[氏名] 木岡 伸夫 哲学倫理学専修 [専門分野] 地理哲学(風土学) 新入生へのひとこと 「高 校 で倫 理 を選 択 しなかったのですが、哲 学 倫 理 学 専 修 に入 ってもやって いけるでしょうか」。こういう質 問 をする人 は、何 か決 まった問 題 があって、それに 「正 解 」を出 すのが学 問 だと誤 解 しているのではないでしょうか。ハッキリ言 いましょ う。「哲 学 」というのは、出 来 上 がった知 識 ではなく、自 分 で問 題 を考 え、自 分 で 答 えを出 そうとする試 みである、と。 自 分 のテーマを、自 分 の頭 で考 え、自 分 の言 葉 で表 現 する――それが哲 学 だとすれば、昔 の人 が言 ったり書 いたりしていることは、どうでもよいことなのか。そ うではない。そこに自 分 よりも前 に、同 じような問 題 を苦 労 して考 えぬいた「先 輩 」 がいる。時 には先 輩 を頼 りにして、しかし時 には自 力 で道 を切 り開 く、そういう気 構 えをもって、この専 修 に進 むことを視 野 に入 れてください。 講義のテーマと内容 哲 学 倫 理 学 専 修 で は 、5 名 の ス タ ッ フ が 登 場 し て 、2 つ の シ リ ー ズ に わ た っ て 講 義 を 行 う 。第 1 シ リ ー ズ は 、《 古 典 と 私 》。そ れ ぞ れ が 、ど ん な き っ か け で 哲 学 の 世 界 に 入 っ た の か を 、テ ク ス ト に ま つ わ る 思 い 出 を 中 心 に 語 る 。第 2 シ リ ー ズ は 、《 現 代 と 私 》 。こ れ ま で の 研 究 生 活 を つ う じ て 、現 在の研究テーマにたどり着いた経緯を明らかにする。 私 自 身 の テ ー マ と 内 容 は 、次 の と お り 。 ○シリーズ1:《古 典 と私 》 テ ー マ :「 直 観 と 現 実 世 界 」( テ ク ス ト : ベ ル ク ソ ン 『 思 想 と 動 く も の 』) 複雑を極める哲学者の理論の底には、かぎりなく単純な直観がある、というベルクソンの主張 と 向 か い 合 っ た と き か ら 、私 の 哲 学 へ の 道 が 始 ま っ た 。激 動 す る 1960 年 代 の 日 本 と 世 界 の 動 き 、 それに自分がどうかかわったかを振り返ることで、 「 哲 学 と は 何 か 」と い う 問 題 に 自 分 な り の 答 え を示したい。 ○シリーズ2:《現 代 と私 》 テ ー マ :「 風 景 と し て の 世 界 」 普 遍 性 を 追 求 す る は ず の 哲 学 は 、誰 も が 経 験 す る「 風 景 」を 問 題 に し て こ な か っ た 。そ れ は ど う し て か 。風 景 は 場 所 に よ っ て 異 な る 。場 所 の 違 い を 問 題 に し な い 哲 学 は 、 〈 一 つ の 世 界 〉を 信 じ て きたが、そのことがまさに現在問われている。西洋哲学を相対化する視点から環境危機に立ち向 かおうとする風土学に、私はいかにして出会ったか、それをどう展開しようとするのか。 リ レ ー 講 義 の 参 考 文 献 ⃝アンリ・ベルクソン『思 想 と動 くもの』、河 野 与 一 訳 、岩 波 文 庫 。 第 1 シリーズ《古 典 と私 》で紹 介 するテクスト。収 録 された「哲 学 入 門 」「哲 学 的 直 観 」など、分 量 は短 くても 内 容 の濃 い論 文 (多 くは講 演 原 稿 )から、「具 体 的 なもの」に生 涯 こだわりつづけたベルクソンの一 貫 した思 想 を読 みとることができる。 ⃝オギュスタン・ベルク『日 本 の風 景 ・西 欧 の景 観 』、篠 田 勝 英 訳 、講 談 社 現 代 新 書 、1990 年 。 第 2 シリーズ《現 代 と私 》で取 り上 げる「風 景 」のテーマに関 する参 考 文 献 。日 本 と中 国 、西 欧 における風 景 への視 線 の違 いを、豊 富 な事 例 から説 き明 かす。風 景 画 や庭 園 、建 築 についても、比 較 文 化 論 的 な視 点 か ら新 鮮 な見 方 が示 されている。 ⃝木 岡 伸 夫 『風 景 の論 理 ――沈 黙 から語 りへ』、世 界 思 想 社 、2007 年 。 風 土 学 三 部 作 の第 一 弾 として、本 書 を上 梓 した。哲 学 が「風 景 」を問 題 にしてこなかったことへの歴 史 的 批 判 にはじまり、基 本 風 景 ・原 風 景 ・表 現 的 風 景 からなる風 景 経 験 の構 造 と弁 証 法 、風 景 の変 容 に関 する 〈形 の論 理 〉などのトピックを盛 り込 んだ(新 入 生 には、少 し?難 しい)。 二 回 生 以 降 に 展 開 さ れ る 授 業 内 容 ( 予 定 ) 2010 年 度 は、以 下 の三 科 目 を担 当 する。 ⃝「倫 理 学 特 殊 講 義 a・b」: 「風 土 学 講 義 」として、前 期 :「近 代 日 本 における風 土 学 的 思 想 の展 開 」、後 期 :「風 土 学 の理 論 構 成 」の 順 に展 開 する。 ⃝「哲 学 倫 理 学 専 修 ゼミⅢ・Ⅳ」(3 年 次 ): 2 年 次 までの研 究 をもとに、卒 業 論 文 で取 り組 むべき研 究 テーマを絞 り込 むための助 言 を行 う。研 究 発 表 と討 論 のほか、学 生 の関 心 に応 じて講 義 やテクストの講 読 を交 える。 ⃝「哲 学 倫 理 学 専 修 ゼミⅤ・Ⅵ」(4 年 次 ): 卒業論文のテーマは、まったく自由。諸君が選んだこだわりのテーマに全力で立ち向かえるよ う、私も全力で付き合うつもりである。 以 上 の ほ か 、「環 境 の倫 理 」(全 学 共 通 科 目 )、「知 パス」( 前 期 )を 担 当 す る 。大 学 院( M)自 由 科 目 「人 間 環 境 学 研 究 a・b」(都 市 の風 土 学 )は 、 学 部 生 の 聴 講 も 可 能 。 専門分野の紹介 1.〈風 土 の論 理 〉:「風 土 とは何 か」を存 在 論 的 に考 察 する。西 洋 形 而 上 学 の自 己 中 心 性 を相 対 化 する「地 理 哲 学 」の地 平 を切 り開 く試 み。 2.〈風 景 の論 理 〉:場 所 ごとに異 なる世 界 経 験 を〈風 景 〉の概 念 のもとに包 括 し、その形 成 過 程 を構 造 論 的 ・ 弁 証 法 的 にとらえる。風 土 学 の認 識 論 に相 当 する。 3.〈邂 逅 の論 理 〉:風 土 的 主 体 同 士 の出 会 いによって開 かれる〈間 風 土 的 世 界 〉の展 望 を打 ち出 す。風 土 学 の実 践 論 に相 当 する。 以 上 の三 部 作 から成 る風 土 学 の理 論 を仕 上 げることが、私 の研 究 者 としてのライフワークである。 その分野を知るためのおすすめの図書 ○和 辻 哲 郎 『風 土 』、岩 波 文 庫 、1979 年 19 世 紀 ドイツにおける気 候 風 土 の学 (Klimatologie)と解 釈 学 的 存 在 論 (ハイデガー)から着 想 を得 て生 ま れた本 書 は、風 土 学 のいまもって唯 一 の古 典 である。複 数 のアプローチが混 在 するために、各 章 の不 統 一 を来 たしているが、文 化 の多 様 性 に対 する直 観 は鋭 く、創 見 に富 んでいる。とりわけ風 土 の類 型 論 (第 二 章 )には、和 辻 自 身 の旅 行 体 験 にもとづく間 風 土 的 な〈邂 逅 の論 理 〉が認 められる。 ⃝アンリ・ルフェーヴル『空 間 の生 産 』、斎 藤 日 出 治 訳 、青 木 書 店 、2000 年 。 過 去 の哲 学 は〈時 間 〉を重 視 する反 面 、〈空 間 〉の意 義 を根 本 的 に反 省 してこなかった。マルクス主 義 者 として 20 世 紀 を生 きぬいた著 者 は、権 力 によって空 間 が生 産 される経 緯 を「空 間 の弁 証 法 」によって明 らか にする。内 容 は多 岐 に渡 り、大 部 でかなり読 みにくいが、空 間 の多 元 性 を追 究 する風 土 学 にとって、『風 土 』 と同 様 、古 典 的 な意 義 をもつテクストである。 ○九 鬼 周 造 『偶 然 性 の問 題 』(京 都 哲 学 選 書 5)、燈 影 社 、2000 年 。 「偶 然 性 とは必 然 性 の否 定 である」――この書 き出 しが物 語 るように、存 在 の必 然 性 をつねに追 究 してきた 西 洋 哲 学 に対 して、九 鬼 は「無 いことの可 能 性 」という反 対 の観 点 から世 界 を捉 えなおそうとする。偶 然 は、 「独 立 なる二 元 の邂 逅 」を意 味 する。異 なる風 土 に生 きる主 体 同 士 の出 会 いが偶 然 だとすれば、本 書 の標 的 は、まさに〈邂 逅 の論 理 〉にあると考 えられる。有 名 な『「いき」の構 造 』(岩 波 文 庫 ほか)も、男 女 の出 会 い に即 して同 じテーマを扱 った名 著 である。 ⃝島 岡 由 美 子 『わが志 アフリカにあり』、朝 日 新 聞 社 、2003 年 。 「飢 えた数 億 の人 を救 うために自 分 に何 ができるか」を一 生 のテーマとしてアフリカに渡 った日 本 人 青 年 島 岡 強 の志 と生 き方 を、伴 侶 となった著 者 が驚 くべきエピソードの数 々とともに紹 介 している。己 れの風 土 に 根 ざしつつ他 の風 土 を生 かそうとする、一 人 の〈間 風 土 的 主 体 〉がここに存 在 する。
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