月面上にある間

4章
1.
水平な台上で長さ 50cm の糸に結ばれた質量 50g の球が糸に引かれて 1.0s に 2.0 回の
割合で円運動している。ある瞬間に糸が切れた。そののち球はどのような運動をする
か、そのときの加速度と速度はいくらか。
糸に結ばれている間、球は糸から水平な面内を向く力を受けているが、糸が切れるとその
力はゼロになる(鉛直方向は重力があるが、球が落ちていかないように台が支えているの
で、ここでは考えなくてよい。また台は摩擦力を球に与えるが、これは小さいとして無視
する。さまざまな力については6章で学ぶ)。切れた瞬間より後では、水平面内での運動
はその方向の力がゼロだから慣性の法則(外から何らの作用もはたらかなければ、運動し
ている物体は等速度直線運動をする)にしたがう。この等速度直線運動は「切れた瞬間に
おける速度」が保たれるので、速度の向きは切れた時点での位置における円の接線方向、
速度の大きさは切れた瞬間(直前)の速さすなわち
速度の大きさ=半径×回転の角速度
(
)
= 5.0 × 10 m × ( 2π × 2.0 rad/s ) = π × 2.0 m/s=6.3m/s
−1
となる。切れた瞬間以降、加速度は 0。
2.
同じ物体を月面で月が引く力は地上で地球が引く力の 1/6 とする。質量 50 kg の物体に
ついて、月面上で
1)落下の加速度はいくらか。
2)水平面内で力 10N を加えたとき物体の得る加速度はいくらか。
1)重力について復習すると、地球上で地球が質量 m の物体を引く力が F = mg であり、こ
の物体の鉛直方向の運動方程式が
ma = F = mg
となることから、加速度 a が g と等しくなった。月面で月が質量 m の物体を引く力は、題
意より mg/6 となるから、落下の加速度は g/6 となる。数値を求めると(「1/6」の 6 が有
効数字2桁以上だとして)
落下の加速度=
9.8 m/s 2
= 1.6m/s 2
6.0
2)水平方向に加えた力Fが水平面内で引き起こす運動は、地上であろうと月面であろう
と、宇宙空間であろうと、慣性系で記述する限り同じ運動方程式 F = ma に従う。した
がって(問題に与えら得た数値がすべて有効2桁とすると)
加速度 =
10 N
= 0.20 m/s 2
50 kg
4章
3.
質量 m の物体が次のような運動をするとき、物体にはたらく力を位置と速度で表せ。
R, α, ωは定数である。
(1)
x = Rte −α t
速度は位置 x を時間で微分して
dx
⎛d ⎞
⎛d
⎞
= R ⎜ t ⎟ e −α t + Rt ⎜ e−α t ⎟ = R e −α t + Rt ( −α e−α t ) = R (1 − at ) e − at
dt
⎝ dt ⎠
⎝ dt
⎠
加速度は速度
(◇)
dx
を時間で微分して
dt
d
d ⎛ dx ⎞ d 2 x
⎛d
⎞ −α t
⎛ d −α t ⎞
−α t
⎜ ⎟ = 2 = ( R (1 − α t ) e ) = R ⎜ (1 − α t ) ⎟ e + R (1 − α t ) ⎜ e ⎟
dt ⎝ dt ⎠ dt
dt
⎝ dt
⎠
⎝ dt
⎠
= R ( −α ) e−α t + R (1 − α t ) ( −α e−α t ) = R (α 2t − 2α ) e−α t
(◇◇)
さて、題意により加速度を速度と位置で表したい。言い換えると、加速度の式から x
と
dx
−αt
− αt
の式を使って R e と Rt e を消去する。具体的には、位置の式
dt
Rte −αt = x
と、これを
dx
= R (1 − at ) e − at = R e −αt − αRt e −αt
dt
に代入して得る
dx
= R e − αt − α x
dt
すなわち
R e −α t =
dx
+ αx
dt
を、加速度の式に代入すると
d 2x
= R (α 2t − 2α ) e −α t = α 2 Rte −αt − 2αR e −αt
2
dt
dx
dx ⎞
⎛ dx
⎞
⎛
= α 2 x − 2α ⎜ + αx ⎟ = −α 2 x − 2α
= −⎜ α 2 x + 2α ⎟
dt
dt ⎠
⎝ dt
⎠
⎝
この物体に働く力Fによってこの加速度が生じているのだから、第二法則
F =m
d 2x
により
dt 2
F =m
(2) x = R e
− αt
dx ⎞
d 2x
⎛
= −m⎜ α 2 x + 2a ⎟
2
dt ⎠
dt
⎝
sin ωt
ひとまず、速度と加速度を計算する(必要なら、指数関数と三角関数の微分につい
4章
て 3 章の章末問題の解説を参照):
(
(
)
(
)
dx d
d
⎛d
⎞
⎛d
⎞
=
R e−αt sin ωt = R e−αt sin ωt = R⎜ e−αt ⎟ sin ωt + R e−αt ⎜ sin ωt ⎟
dt dt
dt
⎝ dt
⎠
⎝ dt
⎠
−αt
−αt
−αt
= R − αe sin ωt + R e (ω cosωt ) = R e (− α sin ωt + ω cosωt )
)
(
)
d 2 x d ⎛ dx ⎞ d
= ⎜ ⎟=
R e −αt (− α sin ωt + ω cos ωt )
2
dt
dt ⎝ dt ⎠ dt
d
d
=
− αR e −αt sin ωt +
ωR e −αt cos ωt
dt
dt
d
d
= −αR e −αt sin ωt + ωR e −αt cos ωt
dt
dt
−α t
= −αR e (− α sin ωt + ω cos ωt )
(
)
(
(
)
)
(
)
⎛d
⎞
⎛d
⎞
+ωR⎜ e −αt ⎟ cos ωt + ωR e −αt ⎜ cos ωt ⎟
dt
dt
⎝
⎠
⎝
⎠
− αt
= −αR e (− α sin ωt + ω cos ωt )
[(
)
(
)
+ωR − αe − at cos ωt + ω R e −αt (− ω sin ωt )
= R e −αt α 2 − ω 2 sin ωt − 2αω cos ωt
]
x の式
x = R e −αt sin ωt
と、これを速度
dx
の式に代入した
dt
dx
= R e −αt (− α sin ωt + ω cos ωt ) = −α R e −αt sin ωt + ωR e −αt cos ωt
dt
より得る
dx
dx
+ αRe −αt sin ωt =
+ αx = ωR e −αt cos ωt
dt
dt
を用いると、加速度の式は
[(
]
)
d 2x
= R e −αt α 2 − ω 2 sin ωt − 2αω cos ωt
2
dt
= α 2 − ω 2 R e −αt sin ωt − 2α ωR e −αt cos ωt
(
= (α
2
− ω2
)
⎞
+ ax ⎟ = −(α
)x − 2α ⎛⎜ dx
dt
⎝
⎠
2
)
+ ω 2 x − 2α
となる。この加速度を質量 m の物体にもたらす力は
dx
dt
4章
d 2x
dx ⎞
⎛
F = m 2 = − m⎜ (α 2 + ω 2 )x + 2α ⎟
dt
dt ⎠
⎝
(3) r = (2 R cos ωt )e x + (R sin ωt )e y
ベクトルで表された位置であることに注意。この
位置ベクトルは問題 3.4 のものと全く同じ。そのとき求めた加速度は
a = −ω 2 {(2 R cos ωt )e x + (R sin ωt )e y } = −ω 2r
であったから、すでに答えは出ている。この加速度ベクトルを与える力は
F = ma = −mω 2r
となる。
4.
重さ 60 kg 重の物体を長さ 2.0 m の 3 本のひもで 3 人が 1 本ずつもってつり下げている。
3 人は正三角形をなす位置にいて物体との水平距離は 50 cm である。おのおののひもが
物体に及ぼす力の大きさは何 N か。
状況を絵に描くと理解が進む(図A)。これは、ほとんど
A
いつでも正しい!
どの人のひもも、物体との位置関係は同じである。より
50 cm
θ
正確に言うと「物体を通る鉛直軸のまわりにこの 3 人を
2.0 m
(あるいは観測している者を)120°回転すると、回転す
T
る前と比較して何も差がない。」この状況を「この鉛直軸
は3回対称軸、この系は3回対称である」などという。
60kg 重
各ひもが物体に及ぼす力の大きさは、上に述べた対称性
よりすべて等しい。その内容を具体的に考えると次のよう
B
になる:ひもが及ぼす力はひもの方向に加わるので、これ
らの力の水平面内の成分(鉛直方向から見た様子)を描く
と図Bのようになる。それぞれのなす角が 120°であるた
め、すべての力の水平面内の成分の大きさが等しいときに
120°
120°
120°
限り合成したとき 0 になる。つぎに鉛直面内でどのひもも
傾きが 50cm/2.0m と同じだから、各力の水平成分が同じな
ら垂直成分も同じ大きさになる。こうして、水平面内で 3 回対称であることと、鉛直面内
で同じ傾きであること、どの力も大きさが同じという結論になった。
そこで、1 本のひもが及ぼす力の大きさを T とし、ひもが鉛直線となす角をθ(図A)と
4章
する。θを頂角とする直角三角形に注目するとサイン=高さ/斜辺は sin θ =
る。T の鉛直方向成分は T cos θ = T 1 − sin
2
θ = T 1 − (1 / 4 )2 =
直方向成分は, 3 本のひもの張力の鉛直方向成分の和(上向, 3×
15
4
0.50 1
= とな
2.0 4
T 。物体に働く力の鉛
15
4
T ),および重力(下
向,60kg 重は重力加速度を 9.8 m/s2 とすると 60×9.8 N)であり,これらが打ち消しあう
ことで上下方向に静止しているから
3×
15
4
T − (60 × 9 . 8 N ) = 0
となる。これより(力の単位は最後の式だけにつけることにして)
T=
5.
4
80 × 9.8 80 × 9.8
× (60 × 9.8 ) =
=
= 203 = 2.0 × 102 N
3 15
3 5 1.73 × 2.23
質量 m1,m2 の二つの質点1,2の重心は2質点を結ぶ線分を質量の逆比に内分した点
であることを示せ。
質点1,2の位置ベクトルを r1 ,r2 とすると重心の位置ベクトル R は式(4.37)すなわち
R=
m1r1 + m2r2
m1 + m2
で与えられる。重心と質点1を結ぶ(重心= R から質点1= r1 へ,R にそれを加えると r1 に
なるベクトル)ベクトル r1 ' は
r1′ = r1 − R = r1 −
m1r1 + m2r2 (m1 + m2 )r1 − (m1r1 + m2r2 )
m2
(r1 − r2 ) (◎)
=
=
m1 + m2
m1 + m2
m1 + m2
同様にして重心と質点2を結ぶ(重心= R から質点2= r2 へ, R にそれを加えると r2 にな
るベクトル)ベクトル r2′ は
r2′ = r2 − R = r2 −
=−
m1r1 + m2r2 (m1 + m2 )r2 − (m1r1 + m2r2 )
m1
(r2 − r1 )
=
=
m1 + m2
m1 + m2
m1 + m2
m1
(r1 − r2 )
m1 + m2
(△)
となる。
式(◎)の最右辺に現れるベクトル r1 − r2 は質点2から1へ向かうベクトルだから,ベク
トル r1 ' の向きも「質点2から1へ向かい」,式(△)ではベクトル r1 − r2 の符号が反転し
ているので, r2′ の向きは「質点1から2へ向かう」。よって,質点1と2は重心をはさん
で1と2を結ぶ直線の反対側にある。つぎに,r1 ' の長さ r1 (重心から1までの長さ)は「質
点1と2を結ぶ線分の m2 ( m1 + m2 ) 倍」, r2′ の長さ r2 (重心から2までの長さ)は「質点
4章
1と2を結ぶ線分の m1 ( m1 + m2 ) 倍」である。重心からの距離の比は
r1 : r2 =
m2
m1
:
= m2 : m1
m1 + m2 m1 + m2
である。すなわち,重心は2質点を結ぶ線分上にあり,この線分を質量の逆比で(順番を
逆にとって)内分した点である。
6. 10 g の球 A が速度 5.0 m/s で、静止している質量 20 g の球 B に衝突し、ちょうど反対向
きに速さ 1.0 m/s で跳ね返った。
1) B が A に及ぼした力積はいくらか。
2) A が B に及ぼした力積はいくらか。
3) B が得た速度はいくらか。
1)「B が A に及ぼした力積」とは、教科書の定義(式(4.43))に従って言い換えると「B
から A に作用した力が衝突している時間内におよぼした力積」である。この力は衝突
している(両球が接触している)間だけ作用するが、どれだけの時間接触し、その間
tB
にどのように力が変化したかわからない。そうすると、式(4.43)すなわち I = F(t ) dt
∫
tA
を用いて力積を計算することはできない。しかし、式(4.45)「力積とその時間内に起
きる運動量の変化に等しい」ことを用いるとこの問題は解決する。
そこで球 A が衝突の前後で運動量をどれだけ変えたかに注目する。球の質量は変化
しないので、速度の変化を計算すればよい。問題で断ってはいないが、議論を簡単に
するために球Aは直線上を運動すると考えているので、この直線を座標軸にとり、は
じめの(すなわち衝突前の時刻 t A における、添え字の A は教科書本文にあわせたもの
で、球の名前の A とは無関係です)球 A の速度の向きを正の方向とする。衝突前の球
の速度は
v(t A ) = 5.0 m/s
また衝突後の時刻 t B における速度は
v(t B ) = −1.0 m/s
である。したがって求める力積は、衝突による球 A(質量を m とする)の運動量の変化す
なわち
I AB = p (t B ) − p (t A ) = mv(t B ) − mv(t A ) = m{v(t B ) − v(t A )}
= (0.01kg ) × (− 1.0 − 5.0)m/s = −6.0 × 10−2 kg ⋅ m/s
となる。「負」は力積の向きが「はじめの球Aの速度と逆」であることを示す。
2)AがBに与えた力積は、BがAから受けた力の時間積分である。その力はBがAに及
ぼした力の反作用であり、作用反作用の法則から大きさが等しく向きが逆である。さ
4章
らに力が作用した時間(衝突の時間)は両方の力に共通である。したがって内積すな
わち「力を時間で積分したもの」は1)で求めたものと大きさが等しく逆向きである。
I BA = − I AB = 6.0 × 10−2 kg ⋅ m/s
3)衝突の後、Bは静止状態から速度 vB に変化したとする。Bの運動量変化とBが受けた
力積は同じだから
0.020 kg × (vB − 0) = I BA
より
vB =
6.0 × 10−2 kg ⋅ m/s 6.0 × 10−2 kg ⋅ m/s
= 3.0 m/s
=
0.020 kg
2.0 × 10- 2 kg