外に出て学んだこと 現代社会文化研究科 佐治 麻知子 まず、私は普通の学生生活を送ってはいません。 2012 年 3 月、私は人文学部を卒業しました。卒業後は 2 年少し、地元で働いていました。 そんな中、もやもやとした気持ちがうずまくようになっていました。それは「留学を諦め た後悔」でした。学部生の頃はいつでも海外には行けるから、と思っていました。しかし、 働きながら、 「留学しておけばよかった」という気持ちが募るばかりでした。社会人 3 年目 にさしかかろうとした頃、会社の先輩に「佐治さん、フランスの話をしている時が一番楽 しそうだね!」と言われ、自分の気持ちに気づきました。新潟大学院には社会人入試制度 があり、2 年の職務経験があれば受験することができました。お世話になっていた先生の後 押しもあり、色々なタイミングがうまく重なり、もっと勉強したいという気持ちとともに、 「留学」という目標を達成するために、大学院生として新潟大学に戻ってきました。 新潟大学には、フランスにおける交換留学先として、ボルドーとナントの二都市がありま す。私がナントに留学しようと決めた理由は、後にお話しますが、都市計画に興味があり、 新潟と姉妹都市であるナントはユニークな都市計画を行っているため、市役所にてインタ ーンシップをしたいと思っていたためです。 ナント大学における交換留学は大学の学部に所属するのではなく、付属の語学学校である IRFFLE に登録してフランス語を学びます。全部で 6 つのレベルにクラスがわけられてお り、初級(A1・A2) 、中級(B1・B2) 、上級(C1・C2)があります。レベルによって多少 の違いはありますが、授業の種類も充実していて、長文読解(Compréhension écrite) ・文章 表現(Expression écrite)・リスニング(Compréhension orale)・口頭表現(Expression orale) という 4 つの授業を中心に、文法・音声学(発音)という補完的授業があります。その他 にも、フランスの文化・歴史・地理についての授業や、個人の好みに合わせた選択授業も あります。私は B1 の時に文章表現の授業を、B2 の時にフランコフォニーとフランス文学 の授業を選択しました。他にも、フランス食文化やフランス映画、フォトグラフィーなど の選択授業がありました。授業はひとつ 2 時間で、B1 クラス、B2 クラスとも週 18 時間の プログラムになります。 授業の内容としては、新聞などを用いた長文読解の練習やラジオやテレビ番組の聞き取り、 様々な内容の文書や手紙の作成、会話の作成、ある問題に対する自分の意見の発表などを やりました。座学というよりもグループワークが多く、授業中にもコミュニケーションを 求められます。お互い協力して分からないところを補い合いながら課題を進めていくこと は、成長を実感できます。また、プレゼンテーションもしました。中でも印象に残ってい るものは、フランス国内にある場所、建造物等での中で、次に世界遺産に申請したいもの をグループごとに紹介し、1 番ふさわしいものを決めるというものでした。私のグループで はフランス中部に位置するディジョンという街全体を世界遺産にするべきものとして紹介 しました。理由は、私が旅行した先でもあり、歴史的にも食文化的にも伝統を守り続けて いるからでした。みんなで何回も連絡を取り合って、話し合い、協力し合って発表したお かげで、1 番多くの人に選んでもらえました。達成感はもちろんのこと、フランス語でのプ レゼンの成功はとてもうれしく、友達との絆もより深くなりました。 交換留学生は、プログラムの中に夜間授業も含まれていました。週に 2 回、2 時間程度 IRFFLE のマスターの学生に授業をしていただきました。この授業は、主に IRFFLE 以外 の学生や社会人の方が受講しており、IRFFLE の外にも交流の幅を広げることができまし た。夜間授業で知り合った方のホームパーティーに招いてもらったこともありましたし、 プレゼン用に作っていったパンデピス(スパイス入りのケーキ)をみんなで食べたりと、 わきあいあいとしていて、楽しい時間でした。 この学校は、外国人留学生向けの語学学校であり、クラスにはフランス人がいません。学 生の人、社会人の人、子供がいる人、年齢も宗教も国もばらばらです。何が面白いかとい うと、様々な面で国際意識を高めることができるということです。みんなで各国の料理を 持ち寄ってパーティーをしたりもしました。個人的にはスーダン料理がおいしかったです。 他の面でいえば、結婚制度について授業中に討論したり、選挙のやり方について話したり もしました。 9 か月間の学校生活を終了して、フランス国内、フランス語圏の一人旅は問題なくできるよ うになりました。私はあまり多くの旅行をしたというわけではありませんが、何か所か一 人で旅してまわりました。ある程度の諸手続きも一人でできるようになりましたし、スー パーやお店の店員さんたちと楽しく世間話ができるようになりました。相手の言っている ことが分かるというのは本当に素晴らしいことです。あとは私がもっとたくさんのことを 返せるようになれば、相手にももっと会話を楽しんでもらえるだろうな、と感じています。 ナントには毎日朝方フリーの新聞が配られていますし、大学でも無料で新聞が読めます。 専門的な解説などはまだまだですが、内容はつかめるようになり、情報を把握することが できるようになりました。上達を実感するにつれ、やれることも多くなり、まだまだ足り ないな、もっと上達したいと感じます。日本に帰国した今、いかにフランスで伸ばした能 力を維持・向上させていくかが大切だと思います。 実は、2 回ほど学校にバリケードができました。理由は、フランス政府による労働法改正案 に対するデモです。授業中にも議題になりました。新聞には毎日のように載っていました。 これはナントだけに限らず、フランス全土で起きている大規模なデモでした。2016 年 3 月 下旬から、毎月最低 1 回、多い時は毎週、労働組合や学生の呼びかけで合計 20 回以上の大 規模なデモが行われました。警察との衝突もあり、催涙弾も使われていました。危険を避 けるためにも、情報収集に努めなくてはなりませんでした。危険なのは、デモ隊ではあり ません。デモやストライキはフランスの法律で認められている権利です。しかし、それに 便乗して危険行為をしている、所謂「壊し屋」集団がいます。ショーウインドーを破壊し たり、ボヤ騒ぎを起こしたり、警察を攻撃しているのはこの集団です。このことを認識で きましたし、フランス人の政治に対する意識の高さを実感しました。 「世界」という認識を持った出来事としては、2015 年 11 月に発生したパリ同時多発テロ は避けられません。私がフランスにいる 1 年間で様々な国、フランス国内の様々な都市で テロが発生しました。ここは日本ではないと、強く感じました。といっても、日本も必ず しも安全とは言えません。もっと国際的な問題に関心を持たなければなりません。 IRFFLE の学生には様々な理由でフランスに来ている人がいます。母国の情勢が悪いから、 家族と子供の頃にフランスに来たという友達もいます。フランスに来てから、国際的なニ ュースが気になります。それは友達の母国だからです。友達の国がどうなっているのか、 何か事件があれば、友達の親族は無事なのか、他人ごとではなくなりました。日本ではフ ランス語は学ぶことはできますが、こういった意識をしっかりと形成することはできなか ったと思います。 私はトビタテ留学 JAPAN という文部科学省・民間企業共同奨学金制度の 2 期生として、留 学しました。充実した補助に加え、サポート体制もしっかりとしています。他のトビタテ 生と交流する中で、色々な問題認識、価値観をもつことができました。そのプログラムの 一環として、8 月 1 日~24 日までナント市役所の都市計画プロジェクトに参加させていた だきました。私の専門は都市計画ではありませんが、快く受け入れてくださり、とても親 身になって接していただきました。住みよい街として知られるナントのアイディアを新潟 に持ち帰るために、主に、そのプロジェクトチームが担当している地区と新潟市の比較を 行いました。ナント市役所の方々も、新潟市に大きな関心を持ってくださり、プロジェク トに携わっている市役所以外の企業の方々と面会させていただいたり、一緒に地区を巡っ たりと、大きな協力もあって、大変充実した研修になりました。フランス語に関しては、 やはり会話のスピード、語彙力が劣っていたため、難しいところがありました。しかし、 面談を録音させていただき、寮で再度聞き直し、質問をするという流れを大切にし、その 日その日の内容を理解できるように努めました。何よりも、皆さんが私に合わせて、ゆっ くりと、単語を変えながら説明してくださいました。環境に恵まれた研修でしたし、ナン トの面白いアイディアを発見するのと同時に、新潟市にもたくさんいいところ、面白い計 画があるという発見がありました。新潟市の良さを再認識するきっかけになりました。 留学というものは、 「世界」を知ることによって、日本を外から見ることができます。私は 他の国から見た日本を知ることができましたし、もちろんこのままではいけないというと ころも見つけました。それでも、フランスに住んでみて、フランスのいいところ・悪いと ころ、日本のいいところ・悪いところの両面を知ることで、やっぱり自分の母国・日本が 好きだと再認識できました。 私は 7 年前にカンペールというブルターニュ地方の街で 1 日だけホームステイをしました。 たった 1 日だったのにとても思い出深い場所でした。先日 7 年ぶりにその家族と再会する ことができました。7 年前は身振り手ぶりや単語での会話でした。今は辞書を使いこともあ りませんでした。2 日半ほどしか滞在できませんでしたが、昔の思い出を話したり、海に行 ったり、ホームパーティーをしたり、トランプをしたり…。フランスにも家族ができたよ うな気持ちです。 また、ナントには私の同級生が住んでいます。私が不安なく、1 年間過ごすことができたの も彼女と彼女の家族のおかげだと思います。本当に感謝しています。 最後に、留学期間中、何よりも強く感じていたことは、自分の身の程を知ることができる ということでした。自分がどれだけ内向きな考えを持っていたのか、どれ程たくさんの人 に支えられて今まで生きてきたのか、特に家族の存在の大きさを強く実感しました。家族 にどれだけ心配をかけ、迷惑をかけているのか、それにもかかわらず、私を留学に快く送 り出してくれた家族には感謝してもしきれません。自分の中の家族の存在の大きさを実感 した 1 年でした。 長くはなりましたが、留学というものは自分にいいところも悪いところも様々なことを教 えてくれるものです。 「百聞は一見に如かず」といいますが、実際に見て、体験して分かる ことがあります。ぜひ、勇気をもって、外に飛び出してみましょう!
© Copyright 2024 Paperzz