2010 年 7 月 5 日 武者リサーチコメンタリー ストラテジーブレティン Vol.19 短期暗雲も、中長期的期待は変わらず ~保険業法改正で日本株「マイナスのバブル」は是正されるか~ 短期軟調な株式、底値が見えない 先週末米国株式は底割れ、年初来の安値を更新した。13 週移動平均線が 26 週移動平均線を下回るな ど不安なチャートパターン、となった。株価だけを見ていると米国景気二番底、底割れを真剣に心配 し始めたようである。今回の景気回復の特徴は心理・株価牽引パターン(心理改善・株価上昇→資産 効果→家計貯蓄率低下→景気回復)であった。そうした今回景気回復の特徴から、株安と心理の悪化 は逆資産効果を招き、貯蓄率上昇→景気悪化→更なる株安と心理悪化の悪循環が起こりやすいことを 想起させる。ポール・クルグマン氏は第三次恐慌(The third depression)などと悲観論を説き、これ まで強気派の代表格で今回の回復相場を的中させてきた、ハイテク株に集中投資をしてきたバート ン・ビックス氏はその持ち株の大半を処分するなど、情勢は一気に不透明となっている。 短期的には不安が高まる局面であり、更なる株価下落の可能性は排除できない。米株安、米国景気不 安は投資家のリスク回避姿勢を一段と強め、円高を誘導し、それは回復しかかった日本経済と日本株 式に新たな制約となる。 株式で「マイナスのバブル」化も ただし、中長期視点で事態を眺めると、投資コンフィデンスは一変する。第一に更なる株安で株式が 一段と割安になっている。リーマンショック後に見られたような「マイナスのパブル」が育っている 状況と考えられる。長期金利の低下と株式リスクプレミアムの上昇で株式バリュエーションは、大き く割安となっている。今後①経済の破局的悪化(=株式価値の減価)か、②鋭角株高か、の二つの可能 性が考えられるが、②の可能性が高いと思われる。第二に米国のファンダメンタルズの調整は、①企 業部門での完璧な在庫・雇用・設備・バランスシート調整完了、②家計部門での需要の抑制(ペント アップディマンドの蓄積)、③住宅価格の割安バーゲン化、など著しく進展している。仮に今年後半 マイナス成長に陥り二番底景気となれば、米国ファンダメンタルズの「ため」は更に大きくなり、持 続成長をより長期に保障するものとなるだろう。 図表 1:日米の資産構成比較(2010 年 3 月末) 保険 投資信託 2.0 貸出 15.2 日 対外証券投資 12.2 その他 株式出資金 4.6 7.8 投資信託 3.2 債券 56.4 (372.0兆円) 現金・預金 1.8 貸出 米 7.6 (6.3兆ドル)現金・預金 1.2 株式出資金24.8 債券 55.5 その他, 7.6 年金基金 貸出 2.9 投資信託 6.7 株式出資金 15.2 債券 40.4 日 (94.3兆円) 現金・預金 その他, 3.2 対外証券投資 25.1 6.6 貸出 0.8 米 (9.8兆ドル) 債券 20.5 投資信託 23.3 その他 16.5 株式出資金 37.7 現金・預金 1.1 家計 日 株式・出資金 7.1 現金・預金 54.9 保険・年準備金 27.0 投資信託 3.8 (1,453兆円) 米 債券 2.9 現金・預金 14.2 債券 8.9 投資信託 121 株式・出資金 31.4 その他 4.3 保険・年金準備金 29.9 (45.5兆ドル) その他 3.5 出所:日銀 1/2 株式会社武者リサーチ 代表 武者 陵司 代表電話 (03) 5408-6818 直通電話 (03) 5408-6821 E-mail: [email protected] www.musha.co.jp 〒105-0021 東京都港区東新橋 2-18-3 ルネパルティーレ汐留 901 武者リサーチコメンタリー 2010 年 7 月 5 日 長期成長の礎が築かれる 1981 年の米国景気 2 番底が 1980 年代の大幅な株高の起点となり、1991 年からのジョブレスリカバリ ーが 1990 年代の米国繁栄の基礎を固めたように、今回の足元の停滞が続けば続くほど、より長期繁 栄の礎を築くものとになるだろう。なぜなら経済のエンジン米国企業部門は、かつてなくスリムであ り活力があるからである。労働生産性の上昇が続き労働分配率は過去最低であり、空前の資金余剰が 続いている。グローバリゼーションとインターネット革命の恩恵が経済と市場を支え続けていること を、忘れるべきではあるまい。 保険業法改正のインパクト 「マイナスのバブル」と言えば、日本株式ほど割安な金融資産はあるまい。上場株式の平均予想配当 率は 2%と長期国債利回りの 2 倍近い水準。配当性向がほぼ 30%なので株主の総リターンは国債投資家 のそれの 6 倍と言うことである。それほどの極端な日本株の割安化は日本人が株を全く買わなくなっ たために起きた。そしてその背景には、保険の運用規制があった。しかし先週末の日経新聞は、国内 株 3 割、外国資産 3 割、不動産 2 割として上限を定めていた保険業法が改正され、運用上限が撤廃さ れると伝えている。図表 1 に見るごとく日米投資家の株式組み入れ格差が日本株「マイナスのバブル」 の原因だとすれば、その是正は日本株バリュエーションに、劇的変化をもたらす可能性がある。 図表 2:日本の配当利回りと社債利回り推移 図表 3:米国の配当・バイバック利回り(配当率+自社株 買い対時価総額比率)と社債利回り推移 (%) (%) 9 12.0 8 10.0 7 社債利回り 8.0 6 5 社債利回り 6.0 4 配当+バイバック利回り 4.0 3 2 2.0 配当利回り 1 配当利回り 0 0.0 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 10 88 出所:ブルームバーグ、武者リサーチ 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 出所:ブルームバーグ、武者リサーチ 図表 4:日本株のリスクプレミアム 図表 5:米国株のリスクプレミアム (%) (%) 12 12 10 10 益回り 益回り 8 8 6 6 4 4 実質金利 実質金利 2 2 0 0 ‐2 ‐2 88 90 92 94 (%) 96 98 00 02 04 06 08 10 90 92 94 96 (%) リ ス クプ レ ミアム (益回り‐実質金利) 10 88 98 00 02 04 06 08 10 04 06 08 10 リス クプレミアム (益回り‐実質金利) 10 8 8 6 4 6 2 4 0 ‐2 2 ‐4 ‐6 0 88 90 92 94 96 98 00 02 04 06 08 出所:ブルー ムバーグ、武者リサー チ 10 88 90 92 94 96 98 00 02 出所:ブルームバーグ、武者リサーチ 著作権表示©2010 株式会社武者リサーチ 本書で言及されている意見、推定、見通しは、本書の日付時点における武者リサーチの判断に基づいたものです。本書中の情報は、武者リサーチにおいて信頼できると考える情報源に基づいて作成していますが、武者リサー チは本書中の情報・意見等の公正性、正確性、妥当性、完全性等を明示的にも、黙示的にも一切保証するものではありません。かかる情報・意見等に依拠したことにより生じる一切の損害について、武者リサーチは一切責任 を負いません。本書中の分析・意見等は、その前提が変更された場合には、変更が必要となる性質を含んでいます。本書中の分析・意見等は、金融商品、クレジット、通貨レート、金利レート、その他市場・経済の動向につ いて、表明・保証するものではありません。また、過去の業績が必ずしも将来の結果を示唆するものではありません。本書中の情報・意見等が、今後修正・変更されたとしても、武者リサーチは当該情報・意見等を改定する 義務や、これを通知する義務を負うものではありません。貴社が本書中に記載された投資、財務、法律、税務、会計上の問題・リスク等を検討するに当っては、貴社において取引の内容を確実に理解するための措置を講じ、 別途貴社自身の専門家・アドバイザー等にご相談されることを強くお勧めいたします。本書は、武者リサーチからの金融商品・証券等の引受又は購入の申込又は勧誘を構成するものではなく、公式又は非公式な取引条件の確 認を行うものではありません。本書および本書中の情報は秘密であり、武者リサーチの文書による事前の同意がない限り、その全部又は一部をコピーすることや、配布することはできません。 2/2 10
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