小説 - あるかいど

あるかいど
第五十七号
秋号
目次
蝉の声
風にすべてを委ねたら
高原あふち
南
遥
赤井
晋一
[小説]
シェルター
岡っ引の女房捕物帖︱︱涙雨
伊吹
耀子
牧山
雪華
森
かつら
沈む村
池
誠
おいしいかお
花
火
高畠
寛
103
住田真理子
渓
流
132
ハイネさん
4
20
37
53
151
69
168
善積
健司
佐伯
晋
木村
誠子
205
号の反響 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
240
﹁音楽紀行﹂
Memoria collectoris papilionum
ライプツィヒの背骨
﹁エッセー﹂
蝶蒐集家の手記
・
247
編集後記 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
表紙・扉絵
髙原颯時
デザイン
村尾雄太
255 254 251
同人誌評︵文校関係誌︶
あるかいど
56
同人名簿 ⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮⋮
55
︻あるかいど
日付︶
・ 号の反響︼
︵6月
27
﹁ あ る か い ど ﹂ 木 村 誠 子﹁ 豚 小 屋 の
■神戸新聞﹁同人誌﹂
56
︵7月
日付︶
で描かれた秀作だ。︵野元正・作家︶
■神戸新聞﹁同人誌﹂
豊橋の大学に通う、同人誌﹁豚小屋﹂の
人組と僕︵シュン︶の5 人は、愛知県・
礼 節 ﹂。 ハ ル と カ ホ、 キ オ と エ ツ コ の2
山陰の地方大学の男子学生4人の友情物
阪文学学校内︶西田恵理子﹁ホッパー﹂。
﹁樹林﹂606︵大阪市中央区谷町、大
灯がともる3作品を選んでみた。
止の海辺の町にいた。拓海は頭に残る画
像から帰りのバスの時刻を告げる。そし
て拓海の身に︱。結末は哀しいが、4人
の青春の鮮やかさと障害を持つ拓海の爽
やかさが心に残る好短編だった。
︵野元正・作家︶
号。木村誠子﹁豚小屋
■全作家文芸時評
﹁あるかいど﹂
た。西脇で独り暮らしのカホとは、かす
が不自由ながら即興詩で歓迎してくれ
施設入所のハルは脳梗塞の後遺症で言葉
人 の 故 地 を 訪 ね る。 エ ツ コ の 墓 を 詣 で、
きっぷで4
の永眠を知らせるはがきも受け取るが無
他に大入り袋が出るほどの繁盛ぶり。拓
には無頓着。でも、彼のおかげで日給の
客を笑いや身ぶりで引きつけるが、商売
る。ホッパーという呼び込み役の拓海は、
シャなどの光り物を売る屋台を任され
ア ル バ イ ト で 修 司 と 拓 海 は、 カ チ ュ ー
の 天 才 と 思 っ て い る。 蓮 の 斡 旋 の 露 店
た。修司たちは応用数理科の拓海を数学
まりに両足をそろえて飛び込むのを見
に描く。作者の特性であろう。
の子との交歓や家族のあれこれを爽やか
の男の子の視点で、隣に住む同学年の女
か。森かつら﹁さやかのこと﹂は中学生
り、実存的な素材を入れてみてはいかが
している。中間部分が長いのでかなり削
テンポもよくラストの結びもしっかりと
の 二 行 が 文 学 的 な 香 気 に 包 ま れ て い る。
の礼節﹂は題名も目を惹くし、書き出し
かなピアノの音に導かれて再会し、播州
海のワンルームマンションを訪れた修司
外は雨。修司は講義室から拓海が水た
語だ。
織を守るカホの今と、キオの最期などを
は、数学などの専門書があふれるゴミ屋
年前キオ
聞く。やがてこの巡礼を小説に書くこと
敷に驚き、大掃除をする。翌日、先着の
視した。定年後、僕は青春
が、僕にとっての礼節だと気づく︱。青
翔太をはじめ4人は台風の影響で遊泳禁
■樹林
﹁小説同人誌評﹂
﹃あるかいど﹄第 号にも秀作が並んで
︵評論家
横尾和博︶
春の蹉跌と郷愁に満ちた感傷旅行︵セン
とカホの結婚挨拶状が届き、
僕は絶望して終わる。卒業後すぐ、キオ
消し、エツコは自死、ハルは精神を病み、
仲間。1967年夏、キオとカホが姿を
人生は青春を経て老いに至る。心の闇に
25
チメンタル・ジャーニー︶が確かな筆致
いたが、ここでは田中美代子﹁長春の夕
251
55
18
10
55
55
55
焼 け ﹂ を 紹 介 し て お く。 二 〇 〇 八 年 に、
七十六歳の﹁私﹂が四十五歳の息子と中
国の吉林省の首都、長春を旅する物語で
︵細見 和之︶
年にじつにふさわしい一篇である。
たのかと思わせるほど。共感し面白く読
ん だ。﹁ 六 月
水入らず﹂息子を失った
夫婦の生活を活写しながら、しんみりと
終わり、ソ連の参戦によって満洲は大混
ある。しかし、満洲の女学校も二ヶ月で
て、わざわざ大阪から満洲に渡ったので
満洲のほうが安全と叔父から知らされ
むことがなかったというのは、そうかと、
うだ。ショパンがパリで生活し故国に住
の運命の歴史を再確認する旅となったよ
略など、隣国の軍事力に翻弄される小国
によるアウシュビッツ、ロシアからの侵
木村誠子
作 曲 家 シ ョ パ ン が 好 き で、
ポーランドに行った話。結局、ドイツ人
旅 行 記﹁ 20 15 ワ ル シ ャ ワ の 心 臓 ﹂
ていたら、それが手続上、延期になって、
﹁桜& 桃
イ ン・ ジ ャ パ ン ﹂ 細 見 牧 代
カナダへの移住権をすぐもらえると思っ
いて、雰囲気が一貫している。
して、作者の自由な精神がよく活動して
れも面白い。オムニバスだが、全体を通
学的に優れている。﹁七月
夏の朝の事﹂
亡き父親の登場の仕方が、自然で異界と
させる。筆致の感覚に鋭さが見えて、文
乱 に 陥 り、 避 難 民 と し て 暮 ら す な か で、
とりあえず亭主を置いて、赤ん坊ともに
)
とうとう母はチフスで亡くなってしまう
考えさせられた。
白く読んだ。人さまの生活事情を知るこ
日付
⋮。長春への旅は、その母を埋葬した場
﹁ 夏︵ オ ム ニ バ ス ︶ 高 畠 寛 ﹂﹁ 五 月
満
員列島﹂は、日本が夜になると海底に沈
とは面白いものである。
空 襲 に よ っ て 学 校 へ 通 う こ と も で き ず、
号
所を確認するための旅だったのだ。淡々
み、 朝 に な る と 浮 上 す る と い う 設 定 で、
﹁ゼロの視界﹂山田泰成
かつて信用金
庫の支店長をしていた父親が、退職後に
︵8月
と し た 記 述 を つ う じ て、﹁ 私 ﹂ を 取 り 巻
俯瞰した日本人生活論を、乾いた視線で
認知症になる。息子の﹁私﹂は、銀行員
文芸同人誌﹁あるかいど﹂
いていた濃密な背景がしだいに浮かび上
描く。じんわりとした文章で、クールジャ
をしている。銀行の仕事や預金者とのト
■文芸同志会通信
がってくる。当時の﹁私﹂は十五、六歳で、
パン的な日本自慢的世相を皮肉ってい
ラブルの様子が細かく描かれていて、興
あ る。 と は い え、 た だ の 観 光 で は な い。
母を亡くしたあと妹、弟との生活を果敢
る。テレビのバラエティなど、コンプレッ
味深い。認知症の父親は、脳血栓で意識
﹁ 私 ﹂ は 日 本 の 敗 戦 の 間 際 に、 満 洲 へ 母
に支えていったのである。確かに、日本
クスを意識した﹁日本の恥の文化﹂はど
帰国する。そんなこともあるのかと、面
現実の融合させる表現に優れていて、ど
の敗戦間際に満洲へ渡った一家があって
こに行ったのか。自慢文化の裏返しだっ
とともに渡った身なのである。大阪の大
も不思議はない。しかし、なんという歴
27
史の皮肉であることか。日本の敗戦七十
56
252
その15歳の少年から見た23歳の青年
作中の﹁ワタシ﹂とは親友の弟の設定で、
他の作品も呼んだが、全部紹介してい
芥川は、松江の景勝に癒やされながらも
脱皮しきれていない感じ。
深い虚無と憂いを引きずる。虚実織り交
不明になり、入院となる。兄弟はいるが、
たら、ただでさえそうなのに、何をして
ど こ も 余 裕 が な い。﹁ 私 ﹂ は 父 親 の 介 添
え と 仕 事 の 両 方 を す る。 疲 労 困 憊 す る。
■﹁あるかいど﹂
号記念号に掲載され
︵宇︶
ではない。改めてかみしめている。
じるものがあった。旅は漫然とするもの
ぜた若き文豪の人物造形は、こちらも感
いるかわからなくなる。
︵8月23日付︶
■読売新聞︵日曜版︶
﹁編集のツボ﹂
﹁詩人回廊﹂編集人・伊藤昭一
この出口の感じられない状況を﹁ゼロの
視界﹂としたのであろう。父親は先の見
込みのない患者専用の病院に移り、亡く
な る。 銀 行 の ト ラ ブ ル を 解 決 し た﹁ 私 ﹂
小説家なんかじゃなく、もっと簡単な人
﹁ 普 通 の 人 に な っ て み た ら ど う だ ろ う。
は支店長になる。ある程度経済的に余裕
がある家庭のケースであるが、それでも、
過去を伴った現在という設定で、面白く
でに、どのようなことを経験しているか、
かいど﹂最新号︵7月15日発行︶に、﹁同
文学学校の有志が創刊した同人誌﹁ある
発表した︱︱田辺聖子らを輩出した大阪
龍之介君は間を置かず短編﹁羅生門﹂を
たが、作者の善積健司さんは、ほぼ同時
方も7月26日の﹁名言巡礼﹂で紹介し
ました。
︵文責
佐伯︶
回全作家文学賞の佳作に選ばれ
た 赤 井 晋 一 さ ん の 作 品﹁ 光 の 射 す 方 へ ﹂
読みやすい。漠然とした題名にふさわし
が、第
く、さしたることがないのだが、そこは
じ月﹂と題した作品が載っている。
生 を ⋮⋮﹂。 そ う 心 中 で つ ぶ や く ワ タ シ
一つの介護の形として、参考になる。
50
の思いを知るよしもなく、松江を離れた
かとない哀愁を感じさせる。
作への意欲を取り戻す。その有り様は当
彼と濃密な旅のひとときを過ごしつつ創
﹁片雲の風に誘われて﹂泉ふみお
団塊
の世代の解説からはじまる。定年退職ま
﹁同じ月﹂善積健司
松江で、兄の恭が
芥川龍之介と親しかったことから、弟ら
く。それなりに面白いが、文学的才能の
期 に 同 じ テ ー マ を 小 説 に 仕 立 て て い た。
芥 川 龍 之 介 が 親 友 の ふ る さ と 松 江 で、
しい人の視点で龍之介の学生生活を描
あったらしい恭を描くのか、松江での芥
253
川のことを書いたのか、歴史的資料から
10
●七月十六日、安保法案が衆院を
通過した。新聞には強行採決と書
いてあるが、圧倒的多数の自民と
公明が賛成したのであり、強行採
決とは言えない。こうなるのが分
かっていて安倍内閣を圧倒的多数
で 選 ん だ の は、 日 本 国 民 な の だ。
●安倍は憲法を改訂して、九条を
無くし、戦争の出来る国にしたか
ったのだ。そこまですると、政権
が持たないから、憲法解釈で、場
合によっては戦争が出来る国にし
た。●憲法学者のほとんどは、憲
法違反だといっている。アンケー
トの結果、国民の大部分は安保法
案にノーといっている。なぜこう
なったのか、間接民主制が、いま
だ根付いていないのだ。多数決で
決めるというシステムを、自民党
は長年悪用してきた。●これを打
破するにはデモしかない。高校生
を含めた女性の姿が目立つ。今回
のデモは、六十年安保のデモと比
べ、大変に明るかった。しかし一
番大事なことは、来年夏の参院選
挙でノーをつきつけることだ。戦
後七十年守ってきたノーベル賞
も の の 平 和 憲 法 を 守 り 抜 く こ と。
︵ひ︶
発行日 2015 年 11 月 1 日
頒 価 1000 円(送料別)
発行人
編集人
編集委員
高畠寛
佐伯晋
木村誠子 小西九嶺 池戸亮太 高原あふち 善積健司
発行所
〒 545-0042 大阪市阿倍野区丸山通 2-4-10-203 高畠方
Tel:06-6654-1750
制 作
㈱セイエイ印刷
〒 536-0016 大阪市城東区蒲生 2-10-33
Tel:06-6933-0521 Fax:06-6933-0241
E-mail:[email protected]
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編集後記
●この度あるかいど発行人である
高畠寛の十冊目の新刊︿漱石﹁満
韓ところどころ﹂を読む﹀が出版
さ れ た。 そ の 読 書 会 が、 あ る か
いど今号の編集会議の後に行わ
れ、芥川賞作家の吉村萬壱氏はじ
め、外部の同人誌からも数名駆け
付けて下さった●取り上げられた
二作品のうちの一つである﹁やさ
しい脅迫者﹂では、多様な視点に
よる読書会の豊かさ、吉村氏のコ
メントへの驚きと感動が自分にと
っての非日常となった●書くこと
と は、 ふ と そ ん な こ と を 考 え た。
三十年ほど前に書かれたこの作
品、その中で登場人物の受話器を
通した泣き声﹁いいいん、いいい
ん、いいいん⋮⋮﹂は、今も読む
者の心の底に訴えてくる力を持っ
ている。改めて書くこと、言葉の
持つ力を痛感した。一つの作品が
書かれたことによって、言葉と思
いは永遠に生きていく。あるかい
ど三十年の歴史は、その思いによ
って繋がり、現在もあるのではな
︵あ︶
いか。そんな気がした。
あるかいど 57 号