スポーツパフォーマンス系

スポーツパフォーマンス系
しお
かわ
かつ
ゆき
氏 名
塩
川 勝 行 講師
主な研究テーマ
□サッカー選手の有酸素能力の向上に関する研究
平成20年度の研究内容とその成果
研究では、男子大学サッカー選手を対象
サッカーは前後半90分を激しく動き回ら
にグラウンドにおいて心拍数と走速度の変
なければならないスポーツです。その90分
化から簡易にATを測定できるコンコーニ
間で選手は約8,000m~12,000mを移動し
テストを実施し、心拍数及びその際の走速
ていると言われ、サッカーにおいて有酸素
度を用いて個別的なトレーニング強度を設
性能力は、技術や戦術と同様にチームの戦
定し、実践させることで選手の試合中の移
術的な意図を実行するために欠くことので
動距離と心拍数の変化及びフィールドテス
きない能力であるということができます。
トからトレーニング効果を検討しました。
AT測定の利点は、選手の有酸素性能力
選手は男子大学サッカー選手10名とし
が評価できることに加え、これに基づいた
て、被験者は心拍数計を装着し、10人同時
個人毎のトレーニング強度が設定できると
に、200m/分の速度でランニングを開始
いう点であります。一般的に、ATを測定
し、200m毎にスピードを2~4秒ずつ上
するために実験室で行なう測定は、実際の
げて行き、最大努力まで走速度を漸増させ
指導現場において経済的、時間的、物理的
ました。走速度とそのときの心拍数の関係
な面から実施することが難しく、選手達に
をグラフにプロットし、コンピュータによ
も大きな負担を与えます。そのため実際の
り算出した回帰直線を引き、2直線の交点
指導現場では簡易に測定できる方法が望ま
をトレーニング強度・走速度としました。
しいと言えるでしょう。
日常行っている所属クラブのトレーニン
フィールドで簡易に測定することが可能
グ後に、コンコーニテストで得られたト
であるコンコーニテストは、個別に設定
レーニング強度・走速度を個別に提示し、
した強度でのトレーニングを行うことで、
自分で速度を調節する方法を用いました。
サッカー選手の有酸素性能力に向上をもた
そのトレーニング強度において、20分間の
らし、試合中でのパフォーマンス向上に有
持続的なランニングを週2回、計15週間に
効である事が考えられます。
わたって行いました。 表2 トレーニングによる変化
トレーニング前
トレーニング後
172.8±5.0
*
177.2±3.8
ATスピード(m/分)
247.2±18.7
**
256.0±14.4
試合中の移動距離(m)
10031±596
***
10763±523
試合前半に比べた後半の移動距離の減少率(%)
-8.2±3.2
-6.2±6.0
試合中の平均心拍数(拍/分)
168.6±6.6
165.5±7.3
クーパー走(m)
3243±158
*
3283±126
69.5±1.3
69.0±1.5
AT心拍数(拍/分)
シャトルランテスト(秒)
平均±標準偏差。 *: p<0.05, **: p<0.01, ***: p<0.001。
その結果、15週間のトレーニングによ
いうことでした。また、「トレーニング後
り、AT心拍数、ATスピード、試合中の
(3-2で勝利)の試合中のパフォーマン
移動距離、及びクーパー走による走距離は
スは、トレーニング前の試合(1-2で敗
大きく向上しました。
北)に比べ、後半逆転したのですが、特に
後半の運動量の増加は明らかでした。そし
選手達の15週間のトレーニング後のコメ
てまた、後半の技術的なミスの少なさ、ルー
ントを聞くと「トレーニングは、かなりき
ズボールの獲得が前回の試合に比べ上がっ
つかった。しかし、試合中はいつもより、
ていて、後半は試合の主導権を握ることが
動いた割にはきつくなかった。」「特に後半
出来たと思います。」ということでした。
の運動量が落ちずにミスも減り、ルーズ
以上のことからコンコーニテストで求め
ボールが拾え、試合に貢献できた。」など、
たAT心拍数、ATスピードがサッカー選
トレーニングはきつかったものの、試合中
手のトレーニングの強度の基準となり、そ
の運動量やパフォーマンスはあがったと感
のレベルでのトレーニングが有酸素能力を
じる選手が多かった。
高める上で、有効なトレーニングであり、
コーチのコメントは「トレーニングはき
実際のサッカーの試合場面でも特に後半に
つかったと思います。選手にこれを行わせ
その効果が大きく現れることが示唆され
るためには、選手にその効果をしっかりと
た。
説明し、高い意識を持たせないと継続し
て行わせることは難しいと思います。」と
これからの研究の展望
サッカーを含め球技における体力トレー
ニングでは、チーム全員が同じメニューを
行なう傾向にあります。体力の向上をサッ
カーのプレーに、チーム戦術に結びつける
かがサッカーにおける体力トレーニングの
目的であります。選手個人は違った体力を
持ち、そしてサッカーの競技特性上それぞ
れのポジションにあった体力が要求されま
す。従って、今後は、目的にあった、個別
な強度でのトレーニングについて検討して
いく必要があると考えられる。