2012 年度 慶應義塾大学 法学部入試 総評

2012 年度
慶應義塾大学
法学部入試 総評
世界史
例年、大問4題・解答数50個というパターンの中で、空欄補充を主とする語句・数字の選択問題のみ、それ
も数十個もの語群から選択させるという独特の形式が長く続いてきた。しかし今年度はそれが大きく変化し、
そうした語句の選択問題が主体ではあるが、文章選択型の正誤判定問題が5題入れられ、また地図の知識と年
代整序を組み合わせた問題、さらに兵器の国際売買を示す表を用いた問題までが出された。文章選択型の正誤
判定問題は2008年度にも出題されたことがあるが、その際は2題だけであり、また各文が非常に短くポイント
も単純であったのが、今年度のものは各文の長さ・扱うポイントの難易度とも、2008年度のものよりアップし
ている。こうした思考力を問う問題が加わった影響で、問題数は減少した。非常に注目すべき変化である。
次に出題範囲だが、もともと大問4題の中で西洋史3題・東洋史1題というパターンだったものが、ここ2
年は西洋史・東洋史の混合問題を入れていた。今年度はその傾向がさらに進み、混合問題がむしろ主体となっ
ている。その一方で、従来は多かった文化史の出題は減少した。また時代で見ると、特に第二次世界大戦後の
現代史の比重が高く難易度も高いことが特色であったが、この点は今年度も同様である。
そして難易度についてだが、例年は入試問題のレベルを超える非常に細かい語句を問うものが2割程度出題
され、膨大な語群から何とか絞り込んでも完全には正答できない問題がその中にはかなり存在していた。だが
今年度はそうした些末な語句の知識を求める問題は減少し、代わって文章選択型の正誤判定問題や表から判断
させる、論理的な思考力を求める問題が加わっている。総合的に見れば、難易度に変化はないのだが、その内
容の変化にこそ注意が必要である。
では、実際の問題の内容を見てみよう。問題Ⅰ・Ⅱは従来通りの形式の大問であるが、ここでは入試問題の
レベルを逸脱した語句はほとんど見られない。問題Ⅱ-(41)/(42)で香港返還時のイギリス首相として“ブレ
ア”を求めているのが目立つ程度である。だが、リード文中のヒントが通常と異なるため迷わされる問題が多
い。問題Ⅱ-(27)/(28)の“ガーナ”は、通常ならサハラ以南での初の独立国というヒントを与えるものだが、
それをあえて記していないために迷いやすい。しかしその後の文脈から考えると、これを選べば自然であるこ
とがわかるので、さして難易度は高くない。だが一方で、問題Ⅱ-(31)/(32)の“ローデシア”は、38の南ア
フリカと非常に紛らわしい。一方的独立宣言が1965年という年号を知らないと、悩まされることになる。また
問題Ⅱ-設問(イ)の“モンバサ”も難しい。これが現在のケニアに属するというポイントが細かすぎ、ヒント
になっていないからである。その点を知らないと、インド洋貿易で繁栄というポイントから10のキルワ・14の
ザンジバル・40のモガディシュと区別ができず正答は不可能である。
さて、問題Ⅲは今年度の特色である文章選択型の正誤判定問題のみの大問だが、Ⅲ-1・Ⅲ-2は各文の正
誤が非常に明確なため、平易な問題である。しかしⅢ-3は注意が必要。[05]は第一次世界大戦時にカージャ
ール朝が連合国側に立つのではなく中立を宣言していたという、かなり細かい点が誤りだからである。一方、
問題Ⅳ-設問2は誤文2つを選ばせる正誤判定問題だが、1911年にイギリスがインド帝国の首都をカルカッタ
からデリーに移したという、些末な事項が題材となっているが、こちらは(ア)・(イ)・(ウ)・(オ)が明確に正
しい文であるため、正誤の判断のつかない(エ)を(カ)以外ではもっとも疑わしいと判断して選ぶとよい。
なお、問題Ⅳ-2は難問である。年代整序問題の設問1・正誤判定問題の設問2とも、世界史としてはかな
り細かく、むしろ日本史に属する事項を扱っているからである。特に設問2-[01]での、満州国の首都が長春
だったことなどは受験生にとっては厳しすぎる知識だろう。そして経済学部を彷彿とさせる表を用いた問題Ⅳ
-3だが、こちらは冷静にこう考えればよい。年代から考えて、まずイランとフィリピンはパフレヴィー朝の
親米政権の時代であるから、両者に武器を輸出している(エ)は合衆国。となると、イランのもう一方の(オ)は、
CENTOの存在から考えてイギリスとなる。そして、当時反米的なイラクとインドの両者に輸出している(イ)
は、ソ連と判断するのが自然。このように、論理的に考えていけば正答可能である。
Copyright (C) 2012 Johnan Prep School
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