CFA 協会ブログ No.54 2012 年 5 月 14 日 効率的市場仮説の確信不変:ユージン・ファーマ、おおいに語る Unapologetic after All These Years: Eugene Fama Defends Investor Rationality and Market Efficiency マーク・ハリソン、CFA 先週シカゴで開催された第 65 回 CFA 協会アニュア 題解決どころかさらに事態を深刻にしている」と述べ、 ル・カンファレンスで、シカゴ大学ブースビジネスス 銀行をもっと破綻させるべきだったと主張しました。 クールのユージン・F・ファーマ教授が長年にわたる 卓越した研究成果と知見を披露してくれました。「現 代ファイナンスの父」とも呼ばれるファーマ教授は、 最近盛んな効率的市場仮説(efficient markets hypothesis : EMH) への批判に対抗し、「大きすぎて潰せない」 (too big to fail)銀行、積立不足の年金基金、アクティ ブ資産運用、行動ファイナンス等を鋭く批判しました。 金融危機に関しては、「私自身は因果関係が逆だと思 っている。つまり金融危機が経済危機を引き起こした のではなく、経済危機が金融危機を引き起こしたとい う仮説の棄却はできないと思う」とコメントしました。 危機をきっかけとして遡上に上った新しい規制に対 しても教授は懐疑的で、「基本的には、自己資本比率 を大幅に高めて債務が実際に無リスクとなるような 水準に持っていく必要がある。自己資本比率をそれだ け高めれば自ずと立ち直れるからだ。25%が妥当と考 えるが、それでだめなら、もっと高めればよいであろ う」とコメントしました。 教授はさらに批判の矛先を、銀行から確定給付年金の スポンサーに向け、「これまでの拠出額は十分ではな かった。彼らが言うところの年金債務は実際の債務を 約 3 割も下回っているのが実態である。それは将来の 教授はまた、サブプライムローンの蔓延が全ての元凶 債務を資産の期待収益率で単純に割り引いているか という解釈にも疑問を投げかけました。金融危機前夜 らだ」と指摘しました。 の市場では、「常識的には考えられない行動が広範に あった。住宅ローンの借り入れおよび供与を促すよう な政治的圧力があったのではないか。深刻なリセッシ ョンに陥っていなければ、金融システムが崩壊するこ とになるとは考えにくいであろう」と述べました。 年金債務は実質的にスポンサーのインフレ連動債務 であることから、割引率は現行の 7-8%ではなく 3% 程度が適当だと教授は見ています。「市場が好転しさ えすれば基金は安定するという市場頼みは、基金の存 続中には下げ相場が何度もあることを考えると楽観 教授にとって、金融危機がもたらした最も残念な結果 すぎる」と述べ、「州や地方政府の年金基金はいわば はモラルの低下でした。「大きすぎて潰せないとした 巨大なヘッジファンドだ」と批判しました。 ことが、今回の危機後処理の最大のミスだった。その 結果、大きすぎて潰せない銀行の債務が無リスクとみ なされたため、低コストでの資金調達を可能にし、容 易に巨大化する環境を作ってしまった。このことが問 日本 CFA 協会 アクティブ運用に関しては、運用コストを控除すると ゼロサム・ゲームであるとし、ケネス・フレンチ (Kenneth French)との共同研究を引用して、対象期 1 間にわたり全投資信託のパフォーマンスを横断的に レミアム(ERP)やファイナンス理論の系譜に関して 分析すると優劣両極端のファンドが存在するという も教授の考えを聞く機会に恵まれました。ファーマ教 実証結果を示しました。「コスト控除前では上位 3% 授によると、「マクロエコノミストは、市場で観察さ のマネジャーのみがコストに見合うリターンを挙げ れる ERP に困惑している。それというのも彼らのモデ る能力を示している。」3000 から 4000 のファンドを ルで推計される ERP が 0.5%程度であるのに対し、実 みわたせば、「上位 3%は良く見えるだろうが、それ 際には 5-7%もあるからだ。その原因として考えられ ですら能力ではなく幸運によるものもある。あとの るのは、予想利益率が上昇しているか、割引率、すな 97%はひどい有様だ」と指摘しました。そして、デー わち株式の期待リターンが低下しているかのどちら タマイニングにも警鐘をならし、「5-10 年では全く かである」とし、予想利益率が上昇しているというデ 不十分でノイズにすぎない。株式プレミアムが間違い ータは認められないため、ファーマ教授は投資家が要 なくプラスであると結論づけるには 35 年のデータが 求する株式の期待リターンが低下しているに違いな 必要」と、短期間のデータのみを用いたファンド分析 いと推測しています。ちなみに教授自身は ERP につい にはとりわけ懐疑的でした。 て 4%レベルが妥当とみています。「効率的市場であ また、行動ファイナンスに関しては、「説明付け」に すぎないとしながらも個人レベルの行動については ってもリスクプレミアムが一定というわけではない」 と教授は結論づけました。 非常に有用な理論である、とやや控えめに批判しまし 最後に教授は自身の長年にわたる研究成果を振り返 た。一部の運用者の間で共通の心理的バイアスがある り、今でも直観的に魅力があると見ている資本資産評 ことは認めながらも、「それを市場理論まで飛躍させ 価モデル(CAPM: capital asset pricing model)の強力な信 るようなデータはない。非合理的な行動はいずれ姿を 奉者からケネス・フレンチとの共同研究による有名な 消すはずである」と強く主張しました。行動ファイナ 3 ファクターモデルへの変遷について語りました。分 ンス理論の矛盾は、「モメンタムを説明するストーリ 散によっても打ち消すことのできない変数、すなわち ーがあり、同時に正反対のことを説明するストーリー リスクファクターを特定したこの研究は、もっとも引 も持ち合わせていること。根本的にあいまいすぎて、 用されるファイナンス理論の一つとなりました。教授 サイエンスといえないこと」と強調しました。脳の動 はバリューとサイズに並んでリサーチ対象として関 きを長期合理的な「遅い思考」と直感的な「速い思考」 心の高い 3 番目のファクターであるモメンタムの問題 にわけたダニエル・カーネマン(Daniel Kahneman)の 点について思慮深い論理を展開しました。「モメンタ 2 段階モデルに関しては、ファーマ教授は完全に否定 ムが株式リスクの時間変数を表しているとして、モメ の立場をとっています。2 段階モデルはただ脳に右脳 ンタム株のターンオーバーがきわめて高いことが問 と左脳があると述べているに過ぎないと断言して、投 題となる。今日のモメンタム株が 3 か月後には変わっ 資家は常に合理的に行動すると主張しました。「(2 ているであろう。効率的市場にとって最もやっかいな 段階モデルは)結局、合理的に行動する人もいれば、 のがその点だ。あくまでもモデルであって、絶対では 非合理に行動する人もいる、ということを言っている ないということだ。」 に過ぎない。」 この後、カンファレンス参加者は最近の CFA 協会リサ ーチファウンデーション(CFA Institute Research Foundation)の論文集でもテーマとなった株式リスクプ 日本 CFA 協会 執筆者: マーク・ハリソン(Mark Harrison)、CFA CFA 協会のパブリケーション・ディレクター 2 (翻訳者:林 いずみ、CFA) 英文オリジナル記事はこちら: http://blogs.cfainstitute.org/investor/2012/05/15/ unapologetic-after-all-these-years-eugene-famadefends-investor-rationality-and-market-efficienc y/ 注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記 事を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版 および英語版で内容に相違が生じている場合には、 英語版の内容が優先します。 日本 CFA 協会 3
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