アセット・アロケーションの誤解を解く

CFA 協会ブログ
2012 年 2 月 16 日
No.25
アセット・アロケーションの誤解を解く
Setting the Record Straight on Asset Allocation
デイヴィッド・ララビー、CFA
資産運用マネジャーは新年を迎えると一般的に資産
因」
(“Determinants of Portfolio Performance”)と題する
配分を見直すものです。ロイター社が最近発表した調
画期的な研究論文で、資産配分がポートフォリオのリ
査結果によれば、投資家は総じてよりディフェンシブ
ターンの変動性を決定する主たる要因であり、銘柄選
な姿勢を強めて 2012 年をスタートしています。不確
択と市場タイミング(併せて、アクティブ運用)が果
実な世界経済を背景として、マネジャーたちは株式へ
たす役割は小さいと主張しました。この 1986 年の
の配分を引き下げ、債券への配分を 1 年以上ぶりの高
BHB 論文は、米国の大手年金基金 91 基金について
水準にまで引き上げています。
1974 年から 1983 年までの期間における四半期リター
現在、投資実務に携わるほとんどのプロフェッショナ
ルは、資産配分がポートフォリオのパフォーマンスに
著しく有意な影響を与えるという格言を繰り返し耳
にしていますが、その裏づけとなる実証データや議論
について知る者は限られるでしょう。資産配分の重要
性に関する画期的なリサーチが十分に理解されず、広
ンを調査し、仮に同じ平均資産配分比率を変えずに資
産クラスごとのインデックスに投資し続けた場合の
リターンと比較しました。時系列で線形回帰分析した
平均決定係数(R2)は 93.6%となり、BHB は資産配分
がポートフォリオの四半期リターンの変動性を 93.6%
説明すると結論づけました。
く間違って伝えられていることを示す証拠がありま
1991 年には、ブリンソン、フード、ブライアン・D・
す。文献を渉猟して資産配分理論の進歩をよりよく理
シンガー(Brian D. Singer)が BHB 論文を更新して 1977
解することは、分野を問わず全ての実務家にとって有
年から 1987 年までのリターンを調査した結果として
益でしょう。
91.5%の決定係数を導き出し、実質的に先の研究結果
資産配分は、異なる資産クラスのもたらすリターンが
完全には連動しておらず、複数の資産クラスにまたが
りポートフォリオを分散させることがリスク調整後
を再確認しました。現在の業界では BHB 論文が広ま
り、投資アドバイザーの営業資料にはほぼ自動的に取
り入れられています。
リターンの最適化に役立つ、という考え方を基盤とし
しかし反対意見もありました。ウイリアム・ヤンキー
ています。ただ、この話題は、ゲイリー・P・ブリン
(William Jahnke)は 1997 年、BHP 論文批判を発表し、
ソン(Gary P. Brinson, CFA)、ランドルフ・フード
そのなかで「BHB による分析の根本的な問題は、ポー
(Randolph Hood)、ギルバート・L・ビーバウワー
トフォリオのリターンではなくボラティリティの説
(Gilbert L. Beebower)(3 人まとめて、BHB の略称で
明に焦点を当てたことにある。実際に、投資家はリタ
知られます)が、年金資産のリターンに与える資産配
ーンのボラティリティよりも想定投資期間中に起こ
分方針の効果について説明を試みた 1986 年まで、ほ
りうる結果のレンジを懸念しているはずである。」と
とんど掘り下げられることがありませんでした。BHB
主張しました。ヤンキーはさらに続けて「資産配分を
は、ファイナンシャル・アナリスト・ジャーナルに発
固定する投資手法は、分析に基づいて先を見据えた戦
表された「ポートフォリオ・パフォーマンスの決定要
略的資産配分に繋げていく方法に劣る。・・・投資家の
日本 CFA 協会
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事情や市場機会が変化するように、投資家は資産配分
カプラン(Paul D. Kaplan)は 2000 年に発表した「ア
も変えるべきである。」と警告しました。
セット・アロケーション方針がパフォーマンスを説明
ヤンキーが作り話と言ったのは、金融業界が BHB 論
文を宣伝に用い、正しく伝えていないことでした。業
界はアクティブ運用責任を放棄するために BHB 論文
を取り上げていると見たのです。しかし、フードが後
に指摘したように、「最初の論文は、決してアクティ
ブな資産運用が重要な行動ではないと示唆するもの
ではない。それが論文の趣旨ではないし、反対のこと
を示す目的もなかった。
」ようです。
する割合は 40%、90%,100%のどれか」(“Does Asset
Allocation Policy Explain 40, 90 or 100 Percent of
Performance?”)のなかで、こうした誤解を取り上げま
した。当論文では、バランス型ミューチュアル・ファ
ンド 94 本の 10 年間の月次リターンおよび年金基金 58
基金の 10 年間の四半期リターンを調査し、時系列で
みたポートフォリオの変動性のうち実に約 90%を資
産配分が説明しているとし、BHB の研究結果を確認し
ました。しかし、高い決定係数は一般的にファンドの
BHB 論文が誤解され広く間違って伝えられてきたこ
資本市場に対するエクスポージャーによって説明さ
とは明らかです。ロジャー・G・イボットソン(Roger
れたこと、つまり「潮がさせばすべての船が浮かぶ」
G. Ibbotson)は 2010 年に発表した「アセット・アロケ
ことを示しました。
ー シ ョ ン の 重 要 性 」( “The Importance of Asset
Allocation”)のなかで、ジェニファー・A・ナットール
(Jennifer A. Nuttall)とジョン・ナットール(John
Nuttall)が 1998 年の未発表論文で BHB 論文を引用し
た 50 例のうち 49 例は不正確であると示したことを指
摘しました。またイボットソンは関連するウェブキャ
ストで、ナットール・ナットール論文が世界有数のミ
ューチュアル・ファンド会社 2 社の営業資料から引用
した例を紹介しました(以下の太字は筆者が加えたも
のです)。
しかし、イボットソンとカプランはリサーチの対象を
広げ、資産配分がファンド間のリターンのばらつき、
および典型的なファンドのリターン水準に与える影
響を検討しました。その結果、資産配分に起因するフ
ァンド間のリターンのばらつきは約 40%だけであり、
残りは資産クラスのタイミング、資産クラス内のスタ
イル、銘柄選択、手数料など他の要因によることが分
かりました。また、すべての投資家を平均すると、良
いマネジャーと悪いマネジャーが互いに相殺されて
市場そのものとなるため、イボットソンとカプランは、
「ある研究は、ポートフォリオのリターンのうち
(BHB が示唆したように)資産配分がリターンの絶対
91.5%以上は資産クラス構成が寄与したものと示唆し
水準の 100%を説明すると結論づけました。
ている。この研究では、個別銘柄選択および市場タイ
ミングが分散ポートフォリオのリターンに寄与した
割合を 7%未満としている。」
2010 年の「アセット・アロケーションとアクティブ運
用の等しい重要性」(“The Equal Importance of Asset
Allocation and Active Management”)で、イボットソン
「広く引用される年金基金マネジャーの調査は、一つ
および同僚のジェームズ・X・シオン(James X. Xiong)、
のポートフォリオと別のポートフォリオのパフォー
CFA、トーマス・M・イゾレック(Thomas M. Idzorek)、
マンス格差の 91.5%が資産配分によって説明されると
CFA、ペン・チェン(Peng Chen)、CFA、は、アクテ
している。」
ィブ・ポートフォリオ運用に対する資産配分方針の相
重要なのは、BHB 論文がリターンの水準あるいは相対
的なパフォーマンスではなくリターンの変動性のみ
に焦点を当てたことです。イボットソンとポール・D・
日本 CFA 協会
対的な重要性を計測するために、5,000 本以上のミュ
ーチュアル・ファンドについて 10 年間のリターンを
調べました。彼らはクロス・セクショナル回帰分析を
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用いて、ポートフォリオのリターンを、市場リターン、
市場リターンを上回る超過リターンのうち資産配分
執筆者:
方針に基づく効果およびアクティブ運用による効果
デイヴィッド・ララビー(David Larrabee)、CFA
の 3 つの要素に分解しました。イボットソンは後に、
CFA 協会のメンバーおよびコーポレート・プロダクト
BHB が資産配分方針による追加的な影響から市場リ
担当ディレクター。ポートフォリオ・マネジメント及
ターン部分を除いていなかったと指摘して、研究結果
び株式投資を専門とする。
を以下のようにまとめました。
「典型的なファンドの時系列のリターンに見られる
(翻訳者:獅々見
和秀、CFA)
ばらつきの約 4 分の 3 は、市場全般の動きからきてお
り、残りの部分については、そのほぼ半分が特定の資
産配分とアクティブ運用との間でそれぞれ分けられ
る。」
では、投資家にとっての意味合いは何でしょうか。最
英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/investor/2012/02/16/setti
ng-the-record-straight-on-asset-allocation/
初の BHB 論文は関連するリサーチを誘発しました。
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記
そのうち最も際立つのはイボットソンおよびその同
事を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版
僚によるリサーチであり、資産配分が運用パフォーマ
および英語版で内容に相違が生じている場合には、
ンスに及ぼす影響について私たちの理解を向上させ
英語版の内容が優先します。
ました。これらの研究を総合すると(1)市場から離
れないこと、および(2)戦略的資産配分を行うこと
の重要性を示しています。また、資産配分が投資プロ
セスの極めて重要な一部であることは変わらないも
のの、アクティブ・マネジャーは、その重要性が BHB
によって実体がゆがめられていた可能性が高いこと
がわかって、ほっとしたのではないでしょうか。
日本 CFA 協会
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