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中国に関するアップデート
中国が現在の金融市場に大きな影響を及ぼしていることを踏まえて、アジア運用部門統括責任者
(除く日本)兼ポートフォリオ・マネージャーであるデズモンド・スーンが、中国に関する最新情報
を提供します。
「川底の石を確かめながら川を渡る」−鄧小平
Q: 中国経済の全般的な状況をどのように見ていますか。中国は、ソフトランディングあるいはハー
ドランディングの過程にあると考えていますか。
デズモンド・スーン
運用業界経験年数:27年
2012年‒現在
ウエスタン・アセット・マネジメ
ント・カンパニー・Pte. Ltd.
アジア運用部門統括責任者(
除く日本)、ポートフォリオ・マ
ネージャー(PM)
2011年‒2012年
STアセット・マネジメント
ポートフォリオ・マネジメント、VP
2011年
AMPキャピタル・インベスターズ
PM兼アジア債券アナリスト
2008年‒2010年
DBSアセット・マネジメント
債券・通貨部門ヘッド
1996年‒2008年
パシフィック・アセット・マネジ
メント
インベストメント・マネージャー
1995年‒1996年
バンク・オブ・アメリカ
アジア証券トレーディング、AVP
1994年‒1995年
ナットウエスト・マーケッツ
キャピタル・マーケット・セール
ス、アシスタント・ディレクター
1992年‒1994年
山一マーチャント・バンク
債券セールス、マネージャー
1989年‒1992年
ユナイテッド・オーバーシーズ
銀行
学歴:
シンガポール国立大学 社会科学
(優秀学位、第2位)
シンガポール国立大学 M.Sc.(金
融工学修士)
CFA(米国証券アナリスト)
スーン:当社は中国がソフトランディングの過程にあるとの見方をとっています。すなわち、中国
経済が付加価値の低い製造業主導からサービス業および IT セクター主導へと構造転換を遂げる
につれて、中国の GDP 成長率は今後数年間 5% ∼ 6% に減速すると予想しています。その過程に
は紆余曲折を伴うことは間違いないでしょう。名目成長率の指標は低迷する可能性がありますが、
ハードランディングする可能性は低いとみています。その理由は、国民1人当たりの GDP はなお新
興国の水準にとどまっており、政府は景気のてこ入れのために数多くの政策手段を備えているため
です。中国の経済基盤の拡大を踏まえると、世界経済への寄与は依然として大規模です。例えば、
現在の中国の 6%成長が世界の GDP 成長率に対する寄与度は、5 年前の中国の 10%成長による
寄与度と同水準にあります。
中国の経済成長率の減速は、労働者の賃金上昇と人口構成上の逆風を背景に、2012 年以来続い
ている持続的なトレンドです。経済減速は必要かつ歓迎すべきもので、経済が投資主導型の成長
モデルから、より消費・サービス主導型の成長モデルに移行していることを明確に示しています。
国際通貨基金(IMF)は、中国の構造転換は長期的に見ればより健全で持続可能であることが立
証されるだろうと述べています。
Q: 中国の経済成長の減速は、他の諸国にとって何を意味しますか。
スーン:中国の GDP 成長率鈍化の波及効果は、従来、中国のコモディティ需要に大きく依存して
きたオーストラリア、ブラジル、南アフリカなどコモディティ輸出国に大きな打撃となって表れると
みられます。中国に中間財を輸出する日本や韓国など、中国のサプライチェーンに組み込まれてい
る国も、影響を受けると考えられます。中国経済の減速は特定の国や業界にマイナスの影響を及
ぼすと考えられる一方、他の国や業界には恩恵をもたらしています。例えば、中国における富裕中
間層の台頭を背景に、国外での教育やタイ、英国、オーストラリア、日本などへの国外旅行の需
要が増加しています。これに加えて、ベトナムやバングラデシュなど中国と競合する国も、中国が
繊維や玩具など一部の低付加価値・労働集約的製造業から撤退したことにより、世界市場でのシェ
アを拡大しています。従って、中国経済の成長減速が世界経済に与える影響は区々であり、不均一
です。中国と連動する多くの国は、中国経済の転換に合わせて自国を多様化させ位置づけを見直
す必要があるでしょう。
Q: 一部のメディアが中国の金融危機が目前に迫っていることを強調していることについて、どうお
考えですか。
スーン:中国の金融システムで不良債権が増加していることは確かであり、不良債権の実際の額に
関して議論が続いています(公式発表は1兆 2,700 億元で、融資残高合計の 1.67% に相当)
。
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Q&A 2016年3月
中国に関するアップデート
一方、中国当局は不良債権の増加に対応するために、幾つかの政策手段を備えています。第一に、
厳格な規制政策の結果、中国の銀行は多額の貸倒引当金を積んでおり、現在それによる不良債権
カバー率は 1.8 倍を超えています。第二に、中国の銀行は、株主資本利益率が 10%台半ばと、世
界的な基準で見た場合採算性が極めて高く、年間で 2 兆 5,000 億∼ 3 兆元(約 4,000 億ドル)の
貸倒引当金繰入前営業利益を上げています。最後に、中国の銀行融資は大半に担保(通常、不動
産担保)が設定されており、
そのためデフォルトした融資に関わる損失は軽減されるとみられます。
銀行システムの株式に減損が生じるのは、上記の全てが使い果たされた後となります。そうした状
況に陥った場合、債務が人民元建てであることから、政府が介入し弱体化した銀行に増資を行う
と考えられます。
Q: 中国人民元についての見解をお聞かせください。
スーン:ファンダメンタルズの観点からみて、人民元は中国の大幅な貿易黒字と相対的に高い経済
成長率を背景に、貿易加重ベースで比較的堅調に推移すると考えています。米国と他の国々との金
融政策の乖離を踏まえると、2016 年に強含む米ドルに対して人民元は下落することもありますが、
他の新興国通貨に比べれば依然としてアウトパフォームすると予想しています。
中国政府は人民元改革の一環として、為替レートの決定に市場要因がより大きな役割を果たすと
ともに、人民元が上昇か下落のいずれか一方向の賭けとなるのではなく、双方向の柔軟性を持つ
ことを望んでいることは明らかです。従って、中国人民銀行(PBOC)による日次の為替レート基準
値設定の仕組みは、米ドルに対する二通貨間の参照を行うのではなく、貿易量に応じた通貨バス
ケット制に基づく為替制度に移行していくと見られます。
さらに昨年、人民元が IMF の特別引出権(SDR)構成通貨に採用されたことは、中国の経済的影
響力が認識されたことを示し、人民元の国際的地位を高めました。これにより、世界の外貨準備
管理者が徐々に通貨配分の分散を図るに伴って、人民元建て資産に対する需要が中長期的に高ま
るとみられます。加えて、中国政府は人民元の SDR 構成通貨採用により資本取引の自由化が求め
られることを認識していると当社は考えており、このことは中国政府に対して、必要な金融改革と
中国資本市場の段階的な開放の実行を促すとみられます。
一部の為替投機筋は、自らの利益を追求する中で、人民元の大幅な下落(最大 50%)を予想して
いますが、当社はこうした予想の信憑性には慎重な姿勢です。第一に、政策当局は主要な投資家
に対して通貨の安定性を確約してきたため、人民元の大幅な切り下げは中国の金融面、政治面の
安定性を損なうと考えられます。第二に、中国の資本取引は、最近の自由化にもかかわらず、依
然としてほとんど閉鎖的です。経済学者ロバート・マンデルによる「国際金融のトリレンマ」
(ある
国が独立した金融政策、固定相場、自由な資本移動の全てを同時に維持することはできないとす
る法則)に傾倒する為替投機筋は、オンショア人民元市場にアクセスできないことから、オフショ
ア人民元に売りを浴びせています。オフショア人民元の流動性プールは、オンショア人民元の流動
性プールの 2% を下回っています。中国当局は、貿易以外の目的でオンショア人民元がオフショア
に流出することを防ぐために管理を厳格化する一方、オフショア人民元の流動性自体も、香港居
住者がオフショア人民元預金を再び香港ドルに変換するに伴って縮小しています。投機筋は、人民
元をショートするためにオフショア人民元の借り入れを行うことから、今後、限定的な流動性プー
ルの中でカニバリゼーションが生じ、その結果、調達コストは極めて高くなるとみられます。
Q: 当面、中国にとって何が主要なリスクと考えられるでしょうか。
スーン:当社の見方では、中国にとっての主要なリスクは、国民の間で人民元の信頼性が失われる
ことで資金流出が加速することです。中国の外貨準備高は 3 兆 2,000 億ドルと世界最大規模ですが、
2015 年 8 月 11 日のオンショア人民元の基準値の大幅な調整(通貨切り下げ)を受けた最近の資
金流出額(ブルームバーグ推定では 7,400 億ドル)は、憂慮すべき水準となっています。しかし過
去 6 カ月間に、政府は資金流出を防ぐために数多くの措置を発表し、その中には海外でのクレジッ
トカード取引に制限を課す最近の措置などがあります。PBOC は市場の信頼を安定させるために、
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Q&A 2016年3月
中国に関するアップデート
人民元の基準値を比較的安定した水準に維持するとともに、PBOC の周小川総裁は最近、市場に
対するコミュニケーションと透明性を向上させました。市場参加者はこれらの措置の効果について、
注意深く見守っているとみられます。市場センチメントが安定化しない場合、大量の資金流出が再
び中国と世界金融市場に対する圧力となる可能性があります。
Q: どのような投資機会が現在魅力的であると考えていますか。
スーン:中国の国内債券市場は、分散化を図る良好な機会と、先進国債券市場の極めて低い利回
りに対し利回り向上の機会を提供していると当社は考えています。人民元の SDR 採用を背景に、
中国国債は、中国経済と人民元に対する中期的に前向きの見方を反映させる有効な投資ツールで
あると考えています。
中国の債券市場は 7 兆 4,000 億ドルで、世界第 3 位の市場規模を誇っています。しかし、中国当
局による割当規制が長期にわたり課されてきたことから、海外投資家の参加比率は 1.6%と低位に
とどまっています。こうした状況は、最近の規制緩和によって、海外機関投資家が中国の銀行間
市場にほぼ全面的に参入できるようになり、長期的に海外から多額の資金が市場に流入する下地
が作られたことから、改善されると予想されます。世界的に金利が低水準またはマイナスの市場
環境にあって、中国国債の利回りは(現在 10 年債で約 3%)
、他の主要先進国を上回る魅力的な
水準となっており、同市場に早期参入する投資家は先行者利益の恩恵を受けると考えています。
Q: 中国債券市場に投資する上で、ウエスタン・アセットの競合優位性を教えてください。
スーン:当社は、長年かけて有効性が実証されてきた運用哲学に基づき、投資家に対し長期的に
価値を提供してきました。その運用哲学とは、長期的観点に基づく、ファンダメンタル・バリュー(本
源的価値)を重視しつつ、複数の分散投資戦略を採用することです。当社は幾つかの重要な強み
を備えており、それにより、今後も引き続き成長し発展する中国債券市場で主導的な地位を維持
することができると考えています。
第一に、当社は、グローバルに統合された極めて効率的な運用プラットフォームがあり、その中に
はシンガポール拠点のアジア債券チームが率いる、アジアに関する優れたリサーチ機能を有してい
ます。アジアにおける投資運用およびリサーチ機能は、パサデナ本社のエマージング債券運用チー
ム含む、より広範なグローバル投資運用チームの見解を活用しています。
第二に、当社は 1994 年以来、アジアに特化した債券戦略を採用した運用を実施し、1990 年代
後半以来、アジアでのプレゼンスを維持しています。当社はまた、2011 年 6 月から中国のオンショ
ア、オフショアの両方の債券市場に投資を行っています。
さらに、当社は中国債券市場の発展の最先端に位置し続けており、中国でアルファを創出する可
能性のある全ての投資機会に投資家がアクセスできるよう求められてきました。例えば、当社は親
会社であるレッグ・メイソンとともに、中国政府から「適格国外機関投資家(QFII)
」としての投資
枠を同制度の初期段階から取得しています。これにより当社は、顧客のためにオンショア中国国
債市場へのエクスポージャーを持つことが可能となりました。中国の資本市場、為替市場の成熟
と開放が引き続き進展することに伴い、中国のオンショア、オフショア市場の両方において、魅力
的な価値(バリュー)を提供する投資機会をうまく利用できると考えています。
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Q&A 2016年3月
リスク・ディスクロージャー
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ボンド・ファンド」および「ウエスタン・アセット・コア・プラス・ボンド・ファンド」の運用担当者であ
るS. ケン・リーチ、
カール L. アイヒシュテッドおよびマーク・リンドブルームが、米モーニングスタ
ーより2014年の「ファンドマネジャー・オブ・ザ・イヤー 債券部門」
を受賞しました。Morningstar
Awards 2015 © Morningstar, Inc.
この賞は米モーニングスター社が、ポートフォリオ・マネジャーの運用能力と、時には市場コン
センサスと異なった投資戦略を投資家のために実行する勇気を称える賞です。
この賞を受賞す
るファンドには当該年の優れたパフォーマンスのみならず、長期のリスク調整後リターンが良好
であり、投資家の利益に貢献することが求められます。
この賞の受賞者は、米モーニングスター
社のファンド・アナリストによる独自のリサーチと定量・定性評価により選定されます。
これは受
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