木 嶋 利 男

カブとニンジン。モンシロチョウとアゲハチョウを忌避する。
特
集
葉根菜編
き
(財)環境科学総合研究所
パ
ニ
オ
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プ
ラ
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を
紹
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6
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2009.
6.
はなとやさい
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木嶋
じま
木嶋
とし
お
利男
利男(きじまとしお)
昭和23年栃木県生まれ。昭和62年農学博士(東
京大学)。栃木県農業試験場生物工学部長、自
然農法大学校長を経て、現在は(財)環境科学
総合研究所常任理事兼所長。ほかに(財)微生
物応用技術研究所理事、NPO法人MOA自然
農法文化事業団理事、NPO法人有機農業技術
会議理事、NPO法人全国有機農業連絡協議会
理事、世界永続農業協会専務理事。
モンシロチョウはアブラナ科、アゲハチョウはセリ科を好む
ダイコンやカブにはモンシロチョウ、ニンジンにはアゲハチョウ
が飛来し、幼虫がそれぞれの野菜を食害します。つまり、モンシロ
チョウはアブラナ科、アゲハチョウはセリ科の植物を食餌植物とし
て繁殖するわけですが、逆の野菜では繁殖することができません。
このため、モンシロチョウはアブラナ科の植物、アゲハチョウは
セリ科の植物を探して飛翔し、産卵します。この時、それぞれの昆
虫は繁栄のため、好む植物が集団で生育あるいは栽培されている
場所に集まります。アブラナ科の野菜畑で、盛んに飛び回るモンシ
ロチョウが観察できるのは、このような理由からです。
間作で相互の害虫被害を軽減
モンシロチョウの飛翔行動を観察していると、おもしろいことに
気づきます。モンシロチョウはただ飛び回っているのではなく、ど
うやら子孫が繁殖しやすい株を選んで着葉し、産卵しているような
のです。この時、近くに食餌植物でないニンジンなどの野菜がある
と、避けて飛翔しています。
一方、ニンジンの害虫であるアゲハチョウも、モンシロチョウと
同じような飛翔行動をとります。このため、ダイコンやカブとニン
ジンが近くで栽培されていると、モンシロチョウとアゲハチョウの
ニンジン(セリ科植物)を食害する
アゲハチョウの幼虫。
飛翔行動が抑制され、これらの害虫に
よる被害が軽減されます。
植栽は簡単で、ダイコンあ
るいはカブ1列、ニンジン1列
を、交互に播種する間作としま
す(第1図)。間引きやその後
の管理は、通常の栽培方法と
同じです。また、カブは間引き
を強くすると生育が旺盛とな
り、割れの原因となりますが、
カブとニンジンを交互に植える
と水分ストレスが軽減され、割
れが少なくなります。
ダイコンとニンジンの間作。モンシロチョウとアゲハチョウを忌避する。
第1図 ダイコン、カブとニンジン
ニンジン
カブ
ニンジン1列と、カブ(またはダイコン)1列が、
交互になるよう播種する。
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特
集
センチュウなどの土壌病害を軽減
ニンジンは根物野菜であるため、未熟な有機物の施用
は、又根や土壌病害の発生原因となります。そこで、ニン
ジン栽培では有機物の少ない畑を選びます。一方、エダマ
こん りゅう きん
メの根には、根粒菌が共生して空中のチッソを固定する能
力があり、やせ地でもよく生育するため、肥料や有機物の
施用量を減らして栽培します。また、収穫後に肥料はほとん
ど残りません。この両者の性質を上手に利用したのが、ニ
ンジンとエダマメの輪作です。
さらに、エダマメには、ニン
ジンに寄生するネグサレセン
チュウやネコブセンチュウを
少なくする働きがあります。
そのため、ニンジンをエダマ
メの後作として、有機物は施
用せずに栽培すると、肌がき
れいになって、センチュウな
エダマメには、ニンジンに寄生す
る害虫を少なくする働きがある。
どの土壌病害も減少します。
ニンジンをエダマメの後作にすると、土壌病害の軽減などの効果が
期待できる。
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ソラマメをおとりにアブラムシを呼ぶ
マメ科のソラマメは栄養豊富なため、害虫が好ん
で繁殖します。この性質を上手に利用したのが、ソ
ラマメのコンパニオンプランツです。
ソラマメを栽培した人は経験していると思います
が、早春、ソラマメが花を咲かせる時期になると、
アブラムシは好んでソラマメに飛来し、生長点部分
で繁殖して、真っ黒になるほど増殖します。ソラマ
メ栽培では大変困ることですが、コンパニオンプラ
ンツでは、このアブラムシが繁殖しやすい性質を上
手に利用します。
キャベツとソラマメの混植。ソラ
マメが天敵を繁殖させる。
天敵を増殖させて、害虫を防ぐ
秋にソラマメを、ハウスの入り口、野菜畑の周囲、
うね
野菜を植えた畝の所々へ播種します。すると、春先
タマネギとソラマメの混植。
第2図 タマネギ、キャベツとソラマメ
キャベツ(またはタマネ
ギ)の畝に5〜10㎝間隔
でソラマメを植える。
ソラマメ
キャベツ
ソラマメ
5〜10㎝
キャベツ
ソラマメにアブラムシが集まり、それをエサにする
テントウムシなどの天敵も増えることになる。
2009.
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敵が、野菜類に飛来する害虫を防いでくれます。
キャベツ
ソラマメ
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にソラマメでアブラムシが増殖するため、これを求め
て天敵が集まり繁殖します。ソラマメで増殖した天
育て方は第2図の通りで、この方法は、露
地栽培の春キャベツやタマネギ、ハウス栽培
のイチゴ、トマト、キュウリなどで利用され
ています。
ニラを植えて、ハムシ類の被害軽減
ミズナ、フダンソウ、コマツナなどのアブラナ科野菜
を栽培すると、ダイコンサルハムシやキスジノミハムシ
などが寄生して大きな被害を与えます。幼虫は土の中で
育つので、農薬を用いても防除の困難な害虫です。
その対策として、科学的に作用機構は解明されていま
せんが、アブラナ科野菜の近くにニラを植え、ハムシ類
の被害を少なくする伝承技術があります。
まず、ニラを植え付け、次に、植え付けたニラ
の両側へミズナなどを播種します。その後の管理
は通常栽培と同様で、適度な大きさに生育したら
収穫します。なお、ニラは株を十分育て、一度捨
て刈りしてから収穫してください(第3図)。
ニラとフダンソウの間作。
第3図 ミズナ、フダンソウ、コマツナとニラ
畝間は、通常より
広めにとる。
ニラとミズナの間作。
①ニラを植える。
②ニラの両側にコマツナなどを播種する。
〈捨て刈り〉
4〜5㎝
ニラを刈り取った後、切り口から液が
噴出するが、これにダイコンサルハム
シとキスジノミハムシを忌避する効果
があるといわれている。
そのため、ニラの刈り取り回数が多い
ほど、ハムシ類の防除効果が上がる。
古い葉を刈り取り、再
度、新しい新芽を出させ
てから収穫する。
③収穫。ニラの捨て刈りをする。
エンバクがハクサイの害虫を防ぐ
ハクサイの畝間にエンバクを生育させる栽培は、畑作地帯で行
しゃ へい
われてきた伝承農法です。ウイルスを媒介するアブラムシを遮蔽
し、またヨトウムシ、アオムシ、コナガの幼虫の食害を防ぐといわ
れています。
エンバクとハクサイは肥料の競合があるので、ハクサイ単作よ
り元肥を2〜3割多めに施します。エンバクの間にハクサイを2〜
3列植え付け、そのまま収穫期まで育てます。
ハクサイとエンバクの間作。
2009.
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はなとやさい
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特
集
相互に生育を促進する
シュンギクとバジルは病害虫に強く、作りやすい野菜です。このた
め、多くの野菜類に害虫防除の目的で混植されます。最近、家庭菜園な
どで、このシュンギクとバジルを混植する方法がとられています。効果
は定かでありませんが、互いに生育を促進するといわれています。
シュンギクとバジルの混植。
アブラナ科野菜とレタス、相互に害虫を防除する
アブラナ科野菜にはアオムシ(モンシロチョウの幼
虫)、ヨトウムシ(ヨトウガの幼虫)、コナガの幼虫が好
んで寄生し、大きな被害を与えます。
科学的には解明されていませんが、モンシロチョウ、ヨ
トウガ、コナガは、キク科の植物を嫌います。このため、
近くにレタスなどのキク科植物があると、これらの害虫は
避けて飛翔します。また、アブラナ科野菜には、レタス害
虫のタバコガを忌避する働きがあるので、混植すると相互
に害虫を防除することになります。
第4図を参照してください。
第4図 ブロッコリー、キャベツ、カリフラワーとレタス
キャベツとレタスの混植。レタスがコナガ、モンシロ
チョウ、ヨトウガを忌避する。
キャベツ
(または
ブ ロ ッコ
リー、カリ
フラワー)
レタス(玉レタス、サニーレタス
いずれでも)
本葉5〜6枚で植え付ける。
レタス
キャベツ
キャベツ5〜10株当たり
レタス1株を植える。
定植
35㎝
ブロッコリーと
レタスの混植。
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〈キャベツの害虫防除〉
〈レタスの害虫防除〉
レタス5〜10株当たり
1株のブロッコリーを
混植する。
い ちょうびょう
葉ネギがホウレンソウの萎凋病を防除
ホウレンソウは収穫までの期間が短いため、同じ場所
に年間を通じて栽培することが多くなります。ホウレン
ソウを連作した場合、気温の高い時期に萎凋病が発生し
て問題となります。
萎凋病菌には、ネギ属植物の根に共生するバークホ
ーデリア・グラジオリーが、効果をもつと知られていま
す。そこで、夏場のホウレンソウに葉ネギを混植し、萎
凋病を防除します。
ホウレンソウと葉ネギの混植。
まず、葉ネギを播種し、苗を養生します。次に
ホウレンソウを播種した後、葉ネギを混植しま
す。葉ネギは約60日、ホウレンソウは約30日で収
穫期を迎えるので、1カ月間育苗した葉ネギをホ
ウレンソウの播種時に混植すると、同時に収穫で
きます(第5図)。
また、夏場のホウレンソウは硝酸濃度が高く、
問題となりますが、葉ネギを混植することによっ
てその濃度も低くなります。特に有機栽培では、
硝酸濃度の減少が顕著です。
第5図 ホウレンソウと葉ネギ
ホウレンソウは深根、
葉ネギは浅根で、根の
活 動 範 囲 が 異 な るた
め、栄養の競合はほと
んど生じない。
日当たりが
大好きな
葉ネギ
日陰を好む
ホウレンソウ
株間
30〜50cm
条間
30〜50cm
1cm
ホウレンソウのタネをまく。
まき溝は深さ1cm
2〜3本ま
とめて植 え
る。
15cm
浅根
1カ月
育 苗した
葉ネギ
深根
サトイモでダイコンを夏の暑さから守る
夏ダイコンは暑さや病害虫の多発から、平地では作りづ
らいため、もっぱら高冷地産となります。ところがその夏
ダイコンを、平地で栽培する伝承技術が存在します。サト
イモの株元へ、夏ダイコンを播種する方法です。サトイモ
の株元に播種したダイコンは、サトイモの日陰となり、暑
さや害虫から守られるため、夏場でもよく生育します。
ダイコンとサトイ
モの混植。サトイ
モが涼しさと日陰
を提供し、平地で
も夏ダイコンが栽
培できる。
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特
集
ラッキョウを収穫した後、6月下旬〜7月上旬
にクロタラリアを播種し、約2カ月間栽培しま
す。クロタラリアの花が咲く前に、草刈機などで
細断して畑にすき込み、約1カ月間かけてよく分
解させます。その後、ラッキョウを9月下旬〜10月
上旬に、通常通り植え付けます。
ラッキョウは水はけのよい畑を好む。
クロタラリアが水はけのよい土をつくる
ラッキョウは水はけのよい畑を好み、また秋から冬
は根を土中深くまで伸ばします。このため、ラッキョ
ク ロ タ ラ リ ア( ネ コ ブ キ ラ
ー )には、土を豊かにする働き
もある。
ウの適地は、水はけのよい砂地などになります。水は
けが悪いと根を伸ばすことができず、センチュウやフ
ザリウム菌などが寄生しやすくなります。
クロタラリアはマメ科の植物で、センチュウの対抗
きん こん きん
植物として知られています。また、根には菌根菌や根
粒菌が共生し、土を豊かにする働きがあります。さら
に、高い草丈と同じように、根を土中深く伸ばして土
を耕し、水はけをよくする働きがあります。
畑の周囲で天敵を育てる
家庭菜園や有機栽培で行われている方法で、畑の周囲に
草花を栽培し、そこに天敵を繁殖させて野菜を害虫の食害
から守るものです。
ナスやピーマンなど草丈の高い果菜類には、ヒマワリや
ソルゴーなど草丈の高い植物を用い、逆に葉根菜類では草
丈の低いコスモス、マリーゴールド、クリムソンクローバ
ーなどを利用します。タマネギ栽培では、クリムソンクロ
ーバーを使うと、アザミウマとアブラムシに高い防除効果
があるといわれています。
コスモスの縁ど
り。天敵をここ
へ繁殖させる。
タマネギとクリムソン
クローバー。クリムソ
ンクローバーに天敵を
繁殖させる。
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はなとやさい
クロタラリアの花。咲く前に草
を細断して、畑にすき込む。