〈A領域〉 児童の表現力向上を目指した指導の工夫(小学校 算数科 5年) 参考にする「改善のポイント」 平成25年度高崎市学力調査報告書 P.38 「算数−小学5年 改善のポイント 式・図・表 を使って説明・表現する力を高めましょう」 研究員 Ⅰ 新井 友康 課題 授業改善のポイント「式・図・表を使って説明・表現する力を高めましょう」を活用し、「自分の 考えをもつ場」「自分の考えを表現する場」を授業の中で計画的に設ける。また、児童が自分の考え を、式や図、表や言葉など自分に合った方法で表し、それを説明したり、互いに伝え合ったりするな どの学習活動を通して、表現する力を高めていけるようにする。 Ⅱ 課題設定の理由 児童の考え表現する力を養うためには、既習事項の知識や技能を根拠として自力解決及び学び合う 場と時間を確保することが大切であると考える。その際、自分の考えを分かりやすく表現させるため には、数、式、図、表、グラフや具体物など視覚的資料を活用させたり、具体的操作活動を取り入れ たりすることが有効であると考えた。児童の主体性を基盤に、上記の手だてを通して表現力を高める 実践につなげていく。 Ⅲ 1 課題解決のための具体的な手だて 既習の図形と未習の三角形の面積を比べる際に、実生活につながる具体の場面に照らした発問 を行うことで、三角形の面積の求め方に興味・関心がもてるようにする。 2 三角形の面積の等積変形、既習の図形に分割する考え、既習の図形の半分の面積であるとみる 考えについて見通しがもてるよう、1㎠方眼に三角形を書いたワークシートを用意する。 3 具体物操作をすることにより、自分の考え方の確認と、等積変形、既習の図形に分割する考え、 既習の図形の半分の面積であるとみる考えの試行錯誤が容易に行えるようにする。 4 全体発表の場で実物投影機を用いて具体物操作させることにより、分かりやすく説明できるよ にする。 Ⅳ 授業実践の概要 1 単元名 「面積の求め方を考えよう(四角形と三角形の面積)」(5学年) 2 単元・題材の目標 平行四辺形、三角形、台形、ひし形などの面積の求め方を理解し、公式をつくり出してそれら の面積を計算で求めることができるようにする。 3 指導計画(全13時間) 時 ね ら い 1 ○平行四辺形の面積の求め方を考える。 学 習 活 動 ○平行四辺形の面積の求め方を、既習の図形 (長方形)に帰着して考える。 2 ○平行四辺形の公式をつくり出し、それを適 ○平行四辺形の面積を求める公式を考える。 用して面積を求めることができる。 3 ○高さが平行四辺形の外にある場合でも平行 ○高さが平行四辺形の外にある場合の面積の 四辺形の面積の公式を適用できることを理 面 求め方を考える。 解する。 積 ○どんな形の平行四辺形でも底辺の長さと高 ○公式からも底辺の長さと高さが等しければ の さが等しければ、面積は等しくなることを 求 理解する。 め 4 ◎三角形の面積の求め方を考える。 面積は等しくなることを確かめる。 ◎三角形の面積の求め方を既習の図形に帰着 方 本 して考え、図や具体物などを用いて説明す を 時 る。 考 5 ○三角形の面積を求める公式をつくり出し、 ○三角形の面積を求める公式をまとめ、公式 え それを適用して面積を求めることができる。 を適応して面積を求める。 よ 6 ○高さが三角形の外にある場合でも、三角形 ○高さが三角形の外にある場合の面積の求め う ・ の面積の公式が適用できることを理解する。 方を考える。 ○どんな形の三角形でも、底辺の長さと高さ ○公式からも底辺の長さと高さが等しければ 四 が等しければ、面積が等しくなることを理 角 解する。 形 7 ○台形の面積の求め方を考える。 と 面積は等しくなることを確かめる。 ○既習の面積の求め方を用いて、台形の面積 の求め方を考える。 三 8 ○台形の面積を求める公式をつくり出し、そ ○台形の面積を求める公式を考え、公式を適 角 れを適用して面積を求めることができる。 用して面積を求める。 形 9 ○ひし形の面積の求め方を考えることができ ○対角線の長さの積がひし形の面積の2倍に の る。 面 なっていることを利用して、ひし形の面積 を求める公式を考える。 積 10 ○算数的活動を通して学習内容の理解を深め、○植物の葉のような面積でも、工夫次第で求 興味を広げる。 められることを確認する。 11 ○平行四辺形の底辺の長さを一定にして高さ ○底辺または高さを固定したとき、もう一方 のみを変えたとき、面積と高さは比例の関 が変わると、比例してもう片方も変わるこ 係にあることを理解する。 とを確認する。 12 ○学習内容を適用して問題を解決する。 ○公式を用いて、それぞれの図形の面積を求 め、習熟度を高める。 13 ○学習内容の定着を確認し、理解を確実にす ○求積のために必要な部分の長さを考えるこ る。 とにより、公式の理解を深める。 4 授業の記録(全13時間予定、本時はその4時間目) 過 発問等の手だて 程 実際の子どもの反応 間 [手だて1] [手だて1に対する反応] 既習の図形と未習の三角形の面積を比 べる際に、実生活につながる具体の場面 導 時 に照らした発問を行うことで、三角形の 面積の求め方に興味・関心がもてるよう にする。 ○どのようにしたら三角形の面積を求めること ができるか関心をもった。 ○三角形の面積も、工夫すれば求めるられるの だろうか、という疑問をもった。 [反応に対する評価] ○一番広い土地を買いたいが、四角や三角 5 ○提示された三角形の面積について、「どうし 入 の土地が混ざっている。三角の土地の面 たら求めることができるかな。」「今までの 積の求め方を教えてください。 面積の求め方に当てはめてたらどうだろう。」 と、三角形の面積を工夫して求めようと意欲 をもつことができた。 三角形の面積は、どのようにすると求められますか。 [手だて2] [手だて2に対する反応] 三角形の面積の等積変形、既習の図形 ○1㎠に満たないマスを1㎠の形に変えて数を に分割する考え、既習の図形の半分の面 数えようとしていた。 積であるとみる考えについて見通しがも てるよう、1㎠方眼に三角形を書いたワ ークシートを用意する。 ○既習内容をすぐに確認できるよう、別紙 に拡大し、黒板上に掲示したままの状態 追 ○長方形、正方形、平行四辺形の面積の求め方 は理解できていた。 にしておく。(図1) ・1 cm ×1 cm =1㎠ ・正方形の面積=一辺×一辺 ・長方形の面積=たて×横 ・平行四辺形の面積=底辺×高さ 図1 提示図 ○ 平行四辺形の面積が長方形の面積の求め方 [反応に対する評価] をもとにして考えたことを振り返り、ワー 20 ○1㎠方眼のマス目の数=三角形の総面積に気 求 クシートの三角形には、形を変えたり付け 付き、三角形の形を既習の図形に変形するこ 足したりする線などを書き込むことで、自 とで面積が求められる見通しがもてた。 由に変化させてよいことを伝える。 〔手だて3〕 具体物操作をすることにより、自分の 考え方の確認と、等積変形、既習の図形 す に分割する考え、既習の図形の半分の面 [手だて3に対する反応] 積であるとみる考えの試行錯誤が容易に ・「三角形を切り取って斜めの部分に合わせる 行えるようにする。 ○希望する児童には厚紙の方眼にかかれた 具体物を用意し、ワークシート上で考え た操作活動を確認させる。(図2) と、長方形になるぞ。」 ・「三角形の半分の高さだ。」 ・「合同な三角形を二つ繋げると平行四辺形に なるぞ。」 ・「平行四辺形の面積を半分にすれば、三角形 る 一つ分の面積になるな。」 ・「三角形がすっぽり入る長方形から三角形以 外の部分を切り取ると、合同な三角形がもう 一つできるな。」 ○新たな気付きをもつことができた。 図2 具体物の変形による 三角形の面積の求め方の確認 ○できあがる形の見通しがもてない児童もい ○ 色々な考えをかき込めるよう、ワークシー トには複数個のかき込み場所を用意し、複数 を組み合わせてもよいことを助言する。 ○必要に応じて隣同士の児童で相談し合い、 自分の考えの言語化を図らせる。 ○自分の考えた面積の求め方を、図や言葉、 た。 ○友達の説明を聞いて、助言を聞きながら作業 を進める姿が見られた。 ○説明する側は、具体物を操作しながら説明す るとともに、自分の考えも整理していた。 ・「みんなの前に出て発表するのは難しいけど、 具体物操作を行いながら、自分なりに確 隣の子に切り取った三角形を動かしながら説 認することができるようにする。 明するのならできそうだ。」 [反応に対する評価] ○具体物操作をすることにより、三角形の面積 を既習の図形の面積の求め方に当てはめて求 める考え方を確認することができた。 [手だて4] 全体発表の場で実物投影機を用いて具 体物操作させることにより、分かりやす く説明できるようにする。 ○ 実物投影機の具体物操作と説明を連動さ せることで、言葉での説明だけでは伝わ [手だて4に対する反応] ○言葉だけではうまく説明する自信がない児童 も、具体物を移動しながら分かりやすく説明 することができた。 ○実際の三角形の変形の仕方を「まず」 「次に」 ま りにくいところを、視覚的に補えるよう 「最後に」など、説明と同時に操作活動で見 にする。(図3) せながら三角形が四角形になっていく順序を 分かりやすく説明できた。 ○自分の考え方以外の求め方についても熱心に 聞いていた。 と 図3 実物投影機による 三角形の面積の求め方の説明 め ○ どのような求め方でも、一旦は四角形の 形に変形していることを確かめる。 20 ○三角形の面積の求め方に共通点があることに 気付けた。 ○自分の考え方以外の変形方法を知ること で、三角形の面積の求め方には多種多様 な方法があることを知る。 ・「どんな方法でも、三角形を四角形に変形し 面積を求められます。」 る ○児童が用いた具体物を拡大したものを黒 板上に提示し、実物投影機で行った児童 の説明と同時に並べることで、それぞれ の共通点に気付けるようにする。(図4) [反応に対する評価] ○ 等積変形、既習の図形に分割する考え、既習の 図形の半分の面積であるとみる考えの仕方を具 図4 拡大図形による 面積の求め方の補足 ○今日の考え方の共通点をもとに、次時で は三角形の公式を作ることを伝える。 Ⅴ 1 体物操作と合わせて行った。そのため、自分の 考え方と実際の操作を連動させることができ、 相手に伝えたい三角形の面積の求め方を説明す ることができた。 実践のまとめ 成 果 (1)手だて1について ①既習事項で求められる面積と、求められない面積(三角形)を比べる発問をしたことにより、三 角形の面積をどうにかして知りたいという、児童の興味・関心をひくことができた。 ②既習事項を別紙に拡大して黒板上に常時掲示しておくことにより、前時までの学習内容を振り返 る時間の短縮ができ、児童の活動時間の確保に役立った。また、面積を求める公式などの基本的 な知識を児童が必要に応じて随時確認することができるようになったため、見通しをもって活動 することにもつながった。 (2)手だて2について 面積の基本単位である1㎠方眼を使うことにより、三角形を方眼用紙の目盛りに合わせて変形さ せればよいのではないかという、等積変形等の仕方の見通しを立てることができた。また、作図 が苦手な児童でも、方眼の目盛りを利用して、合同な三角形を描いたり、目盛りに沿って切った りする作業に役立った。 (3)手だて3について ①ワークシート上の三角形だけでなく、合同な具体物を複数用意したことにより、実際に切ったり、 移動させたり、重ねたりする操作活動を通して、多様な三角形の面積の求め方を考えたり、確認 したりすることができた。 ②具体物操作を交えて考えることにより、三角形の等積変形、既習の図形に分割する考え、既習の 図形の半分の面積であるとみる考えを順序立てて説明することが容易になった。 (4)手だて4について ①実物投影機を用いて三角形の面積の求め方の方法を児童に説明させたことにより、発表が苦手な 児童でも、自分の考えを言葉だけでなく視覚的な補助を用いて順序立てて説明することができ、 自分の考えを相手に伝えることに自信をもつことができた。 ②実物投影機を用いて三角形の面積の求め方の発表を聞いたことにより、実際の変形方法などを発 表による説明と具体物操作による視覚的補助とで確認することができ、理解を深めることに繋が った。 2 課 題 三角形の面積の求め方を既習事項に当てはめる三つの方法の違いや共通点に視点を当て、分かっ たことを児童に考えさせる時間を確保することができなかったので、今後改善していきたい。 Ⅵ 研修を終えて 算数科の「きめ細か担当」として3年生から6年生までの少人数学習を担当するにあたり、算数が 苦手な児童の集団に対して「分かる授業」「学び合いのある授業」というものを実践できるように、 今まで以上に教材研究について考える一年だった。本研修では児童をいかに「自力解決へ導くか」の 大切さについていつも考え、そのためには「どんな導入で児童の関心意欲を高めようか」「どんな教 材を用意することが児童にとって分かりやすいか」 「どんな発問が児童の自力解決の手助けになるか」 など、単元ごとに教材研究の大切さを意識した。今までの自分の授業を振り返ると、児童間での学び 合いが難しい場面では、分からない児童に対してついつい指導と称して学習内容を説明してしまうこ とが多かったことに反省し、ただ教員の説明を聞いて学習内容を理解するだけの「受け身」の授業を なくすためにはどうすればよいかを徹底して考えた。 一人一人の児童に自分の考えをもたせ、意見交換をさせ、お互いに学び合い深め合う授業を実践す ることは大変難しいが、今後も意識して教材研究を行い、児童の自力解決と学び合いの助けになるよ うな授業実践を行っていきたいと考える。
© Copyright 2024 Paperzz