患者さんからの「ありがとう」の言葉 徳島文理大学 香川薬学部 薬学科 6

患者さんからの「ありがとう」の言葉
徳島文理大学 香川薬学部 薬学科 6 年
香川
絵美
私が、病院ボランティア活動を始めようと思ったきっかけは、病院を受診した時、たま
たま目に入った、
「ボランティアの皆様の温かい気持ちと貴重なお時間の提供を心からお待
ちしております」と書かれた募集の貼り紙を見たことでした。
病気を治療することは医師を始め医療スタッフにしかできない仕事ですが、患者さんの
精神的な苦痛や不安を和らげるように働きかけることに資格は必要ありません。患者さん
を思いやることのできる優しい気持ちと積極的に取り組もうとする気持ちがあれば誰でも
できることです。そして、将来薬剤師として働くことを目指している自分にとって、自覚
を身につけることのできる良い機会だと思いました。
また、実際の医療現場の空気に直接触れてみたいと感じたこともきっかけのひとつでし
た。そして、長期休暇中であれば、まとまった時間がとれる上、自分を磨く絶好のチャン
スでもあると考え、病院のホームページの募集を調べ、直接話を聞いてみることに決めま
した。どういった活動を行っているのかを簡単に聞き、翌日から私の病院ボランティアと
しての活動が始まりました。
コミュニケーションについての知識もなく、ただやってみようと軽い気持ちでスタート
したため、始めは右も左も分からずに、患者さんにあいさつをすることが精一杯で、とく
に人の役に立つようなことは何もできないまま、時間だけが過ぎていきました。患者さん
の役に立ちたい、身体の不自由な人をサポートしたいとの想いは活動当初から常に頭にあ
りましたが、実際に自分から声をかけ、手を差し伸べることは想像以上に勇気のいること
でした。そのため、当初は患者さんから直接助けてほしい、教えてほしいと頼まれるまで、
自分からは何もできませんでした。
しかし、活動を続けるうちに自分の気持ちに余裕ができ、まわりの状況に目を向けるこ
とが可能となりました。活動を始めて一ヶ月程で、要領も理解できるようになり活動範囲
も広がり、自分では病院ボランティアとして人の役に立てていると思い込んでいました。
けれども、実際に人とコミュニケーションをとること、相手の気持ちを理解するというこ
とはそんなに簡単に短期間で習得できるものではありませんでした。
病院ボランティアとして活動することは、当たり前だけれど感謝されることばかりでは
ありません。足が不自由で今にも倒れそうな歩き方をしていた患者さんに車いすを勧める
と、
「年寄り扱いするな。こうして自分で歩く訓練をしなければ本当に歩けなくなる。人の
手は絶対に借りたくない。若いあなたには分かるはずがない。」と怒らせてしまったことや、
診察の待ち時間が長くて悩んでいた患者さんに、後日予約を入れて改めて来られてもいい
ことを提案すると、
「仕事を休んでわざわざ来ているのにどうしてそんなことを言うのか。
」
と怒らせてしまったこともありました。また医療従事者に言えなかった不安をボランティ
ア活動中の私にぶつけて帰る患者さんもいて、その時々で多くの困難にぶつかるようにな
りました。
経験も浅くて、知識もない私が自分の行動を振り返り考えたところでなんの解決にも繋
がりませんでした。そんな時、共に活動する先輩ボランティアの方からの力強く説得力の
あるアドバイスをいただき、患者さんに言われたこと、自分の行動を見つめなおすことが
できコミュニケーション力向上へのきっかけを得ることができました。アドバイスの内容
として、多くの患者さんと出会い接していくことで自分の気持ちや考え方が変わってくる
ということ、患者さんは思っている以上に病院スタッフの顔色や表情をしっかりと見てい
るため、あいまいな発言や行動は患者さんに不安感を与えてしまう。そのため自分の行動
には自信を持つということや、失敗しながらでなければコミュニケーション能力は身につ
かないため、前向きな姿勢を忘れずに行動することというものでした。
それからも日々患者さんと接する中で、表情、言葉の意味を常に考えた行動を行い、何
でも手を貸すのではなく、時間はかかるけれど自分でやろうとしているのであれば温かい
目で見守ること、なにもかも全てをしてあげることが親切な行為ではないことを学びまし
た。そして、この患者さんは今どういう想いでいるのだろうか、私に今何を求めているの
だろうかなど、その背景にあることを想像しながら接していくことで自然と良好なコミュ
ニケーションをとることが可能となりました。
患者さんが言葉で伝えてくることだけではなく、動作や顔色などの非言語的メッセージ
をしっかり受け止めた対応をすることが大切なのだということに気がつきました。そして
患者さんは、こうした私の行動や手助けに感謝して下さり面と向かって「ありがとう」と
笑顔でお礼を言って下さいます。私は病院ボランティアとして活動する中でこの言葉にた
くさんの自信と勇気をもらいましたし、私が病院ボランティア活動を 3 年間続けていきた
いと思った理由でした。活動中に、
「ずっと立ちっぱなしで大丈夫?」と声をかけ体調を気
づかってくださる患者さんや、
「こんなに若い人が自分の時間を年寄りのために使ってくだ
さるなんて本当にありがたい。貴重な時間と気遣いの気持ちをありがとう」、「私も退職し
たらボランティア活動をしようと思っていたのにこんな身体になってしまい、人の役に立
つどころかお世話をしてもらう側になってしまって申し訳ない。でも身体が不自由な人間
にとってサポートしてくださる方がいると何をするにも心強い。助かります。ありがとう。」
とそれぞれ自分の言葉で感謝の気持ちを伝えてくださる患者さんがいます。これがどんな
に幸せなことなのか、病院ボランティア活動をしていなければ気付けなかったことだと思
います。
患者さんから「ありがとう」と本当に感謝していただけるまで、想像以上の努力が必要
でした。良かれと思い勇気を出してかけた言葉で患者さんを怒らせてしまったり、自分の
行動がかえって患者さんの迷惑になっているのではないかと悩み、不安になったことも何
度もあったけれど、周りのスタッフの方からのアドバイスや経験のおかげで、患者さんと
の接し方、コミュニケーションの取り方を身につけることができ、将来の自信にもつなが
り、さらに 5 年次の病院・薬局での実習においても大いに生かすことができたと考えます。
薬剤師として、もちろん薬や疾患についての知識を豊富に身につけていなければならない
ことは当然です。けれども向かうべき対象が人である以上、コミュニケーションを通して
信頼関係を築いてからでなければ治療を進め、患者さんに満足してもらえる医療は提供で
きません。
この土台となるコミュニケーション能力を学ぶことのできる場所が病院ボランティア活
動に参加することです。私も経験して分かったことですが、コミュニケーション能力は人
に教えてもらったり聞いたりするだけではなく、自分から様々な施設を訪れ活動すること
で初めて身についたことを実感できます。自分から積極的に活動を始めることはなかなか
勇気がいることだと思います。そして、ボランティアをするくらいならアルバイトをしよ
うと思ってしまう気持ちも分かります。しかし、本当に得るものは多く価値のある活動で
す。人の役に立つことの喜び、患者さんから笑顔で「ありがとう」と言われることの嬉し
さ、この言葉の意味と重みを全身で理解できると思います。そして、将来医療人として重
要な患者さんを思いやる気持ちも自然と身につき、意思疎通をはかること、信頼関係を築
くことが容易になると思います。
病院ボランティア活動に特別な資格は必要ありません。私のように、コミュニケーショ
ンについての知識もなく、ただ人の役に立ちたい、感謝されたいとの想いだけで始めても、
周りの方々の支えがあり、たくさんのことを吸収し成長することができます。まだまだ病
院ボランティア活動に対する認知度は低いですが、1 人でも多くの人にこの活動の素晴らし
さについて知っていただければ光栄です。
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看護師&薬剤師の卵
現場でコミュニケーション能力習得中