5 熱の自由度 ,ルジャンドル変換の例

5 熱の自由度, ルジャンドル変換の例
吉川智規
1 熱の自由度
この章の前半では、
「力学的エネルギー」に熱の自由度を付け加えることによって、熱力学が得ら
れるということが述べられている。まずはこれを解説する。力学の場合、物体の力学的エネルギー
の変化 dU は、外力がする仕事 W に等しく、
dU = W
(1.1)
と表される。しかし熱力学の場合、外力がする仕事 W がそのまま、系の内部エネルギー変化 dU
になるとは限らない。これは、熱力学の内部エネルギー変化 dU は、
dU = W + dQ
(1.2)
というように、熱の自由度も含んだ形で表されるからである。ここで、dQ は系が外部から受け取
る熱量をあらわす。このように、力学的な自由度である仕事に、熱の自由度を考慮することのよ
り、力学の拡張として熱力学が得られる。式 (1.2) は、熱力学の第1法則である。
2 ルジャンドル変換の例
後半では、4章で登場したルジャンドル変換の、3つの応用例が述べられている。
2.1 熱力学での応用
系の圧力を P 、体積を V 、温度を T 、エントロピーを S とすると、内部エネルギーの変化は、
dU = − P dV + T dS
(2.1)
と表される。このことから、内部エネルギー U を表すには、V と S を独立変数として選ぶのが自
然である。ルジャンドル変換により、内部エネルギーの独立変数を変更することができる。通常の
実験は、系の圧力 P 、温度 T を変化させて行われることが多い。そのため、内部エネルギー U で
はなく、圧力 P と温度 T を独立変数とする、ギブスの自由エネルギー G を使う方が便利である。
G は、U をルジャンドル変換して得られる。ほかに、V と T を独立変数にとる F (自由エネル
ギー)や、P と S を独立変数にとる H (エンタルピー)があり、状況に応じて使い分けられる。
F 、G、H の定義を以下に示す。
1
F (V, T ) := U − T S ⇒ dF = dU − SdT − T dS = −P dV − SdT
G(P, T ) := F + P V ⇒ dG = dF + V dP + P dV = V dP − SdT
H(P, S) := U + P V ⇒ dH = dU + V dP + P dV = V dP + T dS.
2.2 統計力学での応用
統計力学では、温度 T と体積 V を独立変数とする自由エネルギー F がよく使われる。統計力学
ではまず、微視的状態を数え上げて分配関数 Z を求める。Z が求まればここからすぐに自由エネ
ルギー F を、次のように得ることができる。
F = −kT log Z.
(2.2)
k はボルツマン定数である。分配関数が正確に求まるならば、ここからエントロピー、比熱などあ
らゆる状態量を得ることができる。分配関数が正確に求まらない場合は、近似が必要となる。
2.3 圧電現象
絶縁体の中には、圧力を加えると表面に電荷が現れるものがある。この現象を圧電現象といい、
圧電現象を示す物質を圧電体という。圧電現象の独立変数として、変位に相当するもの、力に相当
するものが、それぞれ以下の9種類ある。*1
機械的
電気的
力
xx , yy , zz , xy , yz , zx
P x , Py , Pz
変位
Xx , Yy , Zz , Xy , Yz , Zx
E x , Ey , Ez
独立変数の組み合わせはいろいろと考えられるが、例えば機械的な自由度に関しては、変位を与
えてそこから力を計算する方が考えやすいようである。また、電気的な自由度に関しては、電場を
与えてから分極を計算する方が考えやすいようである。この場合も、計算をするときに便利な組み
合わせを選べばよいということである。
*1
表中の力について、例えば Xy は、
「y 軸に垂直な面にはたらく x 軸方向の力」をあらわしている。このような組み
合わせは本来、3 × 3 で9通りあるが、ここでは圧電体が回転しないとし、Xy = Yx などを仮定しているため、6通
りになっている。変位についても同様である。
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