平成 17 年度第 2 回 VIRI 研究会 日時:平成 17 年 7 月 8 日(金) 16:30-18:30 HDTVのものを開発した.これらのシステムに 講演者:山口 雅浩 先生(東京工業大学 像 よりスペクトルベースのデータが得られ,忠実 情報工学研究施設) な色再現が可能になる.16バンドではCIELabで 講演題目:ナチュラルビジョンによる高色 の色推定精度が1以下であった. 再現映像ディスプレイ技術 出席者(敬称略):富永,河合秀,Hild, 3 6原色表示システム 土居,西,海老原,来海(以上教員),大 表示系の色域を拡大するため,6原色表示シス 槻,高部(以上土居研院生),中村,原口, テムを開発した.プロジェクタ2台のそれぞれに 中嶋,中川,林,辰巳,中島(以上富永研 色フィルタを挿入して6バンドを実現する.歪補 院生) 正も行っている.実現例の1つとして,SXGAの プロジェクタを8台用い,高さ2m,約2000x2000 1 ナチュラルビジョン・プロジェクト 映像通信システムの普及と発展に伴い,忠実 な色再現の必要性が増している.従来技術は3 画素のシステムを系を構築した.画面を4分割し て各2台ずつのプロジェクタに担当させ,さらに 境目が見えないようにする工夫を行っている. 原色に基づいており,色管理の限界,画像入力 また動画表示を目的として,ダイクロイック 機器と視覚系の分光特性の不一致,異なる照明 プリズムの異なるDLP(松下)を2台用いたシス への対応,色再現範囲の限界,個人差への対応 テムを構築した.色域はsRGBを完全に包含し, などの点で問題が生じている.これを解決する 色域体積は自然反射物体(PointerおよびSOCSデ 目的で,通信・放送機構(TAO)においてナチ ータベースによる)の99%に及ぶ.紫は暗い領 ュラルビジョン・プロジェクトが発足した.研 域で広いという特徴がある. 究期間は1999年10月∼2006年3月にわたり,現在 またリアプロジェクションのものや液晶ディ は情報通信研究機構(NICT)に移っている.研 スプレイでの実現も目指している.後者では 究拠点は赤坂ナチュラルビジョンリサーチセン LEDバックライトとして異なるスペクトルのも ターに設置されている. のを時分割で切り替える方法を考案し,4原色デ ナチュラルビジョンが目指すものは,「自分 がその場にいる」あるいは「実物が運ばれてき ィスプレイを試作した.また計算レベルで6原色 LEDの最適分光分布を導出している. た」かのような映像提示,鮮やかな色の実現, 色(物理量,スペクトル)の精密計測と保存, 4 多原色への分解 などであり,そのための入力系と表示系の開発 再現しようとする色を多原色から合成するた を行っている.入力系においては,特性補正, めに,多原色への分解の方法を考える必要があ 照明光スペクトル計測,人間の視覚と同等なカ る.これには測色値から多原色映像信号(3→M) メラ特性の実現,スペクトル画像入力など,ま への分解,およびマルチバンド画像入力系を想 た表示系においては,特性補正,照明光スペク 定した多原色入力信号値から多原色映像信号へ トルへの対応,3原色の設計,多原色による色域 の分解(N→M)の2通りが考えられる.前者で 拡大,等色関数の個人差への対応などを研究テ は行列切替法,メタメリックブラック法などが ーマとしてきた. 提案されており,これらが後者にも応用できる. このうちメタメリックブラック法は6D空間の 2 マルチバンド画像入力システム 入力系として,16バンド干渉フィルタホイー ルのもの,および動画用を目的とした6バンド うちの3D空間の最適決定法であり,6原色の変 化に対して再現色の変化が最小になるようにヌ ル成分を決める.しかし再現目標の色の変化が 連続的であっても実際には色の不連続(擬似境 表示,映像信号変換,コーデックなどデバイス 界)が現れる.例えばL,C一定で周回しても6 開発を進めなければならない. 原色信号値が不連続になる.これはディスプレ イのモデル化誤差,等色関数の誤差により,多 8 議論 原色信号値から求めたクロマは一定にならない 単色光(レーザ)による11原色を用いれば ためであると考えられる. 色度図のすべての領域をカバーできる. 6原色以上は色再現の効果は小さい. 5 高彩度3原色表示と多原色表示の比較 3原色であっても,狭帯域かつ高エネルギーの メタメリックブラック法は正則化法と似て いるか. 原色光を用いることにより高彩度の3原色が表 3原色に落として伝送しているのは,プロジ 示できる.一方,多原色表示の実現には複数枚 ェクタ側の3→6原色変換装置がネックとな パネル,時分割変調,画素配列色フィルタなど っているため. の方法があるが,3原色表示と比べてそれぞれ一 負値の色も扱える体系もあり,色域の拡大 長一短がある.しかし実際には等色関数には個 に使える. 人差があり,観察者によりメタメリズムの発生 伝送路は3次元情報で十分. の仕方が異なる.そこでは測色値を3原色のみで 等色関数に個人差を測定したところ, 合わせる方法より6原色の方が色差が少なくな CIELabで8ほども認められた. り,スペクトルをより忠実に再現可能な多原色 等色関数の個人差についてはJuddの補正方 表示の方が有利であることが確かめられた. 法が知られている. 等色関数の測定装置として,マクセル光学 6 スペクトルベース色再現システム 系に基づき,グレーティング反射光をDMD 多原色入力・表示システムをさらに展開する で変調し,別のグレーティングで再集光す には,スペクトルベース色再現システムの枠組 るシステムを開発した.スペクトル次元は みを構築する必要がある.現在は6バンドカメラ 32チャネル.問題は歯型が必要なこと. からの入力を6原色表示システムで動画として 多原色表示システムのうち,実現が最も容 表示するシステムを構築している.間のデータ 易なのはフィルタホイール時分割方式と思 転送は3原色に落としている. われる. このようなシステムは,皮膚病変など病理の 多原色表示に力を入れているのはサムスン, 診断,顕微鏡による観察,電子カタログなどへ LG,フィリップス.サムスンやフィリップ の応用が考えられる.これまでアステカ文明(メ スの多原色表示システムでは,ガマット拡 キシコ)のCodiceやオーロラの色再現を試み, 張に重点を置いている. またワイドガマットCGシステム(IRODORI)や カメラのガマットも設計の余地があるだろ マルチスペクトルBRDF/BTF計測システムの開 う.人間の視覚特性に近づけるとバンド間 発も行った.現在は国際標準化について話し合 の重なりが増えるが,重なりを持たせると う機関(CIE TC8-07)が発足している.また多 耐雑音性が低下する.この解決にはチャネ 原色表示システムの開発に乗り出している企業 ル数を増やす必要がある. も出てきている. なぜ「ナチュラルビジョン」なのか.人間 の視覚そのものを模倣してはいないので 7 今後の展開 今後は高色再現映像の有効性を検証する必要 「アンナチュラル」ではないか. 人間の目に入ってくる光そのものという意 がある.また表示系だけでなく,入力系・伝送 味で「ナチュラル」といっている. 系においても色域拡大を図る必要がある.撮像, 現在,研究員6名(最大8名)が在籍してい る.SEがソフト開発を担当.その他フェロ グ情報に基づき,環境に合わせて表示を行 ー(アドバイザー)がいる. う機能が必要である. 医者の要望に直接応えられるようなシステ ナチュラルビジョンシステムの普及には, ムの実現は難しいので,研究方針として医 カメラの方から手をつけ,コンテンツを世 者のニーズに合わせるようなことはしない. 間に流して需要を呼び起こしていきたい. 人種・環境による視覚の違いを示す定量的 CIE TC8-07では入力信号の波長範囲,チャ なデータはあるか. ネル数は任意フォーマットとされている. 等色関数は錐体の特性のみ考慮すればよい. 一旦は380∼780nmで決まる共通色空間に ナチュラルビジョンシステムの実現にはそ 落とす. れに適した環境,すなわち環境のセンシン
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