昇しない ・ 税収が上がらない:将来世代に付けが回る 民間の価値創造ダイナミズムの活性化 15 政府が郵便貯金や簡易保険事業を したり,公的年金を管理するリスク { { { 郵便貯金(230兆円),簡易保険(120兆 円) 集められた資金の利用問題 公的年金(国民年金,厚生年金,共済年金) 資金の価値創造への貢献問題 資金の有効利用の視点から、国が大きな資 金を持つことはリスクである。 ・リスクマネーになれない ・運用は困難,資本市場 をゆがめる ・損失は制度変更をもたらし,不安定性 損失税収で埋める 16 老人パワーに負けるな 金融資産の大半を高齢者が保有: 郵便貯金と個人国債:リスクマネーではない 年金問題:若者が老人を養う賦課方式の限界 オーストラリア方式(年金受取額が一定以下の人 に税で補填(国民年金の部分)、厚生年金の部分に ついては民間機関で個人勘定を作り運用(政府が 持たない)) 少子化・グローバル化・低成長化 成長の限界、付加価値の高い産業構造へシフト 自由化と競争激化 選挙に行こう:将来世代のリスクを小さくする道 17 Ⅳ リスクテイカーの存在が 日本と自分を豊かにする リスクテイカーを尊重する社会に リスクテイカーやリスクをとらせる仕組みが 十分でないことがこの国のリスクを作っている。 リスクと機会の関係を理解させる生活(運力)教育の 重要性 自立への道:国家からの自立 ・国が養っているのではなく、国は企業や個人の稼 いだ金を社会の再配分をしている。 ・皆が国に頼って生きることはリスク(将来世代へ のリスク移転) ・本当に必用な福祉 18 問題解決のための3つの指針 { { { 日本人の潜在的能力を100%生かすこと:多様な 人材教育,社会人教育,労働市場の整備,経営者 育成による知的優位性の確保 個人こそ究極の基本資産 金融のリスクテイク機能,資本主義の創造的破壊 機能を生かした企業の交代、効率的経営をもたら す企業のガバナンスなどによる企業価値創造能力 をたかめること 小さな政府:民のリスクテイクによる価値創造ダイ ナミズムの活性化のための政策 19
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