〈テーマ名〉社内での飲食を伴う会合後帰宅途中の事故を通勤災害

〈テーマ名
テーマ名〉社内での
社内での飲食
での飲食を
飲食を伴う会合後帰宅途中の
会合後帰宅途中の事故を
事故を通勤災害にあたるとした
通勤災害にあたるとした原判決
にあたるとした原判決
を取り消した例
した例
〈事件名〉
事件名〉 中央労働基準監督署長事件
東京高等裁判所平成20
東京高等裁判所平成20年
20年6月25日判決
25日判決
〈事案の
事案の概要〉
概要〉
勤務先で午後5時から行われた飲酒を伴う会合からの帰宅途中に駅の階段から転落して
死亡した事故があった。遺族が労働者災害補償保険7条1項2号に該当するとして療養給
付、遺族給付、葬祭給付の各請求をしたところ、処分行政庁が本件事故は通勤災害に当た
らないとして不支給決定を行った。
これに対して遺族が審査請求、再審査請求をし、これらがいずれも棄却されたため、本件
各処分の取消を求めた。
東京地裁は本件事故が通勤災害にあたるとしたが、東京高裁は通勤災害に当たらないと認
定した。
〈判旨〉
判旨〉
本件会合の業務性について、会合が毎月1回開催される主任会議の後に会社の施設内で
行われるものであること、主催も会社の事務管理部であること、費用も一般管理費会議費
から支出されていること、社員の忌憚のない意見を聞く場として位置づけられ現実に意見
交換がされていること、この場での社員の提案が採用されたことがあること、を認定し、
「業
務と無関係な社員同士の純然たる懇親会とみることはできない」とした。
その上で、会合が業務時間外に開催されていること、参加が自由であること、主任会議
の参加者の多くはこの会合に参加していないこと、参加する場合でも参加する時間退出時
間が自由であったこと、会社内での残業手当の支給が目標残業時間内に限って支払うとさ
れていたことから、会合に参加した時間を残業と申告する者としない者がいたこと、会合
の開催の稟議や案内状もないこと、会合開始直後から飲酒が始まりアルコールがなくなる
ころに終了していたこと、アルコールの量も少なくないこと、ごくろうさん会といわれて
いたこと、もともとは慰労会として開催されていたこと、を認定し「本件会合は慰労会、
懇親会の性格もあり、また、高速性が低いから、本件会合への参加自体を直ちに業務であ
るということはできない」とした。
死亡した従業員は会合を主催する事務管理部の実質的な責任者であることから、会合を
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開催することが業務に当たるかが続いて問題とされた。
死亡した従業員は、これまでの会合では午後7時ころには退出していたこと、会合が飲
酒を伴うものでアルコールがなくなるころが終了であったことや開始時刻からの時間の経
過から、午後7時ころには業務は終了していると考えられるので業務は午後七時ころには
終了したと認定した。
その後も従業員は約3時間会合の参加者と飲酒したり居眠りをしてから午後10時15
分ころに退社行為を開始している。かなりその時点では酩酊しており1人では歩けない状
態であったこと、事故が階段からの転落でなんら防御することもなく後頭部に致命傷を負
ったこと、血液中のアルコール濃度が高かったことから、事故には従業員の飲酒酩酊が大
きくかかわっていると見ざるを得ないと裁判所は判断したうえで、通勤災害とは認められ
ないとした。
〈解説〉
解説〉
通勤災害にあたるか否かは通勤ルートを外れた場合(親類の介護や医者への通院など)
に問題とされることがある。本件は通勤災害であるか否かの争点が、業務との関連性にあ
る。
通勤であるというには業務との関連がなければならない。帰宅途中に仕事となんら関係
なく居酒屋に入って酔って事故にあったときには業務と無関係であり通勤災害ということ
はできない。就業後の私的行為との関係では今までの判断基準がそのまま有効である。
それでは本件では何が問題となったか。
まず、通常本件の会合は午後5時から始まって午後7時ころには死亡した従業員も退出
していたことがあげられる。いつもは業務が終了している時間を大幅に過ぎて飲酒をしな
がら会社に残っていたことから、業務が終了した後に会社で飲酒をしていたもので帰宅行
為が通勤とは言えないという判断がされている。
このこと事体は妥当な判断であるといえよう。仕事が終わってから外で飲酒をすれば通
勤災害ではなくなるのに、会社で飲酒をすれば通勤災害の対象であると考えることはバラ
ンスを失するからである。この点はやはり今までの通勤災害が認められる範囲の判断と同
様であるということができる。
また、本件では一人で歩けないほど酩酊していたことや、階段から落ちたときになんら
防御していない(できないほど酔っていた)こと、血中アルコール濃度が相当高かったこ
とから、通勤の際に通常考えられる危険とは関係のない事情が事故の原因であると考えて
いる。
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通勤災害の典型的な例は交通事故であるが、交通事故の危険は日常生活に伴うものであ
り、通勤時にも当然考えられる危険である。
しかし、本件のような飲酒酩酊は日常生活にありふれたものということはできない。本
件の事故は通勤時の危険と関係あるということは困難である。
したがって、東京高裁の判断は妥当であると考える。
坂本正幸先生【鈴木久義法律事務所】
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なおこちらの情報は2008年9月時点での情報です
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