Heart Animal Hospital 慢性腎不全の管理 ハート動物病院 Heart Animal Hospital 慢性腎不全 慢性腎不全とは、中年から老年の犬と猫の一般 的な疾患であり、動物と飼い主のQOLに大きく影 響します。 中年(5才)以降になると多くの疾患が自覚症状 なしに(気づかずに)忍び寄ってきますので、定 期的な健康診断によりそれら病気の初期症状を 見逃さないことが重要です。 早い時点で治療が開始されれば、好ましい転帰 をとる可能性も高まります。 Heart Animal Hospital 慢性腎不全になると… 多飲多尿、便秘 体重減少 食べ物の選り好み 被毛の劣化 尿比重の低下(犬<1.030、猫<1.035) 高窒素血症(BUNとCreの上昇) ※BUNは食餌・肝臓の状態・消化管出血の有無などが影響します。 ※Creは筋肉量(体型)が影響します。 ※ヨーキー・パピヨンは生理的にCreのみ上昇することがあります。 Heart Animal Hospital 慢性腎不全のステージ分類① 慢性腎不全は、まず血漿Cre濃度により分類さ れます。 stage 残存 腎機能 Cre 濃度 状態 1 100% 犬<1.4 猫<1.6 高窒素血症なし・濃縮能不良 2 33% 1.4∼2.0 1.6∼2.8 初期腎不全:軽度の高窒素血症 3 25% 2.1∼5.0 2.9∼5.0 尿毒症性腎不全:中∼高度の高窒素血症・ 骨痛・尿毒症性胃炎・貧血・代謝性アシドーシス 4 <10% >5.0 >5.0 末期腎不全:全身性臨床症状および 尿毒症クリーゼのリスク増大 Heart Animal Hospital 慢性腎不全のステージ分類② 次に、蛋白尿と血圧に基づいて分類します。 尿タンパク/クレアチニン比と血圧は慢性腎不全 の病期とは無関係に変動するため、高窒素血症 の程度に関係なく、あらゆるレベルの蛋白尿や 高血圧が起こる場合があります。 以下を境界に生存率や生存期間が減少すると 考えられています。 尿タンパク/クレアチニン比=>2.0 動脈高血圧=>160mmHg Heart Animal Hospital 慢性腎不全の管理 慢性腎不全の管理は食餌療法が中心です。 犬と猫の専用処方食は、タンパク質・リン・ナトリウム含量が制限され、 カリウム・ビタミンB群・カロリー密度・オメガ-3多価不飽和脂肪酸が 高く、酸-塩基平衡に対する影響は中立になるよう調節されています。 ①タンパク質の制限 尿毒症毒素の多くがタンパク質代謝の副産物であるため、また、タン パク質はリンの供給源であるため、制限する必要があります。 ②リンの制限 腎疾患の動物はリンを排出しにくくなるため、リンとカルシウムのバラ ンスが崩れて、腎性続発性上皮小体機能亢進症(骨量減少、腎臓の 石灰化)を併発します。 Heart Animal Hospital 慢性腎不全の管理 ③カリウムの補給 猫で低カリウム血症が良く見られ、筋肉虚弱・腎機能のさらなる低下 を引き起こします。 ④アルカリ化 腎疾患では尿に酸を排泄しづらく、重炭酸塩を喪失する傾向にある ため、代謝性アシドーシスが生じます。するとタンパク質の異化亢進・ 食欲不振・嘔吐・無気力などが起こるため、中性∼アルカリ性に調節 された療法食を与えます。 ⑤オメガ-3多価不飽和脂肪酸 慢性腎不全の犬および猫に対して生存期間の延長などの有益性が 実証されています。 Heart Animal Hospital 体水分状態 腎臓病の動物は脱水を起こすリスクが高く、中∼ 長期的な水分補給が必要になることがあります。 脱水の評価法 ①頚背部の皮膚をつまみ上げて放すと、テント状に立ったままになる ②両眼が落ち窪んだように見える ③口腔内がネバネバしたり乾燥している 自宅で飲水を促す方法 ①噴水式飲水器 ②動物の好きな香りをつけた水 ③複数の水入れ 自宅で十分な水分を供給できない場合は皮下輸 液療法、または経腸栄養チューブの設置を考慮 します。 Heart Animal Hospital 食餌療法の重要性 療法食を与えられた慢性腎不全の動物は、維持 食を与えられた動物よりも長生きし、合併症も少 なくなることが実証されています。 犬 ①尿毒症によるショックの発症リスクが75%低下し、 発症するまでの期間が2倍に延長 ②平均13ヶ月以上長く生存 猫 ①尿毒症の発症数が減少 ②腎疾患に関連した死亡数が減少 Heart Animal Hospital 食餌療法を成功させるには? 療法食への移行は、スムーズにできる動物もいれば、非 常に選り好みが激しい動物(特に猫)もいます。 ほとんどの動物は、3週間ほどかけて以前の食餌に新し い食餌を徐々に増やして混ぜていくことで移行できます。 ただし薬を混ぜたり、尿毒症による吐感がある時に始め ようとすると、食物嫌悪反応が起こりやすいので注意が必 要です。 また、腎機能障害による代謝性の異常(貧血、尿毒症性胃炎、 脱水、代謝性アシドーシス、低カリウム血症、腎性続発性上皮小体機 能亢進症)が食欲不振を引き起こすので、これらの病態の 管理を同時に行う必要性があります。 Heart Animal Hospital 慢性腎不全の合併症①高血圧 高血圧は犬、猫ともに慢性腎不全の合併症とし て認識されており、血圧の頻繁な測定が非常に 重要です。 高血圧を放置すると、腎臓・心臓・脳の損傷に発 展する恐れがあります。特に猫では網膜剥離に よる急性失明が起こることがあります。 高血圧の管理にはカルシウムチャネル遮断薬、 ACE阻害薬、またはこれらを併用します。 Heart Animal Hospital 慢性腎不全の合併症②貧血 腎臓はエリスロポエチンと呼ばれる、新生赤血球 の産生を刺激するホルモンを産生しています。 しかし慢性腎不全になるとエリスロポエチンの産 生が減少するため、貧血を呈することが多くあり ます。 この場合、失われたホルモンを供給するために、 合成型エリスロポエチンを投与する必要がありま す。
© Copyright 2024 Paperzz