食べるクスリと服用するクスリ

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96.マタタビ[又旅・猫人参・木天寥・もくてんりょう・キウイ
フルーツ]
猫にマタタビの「またたび」。山中で疲れ切った旅人が、この実を食べると
元気百倍。再び歩き出すから「又旅・またたび」という名がついたという俗説
がありますが、アイヌ語のマタタンプ(冬に木にぶら下がっている苞〈つと〉)
が語源とされています。苞とは藁でできた魚などを包むものですから、ちょう
ど蓑虫のようにぶら下がっている、という意味でしょう。
日本各地、朝鮮、中国東北部に自生するマタタビ科の落葉つる性の木本
で、高さ5メートルくらいになり、他の樹木などにからまって成長します。雌雄
異株で、雄木では花期の初夏に葉がロウをかぶせたように銀白色に変化し、
山中でも目立ちます。花が終わるともとの緑色にもどりますが、英語でSILV
ER VINE、銀色の蔓、というのはこの白変した姿をあらわしているのでしょ
う。花は雄花も雌花も経2センチくらいの白色で、姿も香りも梅の花に似てい
ます。果実はいわゆる液果(ベリー)で、長さ2~2,5センチ、経1センチくら
いの長楕円形。
旅人のようにそのまま食べたり、塩蔵して保存食にしたり、新芽は山菜に
なります。
猫および猫科の動物の好物で、下痢などを自ら治しているようですが、あき
らかに麻酔作用があり、涎を流し、興奮・陶酔状態になるのはご存じのとお
り。猫にとっての万能薬という意味で、猫人参とも呼ばれます。
マタタビの花の子房にマタタビアブラムシが産卵すると、果実は異常発育
して,表面がでこぼこした〈虫?〉、いわゆる〈虫こぶ〉となります。これを集め,
熱湯をそそぎ、中のアブラムシを殺して乾燥したものが生薬の木天蓼(もく
てんりょう)です。 場所によっては一株のマタタビの実の80パーセントもア
ブラムシの寄生でこの〈虫こぶ〉になるといいます。葉の白変はこのアブラム
シの寄生と関係があるらしいといわれています。
「マタタビは冷えを温め手足など痺れ痛むに少しく食うべし」と江戸時代の
和歌本草にあるように、普通の実をマタタビ酒にしたり、虫こぶを同じように
薬用酒にしたり、欲剤にしたりして利用します。山国の木こり達は身体が冷
えるので、この木天寥酒をふくべ(水筒)に入れて山にはいったといいます。
マタタビ酒はアニマルファームでも作りましたが、味がおいしくないので、評
判はいまひとつです。中国の古典にも、マタタビの蔓や葉を薬酒にした「木
天寥酒」があり、中風(脳卒中)などに使われました。
同じマタタビ科の中国原産のシナサルナシは果実が美味で、これをニュー
ジーランドで品種改良したものがキウイフルーツです。これも雌雄異株です
から、数本の雌株に一本雄株を植えなくては実がなりません。