各教科等とのつながりを意識した道徳の時間の工夫を通して

平成24 年度 教育論文
心豊かに生命かがやく砂取っ子の育成
-各教科等とのつながりを意識した道徳の時間の工夫を通して-
熊本市立砂取小学校
1
は じ め に
朝、学校に着くと、まず出会うのが子どもたちの元気のよい笑顔。「おはようございます。」と立ち止まって
挨拶する子どもの姿に感心する。さわやかな一日の始まりである。休み時間は運動場から楽しそうな歓声が聞こ
えてくる。授業開始の予鈴がなると、授業に遅れないようにと一斉に昇降口に向かって走りだす。担任の先生の
日ごろの生徒指導のお陰と感謝する。
子ども同士も仲がよい。いい争いなどをしている様子はほとんど見られない。いくらかは人間関係に揉まれる
ことも必要ではないかと思いながらも、その理由の一つに思い当たる。それは本校の研究である。
本校は、これまで積み重ねてきた健康教育を基盤にしながら、道徳教育を中心に取り組んできた。心豊かに生
命(いのち)を輝かせ、前向きに生きる子どもたちを育むためにどうすればよいか、道徳の時間と各教科・領域
とどう関連させるか、授業の進め方はどうあるべきか、保護者や地域社会とどう連携するかなど、検討と実践を
繰り返してきた。これまでを振り返ってみると、道徳の授業中、感極まって涙ぐみながら、自分が努力したこと
を述べている子どもの姿があった。また、言葉が詰まって次の言葉が出てこなかった友達に代わって、こんな気
持ちではないかと他の子どもたちに伝える姿もあった。自らの心を見つめ、他の人の心を慮る姿にふれ、私たち
は喜びを感じたところである。
教育の営みを支えるのは、子どもたちの成長の姿である。その姿と実践を私たちの心にとどめ、これからのさ
らなる実践につなげるために、それらを本稿にまとめた。
是非、多くの皆様方の御意見を賜りたい。
平成25年1月
熊本市立砂取小学校長 永谷 清一
目 次
はじめに・目次
Ⅰ 研究主題
……………………………………………………………………………………
1
……………………………………………………………………………………………
2
Ⅱ 研究主題について
…………………………………………………………………………………
2
…………………………………………………………………………………………
3
Ⅳ 研究の実際
…………………………………………………………………………………………
1 子どもたちの実態把握と道徳的価値の明確化(つかむ)研究視点1 ………………………
2 各教科等とのつながりを意識した道徳の時間(つなげる) 研究視点2 …………………
3 学び合いを通した道徳的価値の自覚化(学び合う)研究視点3 ……………………………
5
5
9
19
Ⅴ 研究の成果と課題
…………………………………………………………………………………
26
……………………………………………………………………………………………
28
Ⅲ 研究の構想
おわりに
主な参考文献・教育同人
…………………………………………………………………………
28
2
Ⅰ 研究主題
心豊かに生命かがやく砂取っ子の育成
-各教科等とのつながりを意識した道徳の時間の工夫を通して-
Ⅱ 研究主題について
1 研究主題設定の理由
(1) 今日的課題から
現代の日本社会は、物質的には豊かになったものの、人間関係が希薄化する傾向にあるという問題や家庭や地
域社会における教育力が低下しているという問題、学校が子どもたちの多様な実態に十分対応できていないとい
う問題など、様々な問題を抱えている。そうした中で、子どもたちについては、生活体験・社会体験・自然体験、
異年齢の者との交流、社会性が不足しているのではないか、また、他人への思いやり、生命や人権の尊重、正義
感や遵法精神等の基本的な倫理観が十分養われていないのではないか、さらに、自己抑制力、自立心等の生活態
度にかかわるしつけが十分なされていないのではないかなど、様々な問題が懸念されている。
このような状況において、中央教育審議会(1998)では「『新しい時代を拓く心を育てるために』-次世代を
育てる心を失う危機-」の中で道徳教育の重要性・必要性を報告している。また、「市区町村教育動向調査-全
国市区町村教育長に対するアンケート調査-(チャイルド・リサーチ・ネット)
」
(2004)が行った調査によると
全国の市区町村教育長が「これから学校教育において力を入れるべき分野」という質問に対して「道徳意識や社
会性を身につける。」という意見が圧倒的であった。その他、児童・生徒の問題がマスコミ等で取り上げられる
度に子どもたちが心豊かに生き生きと生活していくための道徳教育の必要性および見直しが叫ばれている。
(2) これまでの研究から
本校は、これまでに健康教育の研究推進校として全国最優秀校の表彰(平成 20 年度)をはじめ、様々な研究成
果をあげてきた。一方、「健康教育の取り組む意味や意義の受け止め方」「日常的な生活の中で善悪の判断はで
きるが、その判断がそのまま行為にあらわれない。」などが課題としてあげられてきた。そこで、さらなる充実
を求めていくために、この2年間は、研究主題を「心豊かに生命かがやく砂取っ子の育成」と設定し、これまで
の取り組みや研究成果を再度見直す中で、子どもたち自身が日頃取り組んでいる活動や行為にどのような意味や
道徳的価値があるのかを見つめるなど、「心と体の調和のとれた豊かな人間性をはぐくんだ砂取っ子の育成」を
めざした研究に取り組んできた。
(3) 本校が求める子ども像から
では、本校がめざす子ども像である「心豊かに生命かがやく砂取っ子」とはいったいどのような子どもの姿を
イメージしているのか。簡潔に述べると、
「豊かな心を持ち、自ら考え、友達と学び合いをしながら、よりよく生
きていこう(前向きに精一杯生きる)とする子ども」と言える。
本校がめざす子ども像 「心豊かに生命かがやく砂取っ子」とは
豊かな心を持ち、自ら考え、友達と学び合いをしながら、
よりよく生きていこう(前向きに精一杯生きる)とする子ども
2 研究主題に迫るため
(1) なぜ、道徳の時間を中心に据えたのか
道徳教育は、全ての教育活動を通じて適切に行われなければならない。その中で、道徳の時間は各教科等にお
ける道徳教育の「要」として補充・深化・統合する役割を果たす。子どもたちが主題のような生き方に迫るため
には、道徳の時間の工夫を行うことがより効果的であると考えたからである。
3
(2) 道徳の時間をどのように工夫するのか
各教科等における道徳教育を意図的・計画的に関わらせた道徳の時間の計画を作成、実践する。その
中で、ねらいを持った体験活動を行うことで実感をともなった価値の自覚化につなげていき、「道徳的
実践力の育成」をねらう。「各教科等とのつながりを意識した道徳の時間」とは道徳の時間においては、
体験活動を含めた各教科等における道徳的な学びを意図的・計画的に関わらせ、道徳的価値を補充・深
化・統合させていくことで、より確かな「道徳的価値の自覚化」をねらう。
Ⅲ 研究の構想
1 研究の構想図
〈図 1〉研究構想図
4
2 研究の仮説
学校教育活動における道徳的価値を意識し、その価値を有機的に関連させた道徳の時間の授業を意図的・
計画的に行えば、体験活動や経験に基づいた実感的な道徳的価値の自覚化が行われ、心豊かで生命かがやく
砂取っ子が育成されるであろう。
3 研究内容
(1) 研究の視点
研究主題に迫り、研究仮説を検証するために、次のような3つの研究視点を設定した。研究視点1は、「子ど
もの実態の把握と道徳的価値の明確化」である。研究視点2は、「各教科等とのつながりを意識した道徳の時間」
である。研究視点3は、「学び合いを通した道徳的価値の自覚化」である。
それぞれの研究視点を「つかむ」「つなげる」「学び合う」と称し、実践的研究を行うことで、「今までの自
分よりもよりよく(前向きに)生きることができるようになった。」といった新しい自分との出会いを自覚化さ
せることをねらう。
つかむ
つなげる
〈視点 1〉 子どもたちの実態の
把握と道徳的価値の明確化
〈視点 2〉 各教科等とのつながり
を意識した道徳の時間の計画作成
学び合う
〈視点3〉 学び合いを通した道
徳的価値の自覚化
【新しい自分との出会い】
(2) 研究視点に基づいた研究内容
次に、研究視点に基づいて〈表1〉のような研究内容を設定した。研究内容の詳細については、「Ⅳ 研究の
実際」の中で具体的に紹介をしていく。
〈表1〉研究視点に基づいた研究内容表
研究視点
研究内容
〈研究視点1〉つかむ
子どもたちの実態把握と道徳的価値の明確化
・子どもたちの実態把握
・道徳的価値の明確化
〈研究視点2〉つなげる
各教科等とのつながりを意識した道徳の時間
・各教科等とのつながりを意識した道徳の時間の計画
・体験活動の充実
・道徳の時間に関する環境整備と活用
・砂取っ子100点満点
5
〈研究視点3〉学び合う
学び合いを通した道徳的価値の自覚化
・道徳的価値の自覚化を充実させるための学び合いのポイント
・「すなとりノート」の活用
・家庭、地域との連携
Ⅳ 研究の実際
1 子どもたちの実態把握と道徳的価値の明確化(つかむ)
視点1
道徳の時間に取り組むにあたって、子どもたちの実態を把握することは大変重要であると考える。それは、子
どもたちが道徳的価値に関してどのような価値観をもっているのかがわからなければ、ねらいや資料の選択をし
たり、発問・指示を設定したりすることができないからである。
(1) 子どもたちの実態把握
実態把握の方法として、授業で取り扱う道徳的価値が内在した具体的な「問題事例」に対して、どのような行
為をとるか、また、その時はどのような気持ちなのかといった2つの観点から実態を把握し、
〈表2〉のような2
次元表を作成する。なお、2次元表の気持ちは、
〈表3〉の子どもの発達性をもとに発達段階に応じて作成してい
く。最後に〈表4〉のような手順にしたがって資料を選択したり、発問・指示を考えたり、多様な価値観に触れ
させるためにどのような意見交流させるとよいかといった計画を立てたりすることに活用していく。
(
「問題事例:生命尊重」
)
「危険だから、登山しないように。
」と看板が出ていましたが、友達が「せっかく来たから登ろう。
」と言いま
した。あなたなら、どうしますか。それはどんな気持ちからですか。
〈表2〉実態把握のための2次元表
何とかして登
るのをやめさ
① ⑥ ⑧ ⑯
③
⑩ ⑭ ⑮ ⑲
⑨ ⑫
④ ⑳
② ⑦ ⑬
高
せる。
登らないよう
に言う。
気をつけなが
⑪ ⑰
⑤ ⑱
ら一緒に登る。
一緒に登る
19
行為
楽しそうだ。
低
低
気持ち
高
たぶん大丈夫だと 後で、誰かに怒ら 看板を見て危険だ
生命は、大切にし
思う。
たい。
れると嫌だ。
と思う。
(※番号は、出席番号である。)
〈表3〉子どもの発達性
道徳以前
他律前期
社会律前期・他律後期
社会律後期
自律前期・後期
苦・楽という、本能
大人の賞罰を基準
周り(仲間)から与え
相手の立場を自分
より客観的に物事をと
的な感情が考え方・
にする。
られた苦・楽の感情が
なりに判断する。
らえる。
行動を左右する。
左右する。
自分の損になるから
先生(親)に誉めら
仲間外れにされるかも
あの子は、○○なの
自分は…して欲しいか
…したい。
れたい。
…
で…
ら、他の人も…
出典:森岡卓也『子どもの発達性と資料研究』明治図書(1988)
6
〈表4〉2次元表による子どもの実態把握の方法
どのようなことをするか
1
2
3
活用ポイント
取り上げる道徳的価値に関連している具体的な事例を問題とし
事例については、生田茂『若い「道
て設定する。
徳」の先生に』黎明書房(1983)を参照
その事例について2つの観点「行為」(自分だったらどうする
か。)、「気持ち」(その時、どんな気持ちなのか。)から自分
選択肢の中から今の自分に最も近い
1つを選ばせる。その他、書きたいこ
の考えを選択させる。
とは自由欄を設けて自由記述させる。
アンケート結果をもとに2次元表を作成する。
表に一人一人を位置づけることによ
り、児童理解に生かすことができる。
4
2次元表をもとに、取り上げる道徳的価値に関する子どもの実
態を分析する。
誰に意図的指名をするかなど、授業
展開を構想するための資料とする。ま
たは、表をもとにして資料を分析する
ことで、資料の選定に生かす。
5
子どもたちの道徳的価値がどのように変容したか、なぜ変容し
たのか等を考察する。
全体だけではなく、ある特定の子ど
もの変容に着目することもできる。
(2) 道徳的価値の明確化
道徳的価値は、「生命尊重」や「思いやり・親切」などのような抽象的な言葉で表現されている。だから、そ
のままで授業を行うと、子どもたちの実際の生活とのつながりが希薄になってしまい、道徳的価値の自覚化が不
十分となる場合が尐なくない。また、道徳的価値には、〈図2〉のように多様なとらえ方があることがわかる。
したがって、子どもたちの実態や具体的な生活とつなげ、ねらいをしぼったり、子どもたちにとって理解しやす
い言葉としてとらえ直したりするなど道徳的価値の明確化を行う必要があると考える。
輝かせる命
つながる命
限りある命
支え合う命
共存する命
生命尊重
生まれ育つ命
〈図2〉生命尊重についての多様なとらえ方
(3) 実践例
研究視点1「子どもたちの実態把握と道徳的価値の明確化」から実践例を示し、その成果を考察していく。
実践例1
共存する命=人間も自然の中で生きているので助け合う
本校の4年生は、総合的な学習の時間の中で江津湖の生き物とふれ合ったり、水やゴミの環境問題を考えたり
することを通して「人間と自然の生命のつながりや共存する生命」について学習を行っている。そこで、学年の
重点目標を「自然愛護・動植物愛護=人間も自然も互いに助け合いながら共に生きていく」と設定し、道徳的価
値の明確化を行っている。
(※ T:教師の発言、C:子どもの反応 )
7
第4学年 道徳の時間
○主題名:心に花を咲かせよう
(資料のあらすじ)
ある時、イギリスの放送局が富士山の取材をしに来たので、
-身近な自然と命を見つめて-(自然愛護・動 登山家の田部井淳子さんは案内をすることになった。久しぶり
植物愛護)
に登った夏の富士山は、ゴミで汚れていた。放送局のスタッフ
○資料名:
「富士山を救え」
(文溪堂)
にそのことを指摘され、田部井さんは恥ずかしい気持ちになっ
た。このことをきっかけに、田部井さんは清掃活動、講演活動
など富士山を守るために動き始めた。
授業の様子
授業のポイント
田部井さんの気持ちを考えることで、自然と人間が
共存している価値に迫っていた。
T1:田部井さんはどのような気持ちで活動をしている
のでしょうか。
C1:山も生きているから大切にしていきたい。
C2:人間だけでなく自然も生き物も生きているから大
切にしなくては。
〈図3〉田部井さんの気持ちを考える
これまでの体験活動をもとに「人間も自然の中で生き
ているので助け合いながら生きることが大切である。
」と
いう道徳的価値と結びつけて振り返っていた。
T2:これまでの活動を通して、自分が自然や生き物とどの
ように関わってきたか、またはこれからどう関わっ
ていけばよいかを考えてみましょう。
C3:江津湖の生き物を捕って帰ったけど、家の水だとすぐ
死んでしまいました。だから、今は捕まえたらすぐ元
の場所に返しています。
〈図4〉問い返しをして、確認する
〈図5〉道徳的価値の振り返りの様子
T3:今までとは何が違う?
C4:今までは、家にとって帰って死んでしまっても、なぜ
死んでしまったかなど考えなかったし、人間のわがま
まだなんて考えなかったけど、総合で勉強して、よく
ないなあと考えるようになりました。
C5:江津湖に行ってゴミを捨てたり、水を汚したりするこ
とで魚や鳥が苦しんでいます。水も減っているので大
切にしていきたいです。
T4:それは、総合的な学習の時間に学んだことですね。
あなたは、何かある?
C6:はい。教室のシクラメンを大切に育てています。毎日
水をあげていたらとても長生きしました。今、葉が
たくさん生えていて元気なのでうれしいです。
8
実践例2
輝かせる命 = 精一杯生きる命
5年部は、学年の重点目標の一つとして「生命尊重」を設定している。5年部の中では、「力をもっているに
も関わらず、何かに精一杯取り組もうとする姿勢が見えてこない。力を出し切っていない。」という子どもたち
の実態に対して、自分のもっている命を精一杯生かして、輝かせて欲しいという願いがあった。
第5学年 道徳の時間
○主題名:いのちのかがやき(生命尊重)
○資料名:
「電池が切れるまで」
(角川書房)
(資料のあらすじ)
5歳の時に神経芽細胞腫という病にかかり、11 歳で尊い命を
全うした宮越由貴奈さんの「命」という詩を教材化した学習で
ある。日々の生活の中で「生きることが楽しい」と実感するこ
とで、生命を大切にして生きることの尊さや大切さ、喜びを感
じ取り、
「生命を輝かせて今を精一杯生きていこうとする」態度
を育てたいと考え、本主題を設定した。
授業の様子
授業のポイント
人の命と乾電池の違いを考えることで、人の限られ
た命、大切さ、かけがえのなさをとらえていた。
T5:生命と乾電池と似ている点と違う点は?
C7:生命も乾電池もいつかは切れてしまうところ。電池
は取り替えられるけど、命は取り替えられない。
「命なんかいらない。
」と言う人に対して、由貴奈さん
の立場から考えることで、命の大切さをより実感的に
〈図6〉生命と乾電池について考える
とらえていた。
T6:「命なんかいらない」という人にどう言いたい?
C8:まだ生きている命なのに、
捨ててしまうぐらいなら、
わたしがたくさん使いたい。
なんで、
粗末にするの。
C9: 命を粗末にするなんて、悲しい。
C10: 生きたくても生きられない人がいるのに。
C11: 病気と一生懸命闘っている人もいるのに。
〈図7〉命について考えを述べている
〈図8〉友達の考えを聞く子どもたち
詩の中に「だから私は命が疲れたと言うまで精一杯生
きよう。
」と書いている由貴奈さんの思いをしっかり受
け止め、自分たちも「精一杯生きなければ…」という実
感がこもった発言が続いた。
C12:後悔のないように生きよう。一生懸命生きたい。
C13:命の火が消えるまで頑張って生きよう。
C14: 今習っているバレエを精一杯頑張りたい。
C15: 今、やりたいことをどんどんすること。悔いを残
さないこと。
C16: 自分の命を大切にすること感謝すること。
C17: 私は、大切な家族を亡くしたので、そのつらさが
わかる。だから、命を大事にして生きていくことが
必要だと思う。
9
(4) 考察
2つの実践例を通して、
子どもたちの実態を把握するための2次元表作成と道徳的価値の明確化を行った結果、
次のような成果がみられ、道徳的価値の自覚化が進んだ。
① 2次元表の活用とその効果
2次元表を用いた結果、子どもの発達性や実態への対応、道徳的価値を深めるための発問・指示、意図的指名
の計画が立てやすくなった。特に、T1、T5、T6 の発問は、授業前に調べた2次元表で価値観の高い子どもたち
から本時にねらった道徳的価値に迫るための発言を引き出すための発問であった。その結果、C1、C2「人間だ
けではなく、自然も生きているから大切しなければ。
」C8~C11「命を粗末にするなんて、悲しい。生きたくて
も生きられない人がいるのに。
」C12、C15「後悔のないように生きよう。一生懸命生きたい。
」などのようにね
らった道徳的価値を子どもの言葉で導き出すことができた。また、授業後に、再度「問題事例」で実態把握を行
い2次元表に表すことで、
子どもたちの変容もとらえやすくなり、
個に応じた指導が適切に行えるようになった。
② 道徳的価値の明確化とその効果
T3 の「今までとは何が違う?」は、C3 での発言を問い返すことによって、C4 のように「以前は人間のわが
まま、自己中心的な行為に気づかず、生き物の生命の大切さを深く考えていなかったことへの反省とこれからの
自己の生き方」が述べられている。つまり、問い返すことで、道徳的価値の変容を子ども自身に自覚させたり、
その子どもの価値観が変容したことを周りの子どもたちにも確認させたりするねらいがあった。また、T4 のよう
にある子どもに意図的にたずねているのは、その子どもが日常的に植物を大切にし、学習で学んだ道徳的価値を
実践化していたことを知っていたため、その子どもに発言させることで自己の行動と本時の道徳的価値をつなげ
ようとするねらいがあったことがわかる。つまり、T3、T4 のように子どもの発言を適切に拾い上げ、問い返す
などのやり取りができているのは、なぜか。それは、道徳的価値が明確になっているからであることがわかる。
以上のように2次元表を作成し子どもたちの実態を把握したり、道徳的価値を明確化したりしたことで、指示
や発問も的確になるだけではなく、子どもの発言やつぶやきを拾いながらねらいに迫ることができたと言える。
また、このような実態に応じたねらいを明確にすることで C14、C17 のように自己の経験を基に道徳的価値に迫
ろうとする姿が見られるなど、価値の自覚化が進んだと言える。
2
各教科等とのつながりを意識した道徳の時間の計画(つなげる)
視点2
学校教育において豊かな心を育成するためには、
各教科等での道徳教育がその特質に応じて効果的に推進され、
相互に関連が図られるとともに、道徳の時間の中で各教科等での道徳教育が調和的に生かされ、道徳の時間の特
質が押さえられた計画が必要となってくる。そこで、各教科等とのつながりを意識した意図的・計画的な道徳の
時間の計画を作成することにした。
〈表5〉本校道徳教育における重点目標
まず、本校では〈表5〉のような学校重点目標、学年重点目標を設定し、年間を通してそれぞれの重点目標を
達成していくため、各教科、道徳の時間、特別活動、行事、日常的活動における道徳教育を関連づけた指導計画
を学期ごとに作成した。その一例が〈表6〉の「各教科等とのつながりを意識した道徳の時間の計画(第6学年
1学期の計画)」である。
10
(1) 各教科等とのつながりを意識した道徳の時間の計画
〈表6〉第6学年(1学期)道徳の時間の計画(重点目標:役割・責任)
教 科
時期
4月
道徳の時間
総合的な学習の時間・特別活動等
け出すには」(自作)
平凡な生活(人生)を抜
け出すためには、
「失敗を
重ねることだ」という言
葉をもとに何事にも失敗
を恐れず挑戦していく勇
5月
気をもつ心情を育てる。
【学活】
「あこがれをもたれる6
年生」Ⅰ
あこがれをもたれる6
年生の理想像を考える。
・ボランティア、掃除、委
員会活動における姿勢
について話し合う。
4-(4)勤労・奉仕
資料名「ぼくの仕事は
【学活】
「あこがれをもた
便所掃除」(文溪堂)
れる6年生」Ⅱ
主人公の仕事に取り組
入学式、歓迎遠足、朝のお
む姿勢の変化を考えるこ
世話をどのようにするか。
とを通して、働くことの
意義を理解し、社会に奉
【社会】
「武士の世の中」
武士の世界でも与えら
れた仕事を精一杯果たす
ことや信頼関係がなけれ
ば、集団は動かないこと
を認識する。
仕しようとする。
【行事+学活:運動会】
実践意欲を養う。
【総学:すこやか会】
4-(3)役割・責任
・健康目標、運動会目標の
資料名「幸せを送るリー
ダーに」
(東京書籍)
身近な集団に進んで参
加し、自分の役割を自覚
7月
子どもの意識の流れ
・
命
を
大
切
に
す
る
読
み
聞
か
せ
(
月
1
回
)
・積極的に頑張るの
1-(2)希望・勇気・不撓不
屈 資料名「平凡から抜
6月
日常
【社会】
して主体的に責任を果た
「全国統一を進めた 3 人
そうとする態度を養う。
設定
・応援団や各係で「あこが
れをもたれる 6 年生」の
働きぶりを披露する。
・リーダーとして取り組ん
できたことを振り返る。
の武将」
全国統一を成し遂げら
れた要因を明らかにする
ことによって、高い目標
と戦略に基づいた的確な
指示を出すリーダーの条
件を認識する。
2-(3)信頼・友情
求める子ども像
る6年生っていい
なあ。なれたらい
いなあ。
・
学
級
園
の
お
世
話
・
帰
り
の
会
・
朝
ボ
ラ
ン
テ
ィ
ア
・最上級生として、
自分の気持ちを
切りかえたり集
団をよりよくし
ていこうとした
りすることを考
みたくなってき
・学校をよくするためには
た。
え、行動する。
心情を育てる。
・あこがれをもたれ
れる6年生」Ⅲ
(文溪堂)
良く協力し合おうとする
でやめておこう。
えながら取り組
どうすればよいかを考
って友情を深め、男女仲
し、恥ずかしいの
【学活】
「あこがれをもた
資料名「絵地図の思い出」
互いに協力し、学び合
はめんどくさい
・5 年生にも伝えて、協力
を求める。
◎委員会活動、ボランティ
アなど。
・リーダーとして、
頑張るためには、
目標を定めたり、
考え方や見方を
変えたりしなが
ら取り組んでい
かなければなら
ないことがわか
った。
学校のリーダーとして責任を持って頑張ろうとする子ども
11
(2) 意図的・計画的な体験活動
日常生活の中には、様々な道徳的価値が内在しているため、子どもたちは様々な価値について考える機会をも
っている。しかし、実際には、そのような道徳的価値を意識しないまま過ごしていることが多い。そこで、各教
科等とのつながりを意識した道徳の時間の計画を基に、道徳的価値が内在している体験活動を意図的・計画的に
仕組むことで道徳的価値について考え、自覚化する機会を設定する。
① 実践事例1(第2学年 道徳の時間)
第2学年 道徳の時間
資料のあらすじ
主題名:いきものにやさしく(自然愛・動植物愛
主人公は、
母の励ましを受けながらミニトマトを一生懸命
護)
資料名:「げんきにそだて、ミニトマト」
授業の様子
お世話した結果、見事な赤い実をつけた。そこで、「心を込
めてお世話をすると植物は育つ。」ということを実感する。
授業のポイント
導入で、生活科で取り組んだ栽培活動の体験を想
起させるために活動時の写真を提示した。
T7:この写真、何の写真ですか?
C18:ミニトマトのお世話をしている写真です。
C19:水をいっぱいあげました。
いる。
生活科で学習したことと重ね合わせて考えていた。
C20:ミニトマトは「水と肥料と光と土」で大きくな
〈図9〉写真で体験したことを想起させる
ります。
C21:あいちゃんは、お母さんにご飯をもらって、ミ
ニトマトは、あいちゃんに水をもらっているとこ
ろが似ています。
生活科の栽培活動の学習では、知識の習得とともに
情意的な側面も大切に取り上げた。子どもたちの発言
から、その学習の成果が出ていることがわかった。
T8:真っ赤になったミニトマトを育てたときの気持ち
〈図10〉ミニトマトの世話をする子ども
〈図11〉体験に基づいた振り返り
は、どんな気持ちだったのかな?
C22:心を込めて育ててよかった。
C23:お世話をがんばってよかった。ミニトマトさん、
育ってくれてありがとう。
C24:たくさん実をつけてね。ぼくは、毎日楽しみに待
っているよ。
体験活動が充実すると子どもの言葉から、次の活動
への意欲が生まれてくることがわかった。
C25:一生懸命、お世話をしてよかった。この種でまた
植えたいな。
C26:次もお世話をがんばりたい。
C27:わたしは、今育てているミニトマトに忘れずに水
をあげてよろこんでもらいたいなあと思いました。
12
② 実践事例2(第6学年 総合的な学習の時間と道徳の時間との関連)
本校では、健康教育の一環として保護者、地域、学校三師会の方々と健康に関する意見交流を行う学校保健委
員会(
「すこやか会」
)を毎年実施している。本年度は、
「すこやか会」のテーマを「生命」として、4年生は江津
湖の生き物、5年生は水俣の公害・人権の問題、6年生は長崎に落とされた原子爆弾・東日本で起こった大震災
を取り上げることで生命の大切さを学んでいる。
6年生は、単元のねらいを「人とのつながりを大切にし、精一杯生きる大切さを学ぶことを通して生命を輝か
せる。
」と設定した。そして、そのねらいに迫るために〈図 12〉のような各教科等とのつながりを意識した計画
を立て、様々な体験活動を取り入れたり、道徳の時間に「生命尊重」に関する価値の自覚化を行ったりしている。
また、生命について探究した内容を「すこやか会」で発表し、様々な人との意見交流を行うことで、より実感的
に道徳的な価値がとらえられ、ねらいに迫ることができると考えた。
〈図12〉第6学年総合的な学習の時間(「平和と生命」~輝かせる生命~)の単元構想図
13
○実践事例2-(1)(総合的な学習の時間)
授業の様子
1 オープニング
授業のポイント
《すこやか会のめあて》
『各学年の中間発表を聞いたり意見交流をしたりして、生命を
大切にして生きるためにできることについて考えを広げたり深
めたりしよう。
』
※すこやか会が始まる前にめあてを確認する。
★4年生の発表(江津湖を守り隊)に対して
C28:今の発表で、水の量が減ったり、ゴミが落ちていたりすれ
〈図 12〉オープニングと本時のめあて発表
2 4・5年生の発表を聞き、意見交流を
する。
ば、生きものたちにとっては大変迷惑なことがわかりまし
た。私も、江津湖が近くにありながら関心もあまりなく、
このままでは、江津湖の環境が壊されてしまう気がして、
心配になりました。
C29:なぜ、水量が減ったり、ゴミが落ちたりしているのかを
じっくりと調べてみるといいかもしれません。
★5年生の発表(青く豊かな海、水俣)に対して
C30:発表を聞いていて、ぼくは、ある出来事のことを思い出
しました。それは、以前、水俣の中学生が部活動の試合中
〈図 13〉真剣な表情で発表を聞く
に水俣病のことで差別を受けたということです。現在もそ
のような差別があることに悲しい思いをしました。そこ
で、まず自分ができること、身近な生活の中でいじめや差
別問題にずっと関心を持ち、解決のために取り組んでいき
たいと思いました。
3 「平和と生命」について発表し、意見
交流をする。
6学年テーマ
「平和と生命」~輝かせる生命~
C31:私たちが総合的な学習で学んだことは次の 3 つです。
① 人は支えられて生きている。
② これからも平和の大切さ、有り難さを伝えていく。
③ 自分に負けないで精一杯生きる。
〈図 14・図 15〉発表の様子
C32:私は、この学習に取り組むまでは、心のどこかで「日本
は平和だから…。大丈夫…。
」といった気持ちが正直ありまし
た。しかし、戦争や原子爆弾の恐ろしさを調べれば調べるほ
ど恐ろしさや悲惨さがわかってきて、
「二度と戦争や原子爆弾
が使われるような世の中にしてはいけないなあ。
」とあらため
て思いました。また、修学旅行に行き、語り部の奥村アヤ子
さんの話を聞いて、私たちの身近にあるいじめや偏見も中身
は、戦争と同じではないかと考えるようになりました。相手
を思いやる気持ちがないからいじめも起こるし、それがひど
くなって戦争が起こるのではないかと思いました。
(-意見文途中省略-)
14
C33:私が最も印象に残ったのは、
「人に支えられているので
精一杯生きなければ…」という言葉です。奥村さんは、最
初、戦争のことは思い出したくもないので人に話すことを
されていなかったと聞きました。ところが、周りの人々に
支えられ「戦争の恐ろしさ、悲惨さ、悲しみ」を伝えてい
かなければならないと思われたそうです。人の支えがどれ
だけ勇気を与えるかがわかりました。
〈図16〉自分の考えを発表する様子
C34:私も友達に何度も助けてもらいました。それがどれだけ
心強かったことか。次は、私が人を助ける番だと思ってい
ます。このような小さな事を繰り返していくことが平和に
つながるのではないかと思います。
○実践事例2-(2)(道徳の時間:生命尊重=輝かせる生命)
主題名:一生けん命生きる《3-(1)生 資料のあらすじ
命尊重》
本資料「妹への手紙」は、ぜんそくの妹が発作で苦しむ中で「生
主題:輝かせる生命
まれてこなければよかった。
」
「なぜ私だけが苦しい思いをしなけ
資料名:妹の手紙(ゆたかな心 光文書院 ればならないの。
」と自分の命に対して希望を見いだせないでい
)
る。しかし、星野富弘さんの作品を通してその生き方に触れ、自
分も生まれたことに感謝し、命のある限り精一杯生きようと前向
きに生きる気持ちをもつようになっていく。
授業の様子
1 本時の学習の方向性を知る。
授業のポイント
T 9:この詩の題名を知っていますか?
C35:
「命」だった…かな。由貴奈さんの詩だ…
C36:
「電池が切れるまで」
「命がある限り精一杯生きた。
」
C37:5年生の時に習ったことがある。
T 10:今日の見つめる心は「輝かせる生命」です。
〈図 17〉本時の見つめる心を提示する
(1) 明るく前向きに変わっていった妹について話し合う。
T 11:妹は、なぜ明るく生き生きとしてきたのでしょう。
C38:星野さんの作品を見たから。
C39:いつもお母さんがお世話してくれているから。
2 「妹の手紙」を読んで話し合う。
〈図 18〉自分の考えを述べる様子
(2) 手紙を書いたときの妹の気持ちを考える。
T12:妹は、どんな気持ちで兄に手紙を書いたのでしょう。
C40:自分も一所懸命生きよう。
C41:自分の命を大切に生きよう。
C42:いつも支えてくれる家族のためにも、私もしっかり生き
よう。
T13:どんなところで支えてもらっているの。
C43:私が、応援団で悩んでいる時、
「最後の小学校運動会な
ので精一杯、悔いがないように…」と言ってはげましてく
れました。
15
(3)妹の変化から、兄が何を学んだか考える。
T14:妹の手紙を読んで、兄はどんなことを考えたのでしょう。
C44:僕は命をどのように考えていたかな。
T15:と言うことは…どういう意味なの。
C45:あまり命についても考えていなかったし、その有り難さ
〈図 19〉兄の気持ちを考えている様子
3 これまでの自分を振り返り、話し合う。
も分かっていなかった。
C46:妹に負けないようしっかり生きようと思った。
T 16:妹から学んだと言うこと?
C47:そうです。
T17:妹のように誰かがいてくれたから頑張れた、明るく生き
生きとした自分で入れたということはありますか。その時
のことを振り返ってみましょう。
C48:他に誰も手を挙げてなくても、発表をがんばる友達の姿
を見て、私も勇気を出して発表しようと思いました。
C49:5 年生の時に宮越由貴奈さんの勉強をしました。由貴奈
さんは、
「命がある限り、精一杯生きよう。
」と言っていま
〈図 20〉自分の振り返りを学び合う様子
〈図 21〉自分の振り返りを発表する様子
4 プレゼンテーションを見る。
様々な活動で自分たちが輝いている姿を
動画で見る。
した。それを思い出すと、まだ自分は、精一杯生きていな
いような気がしました。これから精一杯生きて、輝かせた
いと思います。
C50:支え合って生きている東北の人たちのことを思い出しま
した。
C51:修学旅行で奥村アヤ子さん(語り部)の話を聞いた時、
生きたくても戦争で生命をなくされた方がたくさんいたと
いう話を聞きました。その中で、
「あなたたちは精一杯、生
きて。
」と言われました。その話を聞いて、私たちは、生命
をなくされた方の分まで精一杯生きなければ…と思いまし
た。
C52:運動会の時に男子がなかなか応援団に立候補しなかった
時、
「これではいけないなあ。
」と○○くんと話し合って、
精一杯頑張らないといけないなあとなりました。そして、
ぼくが応援団長になりました。運動会では、○○くんの分
までがんばらないといけないなあと思って精一杯努力しま
した。運動会が終わって、あの時に挑戦して良かったと思
っています。
T18:では、あなたたちが、これまでに輝き精一杯生きてきた
姿を映像で見てみましょう。
○映像
・1 年生の手を引いて出かけた歓迎遠足
・学校の中心として働き、演技もがんばった運動会
・主体的に動いた委員会やクラブ活動
他
〈図 22〉プレゼンを見る子どもたち
16
(3) 学習環境の整備とその活用
① 道徳コーナー
〈図23〉
〈図24〉の写真のように「道徳コーナー」には、年間を通して実践する35時間分の資料名とその内容
項目(低学年16項目、中学年18項目、高学年22項目)
、子どもたちの学習の様子を掲示する。そして、日常生活
の中で道徳的価値と関連する出来事があった場合には道徳コーナーを振り返り、道徳的価値を再度確認するため
に使う。
〈図23〉高学年部の道徳コーナー
〈図24〉中学年部の道徳コーナー
② 学びのあしあと
〈図 25〉
〈図 26〉の「学びのあしあと」は、各教科等のまとめ、体験活動の様子を掲示したものであり、道徳
の時間における価値の振り返りの時、参考にできるように掲示したものである。例えば、
「生命尊重」を取り上げ
た道徳の時間(見つめる心:生命尊重)において価値の自覚化を行った時、水俣での見学旅行において語り部の
方から聞き取った〈図 25〉のまとめを参考にしながら、
「語り部の○○さんは、病気のつらさにも負けず精一杯
生きていたから、自分も精一杯生きなければと思いました。
」
「病気と戦いながら精一杯生きる姿を見て、自分は
まだまだ精一杯生きていないのでは…と思いました。
」といった振り返りを行うことができていた。
〈図 25〉総合的な学習の時間で調べた学習のまとめ
〈図 26〉学校保健委員会(すこやか会)のまとめ
(4) 砂取っ子100点満点
道徳教育の最終目標でもある「よりよい道徳的習慣」にまでつなげるためには、道徳の時間においてしっかり
と道徳的価値を見つめ、道徳的実践力の育成をめざしていく必要がある。そして、実生活の中では、より確かな
道徳的実践力を基盤とした道徳的実践を繰り返し、周りの人々との関係や自己の成長を実感的にとらえることが
必要となる。このような取り組みは、
「日常生活と道徳の時間をつなげる取り組み」と言える。
その「日常生活と道徳の時間をつなげる取り組み」の一つの手だてとして全校で取り組んでいることが「砂取
17
っ子 100 点満点」である。
① 砂取っ子 100 点満点とは
〈図 27〉が、昨年の5月から実際に取り組んでいる「砂取っ子 100 点満点」である。砂取っ子 100 点満点【く
らし編】
【学び編】のそれぞれの観点について定期的に自己評価を行う。
【学び編】
○人にわかるように話す(声の大きさ、話す筋道、
要点と短さ、動作など)
○話す人の方を向いて聞く
【くらし編】
○挨拶:明るく、元気よく
○時間:時間を守る
○整理:下駄箱のくつならべ
○掃除:無言掃除
○反応する
○分かりやすく書く・たくさん書く
○笑顔:いつも笑顔を
【評価方法(4段階評価)
】
4:自信あり
3:まあまあ自信あり
2:あまり自信なし
1:自信なし
【取り組み方】
○全職員、全校児童共通理解を持って取り組む。
○個人内の到達目標として取り組む。
○学期に1,2回程度、各項目についての自己評価
をする。
評価結果に基づいて分析・検討を行い、改善
策を練る。
○調査結果は統計処理をした後、各学年部、推進委
員会等で分析をした後、対策(改善策)を立てる。
P→D→C→Aサイクル
○学校内の掲示や集会において子どもたちに知らせ
るとともに保護者への情報発信を行っている。
〈図 27〉砂取っ子 100 点満点
18
② 砂取っ子 100 点満点と道徳の時間のつながり
砂取っ子 100 点満点に取り組むことで、学級だけの活動ではなく、委員会なども砂取っ子 100 点満点に関連し
た活動に取り組んだ。そこで、実際に取り組んだ活動内容を道徳の時間とのつながりでとらえ直してみる。また、
その活動の成果を紹介する。
活動の様子
成果としてあらわれてきたこと
〈図 27〉あいさつ運動に取り組む子どもたち
道徳の時間における「礼儀・礼節」の学習の中で、自分
たちの生活を振り返った結果「もっと元気で明るいあいさ
つができるようになりたい。
」
「学校に来てよかったと思っ
てもらいたい。
」という思いに至った。
そこで、砂取っ子 100 点満点活動と関連させためあてを
各学級で立て、校内でのあいさつ運動に取り組んだ。
〈図 28〉あいさつ運動に取り組む企画・生活委員会
「あいさつがしっかりとできる学校にしたい…」との思
いから、委員会も動き出した。定期的に正門に立ち、あい
さつ運動に取り組んだ。
ユニークなのが衣装である。写真のような衣装を身につ
けあいさつ運動を行ったため子どもたちも意欲的に活動
することができた。また、明るいあいさつが増えただけで
はなく、立ち止まってあいさつをするなど礼儀正しさが増
した。
〈図 29〉きれいに並べられたくつ箱
道徳の時間に内容項目「整理整頓」について学習する中
で、
『整理された後の気持ちよさ』
『整理されているくつの
.............
美しさ』
『くつを入れる時、一度立ち止まって考えるよさ』
などを各学年の発達段階に応じて学び、100点満点の取
り組みとつなげた。
このような取り組みを行った結果、くつ箱だけではな
く、他の場所もきれいに整理する子どもたちが増えた。
〈図 30〉無言掃除
内容項目「勤労奉仕」
道徳の時間におしゃべりしながら掃除をする場合と無
言掃除をする場合と比較,・検討し、どちらがよりきれいに
なるか、また効率がよいかなどを考えることで無言掃除に
取り組んだ。その結果、無言掃除のよさを実感したり、掃
除の上手さをほめられたりすることを通して、子どもは、
静かに黙々と取り組むようになってきた。
19
(5) 考察
① 意図的・計画的な体験活動とその効果
はじめに、意図的・計画的な体験活動を取り入れたことでどのように道徳的価値の自覚化が深まったのかとい
う観点から分析をする。実践1の場合、生活科の中で科学的な知識だけではなく、日常的な世話を繰り返しミニ
トマトの生長をみんなで喜びあったり、ミニトマトに話しかけるようなまとめを行ったりするなど情意面にまで
考慮した体験活動を充実させることでC23、
C24のように振り返りの言葉に実感が込められていることがわかる。
実践2-(1)
、実践2-(2)では、C30、C32、C33、C34 のように、学習した内容から道徳的価値を導き出
し、身近な生活とつなげてよりよく生きていこうとしていることがわかる。また、実践2-(2)
(資料「妹の手
紙」
)において、C49、C51、C52 のように意図的・計画的な体験活動に基づいた言葉が出されるなど、道徳的価
値の自覚化が高まったと言える。これも、総合的な学習の時間において生命についての学びを深めてきた結果で
あると考えられる。
次に、活動への意欲という観点から分析をする。実践1の中で C25、C26、C27 のように次の栽培活動への意
欲が見られた。また、実践2-(2)でも C48、C49、C51、C52 のように、本時でねらった道徳的価値(輝いて
いる生命)に迫る発言が聞かれるなど活動への意欲の高さが見られた。
以上のことから、授業者が、ある道徳的価値を深めることをねらい意図的・計画的な体験活動を組織し、その
活動が充実していれば、道徳的価値の自覚化は高まり、道徳的実践力の高まりがはっきりとみられた。
② 学習環境の整備とその効果
道徳コーナーを設置した結果、
実施時数や取り上げる内容項目の偏りや漏れの確認をすることができた。
また、
家庭科の調理実習の後に、数名の子どもたちが、使っていなかった場所までも自主的に掃除をしていたので、な
ぜ掃除をしているのか聞いてみた。すると、
「たとえ使っていない場所であってもきれいにすると家庭科室の掃除
担当の人たちが喜ぶかもしれないし、わたしたちが掃除をしているところを誰かが見たら、
『次は、僕たちがやら
ないと…』と思ってくれるかもしれないので。
」という言葉が返ってきた。この出来事の前に、道徳の時間(内容
項目:思いやり・親切)を行っていた。その道徳的価値は「本当の思いやり・親切とは、誰かが見てくれなくて
も、認めてくれなくても相手の立場になって行動することであり、その思いや行動を続けていくことで、その思
いやり・親切の心は他の人に伝わり、広がっていく。
」という内容であった。その出来事については、その日のう
ちに道徳コーナーを使って学級全体に話をすることになった。このように、学習環境の整備を整えることで、日
常的に起こる出来事と道徳の時間において学んだ道徳的価値とを結びつけ、その事象の意味をあらためて問い直
す機会になった。
次に、意図的・計画的な内容(例えば、修学旅行での語り部の講話)を「学びのあしあと」として掲示するこ
とで、実践2-(1)
(資料「妹の手紙」
)における C51 のような発言がなされるなど、学習環境の整備の必要性
をあらためて感じた。
③ 日常生活と道徳の時間をつなげる取り組み(砂取っ子 100 点満点)の効果
学校の日常活動には、道徳的価値と密接につながる活動が多い。日常活動においても道徳的価値を意識し、道
徳の時間とつなげていった。その取り組みの一つが「砂取っ子 100 点満点」である。例えば、
「砂取っ子 100 点
満点」の取り組みの様子や自己評価データ結果を道徳の時間の導入や終末などに取り入れることで〈図 27〉
「礼
儀」
、
〈図 29〉
「整理整頓」
、
〈図 30〉
「勤労奉仕」などの道徳的価値をより高めたいという気持ちが生じるようにな
った。つまり、日常生活を道徳的価値との関わりで見つめ直すことによって、よりよい生き方ができるようにな
ってきたと言える。
3 学び合いを通した道徳的価値の自覚化(学び合う)
視点3
子どもたちの価値観は、個人でも形成される。しかし、
「学び」という観点から見直すと、学級集団の中で、様々
な価値観とふれ合うことによってさらに広がり、深まると言われている。したがって、道徳の時間において道徳
的価値の自覚化を深めていくためにも、
「学び合う」という視点を重視すべきと考えた。
20
(1) 学び合いとは
本校では、学び合いを次のようにとらえている。多様な価値観をもった子どもたちが関わり合うことによって
子どもたちが、よりよい価値観をつくり上げていく学習過程を「学び合い」ととらえる。
(2) 実践から見えてくる学び合い
○実践3-(1)(道徳の時間:真のリーダー=役割と責任の自覚)
第6学年
資料のあらすじ:今年の演劇クラブは人数が減り、6年生は、
主題名:真のリーダー(役割と責任の自覚)
「わたし」一人で責任が重すぎるのでやめたいと思う。しかし
資料名:「幸せをおくるリーダーに」(東京書 、先輩から託された信頼を裏切れないと悩む。不安な気持ちで
籍)
ぼんやりとしていると、
「幸せなポリアンナ」を読んだことをき
っかけに、
「幸せをおくるリーダー」になろうとする積極的な気
持ちに変わっていく。
授業の様子
授業のポイント
学び合いの視点「役割・責任」を再度確認した。
T19:これまでに「前向きに…」「みんなのために…」な
ど役割・責任を果たしたりしたことがあるか振り返っ
てみましょう。
振り返りを書いた後、小グループになり発表し合っ
た。一人一人が表現する機会を得るとともにコメント
をもらうことでお互いに学ぶ意欲が高まった。
〈図31〉学び合いの視点に基づいて小グループ
で学び合いを行う様子
役割・責任を「前向きに取り組む」
「集団をよりよくす
ること」
「下級生の手本となること」ととらえるなど、こ
れまでの体験活動をもとにした学び合いによって、多様
なとらえ方が示された。
C53:私は、砂取小学校6年生として最後の運動会に立派
な組体操を見せたいと思いました。だから、家族に手
伝ってもらいながら、家でも練習しました。
T20:へえ~、そんなとらえ方もあるんだね。面白い。
〈図32〉全体の場で道徳的価値の振り返りを行
う子どもたち
〈図33〉発表に関してコメントする様子
C54:運動会の練習の時、最初うるさかったので、勇気を
もって「静かにしようよ。」と声をかけました。する
と静かになり、次からは数人の友達が一緒に「静かに
しようよ」と声掛けをしてくれるようになりました。
C55:下級生からあこがれをもたれる6年生になりたかっ
たので委員会でも積極的に動いています。
コメントを述べる子どもたち。これによって、お互
いが学び合う機会をもつことができた。
C56::前向きに考えて責任を果たしているところがい
いなあと思いました。わたしも前向きにやってみ
ようと思いました。
21
○実践3-(2)(道徳の時間:ほんとうの友だち=信頼・友情)
第3学年
主題名:ほんとうの友だち(2―(3)信頼・
友情)
資料名:なかよしだから(東京書籍)
本資料のあらすじ:主人公と友達が、
「本当の友達」について考
える様子をえがいている。
「ぼく」は、うっかり忘れてしまった
算数の宿題を仲良しの実君に教えてもらおうと思いつく。とこ
ろが、実君に、
「仲良しだから、なお教えられないよ。
」と断ら
れ、
「本当の友達」について考えるという資料である。
授業の様子
授業のポイント
展開後段に入る前に振り返りの視点「
(信頼・友情)
」
を明確に示した。
ペアや班での話合いを工夫することで自分自身を
振り返り道徳的価値を見つめ直すことができた。
〈図34〉道徳的価値に関する振り返りを書く
C57:勉強がなかなか終わらなかった時、「がんばって
」とはげましてくれました。
C58:運動会の二人三脚の時、
声をかけあってうまくゴ
ールすることができました。
「友達だからこそ、話をしないで掃除をしようと注
意すると思う。
」という考えを持っている子どもが、
そのことを分かってもらえたうれしさを表現してい
〈図35〉ペア学習で振り返りを聞き合う
た。
C59:掃除時間に話をしていた友達に注意したらにっ
こりして掃除をはじめてくれた。とてもうれしか
った。
T21:なぜ、うれしかったの。
C59:友達が、嫌な気持ちになるかなあと思っていた
けど、(話さないで掃除をする方がよい…)分か
ってくれたので。
〈図36〉自分の振り返りを発表する
その発言を受けて、
「友達だから、ルール違反したこ
とを注意してくれたと思う。
」という見方、考え方を発
表した。学び合うことで、
「信頼・友情」に関する道徳
的価値に深まりがみられた。
C61:けいどろで遊んでいた時、タッチされたのに止ま
らなかったので、注意してくれた。ルール違反にな
らなくてよかった。
T22:注意されて嫌な気持ちにならなかったの。
C62:ちゃんと教えてくれたし、うれしかった。自分の
よくないところは直したいので。
〈図37〉友達から学んだことを発表する
22
(3) 「すなとりノート」の活用
本校の特色の1つとしてあげられるのが、
「すなとりノート」である。このノートには、毎日の生活・健康目標
の反省、週の計画などを書き込むことができるようになっているだけではなく、体育・食育に関する健康教育的
な内容から長期休業中のきまりに至る内容まで記載されており、幅広い活用ができるように作られている。さら
に、連絡帳も兼ねており、欠席や諸連絡にも活用している。
〈図38〉各学年のすなとりノート
〈図39〉すなとりノートに振り返りを書く様子
〈健康目標、生活目標の評価〉
すなとりノートに健康目標と生活
目標を書き、毎日、自分の過ごし方を
評価している。
〈メモ欄〉
この枞には、毎日の出来事や準備物
等をメモできるようになっている。子
どもたちの中には、明日の宿題を記録
していたり、簡単な日記を書いたりす
る子どももいる。
〈図40〉すなとりノート
〈道徳的価値に関する振り返り〉
道徳の時間の中で、すなとりノートのこの場所に、道徳的価値に関する振り返りを書く。
(4) 家庭、地域との連携
学び合いは、子どもたち同士だけなのであろうか。もちろん、教師と子どもの間においても、保護者と子ども、
教師という三者の関係においても成立すると考える。そこで、本研究においては、保護者と子どもと教師の間で
学び合いを成立させるために「すなとりノート」を活用した実践に取り組んでみた。それが、〈図 41〉の保護者
からのコメントである。このコメントは、子どもたちが道徳の授業で書いた振り返りを毎週、保護者に見てもら
って、その振り返りに対して一言コメントを書いてもらうといった取り組みである。
〈図41〉のように保護者から子どもへのメッセージを書いてもらうことで、それが家庭での話題になり、親子
のふれあいが生じた事例も尐なくなかった。また、本校の取り組みに対する理解を深める機会にもなった。さら
に、学級担任がそのメッセージを読んだり、返事を書いたりすることで家庭での様子を把握することができ、学
校と家庭との連携になるなど、学校と家庭間における学び合い(共通理解・相互連携)の一助となった。
23
☆保護者のコメント(
「すなとりノート」から)
【幸せをおくるリーダー(役割・責任)を学習し
て】
「何でも『前向き』に頑張る。
」
「周りのことも
考える。
」
「何に対しても優しさを忘れない。
」 そん
なリーダーになって下さいね。
これからの怜子に期
待します。
【げんきにそだてミニトマト(自然愛・動植物愛
護)を学習して】
陽子ちゃんは、家のベランダで育てているトマ
トや金魚をとてもかわいがっているね。
風が強いと
トマトを部屋に入れたり、話しかけたり…。愛情を
かけて育てている陽子ちゃんには、
感心しています
〈図 41〉保護者からの一言
(5)
よ。
(※子どもたちの名前はすべて仮名である。
)
考察 -実践事例から見えてくる学び合いの成立ポイント-
では、実践事例から見えてきた学び合いが成立するためのポイントとその成果を明らかにする。
① 道徳的価値の明確化
何について学んでいるのかが明確でないと学び合いは、深まらない。そこで、導入時に本時で取り上げる道徳
的価値を明確にする工夫が必要となる。また、展開前段では、資料について話し合う中でねらった道徳的価値を
T19 のように子どもたちから出された言葉でまとめ、明確化する。さらに、展開後段においては道徳的価値を自
分自身の中で振り返る場合、生活経験とつなげたりする工夫が効果的であった。
② 書く活動
学び合いを充実させるためには、話す活動ともに書く活動の充実が求め
られる。書く活動を通して、自ら考えを深めたり、整理したりするととも
に、子ども相互に多様な考えを学び合い、深め合うことが必要となる。
そこで、本校では、道徳の時間に「すなとりノート」を使って学び合い
につなげている。そのよさは、道徳的価値に関する振り返りをノートに書
くことで、一人一人が自分自身を見つめる時間となっていた点である。ま
た、このように振り返りを書くことで、価値についての考え方やその変
容を自分自身で確認することができることもよさの一つである。
〈図 42〉書く活動の様子
③ 道徳的価値の自覚化を行う時間の確保
どんなに道徳的価値を明確化したり、書く活動の習慣化に取り組んだりしても、学び合うために不可欠な道徳
的価値の自覚化(自己の振り返り)を行う時間がなければ、道徳の時間は十分とは言えない。そこで、価値の自
覚化を行う時間の確保をするためには、3つの工夫を取り入れた。
一つめは、
「学習過程の工夫」である。学習過程に展開後段という時間
を位置づけ、
価値の自覚化を行う時間とそれを周りに発表し、
深めたり、
広げたりする学び合いの時間を確保した。
二つめは、
「展開前段での発問の精選」である。展開後段の時間を十分
に確保するためには、展開前段に時間をかけすぎないことが必要となっ
てくる。しかし、展開前段で本時取り上げる道徳的価値が明確につかめ
なければ、本末転倒となる。したがって、前段で道徳的価値をしっかり
把握できるように前段での発問を精選する必要があった。
〈図 43〉精選した発問で焦点化する
24
三つめは、
「短時間での資料把握」である。道徳の時間に使う資料には、様々な道徳的価値が内在している。そ
の中から、本時に取り上げる道徳的価値を明らかにしなければならない。しかし、45 分という限られた時間の中
で資料内容の把握をし、道徳的価値を明らかにするだけでなく、価値の自覚化から学び合いまで行うことは至難
の業である。そう考えると、短時間での資料把握は、大変重要になってくる。そこで、本校においては、次のよ
うな工夫を行った。
〈図 44〉のように絵や写真などを用いることで、短時間に資料の世界へ入り込ませることが
できた。また、
〈図 45〉のように黒板を舞台のように構成することで、資料理解が進み、振り返りの時間確保に
つながった。特に低学年では有効であった。
〈図 44〉絵や写真などを用いて
〈図 45〉黒板に資料の流れを貼っていき
具体的な場面をイメージさせる
④
あらすじをつかみやすくする
コメントを通した学び合い
次は、
「コメントを通した学び合い」である。意見交流は、次の
ような手だてをとる。すなとりノートに道徳的価値の自覚化を行
った後、小グループや学級全体で意見交流を行う。その意見交流
の中で、道徳的価値についての振り返りに対してコメントを述べ
る。このような取り組みを「学び合い」という視点で分析を行う
と次のような成果がみられた。一つは、C55 のように他の子ども
たちの「役割・責任」に関する前向きな考えに勇気や意欲をもら
っていることがわかる。また、C60 の子どもは、C58、C59 の発
言の中に「友達・友情とは、やさしくするだけではなく、正しい
ことをしっかりと教えてくれる人」という道徳的価値を発見する
ことで、自分の価値観を再構成していることがわかる。つまり、
学び合いが成立していた例としてあげることができる。
〈図 46〉発表者にコメントする子ども
⑤ 話し合いの形態と環境づくり
次は、学習の形態である。話し合い、学び合うために机の形態
を「コの字型」にしている。そうすることで次のような成果がみ
られた。
・顔が見えるので、安心できる。
・発表の声が聞き取りやすい。
・黒板が見えやすい。
・周りの人と話しやすい。
〈図 47〉
「コの字型」で話し合いをしている様子
25
また、全体で話し合う前にペアや小グループになって、自分の考え
を伝えようとする活動を取り入れた。その結果、学び合いにとって
次のような成果があらわれた。
・ペア学習(2人組)や小グループ学習に取り組むことで自分
の考えを表現する機会となった。
・友達の多様な感じ方や考え方を聞くことで自分の感じ方や考え
方と違うことや同じことに気づくことができた。
・自分のペアやグループの友達からのコメントで、自分のよさが
わかった。
〈図 48〉小グループで自分の考えを真剣に
伝えようとしている様子
⑥ 学びを深める、広げる問い
学びが広がり、深まるためには、拡散したり、焦点化したりする
ための発問・指示が必要となる。例えば、6年生の実践3-(1)
「役割・責任」の授業においては、授業者がT20のように「へえ~
そんなとらえ方もあるんだね。面白い。」と認める発言をすること
で、C54、C55のように「つらいことがあっても、きびしい壁があ
っても、自分のできる範囲で精一杯役割・責任を果たしていく。
」と
いう本時のねらい(役割・責任)に迫る振り返りを行うことができ
たと考える。その意見以外にも、本質を外すことなく、様々な事例
についての振り返りを行うことができたことから、T20は、学びを
広げる問いになったと考えられる。また、3年生の実践3-(2)
「信頼・友情」の授業においては、T21、T22のように「なぜ、う 〈図49〉ねらいに迫る発言をする子ども
れしかったの?」
「注意されて、嫌な気持ちにならなかったの?」
と問うことで、本時のねらいである「友達に言いたいことが伝わってうれしかった。
」や「友達だからこそ、正し
いことを教えてくれたと思う。だから嫌じゃない。
」という考えを導き出し、学びが深まったことがわかった。
以上の考察から、学び合いを充実させるためには、6つのポイントを充実させることが不可欠であることが分
かった。どれかが欠けても学び合いは成立しにくくなると考える。今後、6つのポイントをさらに深めながら、
継続指導を行っていくことが大切であると考える。
26
Ⅴ 研究の成果と課題
1 研究の成果
(1) 子どもの意識調査から
① 心のアンケート
文科省「心の健康と生活習慣に関する指導」
(2003)を参考に心の健康に関するアンケートを行った。その
結果、
〈図 50〉~〈図 53〉のように、
「やればできると自分に対して自信がある。
」
、
「学校では新しい学びの発
見がある。
」
、
「夢や希望がある。
」と思っている子どもの数が、平成 23 年度と比較して増えていることがわか
った。しかも、その割合が全体の 70%~90%という高い値を示している。このような結果から見て「自己肯定
感」に関する成果があったことが認められた。
24年度
24年度
23年度
23年度
60
70
80
90
60
100
〈図 50〉やればできると思う
70
80
90
100
〈図 51〉人と仲良くするのが上手だ
24年度
24年度
23年度
23年度
60
70
80
90
100
60
〈図 52〉学校ではやりたいことができる
70
80
90
100
〈図 53〉夢や希望がある
② 砂取っ子 100 点満点
笑顔
掃除
100%
自信なし
80%
100%
自信なし
80%
60%
あまり
40%
まあまあ
20%
自信あり
0%
23年度
24 年度5月
5月
7月
7月
〈図 54〉笑顔に関する意識の変化
60%
あまり
40%
まあまあ
20%
自信あり
0%
年度5月 7月
7月
23年度 245月
〈図 55〉無言掃除に関する意識の変化
27
あいさつ
整理
100%
100%
自信なし
80%
自信なし
80%
60%
あまり
60%
あまり
40%
まあまあ
40%
まあまあ
20%
自信あり
0%
23年度
24 年度5月7月
7月
5月
〈図 56〉あいさつに関する意識の変化
20%
自信あり
0%
年度5月 7月
7月
23年度 245月
〈図 57〉整理(くつならべ)に関する意識の変化
〈図 54〉~〈図 57〉からもわかるように、平成 23 年度と 24 年度(5月、7月)の結果と比較すると、どの
項目においても伸びが見られた。特に、9割近くの子どもたちが「笑顔」に関して自信をもっていることがわか
り、自分自身の生活に関心・意欲をもち、生き生きと生活することができており、自己肯定感が高まっているこ
とがわかる。その結果を裏付けるデータとして、9割近くの子どもが「学校は楽しい。
」と答えている「心の健康
アンケート」をあげることができる。また、道徳の時間を要として、できるだけ道徳的価値を深く掘り下げる取
り組みを行ってきた成果が、掃除やあいさつ、整理整頓などの行為にも徐々にあらわれはじめていることが〈図
55〉
、
〈図 56〉
、
〈図 57〉の調査結果や子どもの姿からも明らかになってきている。
(2) 研究を通してみられた教師と子どもの変容 (※◆…教師の変容 ◇…子どもの変容 )
視点1:つかむ
◆子どもたちの実態をしっかりととらえ、道徳的価値を具体的な言葉でとらえ直す大切さを学んだ。その結果、
道徳の時間の授業における価値のぶれがなくなった。
◆道徳的価値について、今まで以上に深く分析・検討できるようになった。
視点2:つなげる
◆道徳の時間を要として、各教科等とのつながりを意識した道徳の時間に取り組んだ結果、子どもたちの変容や
道徳的価値の気づきを適切に取り上げることができるようになってきた。
◆各教科等とのつながりを意識した計画を作成したおかげで、各教科をはじめ様々な活動における道徳的価値を
意識するようになってきた。また、
「道徳の時間のこの道徳的価値とつながる。
」
「この体験活動を振り返りに活
かそう。
」
「この体験を授業の導入(または、終末)に使おう。
」などといった関連性が明らかになってきた。そ
の結果、深まった道徳の時間となってきた。
視点3:学び合う
◇道徳の時間における振り返りが抽象的で一般的な発言ではなく、具体的な体験活動に基づいた発言、実感がと
もなった発言が増えてきたため、子どもたち同士の学び合いがより活発になってきた。
◇学び合いを通して子どもたちの認め合いが高まるとともに、
自己肯定感の高まりが見られるようになってきた。
◇学び合いを通して道徳的価値を深めるなかで、自分自身の行動の意味や周りとの関わりのよさに気づくように
なってきた。
その他
◇以前よりもあいさつがしっかりとできるようになってきた。また、聞く態度がよくなっていくとともに内容を
しっかりと理解したコメントを言うことができるなど話す力の伸びが感じられた。
以上のことから、各教科等(各教科、総合的な学習の時間、特別活動、行事、日常的活動など)とのつながり
を意識した道徳の時間を意図的・計画的に行っていけば、体験活動などに基づいた実感的な道徳的価値の自覚化
が行われ、よりよく生きようとする姿勢がみられるようになってきたことがわかった。したがって、本研究が「心
28
豊かに生命かがやく砂取っ子の育成」に貢献したものと考えられる。
2 今後の課題
●実態調査を取るための方法(2次元表)を作成するのが難しい。また、その結果をどう分析するかもまだ十分
であるとは言えない。さらに、その実態を基に授業展開をどのように行うかは、実践を積み重ねる必要がある。
●やはり展開前段に時間がかかりすぎてしまい、価値の振り返りを行う展開後段に十分時間がかけられないこと
があった。取り上げる価値を明確にし、価値の本質につながるような適切な発問を設定する必要がある。
●日常的な生活の中から子どもたちのよさを発見し、道徳の時間を要とした道徳教育の実践に取り組んでく必要
がある。
●学び合いの場面で自分の考えをもっと堂々と言えるように、小グループでの発表会のあり方や見方・考え方に
違いがあらわれるような発問を精選するなどの具体的な手だてを今後も研究していきたい。
おわりに
平成 23・24 年度熊本市教育委員会の委嘱を受け、「心豊かに生命かがやく砂取っ子の育成」を
研究主題として研究をすすめてまいりました。今回の論文は、決して誇れるほどのものではないか
もしれませんが、その集大成とも言えます。
2年前より、「研究のための研究ではなく、子どもの変容を目指す」「児童だけではなく、保護
者、地域の方々にもなんらかのお役にたてるものにしたい」と微力ながら全職員一丸となって研究
を重ねてまいりました。
2年間の研究の歩みをまとめ、先生方の忌憚のないご意見を仰ぎ、今回をひとつの節目として、
これからの研究活動でさらに深めていきたいと考えております。
最後になりましたが、本校研究の推進にあたり、ご指導、ご助言をいただきました熊本市教育委
員会をはじめ関係各学校の先生方、役員としてご協力いただきました諸先生方に対しまして、職員
一同心から感謝申し上げます。
主な参考文献
〔1〕
〔2〕
〔3〕
〔4〕
〔5〕
森岡卓也『子どもの発達性と資料研究』明治図書(1988)
押谷由夫・福岡県春日市立春日野小学校『
「よさ」をはぐくむ道徳の時間』明治図書(1996)
押谷由夫監修・岡山県小学校道徳教育研究会『子どもとつくる総合単元的な道徳学習』東洋館出版社(1997)
文科省『小学校学習指導要領解説(道徳編)
』(2008)
赤堀博行『道徳教育で大切なこと』東洋館出版社(2010)
研究同人
〈平成24年度〉
永谷清一 舛本正文
藤野由美子
中元偉知子
松田史哉 永野 薫
後藤 真 万谷陽子
水城幸二 西 貴生
〈平成23年度〉
荒 尾 隆 明 齊藤美枝子
出田博美 髙村妙子
山本幸恵
子
工藤あけみ
藤﨑賢二
岩下栄子
橋本ゆかり
前田祐司
坂本幸恵
丸田眞由美
立元アサ実
米村美保
久木田静子
上田賢成
藤川英一
村上圭子
杉本弘美
栗田和幸
諏訪園泰子
長尾豊美
藤原誠子
反後志保子
柴田有理
哉
工藤栄喜
富永壽子
坂本 勇
岡
仲光裕子
本住保夫
山口真司
泰子
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