美術解剖学

(芸術科 美術)
自己を描く
芸術科(美術) 神田 春菜
1、授業の概要
学習指導要領の美術Ⅱ表現 A(1)において、指導すべき一つの事項として、自己を深く見つめ、自己
の在り方や生き方を考え主題を生成し、創造的に表現することがあげられる。それは、自己と真剣に向き
合い、良い部分・悪い部分を含め己を知り、肯定的に受け止める行為であると考えられる。自己を見つめ、
自己を知ることは、変化の激しい社会の中で、周囲に流されるのではなく、自分に自信を持ち、他者と協
働的に生きていく上で必要な力である。そして、その力は自己を表現する芸術の諸活動の中で発揮され、
育まれるコンピテンシーの一つであろう。
本授業では、そのコンピテンシーから、自画像という題材を捉え直した。生徒にとって自分の顔を見つ
めることは抵抗感がありながらも、身近であるからこそ関心を抱かせ、主体的に主題を追求できる魅力を
持っている。また、将来の生き方を考える時期であるので、自己をゆっくり見つめ直すきっかけとして、
自画像は適した題材である。
表現活動を通した学習においては、立てた計画を再現することで学びが深まるのではなく、表現の中で
新たに発見したことや感じたことを通して、さらに表現を深めていくサイクルの中で深まっていくと考え
る。その深まりを、客観的な指標であるルーブリックを活用していく。生徒自身が客観的に自己の表現活
動を認知することで、主体的に取り組む姿勢を生み出し、より心豊かな創造的な表現活動の中で、学習活
動を展開することを試みた。
2、学習指導案
日時 11 月 28 日(土)2 時間目 対象
2 年AD 組(男子 7 名 女子 8 名 合計 15 名)
教室
美術室
題材名 自己を描く 表現 A(1)、B
使用教材 光村図書「美術 2」
題材設定の理由
題材観
本題材ではオイルパステルを用いた自画像の制作を行う。本校では 2 年次の 2 学期に 3 年次選択授業を
決めなければならない。授業選択を行うことは今後の生き方を考えることであり、好きな部分・嫌な部分
含め真剣に自分自身と向き合わなければならない。自分自身の姿を描くということは、自分と向き合う最
も直接的な表現活動である。今自分の中にある様々な感情から主題を生成するとともに、表現と主題生成
し中での変容を通して、自己を知り、自己の在り方や生き方を問い直し、真正面から向き合うきっかけと
したい。
オイルパステルは幼少期から広く使われる馴染みの深い素材である。油彩表現のような重ね塗りやテレ
ピン油による描画、オイルパステルの特徴を生かしたスクラッチやぼかしなど、創意工夫をすれば様々な
表現が可能である。一年次に学んだことを生かし、表面的に似せるのではなく、内面や感情を掘り下げ、
主題に合った表現方法を工夫し、創造的に表現することを目指す。
生徒観
自分を表現できる場として美術の授業を楽しみにしている生徒は多い。一方で、自分の描写力に自信の
ない生徒や失敗を恐れ何でも教師に正解を求める生徒もいる。一年次は主に石膏油彩画や静物油彩画を通
して、美術表現の基礎的な技術や知識は学んできている。
指導観
自画像と聞くと自分の姿を似せて描く似顔絵に陥りがちである。表面的に似せるのではなく、自己の内
面を表現させる意識付けが必要である。自分の感情や思いを言語化し、その中から主題を生成するととも
に、構図や表現方法を言葉やスケッチで表現する活動を取り入れる。また、イメージがわかない生徒や、
イメージはあるがそれを思うように表現できない生徒が出てくると予想される。机間巡視やルーブリック
を用いる中で、生徒自身が判断していけるようアドバイスする。
題材の目標
・オイルクレパスによる自画像の制作を通して、自己の感情や内面を深く見つめて主題を生成し、主題に
合った表現方法を追求し、造形的な効果を工夫し創造的に表現するとともに、他の生徒の作品から発想や
構想の独自性、表現の工夫などについて、多様な視点から分析し理解を深める。
評価規準
美術の関心・意欲・態度
発想や構想の能力
創造的な技能
鑑賞の能力
オイルクレパスによる自画像の制作
自己の感情や内面を深く
主題に合った表
他の生徒の作品か
を通して、自己の感情や内面を深く
見つめて主題を生成し、オ
現方法を工夫し、 ら発想や構想の独
見つめて表現することに関心をも
イルパステルの特性を生
創造的に表現し
自性、表現の工夫な
ち、主体的に主題を生成し構想を練
かし創造的で心豊かな構
ている。
どについて、多様な
ったり、主題に合った表現方法を追
想を練っている。
求し表現したりしようとしている。
視点から分析し理
解を深めている。
指導計画(11 時間)
第 1 次 様々な自画像を鑑賞し、本題材の目標を理解する。(1 時間)
第 2 次 自己の感情や内面をワークシートに書き出し、主題や構図をイメージしスケッチする。
(1 時間)
第 3 次 頭部の構造を美術解剖学の視点から捉え、構想を練るためのデッサンをする。(2 時間)
第 4 次 オイルクレパスの表現技法を学び、材料の特性や効果について理解する。(1 時間)
第 5 次 自己の感情や内面を意識し、オイルクレパスの表現技法や効果を考えながら制作する。
(4 時間)
第 6 次 互いの作品を並べ鑑賞会を行うとともに、自己の表現活動を振り返る。(1 時間/本時)
本時の学習指導案(11 時間目)
時間
導
5分
入
生徒の学習活動
指導上の留意点・評価の観点
号令・点呼
本時の目標を確認
制作を振り返り、作品の主題を再考察する。
鑑賞会を行い、他者の自画像作品のよさを多様な視点から感じる。
展
15 分
・主題生成の段階から作品完成までの過
開
作品制作を終えての自己評価
程で自己の意識や考えの変化を意識さ
1
・自分の作品を鑑賞し、ルーブリックを活用し せ、考えを深められるよう指導する。
表現活動の振り返りを行う。
・制作を終えて改めて作品の主題について考 【美術の関心・意欲・態度】
え、制作前と比べ自分の意識がどのように変化 自己の表現活動について主体的に振り返
したかをワークシートに記入する。
ろうとしている。
(取り組みの様子・ルーブリック・ワー
クシート)
展
開
2
25 分
鑑賞会(野外で行う、雨天の場合美術室)
・似ている、似ていないという視点では
・作品を並べ、互いの作品を鑑賞し合う。
なく、どのような感情や内面を描いて表
① 作品のみの鑑賞
現しようとしているかを意識し、鑑賞で
② 作品の主題を読んだ上での鑑賞
着るよう指導する。
・ルーブリックを併用し、それぞれの作品に対 【鑑賞の能力】
して感じたことや考えたことをワークシート 他の生徒の作品から発想や構想の独自
に記入する。
性、表現の工夫などについて、多様な視
点から分析し理解を深めている。
(取り組みの様子・ワークシート)
ま
5分
自画像を描いたり鑑賞したりする活動を通し ・生徒から自主的に手が上がらない場合
と
て感じたことや考えたことを発表する。
め
(2〜3 人)
はこちらから指名する。
片付け・号令
ルーブリック
本授業では、制作の振り返りの自己評価として使用する
キャップストーン
マイルストーン
ベンチストーン
4
3
2
1
主体的な取り
自己の感情や内面を深く掘
自己の感情や内面を深く見
主体的に作品制作
作品を完成させることが
組み
り下げ、自己とは何かを追求
つめ、主体的に作品制作に
に取り組み完成さ
できる。
し、主体的に作品制作に取り
取り組み完成させることが
せることができる。
組み完成させることができ
できる。
る。
主題の追求
自己の感情や内面を深く見
自己の感情や内面を深く見
自己の感情を言葉
自己の感情を言葉に表
つめ、言葉に表し、その感情
つめ、言葉に表し、その感
に表し、その感情を
し、主題を生成すること
を基に、作品のイメージを浮
情を基に主題を生成するこ
基に主題を生成す
ができる。
かべ、主題を生成することが
とができる。
ることができる。
表現と主題を生成する繰り
表現と主題を生成すること
生成した主題に合
生成した主題を表現す方
返しの中で、自己の意識の変
を繰り返しながら、表現方
った、表現方法を追
法を考えることができ
化や変容を踏まえて表現方
法を追求することができ
求することができ
る。
できる。
創造的な表現
鑑賞の能力
法を追求することができる。 る。
る。
オイルクレパスの特性を生
オイルクレパスの特性を生
オイルクレパスの
オイルクレパスで表現す
かし、主題に合った表現方法
かし、主題に合った表現方
特性を生かし創造
ることができる。
を追求し、創造的に表現する
法を工夫し、創造的に表現
的に表現すること
ことができる
することができる
ができる。
他の生徒の作品から発想や
他の生徒の作品の
他の生徒の作品のよさを
構想の独自性、表現の工夫
発想や構想、表現の
感じ鑑賞することができ
などについて、多様な視点
工夫などを感じ鑑
る。
から鑑賞することができ
賞することができ
る。
る。