日本精神病院協会の○○支部の偉い先生なんていうのは、うちへ 120 回入退院 したとんでもないアル中がおるんですけれども、その男が言うには、あの院長 もこの院長も全部脅して、金を巻き上げたって言うてます。そういう猛者もお るわけです。そういう連中の中で、私の言う Y さんが、2 人の医者から金を借 りとるんですよ。3 人目は私がターゲットかも知れません。で、彼が土曜日の 10 時頃診察に来るんですよ。持ってきた品物はタオル 1 枚、「入院させてくれ」 と。 「はぁ分かりました。それじゃ断酒会、行ってもらいますよ」まぁ、半分素 面やったから、私もちょっと信用してね。土曜日の午前中来て、昼御飯食べて、 昼からすぐ、「外出させ」って言うんですよ。笑うでしょう、私、OK 出すんで すよ。 「はい、どうぞ」と。私は何でも「はい、はい」って言うんです。 「はい、 どうぞ、ただし、ルールがあります。飲んで帰ってきたら、こうこうこういう ルールで反省室は入っていただく」と。その男は出ていきました。夕方 5 時に 帰ってきた。本当に嬉しかったですよ。素面で帰ってきた。握手しました。そ の患者さんも相当嬉しかったみたいですね。 「生まれて初めて精神病院で、信頼 された」って言うんですよ。ここが大事なんですよ。 「あぁ、そうか」と、そし て月曜日行くでしょ、そしたら次何を言うかというと、 「明日から外勤じゃ」と。 「仕事行かしてくれ」私、それも、「はい」言うたんです。「はい、はい、仕事 に行きなさい」それから止めていますわ、ずっと。それまで県下の精神病院、 その方も 30 回位入退院繰り返して、最後に三光病院に来たんです。彼の言い分 はこうなんです。「あれだけ信頼されたら酒飲めん」て言うんですよ。「この病 院だけは、酒を飲んでは入院しない、鬱病では入院しても、酒飲んでは入院し ない」て言うんです。だから皆さん方も、酒飲んで病院来ないで下さい。本当 は、来ていただいた方が、うまくいくんですけどね、私は。でも本当の気持ち は、鬱病で入院されるのが一番いいでしょう。解放病棟でいきなりいけますか らね。飲んで来られると、やっぱり閉鎖からいきますからね。ですから、鬱病 で来て頂くと非常にやり易いと思います、私は。その時は、 「なるほどなぁ、こ の患者さんやっぱり酒止めたなぁ。しかも病院というものを上手く利用される なぁ」鬱病で入退院を繰り返す。それは、しょうがないなぁと思うんです。飲 んでは来ないですね。それはそれで認めるわけですね。だから、皆さん方、そ れは、私も感激します。 しかし、もっと感激したことがあるんです。それは、その男が高知の断酒学 校へ、行くんです。松村断酒学校です。で、私は行かなかった、最初。それが、 第 40 回の時行かれたんですね。私は第 41 回から行っているんです。40 回の時 に松村断酒学校行かれて、「先生良かった」と、「先生も行ってみたらどうや」 と、逆に患者さんから教えられるわけです。 「分かった」と。で、山陰の断酒学 1 校行くわけですね。高知は第 41 回から行きだしています。第 41 回から。一泊 か、日帰りか、それは分からない、2 泊行ったこともあります、最近連休にしな いもんだから、2 泊 3 日出来ないんですが、月曜までやりますからね、月曜日の 外来さぼると、病院の従業員から怒られますんで行かないんですが、まぁ、1 泊 2 日くらい、或いは、日帰りで。今年は 1 泊 2 日で断酒学校行こうと、松村断酒 学校移行と思っていますけれども、 「行こうと思っています」と言うと行かなく てはならない。これを言うと、絶対実行しないと話にならない。ここが断酒会 の恐いとこなんです。断酒会の会長と握手する時が一番恐い。次々に、 「研修会 ありますよ」と言うからね。「考えとくわぁ」それで終わりですよ。「あぁ、は ぁ」言うたら、行くことになるからねぇ。行かなきゃならないということにな りますが、その男が言うのには、「断酒学校、先生、凄い」と。あれなら、酒、 止まる」と。これが 2 度目に、私、教えて貰った。感激したんです。それから、 ことあるごとに患者さんを断酒学校、もしくは 1 泊研修会に、一緒に行ったり、 連れ歩いたり、一緒の部屋に泊まったり、一緒に飯を食って一緒の風呂に入る わけですよ。いわゆる、裸の付き合いをするわけです。それやらないとねぇ、 意気に感じないわけなんです。感激しないわけなんです。普通にプログラム組 んで、病院のお仕着せで、これで酒止めなさい言うてもね、患者さんは、絶対 止まらないですよ。これが、感激です。 「あぁ、そうか」と、ということで感激 していくわけです。 それから次に感激したのはですね、もう亡くなられましたですけれども、120 回もうちの病院、入退院繰り返した男です。120 回ですよ。大阪の精神病院全部、 回っています。R 園から S 病院から K 病院、A 病院も全部回っていますね。そ してそれの連れ合いの方も大阪の精神病院全部回っていますね。勿論安田病院、 大和川病院、全部回っています。止めない、勿論香川県来ても止めない、三光 病院でも院内飲酒する、どうにもならん。これが、競輪選手なんです。競輪選 手で、こういうこと言った、 「先生、競輪というのは、負い目があったらうまく いかんのじゃ」と。私が、 「それじゃ、負い目ということは、どういうことなん だ」と聞くと、 「競輪選手なってから後が大事じゃ」と、競輪選手でいう天下り でしょうな、自分は予想屋するんですね。競輪場で。で、やっぱり自分が元競 輪選手だったもんだから、ことごとく的中するんですよ。 「次はどれが来る」と ころが、アルコール好きな方ですからね、だんだん当たらなくなるんです。で、 当たった金であっちこっち遊びに回るでしょ、そしてだんだんと負い目が出て くるわけです。そうするとねぇ、賭け事も当たらない、なるほどなぁと私思い ましたよ。だからね、人間いうのはね、お金貰ってもそうだと思いますよ、何 でもそうだと思う、断酒会でも。ちょっと負い目があると仕事にならないです よ。そういう人は必ず失敗する。人間いうのは、負い目をつくるとなかなかう 2 まくいかない。アルコール依存症の方は、家族に対する負い目がありますけれ ども、酒を止めることによって、家族の体験発表を聞く事によって、その負い 目は消えるわけです。これが、次の感激でした。 この競輪選手からはいろんな事を教わりました。院内飲酒するもんだから、 その男吊し上げながら、自治会を開くわけです。おもしろいですねぇ。こうい う男が酒止めてしばらくして、問題飲酒が起こって、 「院内ルール作ろうやない か」まだ精神保健法が今のように整備されていないときに院内ルールを作るん です。そしたら面白いです、アルコール依存症いうのは案外厳しいですね、皆 さん。 「どうするんや」そうしたら、アル中全体で、断酒センター全体でルール 決めるわけです。飲んで帰ってきたり、無断外泊したりあるいは酔っぱらった り、そういうことがあって院内飲酒した時にはだいたい 1 週間保護室、6 ヶ月外 泊禁止という法律を作ったです。私ねぇ、ちょっとね「これあんたよう守らん やろう」と言ったです。 「こんな、あなた達自身が作って、あなた達自身が守れ ないようなものを作って、そんなのやめとけや」だからそれを、 「1 週間保護室、 4 週間外出外泊禁止位に納めたらどうや」とうことなったんですがね。アルコー ル依存症という方は、ここがまた非常に面白いところなんですねぇ。自分が止 めているときには、ず～っと止めていけるつもりがあるんです。だから、厳し いです。 「こんなのは、もう入れたらいかん、もう 6 ヶ月は外出外泊禁止や」と、 厳しいことを言うんです。自分が飲んで失敗したときには、 「やれ６泊７日にな らんか」とか「５泊６日にせんか」とか、もう結構だらだらしてくるんです。 ３日目くらいからリタイアで帰りますと、退院する、退院したら、１週間以内 にまたまい戻ってくる。保護室に。その繰り返しですね。だから、全部その繰 り返して入退院。だから、最終的には三光病院来るときには、保護室以外は通 用しなくなる。一般病棟にはもう入れなくなる。それでも、酒止める人は止め ますからねぇ。これが次の感激だったです。なるほどなぁ、酒害者というのは、 こういうふうにやっていくのかということに感激させて貰いました。 女の方が、感激する時には自分がもうだいたい追いつめられていて、そうい うアルコール依存症の妻の普通の性格傾向というか、結局作られた結果かもし れませんけれども、割りにやっぱり自分が悲劇のヒロインになり易いですね。 ですから、だいたい賢い女性が多い。そりゃぁ、天才のアル中と結婚する人だ からやっぱり頭のいい女の人がついているわけですよ。非常に頭がいい。その 代わりちょっと干渉しやすい。非常に干渉しやすい女性になっていっておる。 旦那の酒の量をきっちり計るのが上手くなる。自分の旦那がどの位飲んだか酔 い加減で分かるそうですね。 「今日は５合位飲んできたやろう」とか「今日は一 升やろう」もうピシャッと分かるそうです。酔い加減で分かる。そういうふに して、こう、最後追いつめられると、「もうどうにでもなれ」と、「こんな人と 3 はやっていけん」と、 「殺してやろうか」という位追いつめられて、そしてそれ でも健気に自分が、いい女性、一生懸命頑張ってる女性を演じるわね。必死に なって演じるものです。演じるって言ったらおかしいけれども、そうせざるを 得ないんです。そしてもう本当に世の中にこれだけ追いつめられ押しつぶされ 必死になって生きてる女性はいない、実際にそうなんです、いないんです。そ してなんとか生きていく。旦那が働かなくても自分が給料稼いでくる。旦那が ますます未熟児ですからどんどん飲む。旦那はもう哺乳瓶の代わりに酒飲んで るわけですから、断酒会の幹部の方怒るかも知れんけれどもごめんなさい。ア ルコール依存症は未熟児ですわ。だいたい奥さん方は未熟児に酒やり過ぎや。 哺乳瓶の代わりに一升瓶持っていくからいかんのですよ。あれでチュウチュウ やられるとね、どうしても乳離れが悪くなる。彼らには離乳食を与えんといか ん。どんな離乳食が良いかというと断酒会、断酒会は離乳食にピッタリです。 断酒会で硬いご飯というと断酒学校やな。最初は哺乳瓶で、そしてアルコール の代わりに断酒会を入れて下さい。で、奥さん方は、あまりにも過保護になり 過ぎて旦那をカバーし過ぎる。ですからなかなか一人立ちできませんわ。アル コール依存症は最初の５年間位はもうずーっとヨチヨチ歩きじゃないかな。で すからなかなか酒止めれないし、どんなことしても上手くいきませんわ。だか ら奥さん方が重要なのは自分の旦那を哺乳瓶の代わりに断酒会に引っぱってい くこと考えないといかん。それはどんなことしてでもやらんといかん。そして、 自分も断酒会に行くこと。これだけ家の中で貧乏で感激し、どうしようもない 旦那に感激したら、酒は止まる筈です。感激の断酒言いますけれども、ポジテ ィブの感激だけじゃないんですよ。ネガティブの感激が大事なんですね。 最初私は、知的障害者と脳波の研究してたんです。最初はそればっかりやっ たんです。知的障害のご両親いうのは最初はガックリされています。生まれて きた子供に対して絶望するんです。絶望するけれども最後は皆さん方と一緒で 非常に明るい家庭になっておられるわけです。素晴らしい家庭を築いておられ る方が多いですね。何故こんなに明るくなれるんだろうなと思っていましたら、 やっぱり知的障害者の家族というのはやっぱり感激してますわ、自分の子供さ んに。自分が生んだ子供さんに感激しておられる。 「あっそうか」と、このこと が知的障害者のこの子供と一緒に生きていく力がでるのかという事を最初学ば せていただいた。もちろん分裂症も一緒です。精神障害者の方も一緒です。感 激しないとなかなか止まらない。だから体験発表が大事なんです。体験はっぴ ょうで感激するとなんとか酒は止まるということなんです。奥さん方で一生懸 命断酒会来られる方はそれでハッピーなんですけれど、これで断酒会来ない女 の人の場合どうなるか。私、実は酒害者の旦那を持ってそして奥さんだけが生 き残っている何人かをちょっと調べたことがあるんです。まず８割方、宗教法 4 人の教祖になっております。女教祖、お布施貰って生きています、立派な御殿 建ててます。そりゃあもう大宗教団体があります。自分の息子もアル中、それ から旦那もアルコールだった、娘は精神障害になってしまった、まともな娘は ヤクザと結婚してこりゃまた行方不明、もう一人の娘は自殺しかけた。そうい う家庭で必死になって自分の旦那にまだ酒飲ましてましたわ、そういう古い歴 史があります。そしてどうしたか。その人は小学校の成績はものすごく優秀な んです。近所から賢女、非常に賢い女、知的な女、素晴らしい女と。ところが ものすごい有名な大工と結婚するんですけれども、非常に有名な人と結婚して、 見合い結婚するんですけれどもそれがアル中だった。そしてどんどん飲んでい く。自分が大八車押してでも、行商しながらでも旦那に酒飲ましてましたわ。 なんか酒害者が泣いて喜ぶような奥さんですけれどもね。ところがこの奥さん は、結局その当時は断酒会なかったんでしょう、最後は自分が感激のあまり宗 教にハマり込みましてね、宗教家になった。で、予言者になってそして女教祖 になってしまいました。これが果たして幸せかというとそうでもないでしょう ね。そうでもない。やっぱり人間ていうのは追いつめられるとそこまでいくの かなと、いや、香川県でもたくさんの女教祖が断酒会離れておりますよ。だか らアルコール依存症を作ってしまっている時に、家族の考え方というのが非常 に重要です。普通の考え方ではだいたい旦那は止めないですよ。やっぱり断酒 会へ行って自分でキチッと体験発表をされてですね、女教祖にならないことで すね。そうしないとなかなか旦那は酒止めません。だから未熟児の育て方と一 緒ですね。非常に難しい問題があります。酒害者が酒を切るためには。でもア ルコール依存症が酒を止めますと、もう先程言いましたように天才集団ですか らとんでもないことになるわけです。 それから最後にですね、私が病院経営していて最も難しかったことは、医事 新報言いましてね、当時医者居ないから、先輩に言ったんですね、 「先生、医者 呼んでくださいよ、関西から」もう香川県では三光病院が悪評たっていました からね、もう医者誰も来ないんですよ。ですから医事新報に出したんですよ。 医者専門の雑誌に。で、関東の方の医者のめどがついたんですよ。その方は、 ものすごく仕事も出来るしドイツ語もカチッと出来るし、患者の診方も良いし カルテもすごいんです。ところが、なかなか来てくれないんですよ。もう来て くれるだろうと思ってたのに。そしたら何年かしたら刑務所入ってるんですよ。 ニセの医者だった。医者の中にはニセ医者がたくさん居ます。気ィ付けて下さ いよ。私も分かりませんよ。そんなものわからない、付き合ってみんと。付き 合ってみないと分からない。本物かニセ者か分からない。断酒会でもそうなん です。１０年やめてるからほんま者かというとそうではないんですよ。２０年 止めているからその酒害者はほんものかそんなことは分からない。やっぱり明 5
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