世界的なスマートシティ化の進展と日本企業にとっての - Strategy

この文書は旧ブーズ・アンド・カンパニーが PwCネットワークのメンバー、Strategy& になった
2014 年 3 月 31 日以前に発行されたものです。詳細は www.strategyand.pwc.com. で
ご確認ください。
特集◎メガ・トレンド ∼未来を切り拓く経営の着眼点∼
世界的な
スマートシティ化の
進展と
日本企業にとっての
事業機会
著者:パウル・デュールロー、
今井 俊哉、
赤峰 陽太郎
はじめに
紹 介し、最後に日本企 業にとって、この 大きな事 業 機 会との
関わり方について提言する。
10 のメガ・トレンドのうちいくつかが複合して作用すること
により、都市レベルでの持 続可能性指向の顕在化、すなわち
世界的なスマートシティ化に向けて
スマートシティ(環境都市)化の進展が想定される。環境保護
主義と資 源枯 渇により人々はより“低 炭 素な”暮らしを 選 択
都市インフラの持続可能化に向けた 3つの必要条件
し、人口動態変化や人口移動は、都市のさらなる集積化を促進
われわれが今後30 年で都市インフラをどのように整備する
する。また、新 興 国 へ のパ ワーシフトは 都 市 化 を 促し、賢 い
かが、世界 の CO 2 排出量 全 体の 8 割を決 定する。つまり、環 境
個人によるライフスタイルの変革およびネットワーキングに
破壊への推進力にも、環境再生への第一歩にもなりうる。
よる生産性向上は、スマートシティの本質である。
後者の道を実現するためには、都市の整備と運用に今後30
ここで、スマートシティについて、ブーズ・アンド・カンパニー
年 間 で 350 兆ドル の 資 金を投 入し、炭 素 排 出 量 ゼ ロを指 向
が W WF(世 界 自 然 保 護 基 金)とともに行った 調 査レポート
する必要がある。特に急 速に発 展している小都 市や、新興国
で あ る“Reinventing the City: Three prerequisites for
などは 大きな 影 響 力を持 つ。都 市インフラの 持 続可能 化に
( 2010 年 3月)をもとに、
greening urban infrastructures ”
向けた 3 つの必要条件は以下のとおりである。
持 続可能 性を指 向した 2025 年まで の 都 市の 進 化 につ いて
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パウル・デュールロー
([email protected])
今井 俊哉(いまい としや)
([email protected])
赤峰 陽太郎(あかみね ようたろう)
([email protected])
ブーズ・アンド・カンパニー東 京オフィス
ブーズ・アンド・カンパニー東 京オフィス
ブーズ・アンド・カンパニー東 京オフィス
のヴァイス・プレジデ ント。世 界 各 国 で、
の ディレクター・オブ・ストラテジー。約
のアソシエイト。環境、エネルギー、インフ
エネルギー、自動車、石油、化学、消費 財、
20 年にわたり、コンピュータ、IT、電子 部
ラ分野について、商社、メーカーなどに対
公 益 事 業 等 に 対し、新 規 事 業 / マー ケ
品、自動車等の業界に対し、全社戦略、営
し、事 業 戦 略、顧 客 経 済 性 評 価などのプ
ティング戦略立案、大規模組織改革、コス
業マーケティング戦略、グローバル戦略、
ロジェクトを手掛ける。エネルギーチーム
ト削 減、戦 略提言 などのプロジェクトを
IT戦 略 等 の立 案、組 織・風 土 改 革、ターン
のメンバー。
15年にわたり手掛ける。日本企業の真の
アラウンドの実行支援等のプロジェクト
グローバ ル 化を目指 すとともに、国内外
を多 数手がけてきた。ハイテク・通 信・メ
企業の日本及びアジアでのビジネス開拓
ディア・プラクティスのリーダー。
も手がける。
図表1 : 今後 30 年間の都市における
CO 2累積排出量(世界全体、Gt)
図表 2 : 今後 30 年間の都市における
累積投資額(世界全体、兆ドル)
計 465
計 351
145
物流
交通
物流
169
住居
91
46
18
24
2
インフラ建設
203
7倍
249
5
28
374
26
情報通信
送配電
使用
交通
102
8
43
不動産
情報通信
31
16
51
0
50
インフラ建設
使用
全世界GDP
送配電
(名目値)
出所:ブーズ・アンド・カンパニー分析
1. 都市はその設計において積極的な省エネ目標設定と、ベス
トプラクティスアプローチを受け入れること
2. 先進国と協働し新興国の都市インフラ整備を援助すべく、
先行した 20 ∼30 兆ドルの資金調達・投資を行うこと
3. すべての 都 市インフラにお いて最 新・最 先 端 の 技 術 が 設
計・建設・運用に使われること
出所:ブーズ・アンド・カンパニー分析
を続けていくシナリオでは、都 市の 発 達、特に住宅と輸 送 の
増加によって、460Gt 以上のCO 2が今後30 年の間に排出されて
しまう(図表1 )。
気候をコンロールするための経済コストも大きな問題であ
る、ニコラス・スターン氏ら経済学者はそのコストとして今後
30 年間にGDP の1∼2%、すなわち28.4 兆ドルから56.8 兆ドル
が必要であると見積もっている。とはいえ、いくらこの数字が
普通のやり方では地球温暖化は避けられない
インフラ全体の投資額からみて小さいとしても、特に発展 途
今動かなければ地球温暖化をコントロールすることは不可
上国にとって、この財源確保は難しい。
能となり、今 後 必 要なコストは無 秩 序に膨 れ 上 がるだろう。
コペンハーゲン合意では、この問題に対し、2020 年までの
危険な気候 変動を避けるために、平均気温上昇の範囲を 2 ℃
途上国の CO 2 排出削減への取り組みに毎年1,000 億ドルを援
以下にすべきとのコンセンサスがある。そのためには、2009
助するコペンハーゲン・グリーン気候ファンド(Copenhagen
年から2100 年の間の炭素排出量は CO 2 換算で 870Gt に抑え
Green Climate Fund)を設立することにより解決することを
なければならない。しかしながら、このままのやり方でビジネス
目 論 んだ。しかしこの 施 策 で は あまりに 小 さく、遅 す ぎる。
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図表 3
人口
(10億人)
10
世界の人口
地域ごとの都市化
(1980-2007 実績、
2008-2050 予測)
(1980-2007 実績、
2008-2050 予測)
実績
% 都市人口率
予測
8
80
6
60
4
40
2
20
0
1980
1990
2000
2010
2020
2030
1950-2007年
平均成長率
2008-2050年
平均成長率
地方
0.82%
-0.44%
都市
2.53%
1.60%
実績
100
2040
2050
出所:国連経済社会局人口部、ブーズ・アンド・カンパニー分析
0
1980
1990
予測
2000
2010
2020
2030
2040
1980-2007年
平均成長率
2008-2050年
平均成長率
0.39%
0.27%
0.64%
2.89%
0.87%
0.86%
0.26%
0.33%
0.36%
1.31%
1.46%
0.65%
北米
OECD欧州
OECD太平洋
中国
インド
その他
2050
まず、援助額は発展途上国における毎年のインフラ投資予定
ばタンザニアやインドの一人当たりの環境負荷は欧州人の約
額の 0.1%にも満たない。また、地球全体の温暖化ガス排出量
1/4である。したがって、これら小都市や新興国等、環境負荷の
は 2015 年までに減少に向かわなくては 2℃以下に抑えること
低い暮らしの人達が皆、先進国のような暮らし方になったと仮
ができないからである。この現実を踏まえた上で、このファン
に 想 定 すると、2030 年 ま で に 地 球 が2 個 必 要 となる計 算 と
ドをシードファンドとして、各国はできるだけ早くさらなる資
なってしまう。
金調達を行う必要がある。
都市からは既に地 球 全 体の 80% の CO 2 が 排出されている
ただ、CO 2 排出量削減に使う投 資額は、今後30 年間に起こ
上、今後、都市には裕福な生活を求める人々が流入し、ますま
る旺盛な都市開発に要する総投資額と比べればはるかに小さ
す人口が増加するため、地球温暖 化に対する都市の重要性が
い。今後30 年間、人口が増加し都市が開発されるにつれ、従前
今後も増すこととなる(図表3 )。
の手法を前提とすると、全世界で 350 兆ドルを越える額が都市
インフラの整備やその活用に使われると見られている。これ
小都市の状況
は全世界の GDP50 兆ドル(名目値)の7倍に相当する(図表 2)。
大 規模な人口増加は北京、ロンドン、ロサンゼルス、メキシ
コシティやムンバイなどの既に成熟した大都市ではなく、人口
都市化のトレンド
百万人以下の小都市で起こる(図表4)。例えば、ボツワナの首
では、なぜそのような莫大な都市インフラ整備への投資が
都ハボローネの人口は1971年に17,700人であったのが2007
発生するのか、その構造を概観する。
年には186,000人を越え、2020 年までには 500,000人を越え
都市の持続可能化が進むにつれ、小都市や新興国の動向に
ると予測されている。
着目する必要が出てくる。世界の人口は将来 90 億人に迫り、多
小都市の CO 2 排出量は、そのインフラ発展の度合いに応じ
くの人々が先進国のライフスタイルを志向するようになるから
て特徴的な支出 /CO 2 排出曲線に従う(図表 5)。都市の初期段
である。一人あたりの環境負荷は地域により差があるが、例え
階では、ビル建設や公共交通、エネルギーや水などユーティリ
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図表4 : 都市の規模による人口増加率(2009-2025)
4.19%
1.98%
1.56%
< 1.0百万人
1.0 - 2.5百万人
1.37%
2.5 - 5.0百万人
5.0 - 10.0百万人
1.16%
> 10.0百万人
Source:Demographics Development Impacts Market Research & Urban Policy、ブーズ・アンド・カンパニー分析
図表 5 : 都市における典型的な支出 / 排出量曲線
支出/排出量
発達初期段階
(都市形成期)
− インフラの構築
− エネルギー消費量は
少ない
都市の富の増加
都市の成熟
− 成長を支えるためのさらなるインフラ投資
− 増える人口と富を支えるための
エネルギー消費の増加
− 都市成長の飽和期は新規
建築が必要なくなる
− エネルギー消費量は高値
安定となる
使用
インフラ建設
Time
支出/排出の
要素
− 電力系統
− 道路インフラ
− 大量運搬システム
− 建築物
− さらなる道路ネットワーク
− 自家用車
− 生活必需品
− 需要に対応するための発電
− 建築物
− さらなる家財道具
− 公共交通
− 物とサービス
出所:Fernandez、2007、ブーズ・アンド・カンパニー分析
ティインフラの整備等から支出および CO 2 が発生していたが、
では都市化の手段が限られ、地球温暖化対策に手が回らない
そこから都市の成熟が進むにつれ、エネルギー消費によるCO 2
のである。ブーズ・アンド・カンパニーが WWFと共同で行った
排出が増えていく。
調 査によると、大 都 市 では半 分 の 都 市が地 球 温 暖 化 対 策を
インフラ整備段階の小都市が最も成長が遅く、今後の取り
行っているのに対し、小都市では予備的な対策を1/3 の都市が
組み次第でお金のかかる高炭素ライフスタイルから脱却でき
行っているのみであった。
る機会が生じる。しかしこれは実際には難しい。現在の小都市
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図表 6
家庭および商業ビルにおける30年間の
累積エネルギー消費
家庭および商業ビルにおける30年間の
累積建設投資額
(2005-2035年、兆ドル)
(2005-2035年、兆ドル)
経済先進地域
新興経済地域
経済先進地域
新興経済地域
12.3
49.6
11.0
24.9
5.1
3.9
19.8
4.5
17.1
3.9
3.4
OECD
欧州
中国
移行経済圏
その他
アジア新興国
インド
中東
アフリカ
OECD
欧州
ラテン
アメリカ
商業ビル
出所:ブーズ・アンド・カンパニー分析
OECD
太平洋
北米
6.9
5.2
4.7
OECD
太平洋
12.3 13.0
2.2
2.1
北米
15.3
3.1
中国
移行経済圏
その他
アジア新興国
インド
アフリカ
ラテン
アメリカ
中東
家庭
都市人口増加の22%は
インドと中国によるものである
図表7 : 都市部の人口増加率(2005-2035年, 百万人)
計 1,708
工業化地域
新興経済地域
1,168
540
人口 年平均
増加率
05- 30
101
144
移行経済圏
中東
ラテン
アメリカ
アフリカ
アジア
新興地域
0.46%
2.00%
1.16%
3.01%
2.25%
127
77
12
18
北米
OECD欧州
OECD
太平洋
1.04%
0.60%
0.28%
481
インド・中国
出所:国連経済社会局人口部、ブーズ・アンド・カンパニー分析
新興国の状況
を示唆している(図表 6 )。
北米や太平洋地域の OECD 加盟国においては、住宅や商業
アジアやアフリカ地域の新興国における都市部の人口増加
用建築物のエネルギー消費額の今後30 年間の見通しが同期
が、このインフラ投 資を牽引している。今後30 年間で17億 人
間の設備投資額と比べて相対的に高い一方、新興国では全般
が都市部で住宅を建設すると予測される(図表 7 )。
的に設備 投 資額のほうが 高い。これは、新興国において長い
目で見てエネルギー消費額やCO2排出を減らす余地があること
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図表8 : 一人あたりの地球温暖化ガス排出量推定値(Kg CO 2換算値 /年、トロント)
8,637
597
2,730
5,310
3,341
391
1,510
建設資材
1,440
交通
建物の運用
高人口密度
低人口密度
haあたり57人 haあたり269人
出所:Comparing High and Low Residential Density: Life-Cycle Analysis of Energy Use and Greenhouse Gas Emissions,
Journal of Urban Planning andDevelopment, March 2006
図表 9 : 30 年間の都市の累積支出とCO2排出量(積極ケース)
(Gt CO2)
(兆ドル)
77
351
465
22
198
13
54
23
102
296
194
48
3
374
280
180
249
248
使用
使用
91
インフラ建設
ベース
投資による
増加額
投資による
削減額
結果
ベース
インフラ建設
投資に
よる増分
投資による
削減分
100
結果
出所:ブーズ・アンド・カンパニー分析
必要条件達成に向けて
するにつれ減少する傾向にある。これは都市の工業がエネル
留意すべき 3 つの点
ギー 多消費 型から低消費 型へ 移 行するためである。また、人
口密度が高くなることによって一人当たりの消費量が減る面
このような 状 況 の 中で、政 府および 都 市 計 画 の 担い 手が
留意すべき点は以下の 3 点にまとめられる。
もある。
人口密度が高くなることの利点は、移動手段の CO 2 排出量
が減ることである。トロントでは、人口密度の低い地域と高い
1. CO 2削減計画を立てる際に留意すべき点
地域の一人当たりの移動手段におけるCO 2 排出量はほぼ 4倍
都市における一人当たりのエネルギー消費量は都市が発達
違う(図表 8 )。高 人口密度の 都 市は、洗 練されかつ 低 排 出量
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特集◎メガ・トレンド ∼未来を切り拓く経営の着眼点∼
の公共交通手段を持つ傾向が強く、車を制限した上駐車場を
候 補として、エネルギー(電 気・熱)、情 報 通 信、IT 、自動車、家
減らし、自転車や徒歩での移動へのシフトを積極的に進めて
電、住宅、物流など、あらゆる産業を巻き込んで、大きく発展し
いる。また、公共交通機関へのアクセスも容易としている。
ていくと思われる。しかしながら大半の企業は、実際にはビジ
ネスとして儲かる仕組みが見えていないのが現状であろう。今
2. 投資計画を立てる際に留意する点
のところ、スマートシティ関連ビジネスに関しては、主に国が率
今後30 年の間に 350 兆ドルが全世界の都市インフラと住宅
先して各企業の参加を促す形で数々の方策がとられている。
および 交 通手段に使われるのであるならば、これをゼロカー
• 日本 国 内にお いて 実 証 試 験を実 施。技 術 開 発目的ととも
ボンインフラ構築に向けての投資とすべきである。さらに6%
に、これをショーケースとして世界に売り込むきっかけとな
に相当する22 兆ドルの追加的な投資をグリーン住宅や都市交
ることを期待
通技術に振り向ければ、都市インフラ使用における排出量の
50% 以上を削減することができる。これは将来における55 兆
ドル の支 出に 相 当するも のであ る。この 計 算 は 投 資 による
環境対策を積極的に行った際のケーススタディであるが、平均
気温上昇を 2℃以内に抑制することに向けた、合理的かつ興味
深い結果である(図表 9)。
• 海外の実証試験に参画し、現地政府へのアピールと技術標
準化獲得への期待
• スマートコミュニティアライアンスを設立、官民一体体制の
構築とともに、国際展開、国内普及を検討
• 官民出資(400 億円超 )による「スマートコミュニティ輸出促
進 公社(仮称)」の設 立を検 討( 2011年度予定)、オールジャ
パン体制で海外への売り込みを予定
3. 技術を導入する際に留意する点
現時点では数々の実証試験が新聞を賑わしているが、関係
常に最新のソリューションに変えていく点である。我々が今
者からは「国の仕切りでビジネスの国際展開が可能なのか。ま
後も持続可能なライフスタイルを送るためには、今後30 年以
だ道筋が見えない」と不安の声も聞こえる。
上に亘って革新的かつ安価な省エネ技術を世界的規模で使い
続ける必要がある。これはエンジンの数マイルの燃費向上や
「技術を売る」ことへの過信と限界
エアコンの 5% の COP 向上といった効率向上レベルの話では
これらスマートシティやスマートグリッドビジネスに関し
ない。例えば個人の乗用車のEV化や公共交通の電気化もし
て、国や日本企業から必ず出てくる言葉がある。
くは バイオ 燃 料 の 使 用、地 域 熱 供 給 の 使 用 や LED の 採 用、
「日本の 優 秀な技 術を海 外に売り込む」である。確かに、省
自然光照明ビルの採用などである。
エネ技術や制御技術など、日本が現時点で秀でている技術分
野は多い。しかしながら、この定型句には賞味期限がある。新
日本企業が
興国の技 術レベルの追い上げは激しく、半 導体や太陽電 池、
この事業機会をとらえるためには
液晶生産技術など、価格競争に端を発し日本の技術アドバン
テージが次第に失われていく例は枚挙に暇がない。金型技術
期待と実情
のように、新興国から買収を仕掛けられて技 術が流出する例
新興国の急速な追い上げの中、日本企業は今後の事業機会
もある。つまり、このスマートシティへ の 大きな潮流 の中で、
を 渇 望してい る。スマートシティ関 連ビジネスは、そ の 有 力
単純に「技 術を売る」といったビジネスモデルは、早々に消尽
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してしまい、長期戦略として持たないのである。
密度でありながら安全で高機能な「ウォーカブルシティ」とし
て他国に秀で、公共交通機関の正確性、質の高いインフラ、高
「システムを売る」ことへの過信と限界
い秩序などを維持するエッセンスは他国にてスマートシティを
インフラビジネスでは、
「 部品単体でなく、相手国の設備運
構築する際にも有用である。ここで大切なのは、これらの具体
用の利 便 性まで 考慮したシステム 全 体を設 計し海 外に納め
例からそのエッセンスを抽出し、ビジネスの形に組み上げるた
る」という手法がよく論じられる。高信頼度のインフラを持つ
めの「構想力」や「プロデュース力」であろう。例えば「新幹線単
日本ならではの高度な設計技術を売り込むと言う点では正し
体」を売るのではなく、
「新幹 線へのアクセスを含めた正確迅
く、いくつもの成功例があるが、同時に幾つかのリスクや脆弱
速移動が可能な街のグランドデザイン」を国の内外を問わず
性を孕んでいるとも言えよう。例えば、最近の大型インフラ案
利用者目線で構想し、具体化していくイメージである。そのた
件である新興国での原子力発電国際入札において、UAE では
めには、スマートシティの企画構想段階から参画することが必
韓国に取られ、ベトナムではロシアに負けた。というのも、韓国
要であり、魅力的な提案をする能力も重要となる。要求スペッ
は「格安な価格と長期運転の保証」を、ロシアは「潜水艦」の提
クが明らかな事業機会に営業し、他より高度な技術や高信頼
供を合わせて相手政府に申し出たからだ。どちらも今の日本
度なシステムを売ることで成 功してきた日本企業にとっては
では用意できないサービスであるが、そもそも、安全性や品質
新たな 挑 戦 か もしれ ないが、同 時に事 業 機 会を拡 げ ていく
の良さを重要視する余り、顧客の意思決定における優先順位
チャンスと捉えるべきではないか。海外の大手企業では、IBM
を見誤ってはいなかったか? システムが備える機能そのもの
の「スマータープラネット」のように、プロデュースマインドにあ
での差別化が難しくなっていく中で、ビジョンの無いシステム
ふれた言葉をもって、事業コンセプトを提案している。つまり、
の提 案は、他国からのサービス攻勢の中で輝きを失ってしま
未来を提示して顧客の心を動かしていくような事業推進力を
う可能性も高い。ベトナム原子力については10月末の日越 首
鍛え上げ てきている。日本企業も「ウォーカブルシティ東 京」
脳会談にて第 2 期プロジェクトは日本が事実上受注決定した
等の具体的な成功例をショーケースとして、そのグランドデザ
との報道がなされ、捲土重来を期したようにも見える。ただこ
インでの構想力を磨き上げ、プロデュース力を高めていくこと
れは他の港湾プロジェクト等への総額790 億円の円借款供与
によって、国 内 外で 勃 興しつつある「スマートシティ」等 のメ
もセットであり、日本政府が得意なODA(政府開発援助)的手
ガ・トレンドに乗ることができるのではないだろうか。
法で第一橋頭 堡を得たに過ぎない。日本企業にとってはここ
からが勝負である。その他関連インフラプロジェクトも含め、
今 後 の 提 案いかんでは、この 事 業 が「儲かるビジネス」にも、
「国際貢献ボランティア」にも変わりうるのであるから。
今後活用すべきは「プロデュース力」
では、日本及び日本企業は、その強みを何処に見出して行け
ば良いのだろうか。一つのアプローチは、身近な事例から具体
的な強みを再認識することである。例えば、
「 東京」は、高人口
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