【研究者インタビュー No.008】 障がい者と学生がダンスを通じて互いに成長するプロセスに感動 大分大学教育福祉科学部 情報国際教育 教授 麻生 和江 (あそう・かずえ) 専門: 舞踊教育。 ▲桜が満開の大分大キャンパスにて。後ろの赤い屋根の建 物が体育館。月に 1 度,体育館に障がい者と学生が集まりダ ンスのコラボレーションを行っている。 ●ご専門のダンスについて教えてください 西洋で発達したバレーは上に伸びるイメージでト ウシューズを履きつま先立ちをして,コルセットを つけた衣装で踊ります。これに対してイサドラ・ダ ンカンという人は全く違ったコンセプトのダンスを 打ち出しました。シューズを脱ぎ,コルセットをは ずし,身体の自然なありかたを尊重して踊りました。 その姿からダンカンはダンス界の人から「重力を 見つけた人」と言われています。このダンカンに師 事したのがメリー・ヴィグマンです。ヴィグマンは今 のモダンダンスの基本を作った人のひとりであり, 見る者に踊り手の体の重さを感じさせる動きが特 徴です。そのヴィグマンに師事し日本のモダンダ ンス,舞踊教育の基礎を築いたひとりに邦正美(く に・まさみ)という舞踊家がおり,私は門下として学 びました。 師匠から学んだことは多いのですが,大分大へ の着任を契機に,自分のダンスをゼロから創るこ とにしました。自分の中にあるけれども,ふだんは 出てこないような部分は誰にもあると思います。そ れをダンスで表現するのです。すると独特の解放 感や新しい人とのつながりが得られます。そういう ものを大切にする身体表現に挑戦しています。 ●障がい者と学生が一緒に踊る活動の狙いは? 身近に知的障がい者(女性)がいるのですが,彼 女の生に対するいくつかの疑問と,彼女に対する 周囲の接し方になんともすっきりしない気持ちでお りました。特別扱いし過ぎることなく普通に接する ことはできないものかと思い,施設の職員である 地域連携研究コンソーシアム大分 知人に相談したところ,まずたくさんの障がい者と 接してみようということになりました。そこから始ま ったのが「障がい者と大分大学生のダンス交流 会」です。活動を観察していると,障がい者と接し たことがない学生がとても多いのですが,徐々に 障壁は消えていきます。この交流会は,障がい者 にとっては,ダンスができるのが楽しい・学生と触 れ合うことができるのが楽しい・大学のキャンパス に来て体育館でのびのびできることが楽しい,と いうモチベーションがあります。月に 1 度の練習日 には楽しみになっているようです。送迎するサポ ート役の方々には大変お世話になっており心から 感謝しております。学生は,最初はどう接して良い か分からないので戸惑います。はじめのうちは障 がい者と目を合わせようともしない学生もいます。 でも一緒に音楽に合わせて体を動かしているうち, 次第に馴染んできます。いつの間にか手をつなぎ, 生活介助や気持ちの理解などをしようとするよう になっています。月に 1 回 2 時間だけの「特別な時 間」を通して,障がい者と学生が仲良くなるプロセ スがよく分かりますし,学生の感性に感動します。 年に一度,ステージで障がい者と学生がコラボで ダンスの発表会をしています。できるだけ多くの人 に見てもらい,障がい者に対する理解の輪を広げ て行きたいです。(写真と文/安部博文) 【麻生和江(ASOU Kazuo) プロフィール】 ▼1955 年,大分県臼杵市生ま れ。父親いわく「放し飼い」の子 供時代を過ごす。中学時代は体 操部に所属。高校は新体操部と 陸上部。体操と 400m 走とでは使 う筋肉が全く違うことを体感した。 教師になることと,ダンスをする ことの 2 つの夢を実現するため, 陸上部顧問の教師に相談。教師 が挙げた候補の中から広島大学 を目標に決め,入試科目を猛勉 強。▼1974 年,広島大学教育学部高校教員養成課程保健体 育専攻に進学。学部時代から東京などへダンスのワークショ ップに参加。3 年の時,もっとダンスを追求したいという気持ち が強くなり大学院への進学を決意。▼1978 年,東京学芸大 学大学院教育学研究科に進む。練習による身体感覚の拡大 について研究した。1980 年 4 月,島根大学教育学部付属中 学に体育教師として赴任。1981 年から 2 年間,広島大学教育 学部の助手として勤務した後,1983 年 4 月,大分大学教育学 部に着任。▼大学での授業は,身体表現,ダンス,ダンス創 作実習などを担当。1998 年から県下の障がい者と教育福祉 科学部の学生がダンスを通じてコラボレーションする教育活 動を継続。練習成果は「レッツダンスでガッツ元気の会 主催 ダンス!ダンス!フェスティバル」として,2 月に大分市民会 館で公開発表している。
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