1.2 電子注入材料の重要性 実用化には有機 EL 素子の駆動電圧を下げる必要がある。駆動電圧の低減は電力効率の向 上 に 繋 が る 。 有 機 E L の 電 極 か ら 有 機 層 へ の エ ネ ル ギ ー 障 壁 は 高 電 圧 化 、低 効 率 化 に 繋 が る 。 電極の金属と有機層の間への 0.5-1.0 nm の極薄膜のアルカリ金属化合物の挿入は素子の劇 的な低駆動電圧化に効果がある。1997 年、Mason らは Mg/Ag に変えて LiF/Al を陰極に用 いることにより、素子の大幅な低電圧化が可能になるとともに発光効率が 1.4 倍になること を報告した 4) 。100 mA/cm2 時 で は、Al の み と 比 べ て 7V も 駆 動 電 圧 が 低 下 す る。 同 様 に、 脇 本 ら は ア ル カ リ 金 属 化 合 物 で あ る L i 2O , N a C l , K C l な ど の 無 機 物 を 用 い る こ と に よ り 、 有 機 EL 素子の大幅な低電圧化が実現できることを示した 5) 。これらの例は、陰極から電子輸 送材料へのエネルギー障壁を低減することにより、大幅なデバイスの低電圧化が可能なこと を示している。 図 4 L i F / A l を 陰 極 に 用 い た 有 機 E L 素 子( 文 献 4 よ り 許 可 を 得 て 転 載 ) 図4:LiF/Al を陰極に用いた有機 EL 素子(文献 4 より許可を得て転載) 1.3 電子輸送材料の化学ドーピング アルカリ金属塩ではなく、アルカリ金属そのものを有機物と共蒸着させることにより、素 子の駆動電圧を大幅に下げることができる。化学ドーピング法と呼ばれるこの技術は、ラジ カルアニオンの生成により内部フリーキャリア密度を増大させ、陰極からのエネルギー障壁 低 減 と 伝 導 率 の 向 上 を 実 現 す る 。 1 9 9 8 年 に 城 戸 ら は 、 L i , S r, S m 金 属 を A l q と 共 蒸 着 さ せ た層を用いることにより、Al 電極を用いても低電圧化が可能であることを報告している 6) 。 同 様 に 2002 年、Huang と Leo ら は Bphen/Li を 用 い る こ と に よ り、Alq を 発 光 層 に 用 い た 素 子 で 、 2 . 9 V, 1 0 0 0 c d / m 2 の 輝 度 を 得 て い る 7) 。 1 9 8 7 年 の Ta n g ら の 素 子 1) に 比 べ る と、5 03 2. 電子輸送材料の設計、合成と有機 EL デバイス特性 2.1 分子設計 電子輸送材料は電子を受け取る必要があるため、電子不足な芳香環であるオキサジアゾー ル、トリアゾール、イミダゾール、ピリジンなどの誘導体が一般に用いられる。ここでは、 分子設計の参考にベンゼン環へ窒素を導入したときの HOMO/LUMO レベルの変化を DFT 計 算 で 検 証 し た 結 果 を 表 に ま と め た( 表 1 )1 6 )。 式1 表 1:DFT 計算による HOMO/LUMO (eV) エネルギー B3LYP 6-311G+(d,p)//6-31G(d) 表 1 D F T 計 算 に よ る H O M O / L U M O( e V )エ ネ ル ギ ー B 3 LY P 6 - 3 1 1 G +( d , p )/ / 6 - 3 1 G( d ) compound HOMO (eV) LUMO (eV) benzene (1) 7.07 0.49 pyridine (2) 7.25 1.15 pyradine (3) 7.20 1.91 pyridazine (4) 6.75 1.89 pyrimidine (5) 7.31 1.65 triazine (6) 7.97 2.02 基 本 と な る ベ ン ゼ ン 1 の HOMO/LUMO は 7.07/0.49 eV で あ る。 窒 素 を ひ と つ 導 入 し た ピ リ ジ ン 2 は 7 . 2 5 / 1 . 1 5 e V で あ り 、 H O M O が 0 . 2 5 e V, L U M O が 0 . 6 6 e V 深 く な る 。 こ の ことから、窒素をひとつ導入するだけで大きく電子受容性が向上することが分かる。さらに 窒素を 2 つ導入したピリミジン 5 では、LUMO 1.65 eV となり、ベンゼンと比べて 1.16 eV も 深 く な る 。 ま た 、ト リ ア ジ ン 6 で は 、L U M O 2 . 0 2 e V と 1 . 5 3 e V も 深 く な る こ と が 分 か る 。 この結果から、分子骨格の適切な場所に窒素を導入してやることで、高性能な電子輸送材料 が実現できることが分かる。しかしながら、電子輸送性を発現するためには、窒素をどこに 入れても良いわけではない。詳細は後ほど述べる。 05 7 B3T は Ip が 6.7 eV と深く、高いホールブロック性を有する 23) 。緑色有機 EL 素子に用いら れ 、 最 大 6 8 . 9 c d / A( E Q E 1 9 . 8 % )と 高 い 電 流 効 率 を 示 す 。 し か し な が ら 、 L i F / A l か ら の 電 子 注 入 効 率 が 悪 く 、 駆 動 電 圧 が 高 い 。 ビ ピ リ ジ ン を 有 す る B B T B は 1 0 –3 c m 2/ V s オ ー ダ ー の 高い電子移動度を示す 24) 。 ベ ン ゾ ホ ス ホ ー ル ス ル フ ィ ド 誘 導 体 D B P S B は 2 x 1 0 –3 c m 2/ V s の 高 い 電 子 移 動 度 を 示 す。 対 応 す る ベ ン ゾ ホ ス ホ ー ル オ キ シ ド 誘 導 体 DBPOB と 比 較 し て 1000 倍の移動度を持つ 25) 。これは P=O が大きな極性となり、トラップとして働くからだと 考 え ら れ て い る 。 P = S の 極 性 は 相 対 的 に 小 さ く 、 T L C の 結 果 、 R f 値( C H C l 3 / E t OA c = 5 / 1 )に D B P S B( 0 . 8 3 )、 D B P O B( 0 . 0 7 )と 大 き な 違 い が 見 ら れ て い る 。 リ ン 光 素 子 用 電 子 輸 送 材 料 は 例が少なく、また、系統的な研究も少ないのが現状である。今後、系統的に光・電子物性を 検証することで、電子輸送材料の設計指針が得られてくるだろう。 2.2 リン光デバイスに用いられる電子輸送材料 上記の電子輸送材料は蛍光あるいは一部のリン光素子には有効であるが、TPBI を除いて 三重項エネルギーが不十分なため、高い三重項エネルギーが必要な青色リン光素子には用い ることができない。青色リン光素子に利用するためには、高い三重項エネルギーが必須とな る。図 9 に固体薄膜のリン光スペクトルを示す 16) 。 Normalized PL intensity (a.u.) FIrpic TAZ BCP 450 500 Wavelength (nm) 550 図 9 固 体 薄 膜 の 低 温 リ ン 光 ス ペ ク ト ル( 5 K ) 図9:固体薄膜の低温リン光スペクトル (5K) 07 だろう 42) 。限定された例ではあるが、材料の構造と物性、デバイス特性の関係が明らかに なりつつある。また、固体薄膜中での弱い分子間相互作用を利用する例も出てきている。こ の例に代表されるように、今後は超分子化学の概念を導入することで、固体薄膜中の分子間 相互作用のデザインまでを含めた新しい技術が確立されるだろう 43) 。洗練された高次の精密 分子設計により高機能な有機半導体材料、高性能超薄膜が開発され、その結果、高性能有機 EL デバイスが次世代ディスプレイ、照明光源となること期待している。本解説が開発の一 助となれば幸いである。 リン光有機 EL デバイスによく用いられる材料をまとめた。 ① リン光発光材料 発光材料にはイリジウム錯体が一般に用いられる。重原子効果により常温でリン光発 光 を 実 現 す る 。青 、緑 、赤 の 各 色 が 報 告 さ れ て い る 。デ バ イ ス 利 用 に は 、発 光 量 子 効 率 、 発光寿命も重要な因子となる。 N Ir F F ② ホール輸送材料 N O N O N Ir 3 3 2 N Ir N N N N Si ホール輸送材料には一般的にアリールアミン系材料が用いられる。高い三重項エネル ギ ーNを 実N現 す る た め に 共 役 の 切 断 、ね じ れ た 構 造 が 導 入 さ れ て い る 。 I p = 5 . 6 ~ 5 . 8 e V F Ir O N O 程度の材料が多い。 F Ir 3 3 2 N N N N Ir N NN ON N O N N N Si N N N N N N N N O NN N O N CH3 N N H3C N N N N N N Si Si N 23 P O O
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