Brexit :ブレグジット - ホーム • ウエスタン・アセット

アンドリュー J. ベルシャウ
ロンドン運用部門統括責任者
EU離脱(Brexit :ブレグジット)
:
ユートピアか、ディストピア(反ユートピア)か
要約
はじめに
 2016年6月23日、英国で
は「EU(欧州連合)に残
留すべきか、離脱すべき
か」を問う国民投票が実
施される予定。
英国では 6 月 23 日に EU 残留か離脱かの是非を問う国民投票が実施される。EU 加盟をめ
ぐる国民投票はこの約 40 年の間に 2 度目で、
近隣諸国とのやや複雑な関係を物語る。チャー
チル英元首相の言葉を借りれば、英国は「欧州と共にある、だがその一部ではない」
。英国
は大規模な自由貿易圏の一部となることを望んでいるが、政治的主権の放棄は願っていない。
これは英国と EU 他国間の姿勢の決定的な違いである。英国は EU を政治的コストを伴う経
済プロジェクトとみており、EU 他国は経済的恩恵を伴う政治プロジェクトと見なしている。
 投票で残留となれば英
国・欧州の金融市場にと
っては好材料となると予
想され、当社は残留の可
能性が比較的高いとみて
いる。今後の貿易関係の
不確実性のリスクプレミ
アムは低下し、社債や株
式は上伸しよう。
こうしたスタンスの相違から、英国は EU 条約において様々な適用除外を得ており、その最
たるものはユーロ非参加で、このため英国は外見的には「半独立的」メンバーと見られている。
しかし、手法は確立されており、英国は当面はこの方式を様々な側面で継続することが予想
される。では、国民投票を行うことにより協定を不安定化するリスクを冒すのはなぜなのか。
政治なのだ。
キャメロン英首相(EU 残留支持派)は、自党(保守党)内の EU 統合懐疑派を抑え込み、かつ、
有権者の支持が保守党から英国独立党へ移る事態に対応するため、2015 年の総選挙を前に
英国の EU 離脱の是非を問う国民投票を行う方針を表明した。当時の世論調査はハング・パー
 一方、離脱となれば、英
ラメント(絶対多数政党のない議会)となることを示していたため、キャメロン首相は恐らく
ポンドは下落し、同様に
この公約を守る必要はないと考えたとみられる。連立政権となっていれば合意の代償は国民
英国・欧州の株式や社
投票の取り下げだったと予想されるが、残念ながら世論調査は外れ、保守党が大勝し、キャ
債の下落が予想される。
メロン首相に公約の履行を迫った。
英国債のイールドカーブ
がスティープ化する一方
国民投票の結果を左右するのは、1950 年代以降、英国が欧州で果たす役割について英国
で、欧 州中核国の 債 券
の議論の中心となってきた内容、すなわち、離脱・残留の経済的影響および主権の問題で
利回りは低下するだろう。 あるとみられる。残留派は前者を利用する傾向があり、離脱派は後者を訴える傾向がある。
しかし、英中銀と欧州中
突き詰めれば、議論の焦点は貿易、投資、移民問題に行き着く。
央銀行(ECB)が流動性
を市場に潤沢に供給す
貿易
ることで、金融システム
EU は英国にとって最大の輸出市場のため、英国の輸出部門に及ぼす影響は多大であり、EU
に不安定さが広がる事
離脱となれば影響は甚大となろう。また、英国が EU との間で多額の貿易赤字を生み出して
態を阻み、市場を落ち いる事実からすれば、欧州大陸諸国が貿易の混乱で失うものは(英国を上回らないまでも)
着かせると予想される。 英国と同様であることが窺われる。実際、図表 1 が示すように、現在、英国の製品輸出が
EU28 ヵ国で占めるシェアは、英国の欧州共同体(EEC)加盟時の水準に匹敵する。単一市
場が貿易を促進しているとする議論は多々あるが、英国から EU への現在の輸出比率は単一
欧州議定書(SEA)の発効時を下回っている。
英国では過去 30 年間にサービス業界が製造業界よりも急速に拡大してきたことは明らかだ
が(ただし、輸出の中心は依然として 55%を占める製品である。
)この場合でさえ、サービ
ス貿易が生み出す黒字の 80%は EU 以外の国との貿易から生じている。英国と EU 他国の貿
易関係については、財貿易とサービス貿易の相対的な強みを見てみると、明らかに EU は前
者が黒字、英国は後者が黒字であり、全体的な貿易収支は EU 他国が黒字、英国は赤字で、
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EU離脱(Brexit :ブレグジット)
:ユートピアか、ディストピア(反ユートピア)か
図表1
英国輸出がEU28ヶ国で占めるシェア
70
50
30
20
10
0
単一欧州議定書(SEA)
40
欧州経済共同体(EEC)
パーセント(%)
60
1960 1963 1966 1969 1972 1975 1978 1981 1984 1987 1990 1993 1996 1999 2002 2005 2008 2011 2014
出所: 英国統計局、ウエスタン・アセット 2015年12月31日現在
英国の2015 年の赤字総額は 677.6 億ポンド、
GDP比 3.6%だった。当然ながら解決策は英国がサー
ビス貿易の自由化と引き換えに財貿易の自由化を交渉することであり、特に金融サービスについ
ては現在の「パスポート制度」合意を継続することだろう。それでも現実的なトレードオフは全
体的に EU に有利とみられる。
EU の政策で上記の推進が容易かには疑問の余地があるが、貿易面で何らかの新形態の取り決
めが合意される必要があるだろう。
EU に代わるもの
英国が EU 離脱を票決した場合、英国と EU には複数の選択肢があり、それぞれに有利な点と
不利な点がある。下記の 3 つの主な選択肢は EU 非加盟国との現在の貿易関係に基づいている。
1)欧州経済領域(EEA)への加盟(ノルウェー方式)
英国がEEA加盟に魅力を見出すことは難しい。加盟しても主権や移民に関する既存問題は
解決されず、その上、EU の資金調達に貢献し続け、規制を(その策定に影響を及ぼすことなく)
受け入れ続けることになる。最も不利な選択肢である。
2)二国間協定(スイス方式 / トルコ方式)
二国間協定については、スイスはその多くを譲歩したが、EEA 加盟よりも不利な点が数多くあり、
EU のみならず世界の他国との貿易交渉に長期間を要する。
3)世界貿易機関(WTO)/ 対外共通関税(CET)
この選択肢は英国の貿易関係(特に金融サービス)にとって間違いなく最も打撃が大きい。
英国内の景況感に悪影響に及ぼす上、英国経済を減速させかねない。
EU 離脱の場合、英国の今後の貿易関係が(少なくとも交渉完了まで)不透明になることは明白
である。上記の選択肢にはそれぞれ長所と短所があり、英国が単一の選択肢を全面的に採用す
る可能性は低いだろう。過去の歴史が示すように、英国は中期的には順応し、トレンド成長へ
の影響は軽微となろう。
投資
英国の経常赤字にとって海外からの投資は証券投資でも直接投資でもファイナンスの主な源泉
である。直接投資は経常赤字をファイナンスするのみならず長期投資の生産性向上の後押しに
も重要であり、EU が英国に対する海外直接投資(FDI)全体の約 50%を提供している。英国が
EU 離脱となった場合には、資本勘定が英国の脆弱さの要因となろう。経常赤字をカバーできず、
極限状態に陥れば、ポンド危機につながりかねない。英国が EU を離脱する場合、海外投資家
は英国への投資を停止するのだろうか? EU 以外からの資金は、英国の単一市場への加盟やビジ
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ネス環境の相対的魅力によってある程度引き寄せられている。英国が単一市場から離脱すれば、
ネガティブに受け止められかねないが、交渉によっては克服できる可能性があり、特に EU 離脱
が票決され、英国を拠点とする企業に対する規制が大幅緩和される場合には尚更である。英国
が特に脆弱なのは FDI が金融サービスに集中しているためであり(図表 2 参照)
、特に EU が英
国の「パスポート制」権利のはく奪を決定した場合には尚の事当てはまろう。
図表 2
英国企業の海外直接投資(FDI)
農業
輸送・保管
輸送
食品
金融サービス
公益
石油/化学/薬品
アドミニスト
レーション業務
小売取引
コンピューター
鉱業
情報・通信・
テクノロジー
その他製造
繊維
プロフェッショ
ナル・サービス
建設
金属・器械
その他サービス
出所: 英国統計局、ウエスタン・アセット 2015年9月15日現在
移民問題
EU への移民や国境管理が取り沙汰されているが、2011 年まで移民比率が最も高かったのは EU
以外の国だった。これ以降、欧州ソブリン危機が広がり始め、緊縮的な経済政策が失業率を
押し上げ、EU への移民比率は急上昇しているが、ピークに達している可能性がある。EU への
移民の大半は意外にも当初の EU15 ヵ国(ドイツ、フランス、イタリア、ベルギー、オランダ、ル
クセンブルク、英国、デンマーク、アイルランド、ギリシャ、スペイン、ポルトガル、オーストリア、
フィンランド、スウェーデン)の国民で、全体の 50%以上を占めている。2004 年に EU に加わっ
た 10 ヵ国(EU10:チェコ、エストニア、ラトビア、リトアニア、ハンガリー、ポーランド、スロバ
キア、スロベニア、マルタ、キプロス)の国民は合計で 27%を占め、残りは 2007 年に EU に加
盟した 2 ヵ国(EU2:ブルガリア、ルーマニア)が占める。
全体的な移民問題の行方を握っているのは依然として主に英国で、EU 以外からの移民の促進
は慎重な政策で、EU が指示したものではない。国民投票のテーマとしては興味深いが、幅広い
議論の一環でなければならない。
ブレグジットの経済的影響
要約すると、EU 離脱の経済的影響は短期的には主に 1)貿易関係で、英国は EU 内のかつての
パートナー国やそれ以外の国と交渉ができる。2)英国政府の規制緩和の度合い、の 2 つの要
因の相互作用で決定される。EU 規制から脱したとはいえ、それを同様に制約的な国内規制で
代替しないことである。両者の先行きは未知数だが、上記の分析を用いればある程度「最善の
推測」を行うことができる。
多数の研究機関が分析を行い、
英国が EU を離脱する場合の短期的な経済的影響を考察している。
明らかに、各モデルは想定されている基礎的変数の弾力性によって概ね決定されている。大半
が様々な貿易協定や規制緩和度に照らして何が起こるのかを把握しようと努めており、各モデル
は分析者のバイアスの強さを表している。図表 4 では各モデル下で予想される GDP への影響
を要約した。
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図表 3
出身国別EU移民比率
140
単位:1000人
120
100
当初EU15ヶ国
80
60
40
2004年加盟EU10ヶ国
20
2007年加盟EU2ヶ国
0
05年12月
07年6月
08年12月
10年6月
11年12月
13年6月
14年12月
出所: 英国統計局、ウエスタン・アセット 2015年9月15日現在 *横軸の時点から過去1年の人数
想定した前提条件に応じて、GDP が中期的に大幅縮小に至るか大幅拡大に繋がるのかが明ら
かになる。予測者の多くが向こう1 ∼ 3 年の英国の予測について苦戦しており、予想は一般的
な許容誤差の範囲に収まっている。当社は GDP 成長率は基本的に生産性、
労働力、
イノベーショ
ン、教育によって左右されるとの前提に立ち、EU 離脱の長期的な正味の影響はほぼゼロとみる。
1945 年以降、英国の GDP のトレンドは年率 2.25 ∼ 2.50%でかなり安定しており、この状況が
大きく変化する理由は見当たらない。
むしろ短期的な影響の方がより問題である。これは EU 離脱の票決直後に不透明感が生じるこ
と等による。貿易交渉がどの程度の期間続くのか、誰が交渉の中心になるのか、また、交渉を
開始する時期はいつなのかなどが課題となる。
EU 離脱が票決された場合、離脱のタイムテーブルは貿易交渉の道筋の決定にとって極めて重
要となり、金融市場を取り巻く不確実性の度合いもそれによって決まるだろう。長期化すれば、
それに応じて関連する貿易交渉がすべて完了する確率が高まり、EU が新たな金融モデルに向
けて調整することもより円滑化しよう。
図表4
EU離脱の経済的影響 シミュレーション
年
2015
分析機関
モデル
オープン・ヨーロッパ
WTO のみ(FTA未締結)
EU域内諸国とのFTA締結
EU域内諸国とのFTA締結+規制緩和
EU域内外諸国のFTA締結+最大限の規制緩和
2014
ロンドン証券取引所
/CEP
2014
国際エネルギー機関
(IEA)
(マンスフィールド)
ベストケース:
2013
経済政策研究
センター
MFN税率(WTO 協定税率)
2004
2004
IEA (ミンフォード)
単独自由貿易
英国立経済研究所
海外直接投資(FDI)の減少
楽観的なケース:関税なし
悲観的なケース:MFN税率(WTO 協定税率)
最も実現し得るケース:
ワーストケース:
英国のEU自由貿易協定を巡る交渉
GDP への影響
-2.20%
-0.80%
+0.6%
+1.6%
-1.1%
-3.10%
+2.6%
+0.1%
-1.1%
-1.8%(年率)
-1.2%(年率)
+3.5%
-2.3%
出所:: 英国立経済研究所、国際エネルギー機関、ロンドン証券取引所、オープン・ヨーロッパ
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まとめ
離脱賛成派は Brexit によって英国がユートピア的な田園風景、豊かな土地に戻り、繁栄し、
世の中はすべてうまく行くと考えている。残留賛成派は Brexit をディストピア(反ユートピア)
の悪夢と表現し、そこでは誰も英国と貿易を行わず、生活水準は落ち、治安は悪化し、英国
は世界の舞台でほぼ完膚なきまでにおとしめられるとみている。国民投票をめぐる政治的誇
張を考慮したとしても、いずれも真実に近くはなく、ことがことだけにいずれの陣営も国民投
票後に何が起こるかを知ることはできない。
しかし、上記の分析は、状況がどのように展開しうるのか、何が障害になりうるかについて一
定のヒントを与えてくれる。貿易が相互に有益であることは明らかで、現に過去 20 年間、英国
よりもむしろ英国以外の EU 国にとって有利に推移してきた。双方とも貿易交渉の合意達成に
強い関心がある。中でもドイツ(過去 10 年間に EU の政策の多くを推進)は EU 域内対英国で
貿易黒字が最大となっており、特にそれを示している。財貨の自由貿易協定は、EU の視点か
らすると賢明に見える。英国の比較優位性はサービス部門(特に金融サービス)から生じてお
り、財市場への参入の観点からすると英国の切り札である。ただし、英国のアキレス腱でもあり、
金融サービスの黒字へ依存していることは明白である。ロンドンでのユーロやデリバティブの
取引で優勢な立場にある ECB とユーロ加盟国は懸念しており、
「パスポート制度」の合意は難
しい恐れがある。この合意がない場合、英国経済が(長期的な出口 / 調整プロセスがない限り)
短期的な落ち込みに見舞われることは明らかで、金融サービスの規制緩和をもってしても部分
的に軽減できるにすぎないだろう。
英国にとって短期的な大きなリスク要因は、資本収支のファイナンスである。2015 年 10 ∼ 12
月期の経常赤字は GDP 比 7%で、資本流入の必要性は深刻である。海外直接投資は長期的な
資金源として重要である。その半分近くは EU から生じているが、英国の経常赤字の中で EU
が占める部分に比べるとかなり少ない。大半は EU 以外の国々から生じているが、英国が単一
市場に参加していることやビジネスに比較的有利な環境であることが影響していることが考え
られる。離脱が票決され、英国に対する海外直接投資が停止や反転する場合、英国は資本
流入を求めて証券投資に依存すると予想されるが、これはより短期的な資金であり、極限状
態となれば、英中銀が金融政策で対応し、資本を引きつけ、ポンド危機を回避するとみられ
る。不透明感から野放図な離脱懸念が高まるようであれば、資本が引きあげられて英ポンドが
急落し、英中銀が金利を引き上げて資本を引き寄せるか紙幣を印刷して不足分をカバーする展
開もあり得ないわけではない。いずれも英ポンド建て資産にとっては明らかにマイナス要因で
ある。EU 資産がこうした環境でも影響を被らないとは考えにくく、周辺国の資産やリスク資産
は直ちにリスクプレミアムを生み出し、中核国の資産は質への逃避買いを引き寄せよう。
主権問題は感情に訴えるテーマであり、特に移民については尚更である。現在のようにグロー
バル化した世界では、真に主権国家といえるのだろうか? 英国の場合、EU 離脱が票決され
れば、数々の規制が戻ってくる可能性がある。国民投票は個々の選択に委ねられるが、英国が
依然として主権国家であるかどうかが、生活の質(健康、教育)に最も影響を及ぼす事柄である。
移民についても、現在の「危機」は主として英国が招いたもので、1990 年代後半から成長の
担い手として移民を積極的に受け入れる政策が行われてきた。EU が 2010 年以降に移民受け
入れで担ってきた役割を軽視するわけではないが、EU のみが担っているわけではない。最終
的には、英国が EU を離脱すれば移民は減少すると予想され、帰化していない市民(EU およ
び英国)への対応が協定の一部となろう。移民の減少が英国の労働市場にとってマイナスなの
かの答えは明白ではない。労働力の供給減が賃金を押し上げる恐れはあるが、生産性向上に
つながる可能性もある。国際的な分析は、移民が受け入れ国の経済にとって明確な好要因で
あるとは示していない。
英国の EU 離脱が票決されれば、当社は英国に対するリスクが短期的に生じるとみる。長期
的には、経済成長のファンダメンタルな要素(生産性と労働力)が最終的に英国経済の絶対的・
相対的パフォーマンスを左右すると予想され、影響は乏しいだろう。
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国民投票の結果と直接的影響
世論調査の結果は拮抗しているが、歴史や経験を踏まえると英国の有権者は EU 残留を選択
することを示唆している。英国が行った過去 2 回の全国的な国民投票では、当時の政府の主
張に準ずる結果となった。1975 年の国民投票では、初期の世論調査で大きく差をつけられて
いたにもかかわらず、英国は欧州経済共同体(EEC)残留を圧倒的多数で票決した。主な政治
指導者は(現在のように党内の見解の不一致は許容されていたが)全員が英国の残留を支持
し、団結を強め、世間の注目を集めるキャンペーンを展開し、残留投票の陰で国民を揺り動か
した。2011 年も同様で、選挙制度改革問題が国民投票に付され、当初は改革賛成派がリード
していたが、首相が改革反対のキャンペーンを率いると、現状維持が支持され、改革賛成派は
急速に後退した。現在、英国独立党には公然と EU 懐疑派が存在し、その支持者の 16%はい
ずれにせよ EU 離脱に投票するとみられる。現在、1975 年と同様の状況が生じており、主要
政党の幹部はすべて EU 残留を支持しており、支持者は世間の注目を集め、団結してキャンペー
ンを行っている。ブックメーカーは EU 離脱の予想確率を 40%未満としており、当社も残留投
票が最も可能性の高い結果になると予想する。
EU 残留となれば、英国・欧州の金融市場にとっては好材料となろう。今後の貿易関係の不確
実性のリスクプレミアムは減少し、社債や株式は上伸すると予想される。英ポンドは「安全な
投資先」トレードの解消に伴って特に対ユーロで強含むとみられるが、英中銀が金融政策を据
え置いていることから英国債の利回りは概ね横ばいとなろう。
当社の見方が誤りの場合、どのような差し迫った影響があるだろうか。当社はキャメロン首相
が即座に対応を講じ、ドイツ、フランス、EU の首脳も直ちに事態の収拾を図り、
「英国民の願
望を尊重する。英国は引き続き EU の長期的なパートナーである。交渉で貿易関係の継続を図
る。
」
等を述べると予想する。英ポンドは下落し、
英国・欧州の株式や社債の下落が予想される
(特
に英国・EU 間の貿易にエクスポージャーがある企業)
。英国債のイールドカーブはスティープ化し、
利回りは 25 ∼ 50bp 上昇するが、
欧州中核国の債券利回りは低下しよう。欧州周辺国のスプレッ
ドは拡大し、ボラティリティは上昇するとみられる。しかし、英中銀と ECB が市場に流動性を
潤沢に供給することで、銀行システムに不安定さが拡大する事態を阻み、市場を落ち着かせる
と予想される。交渉が開始し、タイムテーブルが(上記のように)設定されれば、市場に一定
の落ちつきが戻り、中銀の下支えに伴って上記の動きはある程度反転しよう。
ウエスタン・アセット
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リスク・ディスクロージャー
© Western Asset Management Company 2016. 当資料の著作権は、
ウエスタン・アセット・マ
ネジメント株式会社およびその関連会社(以下「ウエスタン・アセット」
という)に帰属するもので
あり、
ウエスタン・アセットの顧客、
その投資コンサルタント及びその他の当社が意図した受取人
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