FM放送(TV放送の音声を含む)では,高音部におけるSN比の劣化を防ぐために, あらかじめ高音部を強調(プリエンファシス)して送信し,受信後,高音部を減衰 (ディエンファシス)させて,全体的にフラットな特性に戻している.このようにす ることによって,高音部におけるSN比が改善される. プリエンファシスの特性 F(ω) は, ω F(ω) = 1 + ω0 2 (1) と決められている.ここで,時定数τ 0 τ0 = 1 ω0 (2) は,日本のFM放送でτ 0 = 50µsec ,TV放送の音声でτ 0 = 75µsec と決められている. さて,(1)式の特性を実現する回路であるが,例えば, C e R v R1 図1 がある.この回路は,周波数0 では, R e v= R1 R1 e R + R1 図2 となり,出力電圧v は, v= R1 e R + R1 (3) となる.一方,非常に高い周波数では, e R1 図3 v =e となり,出力電圧v は, v =e (4) となって,入力電圧e と等しくなる.すなわち, R1 e<e R + R1 (5) であるので,高音部で出力が増加することがわかる. 次に,この回路の周波数特性を計算する. R1 v= 1 1 + jωC R v= + R1 e R1 e R + R1 1 + jωCR v= R1 (1 + jωCR) e R + R1 (1+ jωCR) v= R1 (1 + jωCR) e R + R1 + jωCRR1 v= R1 (1+ jωCR) RR1 e (R + R1 )(1 + jωC ) R + R1 ∴| v |= R1 1 + ω 2 C2 R 2 RR1 (R + R1 ) 1 + ω 2 C 2 R + R1 2 |e | (6) となる.ここで, R と R1 の並列接続の合成抵抗を Rpara とおくと, Rpara = RR1 R + R1 (7) であるので,(6)式は, | v |= R1 1 + ω 2 C 2 R 2 |e | (R + R1 ) 1 + ω 2 C2 Rpara 2 (8) となる.さらに, τ 0 = CR = 1 ω0 τ 1 = CRpara = (9) 1 ω1 (10) とおくと,(8)式は, | v |= ω R1 1+ ω0 2 ω (R + R1 ) 1 + ω1 2 |e | (11) と表せる.(11)式を周波数0 のときの出力電圧((3)式)の絶対値で割ると,結局, ω 1+ ω0 2 ω 1+ ω1 2 (12) が得られる. Rpara < R (13) なので,必ず, ω0 < ω1 (14) となる. (12)式はもちろん(1)式とは異なるが,(1)式と(12)式の関係を図にすると, 図4 となる.ここで縦軸はdB表示してあり, τ 0 = CR = f0 = 1 = 50µsec ω0 ω0 = 3.18kHz 2π (15) (16) とし, τ 1 = CRpara = f1 = 1 = 5µsec ω1 ω1 = 31.8kHz 2π (17) (18) と τ 1 = CRpara = f1 = 1 = 0.5µsec ω1 ω1 = 318kHz 2π (19) (20) で計算してある. (1)式は,(16)式の周波数で約3dB上昇し,20dB/decade(周波数が10倍になるご とに20dB),あるいは約6dB/octave(周波数が2倍になるごとに6dB)で増加してい る. (12)式で,(17)式のとき,(1)式と同じように立ち上がるが,20dBで飽和する. (18)式の周波数で飽和値20dBから約3dB低下する. (12)式で,(19)式のときも,(1)式と同じように立ち上がるが,40dBで飽和する. (20)式の周波数で飽和値40dBから約3dB低下する. このように(12)式はもちろん(1)式とは異なるが,適当な周波数以下では数値的に 一致する.FM放送では15kHz程度までの周波数しか取り扱わないので,図1の回路 でも十分実用的である. 具体的な数値としては,例えば, R1 = 1kΩ (21) であったする.これはFM送信機の入力抵抗で決まる. R を Rpara の50倍くらいにする ために, R = 50kΩ (22) とする.これと(15)式より, C = 1000pF (23) となる.このとき, Rpara は, Rpara = 50kΩ ⋅1kΩ = 0.98kΩ 50kΩ + 1kΩ (24) となるので,時定数τ 1 は, τ 1 = 1000pF ⋅0.98kΩ = 0.98µsec (25) となり,図4よりプリエンファシスとして十分機能することがわかる.
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