2012年 7月 「まだまし」だけで進められてしまう社会

人生の羅針盤
2012 年 7 月
豊かな人生を作る一言集
豊かな人生を作る一言集
[「まだまし」だけで進められてしまう社会の未来]
野田首相の支持率が急降下です。今月(2012 年 7 月)
、時事通信が実施した世論調査による
と、支持率が最悪の 21.3%、不支持率が 60.3%とのことです。政党支持率では、民主党が一桁
の 6.7%、野党第一党の自民党が 12.5%とのことです。
(なお、
「支持できる政党なし」が、何
と過半数の 71.4%です。
)
これだけ支持率が低いと、支持している少数の人は、一体、どんな理由で支持しているのか
が気になるところです。いつものことのようですが、その理由の第 1 位は、「他に適当な人が
いない」7.6%です。その次に、
「首相を信頼する」6.8%、「誰でも同じ」5.0%が続きます。
「首相を信頼する」という理由は理解できますが、
「他に適当な人がいない。
」、
「誰でも同じ
(あきらめとしか思えません。
)
」というのは、本当に支持していると言えるのでしょうか。ま
た、一国の首相が、
「他に適当な人がいない」
、言葉を換えれば、他の人より「まだまし」とい
う感覚で、支持(?)されているのは、何を意味するのでしょうか。
東日本大震災が発生した時に、多くの人は、悲惨な被災者のことを考えると自分たちの(計
画停電などを強いられた)不便は「まだまし」と受け止めて、我慢をするように努めました。
また、被災者の中にも、自分たちと比較して、より不幸な境遇に置かれた被災者たちに目を
向けて、
「被害は大きいが、自分たちは、まだましなほうだ。
」と思う人が多かったとの報告が
あります。
実は、このような心理を抱く傾向を、心理学では「社会的比較理論」の「下方比較」と言い
ます。
「下方比較」とは、自分より劣位にある人を見つけ出して、自
分と比較することです。人は、自尊感情(自尊心)が低下する、
そして、自己高揚(自己や自尊感情にとって肯定的な意味を持つ
情報を収集しようとする傾向)動機が作用すると、無意識に「下
方比較」をすると言われています。
一般に、人は、
「苦しい」
、
「つらい」
、
「自信を失う」などの状況
になると、自尊感情を上昇させるために、
「下方比較」を行う傾向
があります。このこと自体は、正常な反応であり、多くの人が自
然に行っていることです。なぜなら、自尊感情は、精神生活の中
では重要なものであり、精神的健康や適応の土台となりうるもの
だからです。ただし、こればかりになると向上心、努力の放棄につながります。最悪の場合、
他人の失敗や不幸などを待ち望むだけの心理に支配されてしまいます。
一方、
「下方比較」に対立するものとして「上方比較」があります。これは文字通り、自分よ
り優位にある人を見つけ出して自分と比較することです。自己を向上させようとする意欲が強
ければ、その比較対象者は目指す目標として機能します。自分の向上心を刺激し、努力の源泉
ともなります。ただし、自分の不完全さ、能力の限界などを思い知らされることにもなり、自
信喪失につながる可能性もあります。
人が精神的健康を保ち、そして、自己を向上させようとするのであれば、その時の心理状態
に応じて、
「上方比較」
、
「下方比較」を適切に使い分ける必要があります。それが、どちらか一
方に大きく傾斜してしまうと歪が発生します。
このことは、
国全体に対しても言えることです。
首相の支持率が不支持率の約 1/3(そして、首相を続けている)というのは、どう考えても
異常な状態です。しかも、少数支持者の第 1 位の支持理由が、他の人より「まだまし」という
のは、積極的に支持しているというより、
「下方比較」により、無理やり自己納得をさせている
としか思えません。
こう考えると、もしかしたら、今の日本は国全体が「下方比較」一色に染まっているのでは
ないかと思えます。国全体が、愛国心、向上心、努力を放棄し、ひたすら他人の批判に明け暮
れている(テレビのいろいろな番組を見ると実感します。)
、あるいは他人のネガティブ(失敗
や不幸など)な出来事だけを探し求めている(週刊誌の見出しはこればかりです。
)のではとい
う不安が起こります。
そうだとすれば、これは、政治家というより、むしろ、我々国民の側に責任があります。自
尊感情を守ることより、
自分たちは何をすべきかを真剣に考える時期に来たような気がします。
(難しいことですが)
ところで、
「まだまし」という言葉に対応する英語は、
「The lesser of two evils.」だそうです。
英語の表現は明確です。この文の中に良いとされる意味を持つ単語はひとつもありません。
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