バーチャル・エアホッケー・システム

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バーチャル・エアホッケー・システム1)
飯田
栄治2)
A Virtual Air Hockey System1)
Eiji IIDA2)
要
旨
ゲームセンターにあるエアホッケーを、VR 技術を用いて仮想的に体験するシステムを制作した。本システムは、
従来のエアホッケーのようにプラスチックの円盤を打ち合うのではなく、それに見たてた仮想映像を打ち合もので
あり、映像、音響表現を駆使したアミューズメントへの応用として、さまざまな可能性を秘めている。本稿では、
その着想、システム概要、運用結果について報告する。なお、本報告は、金沢学院大学美術文化学部情報デザイン
学科(現メディアデザイン学科)飯田ゼミの学生研究の活動記録の一環としてまとめるものである。
キーワード:エアホッケー、バーチャルリアリティ、エンタテインメントシステム
Keywords:Air Hockey, Virtual Reality, Media Art, Entertainment System
1
はじめに
プラスチックの円盤ではなく、デジタル映像として表
現される。このことにより、盤上には障害物などが出
近年、アミューズメントの分野もバーチャルリアリ
現し、従来の技術では、不可能なゲーム性を加えるこ
ティの技術を用いたものが増えている。カーレースの
とが可能となる。また、アナログでは体験できない変
ゲームに関しては、ネットワークを介して、他者の操
則的な動きやビジュアルエフェクトが可能となる。
作する複数台の車とレースが可能である。今回は、ま
だ、VR 技術が導入されていないゲームとして、エア
ホッケーと VR 技術の融合について検討し試作[1]した。
その成果、問題点等を以下報告する。
2
研究試作概要
エアホッケーとは、図1のように卓球台程度の遊戯
台上で円盤(以下、「パック」図2右参照)を打ち具
(以下「マレット」図2左)で打ち合って、相手のゴ
ールに入れて得点を競うゲームである。遊具台の盤面
の多数の穴から噴き出す空気によりパックの摩擦を極
力低減することで、ホバーしながら高速で移動するパ
ックを打ち合う。
今回、特に、パック部分にバーチャル要素を考慮し、
図1
エアホッケーの外観
1)
:平成2
4年1
0月1
0日受付;平成2
4年1
0月3
1日受理。
Received Oct. 10, 2012 ; Accepted Oct. 31, 2012.
2)
:金沢学院大学 美術文化学部;Faculty of Fine Arts and Informatics, Kanazawa Gakuin University.
※本稿は電気関係学会北陸支部連合大会(2
0
0
9年)にて口頭発表したものを再度整理し纏めたものである。
金沢学院大学紀要「経営・経済・情報科学・自然科学編」 第1
1号(2
0
1
3)
9
8
また、デジタルサウンドによりエンタテインメント性
の向上が実現できた。
図2
3
マレット(打ち具)およびパック(円盤)
類似研究について
図4
類似研究として、図3に示す AR2Hockey[2]があげ
システム構成概要図。
られる。本システムは,ビデオシースルー HMD を使
用し,現実のテーブル上で仮想のパックを打ち合う複
合現実型エアホッケーゲームである.機敏な身体動作
を要求する対戦型ゲームを前提とすることで,位置合
わせや応答性などの技術要求レベルの高い分野に対し
て,実用的なエンタテインメントへの応用可能性を示
した。しかし、プロセッサ処理の時間遅れ、センサー
の誤差等の問題があった。
(a)正面
図3 AR2Hockey
また、ネットワークを用いたエアホッケー対戦シス
テムに関する研究[3]では、ネットワークによる処理の
遅延の問題などが指摘された。
4
本研究の特徴
本研究では、先行研究でおこなわれた技術の限界を
探るというよりは、バーチャルエアホッケーがアミュ
(b)側面
ーズメントマシンとして持つべき要素を再検討するた
めの試作である。特に、HMD の装着などはせずに、
直接プロジェクターにより、机上にゲーム背景として
の陣地やパックの映像等を直接投影することとした。
図5
システム外観およびプレイの様子
飯田:バーチャル・エアホッケー・システム
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本システムでは、人間同士の対戦ではなく、コンピ
ュータ対人間(プレイヤー)の対戦を前提としている。
システム構成は図4のとおりである。ゲームを演出、
制御するための PC が1台、また、PC からの映像出
力を投影するプロジェクター、また、プレーヤーの手
の動きを捉えるためのカメラを頭上に設置している。
また、プレーヤーの手元の俊敏な動きを検出するため
に、PC マウスを組み込んだマレットを用いることと
した。制作したシステムの外観は図5のとおりある。
5
動作原理
本システムは、VR の中でも、Mixed Reality に近い
位置付けといえる。ここで、重要なことは、先行研究
においても指摘されているとおり、プレイ中に生じる
マレットの仮想空間の位置座標と実空間の位置座標の
誤差を短いサイクルで修正する必要があること、また、
手元の俊敏な動きをコンピュータにリアルタイムで取
り込む必要があることを実現する必要がある。
第一の課題
「マレットの位置合わせ」
についての我々
のアプローチは、天井のカメラにより、マレットの位
置を読み取り現実空間の位置を仮想空間の位置として
書き込むこととした。第二の課題「マレットの俊敏な
図6
動きの検出」については、PC マウスの XY 情報を取
処理フロー
得することとした。通常、画像処理のみでこのことを
行うと、システムの性能にもよるが、処理の遅れが違
和感を生む。
(1)サウンド処理
デジタル化により、ゲーム開始と同時に、ゲームの
加えて、第三の課題として、パックがマレットに衝
雰囲気を盛り上げるために BGM を容易にプレーヤー
突した際の衝撃の模擬である。衝撃を厳密に模擬する
に与えることが可能である。また、パックが側壁やマ
ことは困難なため、手元の衝撃を、小型のバイブレー
レットと衝突した際に各種効果音を与えることが可能
タの振動による刺激により簡易に模擬する試みを行っ
である。
た。
動作フローは図6のとおりである。
(2)ビジュアルエフェクト処理
障害物の出現および衝突の際ビジュアルエフェクト
6
バーチャルエアホッケーの各種効果
バーチャルエアホッケーならではの機能について示
す。
については、図7のとおり、通常のエアホッケーでは、
実現の難しい、盤面上への障害物の出現など、アクシ
ョンゲーム的な演出も可能であり、ゲームの複雑さを
実現した。
対戦型バーチャルエアホッケーにおける仮想的に生
また、パックとマレットが衝突した際に、火花や爆
成された視覚・聴覚の同期の重要性については、他の
発のアニメーションを与えることにより、より一層ア
[4[
]5]
研究
においても既に指摘されている。今回は、当
然これらの同期をとりつつ、よりバラエティに富んだ
効果を組み込んだ。
ミューズメント性を高める機能を実現した。
金沢学院大学紀要「経営・経済・情報科学・自然科学編」 第1
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0
1
3)
1
00
トとしての展開の可能性も秘めているのではないかと
のご意見もあった。
8
さいごに
既に述べたように、本システムのコンセプトには19
70
年代商店街アーケードのゲームセンターや観光地のホ
テルの遊技場などでよく見かけたエアホッケーをテー
マとして、取り上げた。本来のエアホッケーは、力一
杯打った際のパックのスピード感とゴールが決まった
際の爽快感など、デジタル技術では、現段階では、実
図7
盤面外観
(3)ゲーム性
現が困難な課題もある。しかし、研究の目標は、体感
部分も含めた完全なシミュレーションを目指すという
よりは、このようなテーマに取り組みながら、新たな
コンピュータ対人間では、必ずコンピュータまたは
可能性など思わぬ発見の楽しみを優先しながら、引き
人間が一方的に勝利してしまうということでは、面白
続き後輩の学生たちにより改良発展を続けてもらうこ
みに欠けるため、コンピュータ側のマレットの移動速
とを願う次第である。
度にリミットを設けるなど、プレーヤーから攻撃に対
して、コンピュータも失点するようなゲーム性の調整
が必要であった。
謝辞
本システムは、2009年金沢学院大学美術文化学部情
報デザイン学科折井孝旭君(当時4年生)を中心とし
7
成果および問題点
今回、試作したシステムを複数の被験者にプレイし
てもらい、コメントを得た。
て制作したシステムである。折井君の発想のユニーク
さに敬意を表する。また、本システムに関して、20
09
年9月に北陸先端科学技術大学院大学で実施された電
気関係学科北陸支部連合大会および2009年1
1月の金沢
当初、映像と音のみでプレイしていたが、被験者に
市民芸術村での作品展示、そして、2010年3月に実施
よるコメントにより、現実世界で起こるパックがマレ
された石川県立美術館での卒業制作展の際、貴重なご
ットに衝突する衝撃が欲しいとのコメントがあり、形
意見を頂いた多くの方々に感謝したい。
態電話のバイブレータを埋めこんだところ、瞬時に起
こる強い衝撃は模擬できないが、振動機能の付加によ
参考文献
り多少臨場感が増したとのコメントを得た。今後、衝
[1]折井孝旭、飯田栄治、バーチャルエアホッケーの試作
撃発生の仕組みを検討する予定である。
本システムは、実際のエアホッケーのスピード感は
無いとのご指摘があった。その点、まだ、改良の余地
がありそうである。
について、電気関係学会北陸支部大会、2
0
0
9.9
[2]大島登志一、佐藤清秀、山本裕之、田村秀行、AR∼2
ホッケー:協調型複合現実感システムの実現、日本バ
ーチャルリアリティ学会論文誌3
(2)
,p.5
5−6
0,1
9
9
8
−0
6−3
0
プレーヤーがマレットの向きを盤面に対して、傾け
[3]河野義広、塙大、米倉達広、相補予測機能を用いた P2
た状態でマレットを移動させた際、パック映像がマレ
P 型ネットワーク対戦、エアホッケーの試作、日本 VR
ットを通り抜ける現象があった。これは、マウスの俊
学会8th 大会論文集 p.3
8
3−3
8
6,2
0
0
3−0
9−1
7
敏さを検出するために PC マウスを使用したことが理
[4]松浦弘明、安部憲広、田中和明、対戦型バーチャルエ
由と考えられる。今後、検討の余地がありそうである。
突然、障害物が出現するなど、エンタテインメント
性については、「スーパーマリオ」等のアクションゲ
アホッケーゲームの構築、9th 日本バーチャルリアリ
ティ学会大会論文集、2
0
0
4−0
9−0
8
[5]松浦弘明、安部憲広、田中和明
バーチャルリアリティにおける対戦型エアホッケーゲ
ーム的要素が加わった新しいゲームシステムの可能性
ームの構築、ヒューマンインタフェースシンポジウム
があることが分った。ゲーム性と同時にメディアアー
論文集2
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4年