CFA 協会ブログ

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2014 年 3 月 18 日
No.178
欧州での不正取引:インサイダー取引、市場操作へさらに厳しい制裁
Market Abuse in Europe: Harsher Penalties for Insider Trading, Market Manipulation
ミルザ・デ・マニュエル・アラメンディア
2 月、欧州連合は資産クラスや取引所に拘りなくイン
サイダー取引や市場操作に対する制裁を強化する政
治協定で合意しました。欧州議会と委員会は、市場健
全性を損なう重大かつ意図的な違反に対する実刑を
含む最低限の処分とともに、違法行為に関する定義を
統一することで合意しています。
この合意によって 2 年に亘る議論に終始符がうたれま
した。その要旨は、市場参加者のために確実性を向上
させるよう各国の規則を収斂すること、代替執行市場
や店頭(OTC)取引もカバーするよう既存の規則を改
定すること、コモディティとその派生商品の不正にも
対処すること、強制力や処分力の強化を図ることです。
上記の目的に加えて、諸規則は、最近欧州で発生した
金利ベンチマーク(LIBOR と EURIBOR)に関する操
作への対応を規定しています。ベンチマーク計算を操
作するいかなる行為も不正行為とみなされ、それには
意図的であれ不注意であれ間違ったあるいは誤解を
招く数値や情報を提供することも含みます。
不正取引の範囲
欧州連合内で不正取引がどれほどの影響を及ぼした
か真相は定かではありません。LIBOR 操作によってロ
ーンとモーゲージで 7 兆ユーロ、デリバティブで 250
兆ユーロ程度が影響を受けました。株式に関しては、
欧州委員会の推計では、不正によって投資家にもたら
された損失が市場取引の 0.1%近くの金額(2013 年の
市場でおおよそ 85 億ユーロ)に上るとされています。
金融行為監督機構(The Financial Conduct Authority
日本 CFA 協会
(FCA))は、
「市場の清浄度(Market Cleanliness)
」に
関する統計を公表し、公開買付前の 2 日間の株価の異
常な値動きを把握しています。その中でよい知らせは、
積極的な執行実績が増加したことにより、これらの値
動きは、インサイダー取引の可能性を示していますが、
2010 年の 21.2%から 2014 年には 14%に改善したと
いう点です。
金融行為監督機構(FCA)はこの種の統計を発表する
欧州で唯一の監督機関です。それでも、権限の及ばな
いインサイダー取引や市場操作については全く掴め
ないために統計は限られています。確かに、不正取引
のようなものを見つけ出すのは簡単ではありません
し、実際の不正取引の統計も欧州では驚くほど限られ
ています。
不正取引がいかに深刻かは、CFA 協会のグローバル・
マーケット・センチメント・サーベイでわかります。
2014 年の金融市場、健全性、パフォーマンスに関する
データを提供した CFA 協会の会員によれば、詐欺行為
こそが世界の市場が直面する最も深刻な倫理的問題
であり、財務報告書の誠実性、金融デリバティブのデ
ィスクロージャーと利用、市場取引慣行よりも重要な
ものとなっていることがこのサーベイで示されてい
ます。
さらなる透明性と処分
欧州連合の法整備はインサイダー取引や市場操作の
統一規則となり、参加国が違法行為に対して下さなけ
ればならない最低限の実刑を定めるものとなるでし
ょう。実際に何が含まれるのでしょうか。
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インサイダー取引とは、自身や第三者のための取
監督当局は新規則の強制力に自信を持っており、その
引に内部情報を利用することですが、いかなる未
ことを歓迎しています。欧州証券市場監督局(ESMA)
遂や注文の取り消しまたは訂正も含みます。
の会長であるスティーブン・メイジャー氏によれば、
インサイダー取引に関与するよう勧誘すること
もまた違法ですし、その勧誘が内部情報に基づく
ものだと知っていて聞いた人も含みます。
「取引後の情報をしっかりと一元管理することで、ほ
ぼ全ての不正が会社、発生場所、市場のどこかで見つ
けられる」とのことです。こうした努力を通して、金
融商品市場指令(MiFID)Ⅱによって広範な資産クラ

市場操作には、市場参加者の判断を誤らせること、
不自然な価格を付けること、偽装して価格に影響
スや場所での取引後の透明性が得られることは、規制
当局の助けとなります。
を与える可能性がある取引や行為も含まれます。
それにもかかわらず、残念ながら、国レベルでは、引
監督当局や司法当局がしばしば証拠固めするのが難
しいことや偽装の仕組みがかつてないほど複雑にな
っていることを考慮し、今後の市場操作の新たな手口
を捉えられるよう、今回の規制での定義は意図的に広
範になっています。こうしたケースのいくつかは、こ
のブログの別のところで取り上げています。
しかし、内部情報の定義は、法的安定性のために、草
案に比べると最終合意では狭くなりました。最初の枠
き続き監督当局や司法当局の人員や訓練という意味
での課題が残ります。詐欺師らは見つかったり起訴さ
れたりする可能性の低い区域、あるいは罰金や判決が
軽い場所を物色するかもしれません。また、彼らは、
ますます市場を跨いで取引し、ひとつの市場を操作し
て別の市場で利益を上げようとしますので、見つけに
くくなっています。
次は何か
組みは、「合理的な投資家による重要性判断基準」(a
reasonable investor test)に基づいたものでしたが、
政治的な合意と MiFIDⅡに沿って今後数カ月で規則が
あまりにも不明瞭で投資家による関与を危うくする
出来上がることでしょう。不正行為への規制が直接適
かもしれないものでした。やはり内部情報とは、価格
用されるようになりますが、刑罰の指令は国境をまた
への影響という点で、正確で重要なものである必要が
ぎつつ、執行のための仕組みを強化する必要がありま
あります。
す。4∼5 年で欧州委員会はこの法律の有効性を、特に
行政処分の共通規則、クロスボーダー取引注文の記録
刑罰に関しては、意図的になされた重大な犯罪行為に
は最低 4 年の実刑を参加国は科さなければなりません。
行為の重大さは、市場の健全性への影響、実際の利益
または利益の見込み、金融セクターや監督当局におけ
る犯罪者の処遇状況によって決められます。
新しい規則によって、より厳しい制裁と長い実刑判決
を確かなものにするために、不正取引を犯した者を米
国に引き渡すことで欧州連合の正義を果たそうとす
る状況は終わるだろうと、欧州議会の委員で法務を担
監視における欧州連合の枠組みが必要かどうかを検
証することになるでしょう。おそらくそのどちらも必
要という答えになるかもしれません、どうやら、今回
の改革では、それらの課題に対応する機会を見逃して
いたからです。
執筆者
ミルザ・デ・マニュエル・アラメンディア
CFA 協会の資本市場政策担当のディレクター。
(翻訳者:今井 義行、CFA)
当するアーリーン・マッカーシー氏は述べています。
新規則の施行
日本 CFA 協会
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英文オリジナル記事はこちら:
http://blogs.cfainstitute.org/marketintegrity/2014/03/
18/market-abuse-in-europe-harsher-penalties-for-in
sider-trading-market-manipulation/
注) 当記事は CFA 協会(CFA Institute)のブログ記事
を日本 CFA 協会が翻訳したものです。日本語版およ
び英語版で内容に相違が生じている場合には、英語版
の内容が優先します。
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