よい経験がはぐくむこと

過日、熊本市を中心に発生した平成28年熊本地震、多くの方が被災され、復旧にはまだまだ時間を要
するといった報道が流れています。この度の地震により被災された方、また、ご親戚やご友人などの被
災に心痛めている方もいらっしゃると思います。その方々へ心よりお見舞い申し上げます。
よい経験がはぐくむこと
校
長
島 村
暁
「こころは、誰にも見えないけれど、こころづかいは見える」、「思いは、見えないけれど、思いやりは誰に
でも見える」という言葉、覚えている方も多いと思います。東日本大震災の直後にテレビでよく流れて
いたAC公共広告機構(AC ジャパン)のCMです。この言葉は、宮澤章二氏の「行為の意味」という詩の
一部です。そして、この詩は、
「あたたかい心があたたかい行為になり やさしい思いがやさしい行為に
なるとき 心も思いも初めて美しく生きる。それは、人が人として生きることだ。
」と続きます。先週の
朝、この詩のような優しさを感じることがありましたので紹介させていただきます。
ひとつは、2年生の先生が話していたことです。その日は、怪我をしていた生徒の荷物を先生が受け
取り、教室まで運ぶことになっていました。その様子を見て、「友達の荷物を運びます」と申し出てく
れた女子生徒がいたとのことでした。その行動ももちろんですが、生徒の言葉がとても自然で、その言
葉を聞いた先生はとても気持ちのよい瞬間を感じたと、嬉しそうに話していました。そして、その話を
聞いていた先生もとても嬉しそうな表情でした。小さな行動かもしれませんが、友達だけでなく、その
行動が何人もの人を幸せにしてくれたと思います。私もその一人です。
もうひとつは、登校後に体調を崩した生徒が早退することになったときのことです。担任の先生は、
辛そうにしている生徒の側を離れるわけにはいきません。その時、「友達が早退するので荷物をまとめ
て職員室に届けてほしい」という連絡を「はい!」と気持ちよく返事をし、二人の男子生徒が4階の教
室まで伝えに行ってくれました。そして、その連絡を聞いた二人の女子生徒が、数分という短い時間の
なかで、確かめるように荷物一つひとつを丁寧に鞄に入れ、職員室に運んでくれました。私は、この生
徒たちの行動もとても優しい素敵な行動だと感じました。今年度をスタートするにあたり、私は片柳中
の生徒が「手伝おうか」といたわり、
「ありがとう」と感謝し、互いに助け合うことのできるように育
ってほしいと思っていました。手前味噌かもしれませんが、短い時間のなかで、その願いに応えてくれ
るような生徒の素晴らしい行動に出会うことができました。
ここで紹介させていただいたような生徒に共通して感じることは、優しさがあるということです。お
そらく、その生徒たちは、「よい行為」をした時に「えらいね」と認められたり、ほめられたりしてき
たと思います。時には、
「ありがとう、助かったよ」という言葉で感謝されたと思います。このように、
自分の行為を認められ、労われるという『よい経験』をたくさんすることで、自然と優しい気持ちがは
ぐくまれてきたのではないでしょうか。確かに、よい経験は、学校でもできますが、家庭の中でより多
く経験できると思います。私たちは、
「思いやりをもちましょう」、「相手の気もちになって考えましょ
う」…と言います。でも、子どもは、言葉で理解するだけでなく、よい経験を通じて身に付けることも
たくさんあるように思います。ですから、私は、自然体で「よいことをしているよ」というサインを子
どもに送ることが大人の役割の一つだと思うのです。保護者のみなさんは、どのように考えられますか。
㊟宮澤章二氏は、詩人ですが、数多くの校歌の作詞もされました。さいたま市吉野町にお住まいだったこともあ
り、埼玉県内の300校以上の校歌の作詞をされ、地元のさいたま市立宮原中学校の校歌をはじめ、さいたま
市の小・中学校7校の校歌の作詞をされています。