北海道 桜野温泉

♨ 新泉地紀行 ♨
その百 五
北海道桜野温泉
湯 老 人 ・佐 藤 哲 治
470 湯: 北海道桜野(さくらの)温泉/“熊嶺(くまね)荘”
、0137-66-2564、〒049-2675 二海郡八雲町桜野 348(木
造 2 階建て、和室 10 室。トイレ・洗面は共同で、トイレは簡易水洗式だが館内は清潔。ほとんどの部屋から
野田追(のだおい)川が見えるようだ。山菜またぎ料理が売り物で、奥さんの作る料理は本当においし
い。やまべ黄金揚げは小振りのやまべに卵の黄身を塗って揚げたもの、熱々を頭から頬張ると香ばし
く実にうまい。蕗味噌のじゃがいも包み揚げは蕗のほろ苦さが食欲を増す。鹿肉の燻製に前浜(噴火
湾)で獲れた新鮮な平目の刺身はえんがわ付。名物おぼこ鍋に山菜色々。残念ながら熊の肉は出なか
った。湯老人、熊肉はまだ食べたことがない。ご主人は釣り人にしてハンター、狩猟で鹿や熊を獲る。)
宿泊日:2010 年 6 月 21 日(月)
温
宿泊料:9,187 円(冷酒 1 本含)
泉:食塩泉で源泉温度 55 度、PH6.6 の弱酸性。湧出量毎分 140L.。効能は神経痛・関節痛・腰痛・慢性皮膚
病・リュウマチ・創傷・痛風など。飲用は多分不可。内風呂・露天風呂共源泉 100%掛け流し、塩素消毒なし。
野田追川を間近に見る露天風呂は男性用内湯の外にある。女性客がいる場合、時間を区切って露天風
呂付内湯を女性に開放する。かすかに黄土色?の湯はしょっぱく、非常に体が温まる。内湯・露天共、
本物温泉のあかし、温泉の析出物がしっかりこびりついている。
1)長万部の海岸で海霧に遭遇
函館から北上して八雲の手前、JR函館本線野田生(のだお
い)駅より約12KM.、野田追川上流部に一軒宿“熊嶺荘”が
ある。野田生駅は普通列車しか停まらぬ寂しい無人駅で、
駅は生、川は追の字をあてることにご注意。八雲は旧尾張
藩士が入植して開拓した。特に野田生地区は愛知県出身者
の比率が高い。明治時代、侯爵徳川義親(尾張徳川家第19代)
が当温泉を熊嶺温泉と名付けた。手負い熊がこの湯で傷を
癒した話を聞いて命名、或いは熊狩りの途中この湯につか
り命名したなど諸説あり。尚、野田生はアイヌ語、このあたり
の長万部(おしゃまんべ)や落部(おとしべ)などもアイヌ語を
起源とする地名である。ご興味ある方は研究してみると面
白いでしょう。
“熊嶺荘”は付近に全く人家のない静寂境で、宿から先
は行き止りになる。野田追川で釣りをする人や野田追山に
登山する人だけが奥に足を踏み入れる。川釣りが解禁にな
ったこの時期釣り人の宿泊が多く、金曜日から日曜日にか
けて宿は忙しい。逆に月曜日と火曜日は極端に暇になると
のことで本日の泊り客は湯老人のみ、1 階 14 畳の広い角部
屋に通された。部屋を出てすぐ左手に洗面・トイレと便利。部
屋の窓を開ければ野田追川の水面がきらめき、水音が心地
よく耳に響く。やはりここは秘湯であろう。
他に客がいないのでちょっと女性用内湯を覗いてみる。
男性用内湯の半分から 2/3 位の大きさ、これでは女性客か
ら苦情が出るのでは。風呂は入り放題だが、泉質が体の温ま
る食塩泉、しかも湯温がやや高目で余り長湯できないのが難。内湯・露天と場所を変えて遊んでも 1 時間が限
度であった。
2)この奥が“熊嶺荘”
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3)露天風呂
4)野田追川、とにかく水がきれい
奥さんは送迎から料理までこなす肝っ玉母さん。夕食を
部屋に配膳中、右手一閃、素手で蠅を捕まえた。女武蔵か!。
先ほどまで横になって休んでいた湯老人の顔にうるさくま
とわりつく蠅であったが、哀れ最後を迎えたのである。ご
主人は町の依頼で夕方鹿の見張り?に出かけた。無論猟銃持
参で射撃を許されている。当地では最近鹿が増え過ぎ、そ
の食害が深刻な問題となっているようだ。鹿は食べておい
しい所が限られ、残りは捨てるのだがその処理が大変。下
手な所に埋めると、きたきつねが嗅ぎつけて掘り返すそう
だ。昔、鈴など音のでるものを身につけて山を歩けば熊に
襲われないと聞いたが、それは真実か。奥さん曰く、最近
の熊は人の世界に慣れており、ヘリコプターが至近距離を飛んで
も逃げない。やはり熊と出会わないようにするのが一番。
至極もっとも。
ご主人夫婦の子供さんにこの宿を継ぐ気はないそうだ。
従い、そろそろ店仕舞を考えているとのこと。「誰かに売れ
ば」、湯老人は言ってみた。「こんなに不便な場所は本当に
自然を愛する人でなければやっていけない。買い手は中々
見つからない。」と奥さんは寂しそう。皆さん、桜野温泉は
近い将来なくなるかもしれません。行くならばお早めに。
お隣り、落部が最寄り駅の上の湯温泉“銀婚湯”(湯老人曾
遊)は全国区になり、商売繁盛というのに対照的な桜野温泉
である。
“熊嶺荘”は温泉・自然環境・食事など高水準の宿と
思うが、世の中うまくいかないものだ。
翌日札幌新千歳空港に向う途中、長万部で特急に乗り換える。待ち時間を利用して海岸に出た所海霧に遭遇。
沖合いから白い霧が押し寄せ、やがて 20M.位先がほとんど見えなくなる。幻想的な光景だ。掲載した写真は霧
に包まれる寸前のもの。
長万部駅に戻る。待合室のプラスチック椅子に腰掛けていると、丸い黒ぶちの眼鏡をかけた小柄な女性が体に不
釣合いなほど大きなキャリーバッグを引きずって入って来た。女子高生といっても通りそうな華奢な外見である。
時々あたりをせかせかと落着きなく歩きまわるので少々うるさい。日本人ではなさそうなので英語で問いかけ
てみる。湯老人の拙い英語力で複雑な会話は無理だが、彼女がホンコンチャイニーズで函館方面に向うことは分った。
何の目的で単身北海道にやって来たのか、単なる物見遊山とも思えない。その内湯老人の乗る列車の時間が迫
り、会話は尻切れとんぼに終る。彼女は無事旅を続けられたのであろうか。改札口で別れた彼女の不安そうな
顔が目に浮ぶ。今や、観光地でもない長万部のような田舎駅にも外国人の姿が見られる。日本も随分変った。
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MLG CARGO DIGEST VOL.357
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