企業形態の財務的効果 ―フランチャイズを用いた

研究指導 大橋 良生 講師
企業形態の財務的効果
―フランチャイズを用いた企業の財務諸表分析―
五十嵐 純
1. はじめに
ステムが活用されている企業全体の売上高(2009 年
度)20 兆 8031 億円のうち 8 億 1195 億円を占めてお
1.1 フランチャイズの仕組み
企業が事業規模の拡大を図る際に、フランチャイ
ズ・システムを用いた事業規模の拡大が行われてい
ることが多く見受けられる。
フランチャイズ・システムとは、フランチャイザー(以
り、これはフランチャイズ・システム全体の売上高の
39%である。
コンビニエンスストアでフランチャイズ・システムが
用いられる理由としては消費者の身近に必要とされ
るコンビニエンスストアに対する需要と、短期間およ
下本部)とフランチャイジー(以下加盟者)による相互
び低予算で事業規模の拡大が図れるフランチャイ
関係から成立するビジネス・システムである。本部は
ズ・システムの相性がよい点、本部のノウハウを用い
加盟者に対し、本部が持つ商標、サービスマーク、
る上で特殊な資格等を必要としない点が挙げられ
チェーンの名称、経営上のノウハウ・継続的に行う指
る。
導や援助を受ける権利(総じてフランチャイズパッケ
対照的に、事業規模を拡大する上で店舗数を多く
ージと呼ぶ)を提供する。それに対し、加盟者は加盟
必要としない製造業や、ノウハウがあっても資格や一
金およびロイヤルティと呼ばれる対価を継続的に本
定のまとまった資金がなければ参入しにくい金融業
部に支払うことにより相互関係が成立する。
は不向きであり、フランチャイズ・システムを用いた企
フランチャイズ・システムでは、本部と加盟者は共
業はほとんど存在しない。
同経営を行うのではなく、加盟者は各々独立した事
業体である。そのため、加盟者の店舗経営の責任は
1.2 本研究の目的
本部ではなく加盟者が負い、資本は基本的に加盟
フランチャイズ・システムは利点と欠点の両方が存
者が負担する 1。また、本部がサービス(フランチャイ
在するものの、益満(2010)は、悪質本部を締め出す
ズパッケージ)を提供するため、本部が加盟者よりも
ことが先決であるが、本部と加盟店の間のトラブルは
有力な関係であると認識されがちであるが、両者は
絶えない点を指摘し、加えて、菅原(2010)ではロイヤ
契約に基づく対等な関係である。
ルティの計算方法における廃棄損負担の平等性およ
経済産業省が唯一認可している社団法人日本フ
び本部による原価のピンハネが実際に行われている
ランチャイズチェーン協会(以下 JFA)によるとフラン
のかが明らかにされていない点が指摘されるなど、た
チャイズ・システムを用いて企業経営が展開されてい
びたびフランチャイズ・システムの問題点が提起され
る業種として、小売業、外食業、サービス業などが挙
ている。
げられている。
そこで本研究では、フランチャイズ・システムによる
その中でもコンビニエンスストアで特にフランチャイ
企業規模の拡大を積極的に行っている企業とそうで
ズ・システムが活用されている。チェーン数自体は少
ない企業とのペアマッチを行うことによって、フランチ
ないものの、JFA に登録されているフランチャイズ・シ
ャイズ・システムを採用している企業がそうではない
企業と比べてよりよい企業業績や経済状態を示して
1 なお、資本について一部を本部が負担する場合もある。
いるのかを通じて判断する。
イズでの事業が成功し独立する場合、本部と競合と
2. フランチャイズ・システムの特徴
なる業態については一定期間開業できない競業禁
止義務、およびそのチェーン以外の兼業を禁止する
2.1 フランチャイズ・システムの利点と欠点
フランチャイズ・システムの利点と欠点を経営面・経
済面の 2 つの面から説明する。
義務を課せられる場合がある点が挙げられる。
経済面での利点は、本部が標準化した設備を使用
することができる点、本部と同様にスケールメリットを
最初に本部に着目すると、経営面での利点は、加
得ることが期待できる点が挙げられる。欠点としては、
盟者の外部資本によって短期間で規模の拡大をでき
本部が提案する売上高・収益予想が正確なものとは
る点、加盟者の成功事例を本部のフランチャイズパッ
限らず投下資金の回収に不安が残る点、解約違約
ケージに取り組むことによって相互補完作用が得ら
金の支払いや収支問わずロイヤルティが生じる点が
れる点、店舗や事務所のオペレーションに必要な人
挙げられる。
員が少数で済む点が挙げられる。欠点は不良店や
不振店の存在が全体のイメージを悪化させる点、フラ
2.2 その他のチェーン・システムとの比較
ンチャイズ・システムのブランド要素やサービスマーク
チェーン・システムとは、多店舗展開するシステムの
の浸透に時間がかかる点、短期間で規模の拡大を
ことを指し、チェーン・システムにはフランチャイズチ
行う反面加盟店のクォリティにばらつきが発生してし
ェーン、レギュラーチェーン、ポランタリーチェーンが
まう点が挙げられる。
存在する。本研究で取り上げられるフランチャイズ・
経済面での利点は、加盟店側が土地や建物などの
開設資金を準備するため、規模の拡大が低予算で
チェーン(以下 FC)とはフランチャイズ・システムによ
って多店舗を展開するチェーン・システムである。
済む点、規模を大きく持つことによって仕入等にかか
チェーン・システムは同一のブランドの元に、統一
る費用の削減から利益(スケールメリット)を得られる点
されたイメージによって知名度を高め、信頼感や安
が挙げられる。欠点としては加盟店オーナーの能力
心感を与えることによって、顧客を獲得するシステム
の未知数な部分から開業後の売上高の予想が難し
である。統一される対象としてブランド名、ロゴ、店舗
い点が挙げられる。
デザイン、ユニフォーム、管理・情報システム等の機
次に加盟者について見てみると、経営面での利点
能などが挙げられ、フランチャイズ・システムではフラ
は、フランチャイズパッケージを得ることができるため
ンチャイズパッケージがこれに該当する。また、全店
に業種に対する知識やノウハウがなくても、本部が持
舗の基本業務は同一であることが原則とされ、「単純
つ蓄積した知識、ノウハウ、知名度のあるロゴマーク
化」「標準化」「専門化」によって店舗のイメージが醸
を利用して開業が可能である点、本部から個人では
成される。
入手できないような新情報が手に入る点、仕入れや
次に、個々のシステムに目を向けると、レギュラー
新商品の開発などを本部に委託することができるた
チェーンは、直営で多店舗展開を行うチェーン・シス
め、加盟店のオペレーションに専念できる点、チェー
テムを指し、一般的には直営店とも呼ばれる。FC と
ンの信用力を受けて営業を始めることができる点が
比較すると、FC の経営が本部から独立しているのに
挙げられる。
対し、レギュラーチェーンは経営が本部から独立して
欠点としては、契約上の責任・義務が多いために
いない点、FC が営業の撤退する場合、本部と加盟
独立した事業体でありながらも創意工夫の余地が少
店の間で違約金が生じるなど、スムーズに進まないケ
ない点、加盟者にその業種の知識やノウハウがない
ースがあるのに対し、レギュラーチェーンは本部の意
場合、本部の知識やノウハウが開業するまでに値す
思で行うことが可能である点、FC の資本が加盟者に
るレベルかどうかの判断が困難である点、フランチャ
よる他人資本であるのに対し、レギュラーチェーンの
資本は本部の資本である点で異なる。
ボランタリーチェーンとは、経営の独自性を保ちな
FC 企業の値を上回った企業数(以下②)を算出した。
算出した指標は以下の通りである。
がら、仕入や販売促進活動を共同化することにより、
成長性指標 売上高成長率・資産増加率
規模の利益と分業の効率性と得ることを目的とするチ
収益性指標 総資産利益率・株主資本利益率・売
ェーン・システムのことを指す。FC に比較し、FC は経
営理念共同体であるのに対し、ボランタリーチェーン
は任意共同体であり関係性が薄いために本部からの
上高総利益率・売上高経常利益率
生産性指標 従業員1人当たり売上高・従業員1
人当たり売上総利益
制限が緩い点、FC の加盟者は新店舗開発が中心で
安全性指標 株主資本比率・流動比率
あるのに対し、ポランタリーチェーンの加盟者は新店
加盟者は本部とは独立した業態で行うため、貸借
舗開発よりも既存の店舗が本部に加盟するケースが
対照表や損益計算書といった財務諸表上、本部とは
多い点で異なる。
切り離される。つまり、加盟者の売上高が、本部の財
務諸表に反映されることはなく、ロイヤルティや加盟
3. 分析の枠組み
金といった加盟者から本部に支払われるフランチャイ
ズパッケージの対価が本部の売上高の一部となる。
3.1 サンプル
はじめに、2008 年 12 月時点において JFA に加盟し
4. 分析結果および今後の展望
ている企業の中で、株式会社メディネットグローバル
成長性指標は、売上高成長率・資産増加率両方
社の企業検索サービス「Ullet(ユーレット)」により、上
に対し、①において 2008〜09 年度は非 FC 企業を上
場が確認できた 29 社の中から決算期の変更等の理
回り 2010 年度分は下回っている。②においては 3 年
由により一部企業を除いた 27 社を FC 企業として抽
間通して過半数を上回っている。
出した。
収益性指標は、総資産利益率に対し、①において
次に、同検索サービスにより FC 企業各社の総資
2008〜09 年度分は非 FC 企業を上回り、2010 年度分
産額を基準として、2011 年 12 月時点において、Ullet
は下回っており、②は 3 年間通して過半数を上回っ
上において同業種である、JFA に加盟していない、
ている。株主資本利益率に対し、①において 2008 年
本社の公式サイトにて FC 加盟者の募集を行ってい
度分は非 FC 企業を上回り、2009〜10 年度分は下回
ない、の 3 点を満たした同規模の企業を抽出し(以下
っており、②は 3 年間通して過半数を上回っている。
非 FC 企業)、計 27 組 54 社をペアマッチの対象とし
売上高総利益率に対し、①は 3 年間通して非 FC 企
た。
業を上回り、②も 3 年間通して過半数を上回っている。
売上高経常利益率に対し、①において 2008 年度分
3.2 分析指標
本研究では、金融庁の電子開示サービスである
は非 FC 企業を上回り、2009〜10 年度分は下回って
いる。②は 3 年間通して過半数を上回っている。
「EDINET(エディネット)」で、各社の過去 3 年間分の
生産性指標は、従業員 1 人当たり売上高に対し、
有価証券報告書を入手した。そこに記載されている
①は 3 年間通して非 FC 企業を大きく下回り、②も 3
連結財務諸表・個別財務諸表に基づいて、成長性・
年間通して過半数を大きく下回っている。従業員 1 人
安全性・生産性・収益性指標の各指標に該当する 10
当たり総利益に対し、①は 3 年間通して過半数を上
項目を算出した。FC 企業全体としての平均値(以下
回り、②においては 3 年間通して過半数付近を上下
A)および非 FC 企業全体としての平均値(以下 Aʼ)、
している。
FC 企業平均(A)から非 FC 企業平均(Aʼ)を控除す
安全性指標は、株主資本比率・流動比率両方に対
ることで求められる差異(以下①)、FC 企業の値が非
し、①は 3 年間通して非 FC 企業を上回り、②も 3 年
盟者の相互関係をより強力にし、市場のニーズに合
間通して過半数を上回っている。
①は 3 年間 10 項目、計 30 項目中 17 項目におい
て上回っており、②は 30 項目中 23 項目において過
わせた対応を迅速に行うことがこれからのフランチャ
イズ・システムの発展に繋がると考えられる。
半数の企業が上回っており、①、②両方の指標が過
半数有効であるという結果が出た点から、フランチャ
主要参考文献・URL
イズ・ビジネスは財務諸表上においては有効であると
1.朝日新聞朝刊.2010 年 1 月 18 日.「(けいざい一話)加盟店守る法、
示された。しかしながら、株主資本利益率(2008 年度
必要か フランチャイズ、店主と本部が対立
①を除く)および従業員 1 人当たり売上高の指標に
2. 植田忠義『「激変の時代」のコンビニフランチャイズ』花伝社、2010
年.
おいては①、②両方において 3 年間通じて十分な結
3. 内川昭比古『フランチャイズ・ビジネスの実際』日経文庫、2005 年.
果が得られなかった。
4. 社団法人日本フランチャイズチェーン協会編『よくわかるフランチ
従業員 1 人当たり売上高と比較し、従業員 1 人当た
り売上総利益が有効な指標が出ている点から、非 FC
企業に比べて、加盟者からのロイヤルティによる収入
によって売上原価の抑制が行われていると考えられ
る。
1 経済面
ャイズ入門』同友館、2011 年.
5. 社団法人日本フランチャイズチェーン協会編『フランチャイズ・ハン
ドブック』商業界、2003 年.
6. 商業界 3 月号別冊『日本のフランチャイズチェーン 2009』商業界、
2009 年.
7. 菅原史花.2010 年.「コンビニ経営における会計的課題」会津大学
また、株主資本利益率は①において 2009 年度か
ら大きくマイナスに転向しているが、2008 年度 9 月に
起こったリーマン・ショックによる景気悪化の影響が、
非 FC 企業の事業展開よりも FC 企業の加盟店に大き
く影響し、FC 企業の純利益の低下に至ったのではな
短期大学部平成 21 年度卒業論文.
8.企業価値検索サービス Ullet(ユーレット)
http://www.ullet.com/
9. EDINET
http://info.edinet-fsa.go.jp/
いかと想定され、加盟者の不況に対する抵抗力を向
上する必要があると考えられる。具体的には本部と加
図表 FC 企業と非 FC 企業のペアマッチ
(A)と(A')の差異(①)
成長性指標
収益性指標
生産性指標
FC 加盟企業>非 FC 加盟企業数(②)
2008 年度
2009 年度
2010 年度
2008 年度
2009 年度
2010 年度
売上高成長率
6.42%
5.96%
-0.20%
15/27
18/27
14/27
資産増加率
1.04%
0.14%
-2.71%
14/27
16/27
15/27
総資産利益率
0.97%
0.57%
-0.29%
16/27
16/27
16/27
株主資本利益率
0.07%
-4.54%
-8.22%
10/27
8/27
11/27
売上高総利益率
5.54%
3.99%
3.59%
14/27
15/27
15/27
売上高経常利益率
0.95%
-0.16%
-0.68%
15/27
15/27
14/27
従業員 1 人当たり売上高
-28.18
-26.66
-26.56
6/27
9/27
7/27
-3.66
-3.26
-3.25
13/27
14/27
14/27
株主資本比率
9.37%
5.24%
5.62%
14/27
15/27
16/27
流動比率
44.69%
19.33%
18.45%
16/27
14/27
15/27
(単位:百万)
従業員 1 人当たり売上総利益
(単位:百万)
安全性指標