【7】 1 阿波おどりの歴史と魅力について語ろう 教材について [教材選定の理由] 「 徳 島 県 出 身 な ら 阿 波 お ど り が 踊 れ る や ろ 。」 と 言 わ れ て , 小 学 校 の 運 動 会 以 来 , 踊 っ たことのない阿波おどりを怖々踊ってコミュニケーションを図ったという話をよく聞く。 阿波おどりは,それほど本県の文化を代表するものでありながら,その歴史についてき ち ん と 学 ぶ こ と な く 大 人 に な っ て い る 。ま た ,ふ る さ と に つ い て「 阿 波 お ど り し か な い 。」 という否定的な言い方をする若者も多いが,阿波おどりの現在の状況について正確に知 ろうとはしていない。 そこで,まず徳島県の伝統芸能の中で一番馴染みのある阿波おどりの歴史について学 び,その特徴と魅力を探りながら,阿波おどりを大切にする態度を身に付けてほしい。 さらに,これからの阿波おどりのあるべき姿について話し合うことを通して,自信と誇 りを持って阿波おどりを語り,積極的に関わっていこうとする意欲を培いたいと考え, この教材を選定した。 [資料解説] 阿波盆踊図 (資料) 18世紀末の「阿波盆踊図」は最古の盆踊り図とされ,図に見える大きな傘 は依代(よりしろ)といって祖先の霊が宿るシンボルであり,その横では,輪になって 踊る姿が見える。このような小規模な盆踊りは,空き地や辻で踊ったと考えられる。こ のタイプの踊りとして,現在も踊られているのがワークシートの「津田の盆(ぼに)踊 り 」 で あ る 。「 そ れ は 城 下 は ず れ の 津 田 の 漁 村 に お け る 盆 踊 り と し て , 今 日 に 継 承 さ れ て い る 。」『 図 説 徳 島 県 の 歴 史 』( 河 出 書 房 新 社 ) か ら 。 徳島盂蘭盆組踊之図 (資料) 19世紀初頭と考えられる「徳島盂蘭盆組踊之図」の一部では,例えば西新 町二丁目や大工町西一丁目などの町組が100人以上の規模で,巨大な屋台や黒地円形 の方位盤を中心に輪踊りを演じている。戦国時代末期の風流(ふりゅう)とのつながり が指摘される豪華で派手な「組踊り」は,今の「連」の原型といえるものだが,藩の規 制 も あ り 次 第 に 衰 退 し て い く 。「 風 流 踊 り の 再 現 」 は , 平 成 2 3 年 1 1 月 に 藍 住 町 で 実 施 されたもので,派手な衣装や持ち物が目につく。 阿波盆踊図屏風 (資料)19世紀中頃の「阿波盆踊図屏風」では満月に照り映える新町橋で群衆がひし めき溢れ, 一方向に進む行進型の踊りが見られ,現在の踊り歩く「ぞめき」のスタイル が出来上がっている。 幕 末 の 文 化 ・ 文 政 期 ( 1 8 0 4~ 1 8 30 年 ) に な る と , 阿 波 の 藍 玉 が 全 国 市 場 に 進 出 す る な ど活況を呈するとともに踊りに加わる町人も急増したため,辻や空き地では踊れなくな り,道に繰り出す行進型の踊りに変化していったものと考えられる。 ≪参考≫ 「 よ し こ の 」 の 歌 詞 に あ る よ う に ,“ 阿 波 の 殿 様 , 蜂 須 賀 さ ま が , 今 に 残 せ し ” と す る 説 に は , 年 表 の 「 1656年 盆 踊 り 許 可 の 御 触 れ が 出 る 。」 か ら も 異 論 が あ る 。 ま た ,「 こ う し た 起 源 説 話 は , 民 衆 が 自 分 た ち の 踊 り の 由 緒 を , お 殿 様 に 結 び 付 け よ う と し て 生 み 出 さ れ た も の で あ り , 歴 史 的 な 事 実 と は い え ま せ ん 。」(『 あ わ い ろ 』 徳 島 市 ) と いう見方もある。 【現在】…現在,県内では10カ所程度で踊られているが,代表例として徳島市阿波お どりを示す。 連 の 数 < 2010年 現 在 > : 数 百 ~ 1000組 ( 有 名 連 40~ 50, 企 業 連 , 学 生 連 , 気 の 合 う 仲 間 の 連 ) 無料演舞場=3カ所, < 2004年 ~ > 有 料 演 舞 場 = 4 カ 所 の 改 革 … 指 定 席 制 , 全 国 の コ ン ビ ニ で 入 場 券 販 売 , 2 部 入 替 制 ( 18:00~20:00,20:00~22:00) 最 終 連 に 一 般 観 客 が 参 加 可 能 のため大人気。 踊り方:団扇踊り,提灯踊り,やっこ踊り,あばれ踊り→フォーメーションを組む (例 ) 凧 踊 り 演舞場以外の踊り: →「輪踊り」踊り広場や踊りロードで自然発生的に踊りが繰り広げられ,その周囲 に見物の人垣ができるが,その客と踊り子たちの位置関係から呼ばれる。自由奔 放,ダイナミックが特徴。 →「一丁回り」繁華街の路地裏で,簡素な衣装と鳴り物で踊りながら流す。大人た ち が 道 端 で 三 味 線 を 弾 く と ,子 ど も が 寄 っ て き て 踊 り 出 し , 「 い っ ち ょ ,回 ら ん で 」 と少人数で街を巡る。 →「三味線流し」風流に三味線を弾きながら練り歩く盆流し。徳島市や脇町うだつ の町並みで。 日本3大阿波おどり:徳島の他として, 東 京 都 高 円 寺 ( 商 店 街 の 町 お こ し 1 2 0万 人 ), 埼 玉 県 南 越 谷 ( 県 出 身 企 業 6 0万 人 ) *参考:総合教育センターのe-ラーニングの動画の一部をプロジェクターで見せるこ とも有効。 2 授業の目標 (1)阿波おどりについて学び,理解と関心を深めるとともに,ふるさとへの愛着を高 める。 (2)話し合いを通して,阿波おどりの魅力に触れ,伝統芸能として大切にする態度を 養う。 (3)阿波おどりについて自信と誇りを持って語り,積極的に関わることができるよう にする。 ( 4 ) 阿 波 お ど り に つ い て 学 習 す る こ と で ,他 の あ わ 文 化 の 意 欲 的 な 学 習 に も つ な げ る 。 3 授業展開例 学 習 活 動 指導上の留意点 導入 ・資料1を見て,本時のねらいの説 ・生徒それぞれが,阿波おどりと自 2分 明を聞く。 分との関係について考えるよう留意 ・阿波おどりについて知っているこ する。 とを発表する。 展開 20分 ① 阿 波 お ど り の 歴 史 に つ い て , ワークシ ートに 沿 っ て 学 ぶ 。 ・資料本文から,阿波おどりの変遷 ・「 組 踊 り 」「 ぞ め き 踊 り 」 に つ い て について知る。 は,資料の解説を加え,余り深入り しないように理解させる。 ・阿波おどりの隆盛を支えた,徳島 ・踊りの明るい楽天的な調子が,藍 藩の特産物を考える。 商人の経済力を反映していることに 気付かせる ・「 阿 波 の 盆 踊 り 」 で は な く 「 阿 波 ・時期や地域を越えた存在として普 おどり」と呼ぶことで何が変わるか 及していったことに気付かせる。 考え,発表する。 ・お鯉さんについて知る。 ・よしこのやその他のかけ声の意味 を理解させる。 15分 ②阿波おどりの特徴と魅力について, ワークシート に沿って考える。 ・阿波おどりの特徴について,班で ・適切なヒントを出し,特徴につい 話し合い,発表する。 て気付かせる。 ・現在の連の構成や鳴り物の種類を 確認する。 ・阿波おどりを取り上げた文学作品 ・文学作品に阿波おどりが登場する と新聞記事を読む。 ことを知り,ふるさとの再発見につ なげる。 ・全国に広がる阿波おどりの状況や ・踊りの特徴が魅力となって,全国 集客数からその魅力と人気を知る。 や世界に広がり,多くの人に親しま れている現状を理解させる。 10分 ③阿波おどりのこれからについて各 自でまとめ,発表する。 ・現状に関する資料も提示した上で, 自分との関わりを含めて考えさせる。 まとめ ・本時のまとめと次の文化に関する ・阿波おどりに関する学習が他の文 3分 学習の予定を聞く。 化学習への興味付けに繋がるように ・ 各 自 で 自 己 評 価 を し , ワークシ ート に 留意する。 ○をつける。 移り変わる阿波おどりワークシート 1 阿波おどりについてどんなことを知っていますか。 2 阿波おどりの歴史について学びましょう。 (1)( )の中にあてはまる言葉を書き入れましょう。 「阿波おどり」の起源はお盆に祖先の霊を供養するために踊られた( えられています。盆踊りの形態の変遷を見ていくと( その後,徳島城下では,( ② )を継承する( ② ③ ① )にあると考 )の影響が見られます。 )が盛んになりました。盆踊りが 最も流行したのは,幕末の文化・文政期(1804~1830年)です。「阿波盆踊図屏風」 では,現在の阿波おどりにつながる当時の( ④ )が見えます。明治期以降も盆踊り(阿 波の盆踊り)は徳島市民に受け継がれ,郷土の夏の芸能として広く定着していきました。 昭和初期には,日本画家の林鼓浪が「阿波の盆踊り」を( ⑤ )と呼ぶように提唱しま した。 ① ② ③ ④ ⑤ (2)文化・文政期の「徳島の商人たち」は,特に何を売っておどりを支えていたと思いますか。 →( ) ころう (3)林鼓浪が「盆踊り」の名称変更し統一して呼ぶように努力したのは県活性化のためだと言わ れています。「阿波の盆踊り」とでは何が変わると思いますか。 (4)14ページの写真は阿波おどりの有名な三味線演奏家です。 誰でしょう。 3 →( ) 阿波おどりの魅力について話し合いましょう。 (1)資料をヒントに,阿波おどりが400年以上もの期間,受け継がれてきた理由・特徴につ いて班毎に話し合い,下の空欄に適切な語句を入れてまとめましょう。 やぐら ①( )する踊りなので, 櫓 も広場も不用 ②( ③( )奔放さ ④誰にでも( ⑤ 踊りがいろいろ異なっており,飽きない )拍子で陽気なテンポ )に踊れる (2) 4 資料を参考にして,主な鳴り物について, ○ A ~○ F の楽器名を入れましょう。 A :( ○ ) B :( ○ ) C :( ○ ) D :( ○ ) E :( ○ ) F :( ○ ) 阿波おどりのこれからについて考えましょう。 今日の授業を振り返り,自分の関わりも含めて,これからの阿波おどりにどんな風になっ ていってほしいかを書いてください。 【評価】 すごく かなり ふつう すこし ぜんぜん 1 阿波おどりについて関心・理解が高まった。 5 4 3 2 1 2 その魅力に触れ,大切にしようと思った。 5 4 3 2 1 3 今後,県内外で誇りを持って語るとともに, 5 4 3 2 1 他のふるさとの文化についても学びたいと思う。5 4 関わっていこうと思う。 4 組( )番号( )氏名( 3 2 1 ) 教材研究(ワークシートの解答・解説) 1 徳島県で一番有名,お盆の4日間,観光客が毎年130万人,小学校の運動会で踊る等 2 (1) ①盆踊り ②風流踊り ③組踊り ④ぞめき踊り ⑤阿波おどり (2)藍……17世紀中頃,江戸や大坂に店を持つ阿波藍商も多くなり,その経済力が徳島城 下に様々な芸能をもたらした。 (3)「盆踊り」という表現をしなくなったことで,特に徳島県以外ではお盆の時期に縛られ ず, 地域を越えて踊られるよう変化した。 (例)東京都高円寺…8月最終の土日,埼玉県南越谷…8月下旬の金土日, 神奈川県大和市…7月下旬土日 (4)お鯉さん(多田小餘綾)…「個人年表」(徳島新聞 2008/4/7 から抜粋) 1930(昭和5)23歳 芸妓(げいこ)「こゆるぎ」から「お鯉」に改名 31 24歳 レコード「徳島盆踊歌(よしこの)」を収録。 46 39歳 阿波踊り宣伝隊としてよしこのを全国にPR 87 80歳 阿波踊りの名を全国に広めたとして県知事表彰受賞 2006(平成18)99歳 阿波踊りの隆盛と阿波文化の発展に尽力,県民栄誉賞 (参考)①ヤットサーヤットサー→「返事」あ,ヤットヤット。名古屋弁の「やっとかめ」(ひさ しぶり,元気だった?の意味。阿波弁では「えっとぶり」)に通じる。『阿波楽』から ②1かけ2かけ3かけて,しかけた踊りはやめられぬ。5かけ6かけ7かけて,やっぱ り踊りはやめられない。 ③池又菓子屋じゃ,日の出はもち屋じゃ,新町橋まで行かんか来い来い。 ※「エライヤッチャ」(大変なことだが平気だぞ)は,エライコッチャと似た意味。 3 (1)①一方向に行進←櫓も広場も不用なことは,全国的に広まった大きな要因 (例)高円寺 ②二 ←速いテンポで,軽快・陽気なリズム。現代的感覚に合う。 ③自由←(資料5)バイオリン,……三味線,太鼓が基本だが,変わり目が早く,自由。 よつだけ 他に<幕末>鼓,ラッパ,胡弓,四竹<明治>尺八,拍子木,石炭の空箱 <大正>マンドリン,ハーモニカ,クラリネット,アコーディオン <昭和>鉦,バラライカ,篠笛,タンバリン,大太鼓 ④すぐ←徳島市役所市民広場・元町おどり広場で「にわか連」。阿波おどり会館でも。 4 [阿波おどりの現状に関する提示資料] 阿波おどりの連長さんのインタビュー記事を読むと,伝統を受け継ぐためには全体を守 りつつ一部を新しく創造していかなければという意見もあれば,今まで変化させてきたけ れども,原点に戻るべきなのか悩むという意見もある。 阿波おどりは,1970年代以降,大規模連が演舞場で見せる踊りとなり,有名連ではフォ ーメーション習熟のため年間を通して練習している。 ◎全国へ拡大し,徳島の有名連の指導もあり,8月は日本国中で必ず阿波おどりが踊られる。 △高知市のよさこい祭りも阿波おどりをモデルに始まり,札幌,京都,仙台に広がり60周年。 ▲徳島市内に観光資源が少なく,宿泊施設も不足するため,阿波おどり客は日帰りが多い。 《参考文献》 ○『図説 徳島県の歴史』(三好昭一郎・高橋 啓責任編集 河出書房新社) 1994年 ○『第27回国民文化祭・とくしま2012阿波踊り讃歌』(徳島ペンクラブ)2012年 ○『とくしまの自慢本 ○『流儀伝承 ○『阿波楽 あわいろ』(徳島市) 2011年 阿波踊り人の矜持 其の一』(阿波踊り情報誌『あわだま』編集部) 2012年 阿波踊りの愉楽』(猿楽社) 2012年 [主たる関連文献] ○『阿波踊り-歴史・文化・伝統』(阿波踊りシンポジウム企画委員会) ○『阿波おどり物語』(読売新聞社) 1974年 ○『阿波おどりの世界』(朝日新聞社) ○『阿波おどり』(徳島新聞社) 1992年 1980年 ○『徳島県民俗芸能誌』(檜瑛司・皆川学編 錦正社) 2004年 2007年
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