【切手・牛牧場】へようこそ

【切手・牛牧場】へようこそ
① スイス・ウリ州章
印南
② ドイツ・メクレンベルク
フォアポンメルン州章
博之
(日本郵趣協会評議員、農政ジャーナリストの会会員)
我が国の家紋には動物の紋が非常に少ない。特
③ モルダヴィアの牛紋
(ルーマニア)
④ モルドヴァ共和国国章
⑤ ベアルン(フォア伯領)の紋章
⑥ アンドラ国章
に牛は、1冊の本に「ある」というのを書いてあ
るのを見たきりで、その紋はとんと見たことがあ
りません。
外国へ目を向けると、まず国章、国旗と共に国
を代表とするシンボルとして牛がかなりありま
す。ヨーロッパだけでもアイスランド、ルーマニ
ア、モルドヴァそしてフランスとイスパニア国境
のピレネー山中の小国アンドラの国章の中に牛が
和国のワラキアの鷲紋に抱かれているように、金
入っています。これは、牛がヨーロッパ人にとっ
色の牛頭の周りに八芒星、バラ、三日月が入った
て生活に欠くことのできない動物であったことと
立派な紋となりました。
共に、狼や熊をしのぐ猛獣がいなかったため、ブ
ル(雄牛)が英雄の敵役となったということがあ
ります。
メクレンベルクの雄牛
メクレンベルク・フォアポンメルン州はドイツ
特にヨーロッパの紋章は、その起源が騎士とい
最東端でポーランドと接し、北はバルト海という
う武人の武具(アームズ)にあるため、我が国の
平地にあって牛の放牧地として古くから知られて
ように貴族の牛車であるのとは大きなへだたりが
います。その黒い雄牛は公爵冠をかぶり赤い舌を
あるわけです。
ぺロリと出しているという牛タン店の看板にして
モルダヴィアの雄牛
も良いようなデザインで、ポンメルンの赤いグリ
フォン(上半身が鷲で下半身が獅子のモンスター)
ヨーロッパの牛紋の特長は頭のクローズアップ
紋と並んで入っています。ちなみにポンメルンは、
が主流で、スイスのウリ州章の牛①やドイツのメ
あのドイツの小型犬ポメラニアンのふるさとです。
クレンベルク②も同じです。
モルダヴィアは、ルーマニアのロシアと接する
伯爵と司教の約束
地方で14世紀(我が国の室町時代初期)にモルダ
フランス辺境のベアルン県は代々フォア伯爵の
ヴィア公国が成立しました。その紋章が③の雄牛
領地でしたが、ピレネー山地のどまん中にあり南
で、角の間に金色の五芒星が輝いています。その
部のイスパニア王国のウルヘル司教領との争いが
後モルダヴィアは、他のバルカン諸国と同様にオ
ありました。
スマントルコ帝国領となったため雄牛紋の出番は
争った土地は、今はアンドラ共和国となってい
なくなりました。約200年後の19世紀初めにロシ
ますが、その背後にはイスパニアのカタロニア枢
ア領となり、公国が復活して雄牛紋がまた陽の目
機卿とフランスのアンリ4世の影がチラついてい
を見ますが、それからしばらくして日本の幕末頃
ます。その問題は1806年に結着して伯爵と司教の
にワラキア公国と合併してルーマニア王国となっ
共管となり、フォアの2頭の牛紋⑤が入った国章
たときには、紋章も複雑になりました。
ができましたがフランス側⑥とイスパニアでは構
その中のモルダヴィアの紋は④のモルドヴァ共
成が異なるものになっています。
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