07章 2原子分子の振動

7章
2原子分子の振動
[1] 2原子分子の振動
2原子分子の振動状態を考える。幾つかの近似を導入する。先ずは、質量 m1 と m2 の質点がバネで繋が
っているというモデル系を使う(下図左参照)
。この系の運動を、
(a)全体の並進運動(重心の運動)、
(b)回転運動(重心の周りでの)、
(c)振動運動(重心を不動点とした)
の3つに分けて考える。(a)と(b)+(c)は厳密に(数学的に)分離できる。本章では(b)+(c)から(c)のみを考
える。つまり(b)は無視する(回転は止まっているとする)
。厳密には(b)と(c)は分離できない:別々に考
える事は一種の近似である。
重心を固定して2つの原子(質点 m1 と m2 )が振動する場合と、一端を固定した1つの質点(換算質量 m )
の振動は等価である(下図参照)。扱い易いので後者を採用する。
m1
k
k
m2
m=
m1m2
m1 + m2
換算質量 m の導出は省略するが、次式のようになる。
m=
m1m2
m1 + m2
若しくは、
1
1
1
=
+
m
m1
m2
但し、バネは、力の定数(バネ定数)が k 、質量は無いものとする。2原子の相対位置を r とする。2原子
の平衡距離を r0 とする。2原子間に存在するポテンシャルエネルギーをバネのポテンシャルエネルギーで
以下のように近似する。
V (r ) =
1
k (r − r0 ) 2
2
ここで x = r − r0 と置き直すと次式を得る。以後は次式を使う。
V ( x) =
1 2
kx
2
典型的な実在の2原子分子のポテンシャルと、バネのポテンシャルエネルギーを下図で比較する。
V ( x)
x
図から解るように、実在の2原子分子では、 x が大きくなると2原子分子は2個の原子の状態(解離状態)
になるので、ポテンシャル曲線は平らになる。実在分子のポテンシャルと V ( x) は x が大きくなると全く一
致しない。つまり、V ( x) は振幅 x が小さいときのみ有効であり、振幅の大きな振動は本節のモデルの適用
外である。このモデル系のエネルギーは、運動エネルギーとポテンシャルエネルギーの合計である。
p2 1 2
+ kx = E 。
(0)
2m 2
2
2
エネルギーが p と x の項だけをもつ振動は「調和振動子」と呼ばれる。2原子分子の振動を調和振動子
でモデル化することを「調和振動子近似」と呼ぶ。
[2] 古典的に解く
少しだけ寄り道をして、古典的な Newton 力学の方程式を解いてみよう。古典力学では位置 x は時間の関
数である。つまり x ≡ x(t ) 。Newton の運動方程式は次式である。
F = ma
(a)
この式は、質点の運動(位置 x の変化)と、質点に働く力 F に着目している。 a は質点の加速度である。
a=
d 2 x(t )
dt 2
(b)
バネの伸びに比例して、バネを縮める方向に力が働く(フック(Hooke)の法則)。
F = −kx
(c)
これら3つの式(a)(b)(c)から次式を得る。
d 2 x(t )
k
= − x(t )
2
dt
m
(d)
x(t ) を t で2回微分して元の x(t ) が出現するためには、実数の範囲で考えると、x(t ) は三角関数(sin, cos)
である。従って、一般解は次式となる。
x(t ) = A cos(qt ) + B sin(qt )
q はいまのところ任意。この式を(d)に代入して q を決める。
q2 =
k
m
q = 2πν とするとν がちょうど振動数と解釈できる。従って、次式となる。
x(t ) = A cos
k
k
t + B sin
t = A cos(2πν t ) + B sin(2πν t ) 、
m
m
ν=
1
2π
k
m
(e)
となる。ν は2原子分子の(調和振動子の)振動数。
A と B は境界条件で決まる(ある時間の位置と速度を与えれば決まる)。
[3]シュレーディンガー方程式
時間に依存しないシュレーディンガー方程式は(0)式の p を次式の演算子に置き換えて作る。
p → pˆ =
h d
i dx
すると(0)式から次式を得る(5章7節(24)式の具体的な形)。
−
h2 d 2
1
Ψ ( x) + kx 2 Ψ ( x) = E Ψ ( x)
2
2m dx
2
(1)
便宜上、新しいパラメータ、変数、関数を導入する。
h2
2α 2 mE
α =
、 ε =
、
km
h2
4
x =αy 、
Φ ( y ) = Φ ( x / α ) = Ψ ( x)
(2)
このとき微分演算子を含む項は、
d2
1 d2
Ψ
x
=
Φ( y)
(
)
dx 2
α 2 dy 2
(3)
となるので、解くべき Schrödinger 方程式は次式のように簡潔になる。
d2
Φ ( y ) + (ε − y 2 )Φ ( y ) = 0
2
dy
(4)
[4] 発見的解法
式(4)の答えとして次式が予想される。これをゼロ番目の解として添字0を付す。
Φ 0 ( y ) = N 0 exp(−
y2
)
2
2階微分すると、
⎡
d2
d ⎡
y2 ⎤
y2
y2 ⎤
2
Φ
y
=
N
−
y
−
=
N
−
−
+
y
−
(
)
exp(
)
exp(
)
exp(
)⎥
0
0
0 ⎢
⎢
⎥
dy 2
dy ⎣
2 ⎦
2
2
⎣
⎦
d2
Φ 0 ( y ) + (1 − y 2 )Φ 0 ( y ) = 0 。
dy 2
(4)式が ε 0 = 1 で成立することがわかる。 ε 0 = 1 から式(2)を使ってエネルギーが決まる。
∴
h2
h 2 km h k
E0 =
=
=
2α 2 m 2m h
2 m
N 0 を求めるために「実在の空間 x 」で規格化する。方程式が解き易いようにスケールした変数 y と実在の
座標 x を混同しないこと;規格化は実在の空間 x でなされる。
y2
Φ 0 ( y ) = N exp(− )
2
x2
Ψ 0 ( x) = N exp(− 2 )
2α
←→
y = x / α であるので、積分するときには以下の変換が必要である。
∫
∞
−∞
Ψ 0 ( x)* Ψ 0 ( x)dx = 1 →
∫
∞
−∞
Φ 0 ( y )* Φ 0 ( y )(α dy ) = 1
上式の後半を使うと、
∞
y2
y2
2
y
y
dy
N
dy
N
Φ
(
)
Φ
(
)(
α
)
=
α
exp(
−
)
exp(
−
)
=
α
exp(− y 2 )dy = N 02α π = 1
0
0
0
∫−∞
∫−∞
∫
−∞
2
2
∞
∴ N0 =
*
2
0
∞
1
α π
式(4)の2番目の解として次式が考えられる。この解には添字1を付す。
y2
Φ1 ( y ) = N1 (2 y ) exp(− )
2
---
x2
Ψ1 ( x) = N1 exp(− 2 )
2α
α
2x
2階微分すると、
d2
y2
y2 ⎤
1 d ⎡
1
2
y
N
y
(
)
exp(
)
exp(
) ⎥ = N1
Φ
=
−
−
−
1
1
⎢
2
dy
2
2 ⎦
α dy ⎣
α
⎡
y2
y2 ⎤
3
y
y
3
exp(
)
exp(
)⎥ 、
−
−
+
−
⎢
2
2 ⎦
⎣
d2
Φ1 ( y ) + (3 − y 2 )Φ1 ( y ) = 0 。
2
dy
式(4)は ε1 = 3 で成立することがわかる。 ε1 = 3 から式(2)を使ってエネルギーが決まる。
∴
E1 =
3h 2
3h 2
=
2α 2 m 2m
km 3
k
= h
h
2
m
波動関数の規格化は、
∫
∞
∫
∞
−∞
Ψ1 ( x)* Ψ1 ( x)dx = 1
より、
−∞
∞
Φ1 ( y )* Φ1 ( y )(α dy ) = 4 N12α ∫ y exp(−
−∞
π
= N12α 4
∴ N1 =
2
∞
y2
y2
) y exp(− )dy = 4 N12α ∫ y 2 exp(− y 2 )dy
−∞
2
2
=1
1
2α π
[5] 一般の解
一般に、調和振動子の波動関数は、整数 n に対応して、
Φ n ( y ) = N n exp(− y 2 / 2) H n ( y )
1⎞
k
1⎞
⎛
⎛
En = ⎜ n + ⎟ h
= ⎜ n + ⎟ hν 、
2⎠ m
2⎠
⎝
⎝
但し、ν ≡
1
2π
k
。
m
(5)
規格化定数 N n は、 Ψ n ( x) Ψ n ( x) を全空間で積分したときに1ゆえ、 x = α y と dx = α dy を考慮して、
*
∫
∞
−∞
∞
1/ 2
Ψ n ( x) Ψ n ( x)dx = ∫ Φ n ( y ) Φ n ( y )(α dy ) = 1
*
*
−∞
より
1
⎡
⎤
Nn = ⎢ n
⎥
⎣ 2 n !α π ⎦
(6)
(6)式の積分計算は(10)式を参照してください。
多項式 H k ( y ) は Hermite(エルミート)多項式と呼ばれており、
H 0 ( y) = 1
H1 ( y ) = 2 y
H 2 ( y) = 4 y 2 − 2
H 3 ( y ) = 8 y 3 − 12 y
H 4 ( y ) = 16 y 4 − 48 y 2 + 12
H 5 ( y ) = 32 y 5 − 160 y 3 + 120 y
Ψ0 ( x)
Ψ1 ( x )
… 。
Ψ2 ( x)
(7)
Ψ5 ( x)
Ψ4 ( x)
Ψ3 ( x)
図.振動の波動関数 Ψ n ( x ) ( n = 0,1, 2,3, 4,5) 。 α = 1 として作図してある。
H 0 ( y ) 、 H 2 ( y ) 、 H 4 ( y ) 、…は偶関数、 H1 ( y ) 、 H 3 ( y ) 、 H 5 ( y ) 、…は奇関数である。エルミート多項
式が満たす重要な式を示しておく。
H k '' − 2 yH k ' + 2kH k = 0
(8)、
H k +1 = 2 yH k − 2kH k −1
(9)、
⎧⎪ 0 (k ≠ m)
2
−
=
H
(
y
)
H
(
y
)
exp(
y
)
dy
⎨
k
m
∫−∞
k
⎪⎩ π 2 k ! (k = m)
∞
(10)
ここで、(8)式の '' と ' はそれぞれ1階微分と2階微分を示す。
[6] 念のための確認
(5)(6)式に n の値を代入して、再度、波動関数を求めなおしてみよう。
n = 0 のとき、
Φ 0 ( y ) = N 0 exp(− y 2 / 2) H 0 ( y ) =
1
α π
x
Ψ 0 ( x) = Φ ( ) = N 0 exp(− y 2 / 2) H 0 ( y ) =
α
exp(− y 2 / 2)
1
α π
exp(− x 2 / 2α 2 )
1 h2
1
k 1
E0 =
= h
= hν
2
m 2
2α m 2
n = 1 のとき、
Φ1 ( y ) = N1 exp(− y 2 / 2) H1 ( y ) =
x
Ψ1 ( x) = Φ1 ( ) =
α
E1 =
2
x
α π α
1
2α π
(2 y ) exp(− y 2 / 2)
exp(− x 2 / 2α 2 ) =
3 h2
3
k ⎡ 1⎤
= h
= 1 + hν
2
2 α m 2 m ⎢⎣ 2 ⎥⎦
2
α
3
π
x exp(− x 2 / 2α 2 )
n = 2 のとき、
1
x
Ψ 2 ( x) = Φ 2 ( ) =
α
(
2 x2
2
2α π α
− 1) exp(− x 2 / 2α 2 )
5 h2
5
k ⎡ 1⎤
E2 =
= h
= 2 + ⎥ hν
2
2 α m 2 m ⎢⎣
2⎦
[7] ゼロ点振動エネルギー
(5)式から、調和振動子のエネルギーは等間隔 hν に量子化されていることが解かる。
また、最低エネルギー( n = 0 )はゼロではなくて、
E0 =
1
hν
2
となる。これをゼロ点振動エネルギーと呼ぶ。これらの用語は「チューブに閉じ込められた粒子」で既に
登場している。
[8] 積分公式
⎧ π /2
( n = 0)
⎪
( n = 1)
⎪1/ 2
∞
1
n
1
⎛
⎞ ⎪
n
2
∫0 x exp(− x )dx = 2 Γ ⎜⎝ 2 + 2 ⎟⎠ = ⎨ π / 4 (n = 2)
⎪ 1/ 2
( n = 3)
⎪
⎪⎩ 3 π / 8 ( n = 4)
(11)
[9] 分子振動による吸収スペクトル
振動に伴い電気双極子モーメント D が変化すると、分子振動と電磁波の相互作用が起こり、振動状態が
変化(遷移)する。その結果、振動状態のエネルギー差 En +1 − En に対応する光子エネルギー hν の吸収が
起こり、赤外線吸収スペクトルが観測される。(5)式から次の関係が成立する。
hν = En +1 − En
(n = 0,1, 2, ⋅⋅⋅)
但し、振動のエネルギー幅は常温の平均熱エネルギー k BT に比べてかなり大きい(つまり E1 − E0 > k BT )。
従って、殆どの分子の振動は常温では n = 0 の状態にあり、 Ψ 0 → Ψ1 のように振動状態の遷移を起こす。
分子振動に伴い D が変化しないと、電磁波(赤外線)を吸収して振動状態が遷移することはない。例え
ば、N2, O2 などの等核二原子分子は、分子振動しても双極子モーメントが変化しないので(ゼロのままで
あるので)、電磁波による振動遷移が起こらない。HCl や CO では遷移が起きる。また、CO2 や H2O などの3
原子分子も分子振動に伴って赤外線吸収を起こす。
遷移双極子モーメントは、遷移の起こりやすさ(遷移確率)に関連する量であり、次式で示される。
I mn =
∫
∞
−∞
Ψ m ( x)* D( x) Ψ n ( x)dx
(12)
D( x) は D を座標 x (2原子分子の場合は原子間距離と同じ)の関数としたもの。この積分がゼロであれ
ば m → n の遷移は起こらない。 D( x) の変化が僅かであるとして結合距離 x の1次で展開する。
D( x) ≈ D0 + x D1 、
D1 =
dD( x)
dx
(13)
x =0
すると I mn は次式となる。
I mn ≈
∫
∞
−∞
Ψ m ( x)* [ D0 + x D1 ] Ψ n ( x)dx
∞
∞
−∞
−∞
= D0 ∫ Ψ m ( x)* Ψ n ( x)dx + D1 ∫ Ψ m ( x)* x Ψ n ( x)dx
(14)
∞
= D1 ∫ Ψ m ( x)* x Ψ n ( x)dx
−∞
上式(14)の2行目第1項は(10)式の直交条件から消える。すると3行目のように、電気双極子モーメント
D( x) が変化するとき( D1 ≠ 0 のとき)のみ遷移が起こることが解る。3行目の積分の部分は(9)(10)をうま
く使うと積分でき、m = n ± 1 のときのみ値をもつことが解る。m = n ± 1 は赤外線吸収の選択則である。
m = n ± 1 以外の場合、つまり Ψ 0 → Ψ 2 や Ψ 0 → Ψ 3 の場合、(14)式の遷移モーメントはゼロである(禁制
遷移)。但し、実在の2原子分子は調和振動子ではないので、 m = n ± 1 以外でも I mn は完全なゼロにはな
らない。従って、 Ψ 0 → Ψ 2 の遷移は実在分子で僅かに起こり、その遷移が吸収する赤外線の波長は Ψ 0 →
Ψ1 の約半分(周波数は2倍)である( E1 − E0 = hν 、 E2 − E0 = 2hν )。
[10] 例題
例題1:標準的な2原子分子の力の定数は k = 300 N/m 程度である。換算質量が m = 10
−27
度)とすると、量子化されたエネルギー間隔 hν は、
h
hν =
2π
k 6.63 × 10−34 (Js) 300(N/m)
=
≈ 10 ×10−20 (J) ≈ 0.7(eV)
-27
m
2 × 3.14
10 (kg)
となる。光の波長に換算すると。
λ=
c
ν
= 2π c
m
10-27 (kg)
= 2 × 3.14 × 3 ×108
≈ 3.5 × 10−6 (m) = 3500(nm)
k
300(N/m)
この波長は赤外線の領域にある。
2原子分子の力の定数(N/m)と結合長(pm)。
k(N/m)
R(pm)
H2
510
74.1
HCl
478
127.5
HBr
408
141.4
HI
291
160.9
O2
1142
120.7
N2
2243
109.4
CO
1857
112.8
NO
1550
115.1
NaNa
17
307.8
NaCl
117
236.1
KCl
84
266.7
kg (水素分子程
例題2:調和振動子におけるポテンシャルエネルギーの期待値 < V > = < kx / 2 > を計算せよ。
2
∞
1 2
1
kx >= ∫ Ψ n ( x) kx 2 Ψ n ( x)dx
−∞
2
2
上述した種々の公式を使うために変数を y に統一する。 x = α y 、 dx = α dy より
< V >=<
< V >==
α 3k
∫
∞
−∞
2
Φ n ( y ) y 2 Φ n ( y )dy
漸化式と積分公式を使うと、
< V >=
α 3k
=
=
=
∞
N n2 ∫ [ yH n ( y )] ⋅[ yH n ( y )]exp(− y 2 )dy
−∞
2
α 3k
∞ 1
1
N n2 ∫ [ H n +1 ( y ) + nH n −1 ( y )] ⋅[ H n +1 ( y ) + nH n −1 ( y )]exp(− y 2 )dy
−∞
2
2
2
α 3k
∞ 1
N n2 ∫ [ H n +1 ( y ) H n +1 ( y ) + n 2 H n −1 ( y ) H n −1 ( y )]exp(− y 2 )dy
−∞ 4
2
α 3k
2
N n2 (
1
1
k
1
1
(n + ) = En
π 2n +1 (n + 1)!+ n 2 π 2n −1 (n − 1)!) = h
4
2
m
2
2
7章問題
問題1:次の2つの換算質量 m が同じものであることを示せ。
m1m2
m1 + m2
m=
と
1
1
1
=
+
m
m1
m2
問題2:本文中で古典論的に解いて得た下式を(0)式に代入して E の式を求めよ。
k
k
t + B sin
t
m
m
但し、 p = mv であり、 v は次式で与えられる。
x(t ) = A cos
v=
dx(t )
dt
最終結果からは、「古典論の場合、エネルギーは振幅の2乗」、であることが解る。
問題3:(14)式の3行目の積分を計算し、 m = n ± 1 のときのみ非ゼロであることを確認せよ。本文中の
公式のたぐいはそのまま使ってよい。
∫
∞
−∞
Ψ m ( x)* x Ψ n ( x)dx
問題4:(A) 調和振動子における運動エネルギーの期待値 < pˆ / 2m > を計算せよ。
2
pˆ 2
h2
d2
h2 ∞
d2
x
>= −
< 2 > = −
Ψ
Ψ n ( x)dx = ...
(
)
n
dx 2
2m
2m dx
2m ∫−∞
全エネルギー En と運動エネルギー及びポテンシャルエネルギーの期待値には、
<
En
pˆ 2
= <
> + <V >
2m
という関係が存在する。 < V > は前項の例題で導いたので、運動エネルギーの期待値は(20)式
から得ることができるが、練習のため(8)(9)(10)式から計算すること。
(B) 調和振動子の運動エネルギー及びポテンシャルエネルギーの期待値には以下のような比の関係
が成立する(量子力学的ビリアル定理)。カッコ内を「数値」で埋めよ。
pˆ 2
<
> : <V > = 1 :
2m
答えは、例題2と問題4(A)から明らかだが、結果だけ書かずに説明の努力を示せ。
−1
−1
問題5:(A) 水素分子の振動状態のエネルギー間隔は、 4401cm の光子エネルギーに相当する。 cm は
カイザーと読み、波長を cm 単位で表した数値の逆数である。水素分子の力の定数を計算せ
よ。但し、水素分子では赤外線吸収は起こらない。
(B) 水素分子の一方の水素原子を重水素(質量が水素原子の2倍)に置き換えた場合、振動数が元
の水素分子の何倍になるかを計算せよ。但し、力の定数は変化しないとする。
[11] Appendix-1 (4)式の解法
まず漸近解を考える。 y → ∞ の場合 y >> ε なので ε は無視でき、(4)式は、
d2
Φ( y) − y 2Φ( y) = 0
2
dy
(5)
となる。この方程式は以下の解をもつ。
y2
)
(6)
2
y → ∞ のとき波動関数は Φ( y ) → 0 でなければならないことを考慮して、上式のマイナス符号のみが採用
可能である。次に、(6)に y の関数 H ( y ) を乗じて(4)を満たす解を作る。
Φ ( y ) = exp(±
y2
)
(7)
2
2
(7)式を(4)式に代入し、両辺を N exp( − y / 2) で割ると、 H ( y ) に関する微分方程式を得る。
Φ ( y ) = N ⋅ H ( y ) exp(−
d 2 H ( y)
dH ( y )
− 2y
+ (ε − 1) H ( y ) = 0
2
dy
dy
(8)
H ( y ) を y の多項式で表す。
H ( y ) = ∑ as y s = a0 + a1 y + a2 y 2 + a3 y 3 + ...
(9)
H ( y ) の微分は次のように即座に実行できる。
dH ( y )
= ∑ sas y s −1 = a1 + 2a2 y + 3a3 y 2 + ...
dy
s =1
d 2 H ( y)
= ∑ s ( s − 1)as y s − 2 = 2a2 + 6a3 y + ...
2
dy
s =2
これらの式を(8)に代入して、 y ( s = 0,1, 2,... ) について整理すると、
s
[1× 2a2 + (ε − 1)a0 ] + [2 × 3a3 + (ε − 1 − 2)a1 ] y
+ [3 × 4a3 + (ε − 1 − 2 × 2)a2 ] y 2 + .... = 0
上式は y の多項式であり、上式が成立するためには、 y が如何なる値でも y ( s = 0,1, 2,... )の各項に付い
s
ている係数がゼロでなければならない。従って、
y 0 の係数: 1× 2a2 + (ε − 1)a0 = 0
y1 の係数: 2 × 3a3 + (ε − 1 − 2)a1 = 0
y 2 の係数: 3 × 4a4 + (ε − 1 − 2 × 2)a2 = 0
y 3 の係数: 4 × 5a5 + (ε − 1 − 2 × 3)a3 = 0
一般に、
y s の係数: ( s + 1)( s + 2)as + 2 + (ε − 1 − 2s )as = 0
となる。従って(9)式の係数 as は以下の漸化式に従う。
as + 2 = −
(ε − 1 − 2s )
as
( s + 1)( s + 2)
(A)
a0 と a1 の値が判れば、この漸化式を使って、 a0 → a2 → a4 → ⋅⋅⋅ および a1 → a3 → a5 → ⋅⋅⋅ と順々に係
数を決めることができる。
∞
これで(7)式が見かけ上は決まったのだが、(9)式において s の和が無限に続くと( y が含まれると)、
Φ* ( y )Φ ( y ) の積分が発散してしまい、規格化できなくなる(拘束された粒子の波動関数にならない)。これ
を避けるために、(9)式の和は無限に続かず、漸化式(A)は途中で「自然に」途切れなければならない。つ
まり、
s が「ある整数値」になったとき、漸化式(A)の係数は (ε − 1 − 2s ) = 0
でなければならない。
s = 0 で(A)が途切れるならば ε = 1 となり、 s = 1 で(A)が途切れるならば ε = 3 となり、 s = 2 で(A)が途
切れるならば ε = 5 となり、、
、
。 s = n で(A)が途切れたときを ε n とすると
ε n = 2n + 1
( n = 0,1, 2,3, ⋅⋅⋅ )
これを(2)式に代入するとエネルギー E が決まり、
「整数 n 」に応じた飛び飛びの値になる(量子化)。整数 n
に対応したエネルギーであることを示すため、 E に添字 n を付けて En と表記する。
En =
h2 ⎡
1⎤
k ⎡
1⎤ h
n+ ⎥ =h
n+ ⎥ =
2
⎢
⎢
α m ⎣ 2⎦
m⎣
2 ⎦ 2π
ここでν は振動数であり、
ν=
となる。
1
2π
k
m
k
m
1⎤
1⎤
⎡
⎡
⎢⎣ n + 2 ⎥⎦ = hν ⎢⎣ n + 2 ⎥⎦
( n = 0,1, 2,... )。 (10)