局方品レビュー

DIAs
Disinfection and Antiseptic
局方品レビュー
Vol.1
酸化マグネシウム
白くて水に溶けにくい無臭の粉末、
それが酸化マグネシウムです。ゴムやプラスチック、
セラミックスの原料と
15,000から18,000個もあり、
腸管全面に編み目状に分布しています
して広く使用されてますが、
中学生の理科の実験などでもよくでてきます。マグネシウムを燃やしてできた酸化
(図1)。腸管は自律神経系の支配臓器ですからこのような細胞群は
マグネシウムの重さを計って、
加熱反応による重量の増加から「質量保存の法則」を勉強したのを憶えている
普通神経節と呼ばれますが、
あまりにも数が多いので神経叢と呼ば
人もいると思います。でも、
このような無機的なイメージの酸化マグネシウムも実は古くから用いられてきた制酸
れています。
剤であり、
副作用の少ない緩下剤として利用されているのです。昔をたどれば、
シーボルトが来日した際に、
持
この腸管の壁内神経叢は知覚神経・介在神経・運動神経と
ち込んだ医薬品の一つが酸化マグネシウムであり、
高良斎がシーボルトの講義をまとめた「薬品応手録」によっ
いう基本ユニットを有し、
それ自身で情報収集から情報解析、
てその用法が各地の医師へ広められました。 酸化マグネシウムを服用(経口投与)すると、
まず胃酸により
命令実行まで行えるのでこれを
「small brain」
と呼ぶことがあります。
塩化マグネシウムとなりますが、
十二指腸内ではそのアルカリ性消化液により炭酸水素マグネシウムとなります。
つまり、
腸管は脳(高位中枢)
からの指令がなくても基本的な
これらのマグネシウム塩は腸壁から吸収されないのでそのまま腸管内を肛門側へと移動します。でもその
仕事はできるわけで、
極端な例をあげれば、
体液と同じような
移動の間、
マグネシウム塩の周囲の浸透圧は高張側に維持されるので水分の吸収は押さえられ、
逆に水分は
成分の溶液を入れた金魚鉢(熱帯魚用恒温槽と同様、酸素通
組織側から腸管内へと吸引されます。その結果、
腸内容物は水分で満たされて軟化し、
流動化するとともにそ
気用ポンプと体温と同じ温度を保つためのサーモヒーターが必要です)
の中で腸管を飼うことも可能です
(図2)。
の容積は著しく増大します。このため腸壁は膨張した内容物によって押し広げられ、
この「引き伸ばされる」
と
実際このような状況で、
摘出した腸管の管腔内に下剤を入れてその部分を膨張させれば、
下剤は元口側から
いう機械的刺激が腸壁の伸展受容器を興奮させ、
腸管の蠕動運動を惹起するとともに、
便意を起こさせます。
元肛門側へと見事に蠕動輸送されるのが、
動物実験で観察できます。腸管を体から摘出してしまうと、
私達に
ですから、
この薬は機械的緩下剤と呼ばれ、
大量の水とともに服用するととても効果的なのです。
はどっちが元口側で元肛側か区別がつきませんが、
腸管はちゃんと認識しているのです。
このように私たちは、
お腹の中にもう一つの「脳」
を持っているわけで、
この「small brain」のおかげで食物は知らぬ間に消化吸収さ
れているわけです。
下剤は最も古くから人間が使ってきた薬の一つであり、紀元前1500年代のエジプトの処方集にはすでに
アロエやセンナが記載されていて、
あのクレオパトラもアロエの愛用者だったようです。
しかしアロエやセンナの
ような化学的緩下剤の中には長期間連用すると、習慣性が生じたり、腸管粘膜に炎症を起こしたり、下痢が
持続したり、
小腸の消化吸収機能を防げたりすることがあります。でも酸化マグネシウムなど機械的緩下剤の
効き方は生理的であり、腎機能障害時の高マグネシウム血症以外大きな副作用はありません。
したがって、
長期使用も可能です。でも、便秘の際の緩下剤の使用はあくまでもワンポイントリリーフ。食事や生活習慣に
気をつけて排便を習慣づけることが大切です。
女性や高齢者によく見られる弛緩性の便秘
は前述した神経叢の興奮性が低下している
このように腸管は引き伸ばされたという刺激を感じ、
それに対応して内容物を移動させる運動機能(蠕動
ため、
大腸全体の運動と緊張が低下しておこ
運動といいます)
を持っています。
これは伸展受容器を介して腸管内容積の増加を察知する感覚神経とその
ります。適度の運動はこの神経叢のはたらき
情報を解析判断する介在神経、
そしてその判断を実行する運動神経を腸管が持っているから出来ることなの
を促進するので、
体を動かすということも、
とて
です。
この3種類の神経の見事な制御により輪状筋と縦走筋が協調的に収縮弛緩を繰り返し、
腸管内容物の
も大切です。
合理的な消化・混和・輸送が行われるわけです。この一連の制御機能を果たす神経は大腸では1 あたり
著者紹介:
篠塚和正 武庫川女子大学薬学部 薬理学講座第Ⅱ教授 薬学博士:
1976年静岡薬科大学 卒業、米国ネバダ大学医学部薬理学教室、
島根医科大学薬理学講座を経て2001年4月より現職。
図1:J.D.Wood「Physiology of the Gastrointestinal Tract」
2nd Edition L.R.Johnson, Raven Press New York.,
p.67-p.109(1987)
DIAs
Disinfection and Antiseptic
局方品レビュー
Vol.1
酸化マグネシウム
白くて水に溶けにくい無臭の粉末、
それが酸化マグネシウムです。ゴムやプラスチック、
セラミックスの原料と
15,000から18,000個もあり、
腸管全面に編み目状に分布しています
して広く使用されてますが、
中学生の理科の実験などでもよくでてきます。マグネシウムを燃やしてできた酸化
(図1)。腸管は自律神経系の支配臓器ですからこのような細胞群は
マグネシウムの重さを計って、
加熱反応による重量の増加から「質量保存の法則」を勉強したのを憶えている
普通神経節と呼ばれますが、
あまりにも数が多いので神経叢と呼ば
人もいると思います。でも、
このような無機的なイメージの酸化マグネシウムも実は古くから用いられてきた制酸
れています。
剤であり、
副作用の少ない緩下剤として利用されているのです。昔をたどれば、
シーボルトが来日した際に、
持
この腸管の壁内神経叢は知覚神経・介在神経・運動神経と
ち込んだ医薬品の一つが酸化マグネシウムであり、
高良斎がシーボルトの講義をまとめた「薬品応手録」によっ
いう基本ユニットを有し、
それ自身で情報収集から情報解析、
てその用法が各地の医師へ広められました。 酸化マグネシウムを服用(経口投与)すると、
まず胃酸により
命令実行まで行えるのでこれを
「small brain」
と呼ぶことがあります。
塩化マグネシウムとなりますが、
十二指腸内ではそのアルカリ性消化液により炭酸水素マグネシウムとなります。
つまり、
腸管は脳(高位中枢)
からの指令がなくても基本的な
これらのマグネシウム塩は腸壁から吸収されないのでそのまま腸管内を肛門側へと移動します。でもその
仕事はできるわけで、
極端な例をあげれば、
体液と同じような
移動の間、
マグネシウム塩の周囲の浸透圧は高張側に維持されるので水分の吸収は押さえられ、
逆に水分は
成分の溶液を入れた金魚鉢(熱帯魚用恒温槽と同様、酸素通
組織側から腸管内へと吸引されます。その結果、
腸内容物は水分で満たされて軟化し、
流動化するとともにそ
気用ポンプと体温と同じ温度を保つためのサーモヒーターが必要です)
の中で腸管を飼うことも可能です
(図2)。
の容積は著しく増大します。このため腸壁は膨張した内容物によって押し広げられ、
この「引き伸ばされる」
と
実際このような状況で、
摘出した腸管の管腔内に下剤を入れてその部分を膨張させれば、
下剤は元口側から
いう機械的刺激が腸壁の伸展受容器を興奮させ、
腸管の蠕動運動を惹起するとともに、
便意を起こさせます。
元肛門側へと見事に蠕動輸送されるのが、
動物実験で観察できます。腸管を体から摘出してしまうと、
私達に
ですから、
この薬は機械的緩下剤と呼ばれ、
大量の水とともに服用するととても効果的なのです。
はどっちが元口側で元肛側か区別がつきませんが、
腸管はちゃんと認識しているのです。
このように私たちは、
お腹の中にもう一つの「脳」
を持っているわけで、
この「small brain」のおかげで食物は知らぬ間に消化吸収さ
れているわけです。
下剤は最も古くから人間が使ってきた薬の一つであり、紀元前1500年代のエジプトの処方集にはすでに
アロエやセンナが記載されていて、
あのクレオパトラもアロエの愛用者だったようです。
しかしアロエやセンナの
ような化学的緩下剤の中には長期間連用すると、習慣性が生じたり、腸管粘膜に炎症を起こしたり、下痢が
持続したり、
小腸の消化吸収機能を防げたりすることがあります。でも酸化マグネシウムなど機械的緩下剤の
効き方は生理的であり、腎機能障害時の高マグネシウム血症以外大きな副作用はありません。
したがって、
長期使用も可能です。でも、便秘の際の緩下剤の使用はあくまでもワンポイントリリーフ。食事や生活習慣に
気をつけて排便を習慣づけることが大切です。
女性や高齢者によく見られる弛緩性の便秘
は前述した神経叢の興奮性が低下している
このように腸管は引き伸ばされたという刺激を感じ、
それに対応して内容物を移動させる運動機能(蠕動
ため、
大腸全体の運動と緊張が低下しておこ
運動といいます)
を持っています。
これは伸展受容器を介して腸管内容積の増加を察知する感覚神経とその
ります。適度の運動はこの神経叢のはたらき
情報を解析判断する介在神経、
そしてその判断を実行する運動神経を腸管が持っているから出来ることなの
を促進するので、
体を動かすということも、
とて
です。
この3種類の神経の見事な制御により輪状筋と縦走筋が協調的に収縮弛緩を繰り返し、
腸管内容物の
も大切です。
合理的な消化・混和・輸送が行われるわけです。この一連の制御機能を果たす神経は大腸では1 あたり
著者紹介:
篠塚和正 武庫川女子大学薬学部 薬理学講座第Ⅱ教授 薬学博士:
1976年静岡薬科大学 卒業、米国ネバダ大学医学部薬理学教室、
島根医科大学薬理学講座を経て2001年4月より現職。
図1:J.D.Wood「Physiology of the Gastrointestinal Tract」
2nd Edition L.R.Johnson, Raven Press New York.,
p.67-p.109(1987)