(詳細)(PDF) - 九州大学|芸術工学研究院・芸術工学府・芸術工学部

九州大学大学院芸術工学府
「環境・遺産デザインコース」について
Ⅰ.設置の趣旨及び必要性
1.経緯・目的
変化の激しい現代社会において、私たちは時間と空間を大きなスケールで見つめ
なおす機会を失っている。過去から継承した環境を大切な遺産と捉え、将来世代の
遺産となるような環境を現代に創造し未来に継承する。真に豊かな生活とは、こう
した価値の継承と創造が持続する社会の実現から生まれると言え、その理論と実践
を探求する大学院教育に取り組むことは急務である。本コースは、こうした課題に
応えるため、地域あるいは人類にとっての環境と遺産の意味を深く理解し、それら
をまもり、育て、さらには将来の遺産となる価値を創り出してゆくことのできる人
材を育成することを目指し設置するものである。
2.設置の必要性
①芸術工学及び環境設計学が果たしてきた役割
芸術工学部及び大学院芸術工学府は、九州芸術工科大学との統合により本学に
新たに生まれた学部及び大学院であり、九州芸術工科大学開学以来、技術を人間
生活に適切に利用するために「技術の人間化」を標榜し、技術の基盤である科学
と人間精神の自由な発現である芸術とを統合する高次のデザイン教育を目的とし
て、39年間にわたって各界に有為な各種設計家を輩出してきた。これらの人材
は、様々な計画・設計分野の融合による質の高い環境等の実現を使命として活躍
している。特に本コースとの関わりが深い環境設計学の分野では、対象となる環
境の時間的(歴史的)・空間的(地理学的)コンテクストを深く理解した設計を
命題として、自然及び地域の歴史的・文化的遺産と共生するデザインを一貫して
探求し続けてきた。
②環境・遺産デザインの発想:遺産の真正な継承と未来に遺産となる価値の創造
本コースにおけるキーワードである「遺産(ヘリテージ)」とは、単に「祖先
から遺された財産(モノ)」のみを指すのではなく、「子孫に遺したい資産(モ
ノやコト)」を含む概念である。まずは賦与された大切な遺産を真正に継承する
こと、そしてそれを真摯に見つめること、そこから豊かな感性と価値理解の能力
が育まれ、将来世代がまた大切に継承したくなる価値の創造が可能になる。こう
して現代の我々はもとより将来世代が価値を創造し、さらにそれらを遺産として
未来の世代へ継承する営みが「環境・遺産デザイン」である。自らが有する遺産
の価値と活用可能性(ポテンシャル)を正しく認識できない地域や社会は、その
特性を生かしたユニークで誇りある将来ビジョンを描くことが難しい。環境・遺
産デザインを担う主体となるべき民(市民)・産(民間企業)・官(自治体)に
-1-
よる「継承すべき資産」としての遺産に対する発想の転換が必要である。
③2つの文化多様性と地域遺産の再発見
近年の文化多様性保護の国際的議論には、グローバリズム優勢な中における国
や地域、民族ごとの相対的多様性が保護・継承されるべきとする視点がある一方
で、地域文化は多様な側面から評価され絶対的かつ総合的なものとして保護され
るべきとの視点がある。日本では国策としての地方分権が加速していく中で、各
地域・都市間の競争がますます激化しており、そのなかで生き残るには、まさに
日本地図や世界地図の中で顔の見える地域・都市像を示すための相対的差別化と
個々に絶対的な存在である地域文化をアイデンティティに昇華させる作業が求め
られる。そのためには地域に内在する絶対的な文化多様性を発見・理解し、豊か
に活用できるまちづくりの方法論が求められる。それは、いたずらに国際級、全
国級の資源開発にばかり奔走するのではなく、地域の足下に多彩に継承されてい
る歴史や文化・芸術資源、市民の誇りやホスピタリティ、自然と都市のユニーク
なつながりといった有形・無形の要素を遺産と捉え、それらを取り巻く自然環境
や都市環境とともに総合的にマネジメントしデザインに活用していく方法論であ
る。
④ツーリズムへの社会・経済的ニーズ
20世紀の「石油」に代わって、21世紀のグローバルフォース(世界をかえ
る力)は「ツーリズム」であるといわれる。地域・都市間の競争が激化する中で
の地域再生には、この気まぐれなツーリズムという社会現象をいかに上手くマネ
ジメントするかがカギになる。自然・文化遺産はもとより無形遺産や新旧様々な
産業を含む都市に潜在する資産を環境・遺産デザインにつなげることができるか
否かは、ツーリズムマネジメントにかかっているともいえる。遺産があるからツ
ーリズムを展開するのではなく、ツーリズムの視点が遺産を発見、創造し、都市
に価値を付加し、人や資本を惹きつけるのである。市民による自都市の再発見や
探索、回遊、子供の環境学習や大人も含めた生涯学習は、ツーリズムという行為
そのものであると同時に遺産マネジメントの重要な契機ともなる。市民によって
価値を再発見された都市は、その魅力の奥行きを増し、生きがいと誇りを持っ
た市民が暮らす都市には風格が増す。現在の日本の都市や地域は、こうした経済
的ニーズと社会的ニーズを両立させることのできるツーリズムを展開し、人材育
成と全年齢層の生きがいづくりとしての遺産マネジメントを展開していくことが
求められている。
⑤美しい国づくりを支える景観形成へのニーズ
美しい国づくりを支える法律として生まれた景観法は、法自体が保全や開発に
向けた具体的な方向性を示すものではなく、地域社会が協働で描く地域景観の将
来像の実現を支援するスキームとなっている。この将来像の描出に、地域の有す
る有形・無形の遺産は重要な手がかりとなり、住民のアイデンティティのよりど
ころとなる。市民や住民が実感をもって納得できる魅力的な将来像を描くには、
心理評価や統計学的分析といった科学的アプローチに基づく客観的な地域景観の
把握と計画課題の設定が求められる。そして地域景観を実際に創り出すテクノロ
-2-
ジーとしての水系や都市空間、建築のデザイン、それらを成り立たせている土木
・建築素材の性質を熟知したデザインや生産システムのデザイン、さらにはそれ
らを持続的に維持するための防災システムのデザインが一体的に求められる。
⑥国際的に活躍できるデザイナー養成:UIA=『UNESCO-UIA 建築教育認定制度』
への対応
日本の文化財保護体系は有形・無形の多様な対象を含み、世界的にみても裾野
の広い優れた制度体系であるとされる。また1960年代からの長い歴史を持つ
歴史的環境保全に関する町並み保存運動や保全都市計画なども、単にものを保存
するだけでなく「町並み」として地域の歴史や人々の暮らしを総体として現代に
取り戻し、継承していこうとするユニークな思想に裏付けられている。日本の大
学の国際化にとって、こうした世界のなかでも例をみない優れた活動や思想、技
術を、国際交流や人材育成・派遣等を通して積極的かつ戦略的に海外に示してい
く必要がある。単に文化財保存学の技術移転ではなく、まちづくりや景観づく
り、あるいは観光まちづくり等の遺産マネジメント技術を、より国際的な信頼性
の高い UIA=International Union of Architects(国際建築家連合)資格と組み合
わせて国際社会に送り出すことのできる教育システムが求められている。
3.教育理念
○フィールド調査・研究に根ざした多様な遺産評価能力の養成
本コースでは、構成教員が研究プロジェクトを進めている豊富な国内外の地域を
フィールドとした実践的な教育を展開し、多様な遺産評価能力の養成をめざすとと
もに、日本国内及びアジア・太平洋地域における環境・遺産デザインの国際ネット
ワークづくりをめざし、それらを支える人材を養成するための拠点となる研究・教
育組織を構築する。
〇将来の遺産を創る建築・景観・社会システムのデザイナー養成
本コースでは、学生に対してフィールドワークを課し、遺産を評価・保護・継承
するための専門性を修得させると同時に、設計演習を通じて将来の遺産となるべき
建築・景観・社会システムをデザインする専門性を修得させることで、従来の文化
財保存学や建築学、ランドスケープアーキテクチャー等が単独では難しかった遺産
デザイナーを養成する。
〇遺産とツーリズムの持続可能な関係構築能力の養成
本コースであつかうツーリズムとは、集客産業、旅行産業やレクリエーションだ
けを指すのではなく、文化的差異や経済的差異を動機として生み出される人やもの
のあらゆる交流とそれらを支える社会システムを指す。このツーリズムをマネジメ
ントする行為と環境・遺産デザインという行為が持続可能な関係を構築するための
研究を題材としたフィールドワークを体験させることで、これまでになかったユニ
ークな人材を養成する。
〇国際社会に貢献できる人材の養成
本コースでは、積極的に海外フィールド調査を実施するとともに、それらをデー
タ採取のための調査に終わらせない。日本の環境・遺産デザイン思想や技術を役立
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て検証することを前提とした、実際の地域ニーズに基づいた海外フィールド調査を
実施し、地域還元型の実践研究をおこなうことで、教育と国際貢献の両立をめざす
とともに、国際社会に貢献できる人材の養成をおこなう。
4.本コースで養成する人材
本コースにおいては、有形・無形の遺産をハード面・ソフト面から調査・計画、
設計する遺産デザイナーとしての力を養うために、遺産プランナー、環境・遺産マ
ネージャー、環境エンジニアの3つの人材養成を目指す。
【遺産プランナー】
都市と農村を一体とした地域再生を行うためのプランニング(評価・保全
・活用)能力を養成するために、都市・農村に残存する資源について検討す
る次の能力を開発する。
①自然・森林・農村を生態・歴史・法制度・倫理面からプランニングする
能力
②建築・都市・田園景観を考古・歴史・法制度・倫理面からプランニング
する能力
③芸術・文化・生活・工芸を歴史・法制度・倫理面からプランニングする
能力
【環境・遺産マネージャー】
有形・無形の遺産を真正に保護・継承する能力を養成するために、国内外
の遺産環境やネットワークについて検討する次の能力を開発する。
①都市・建築遺産をツーリズム・持続社会・国際協力面からマネジメント
する能力
②自然遺産・ランドスケープをツーリズム・持続社会・国際協力面からマ
ネジメントする能力
③芸術・文化環境、生活・工芸遺産をツーリズム・持続社会・国際協力面
からマネジメントする能力
【環境エンジニア】
遺産そのものや周辺を取り巻く環境についてハード面から検討する次の
能力を開発する。
①生産システム・素材システムから検討する能力
②空間デザイン・建築デザイン・統計的調査分析・心理評価面から検討
する能力
③防災システム・地域熱環境面から検討する能力
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養成人材像
環境・遺産デザインコース
将来の遺産を創造する環境・遺産デザイナー
・大学研究職、専攻建築士
・文化財保存関連設計事務所専門職員
・遺産プランナー(文化財行政専門職、遺産保護制度専門家等)
・環境遺産マネージャー(まちづくり専門家、ユネスコ等専門職員等)
・環境エンジニア(建築・土木・造園設計事務所、ゼネコン等)
地域資産である有形・無形の遺産をマネジメントする計画・
設計を実践し、地域を発展に導く能力の養成
(代表的な授業科目)
・自然・森林遺産論
・田園・都市景観論
・芸術・文化環境論
・生活・工芸遺産論
・都市・建築遺産論
・ランドスケープマネジメント
・ツーリズムマネジメント ・持続社会マネジメント
・国際協力マネジメント ・都市・建築遺産マネジメント
・生産システムデザイン ・素材システムデザイン
・統計学的調査分析法 ・デザイン心理評価法
・防災システムデザイン
・環境・遺産デザイン特別演習Ⅰ,Ⅱ
環境・遺産デザインの関連実務や研究の能力開発を目指す者
Ⅱ.教育課程の編成の考え方
1.教育方針
本コースにおいては、地域資産である有形・無形の遺産を保全・活用する計画・設
計を実践し、地域を発展に導く遺産デザイナーの養成を行う。その構成は、「環境・
遺産デザインによる都市と農村を一体とした地域再生を支援できるプランニングの専
門家」(以下、遺産プランナーという)、遺産との共生環境をデザインし、環境・遺
産デザインの国内・国際ネットワークを構築し支える人材として、「有形・無形遺産
の真正な保護・継承をマネジメントする専門家」や「遺産と共生する建築や環境、景
観の保全・創造・活用をマネジメントする専門家」(以下、環境・遺産マネージャー
という)、そして「環境・遺産デザインを支える環境デザインテクノロジーの専門
家」(以下、環境エンジニアという)を養成するための教育を行う。
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2.修了要件及び履修方法
【修士課程】
(1)修了要件
課程に2年以上在学して、30単位以上修得し、かつ、必要な研究指導を受
けた上、修士論文又は修士作品の審査及び最終試験に合格すること。
(2)履修方法
30単位以上
①コース内共通科目:8単位以上
環境・遺産デザインコースのコース内共通科目のうち、「環境・遺産デザ
イン特別演習Ⅰ及びⅡ」(各4単位)は必修である。
②講座内科目:6単位以上
学生各自の所属講座で開設される授業科目を6単位以上選択履修する。
③他講座科目:6単位以上
学生各自の所属コースにおいて所属講座以外の講座で開設される授業科目か
ら6単位以上選択履修する。そのうち各講座から2単位以上選択履修する。
④自由科目:10単位以上
芸術工学専攻修士課程の授業科目(各コースの特別演習Ⅰ及びⅡを除く。)
から選択履修する。ただし、研究指導教員が必要と認める場合には、芸術工学
府他専攻、他学府及び芸術工学部の授業科目から6単位まで(うち芸術工学部
の科目は4単位まで)まで選択履修することができる。
【博士後期課程】
(1)修了要件
課程に3年以上在学して、10単位以上修得し、かつ、必要な研究指導を受
けた上、博士論文の審査及び最終試験に合格すること。
(2)履修方法
10単位以上
①修士課程との共通開設科目:4単位以上
芸術工学専攻の修士課程及び博士後期課程の共通科目として設定
されている94科目(各コースの特別演習 I 及びⅡを除いた科目)から、
4単位以上を修得する。なお、修士課程で単位を修得した科目を再度履修
することは原則認めない。
②博士後期課程独自開設科目:6単位以上
学生が指導を受ける教員等により、研究指導を主な目的とする当該科目
を6単位以上選択履修する。
-6-
3.教育課程等の概要
【修士課程】
科目区分
遺産理論
授業科目の名称
配当年次
単位数
必 修
選 択
自然・森林遺産論
1,2
2
田園・都市景観論
1,2
2
芸術・文化環境論
1,2
2
生活・工芸遺産論
1,2
2
都市・建築遺産論
1,2
2
メディア環境思想特論
1,2
2
遺産考古学
1,2
2
国際文化遺産保護法
小計(8科目)
1,2
−
環境・遺産マネジメント 都市・建築遺産マネジメント
0
2
16
1,2
2
ランドスケープマネジメント
1,2
2
ツーリズムマネジメント
1,2
2
持続社会マネジメント
1,2
2
国際協力マネジメント
1,2
2
森林景観生態学特論
1,2
2
ストラテジックプロジェクト史
1,2
2
プロジェクトマネジメント
小計(8科目)
1,2
−
0
2
16
環境デザインテクノロジ 生産システムデザイン
1,2
2
素材システムデザイン
1,2
2
統計学的調査分析法
1,2
2
デザイン心理評価法
1,2
2
防災システムデザイン
1,2
2
地域熱環境工学
1,2
2
建築デザイン
1,2
2
次世代建築空間
1,2
小計(8科目)
−
ー
コース内共通科目
2
0
16
環境・遺産デザインプロジェクトⅠ
1,2
3
環境・遺産デザインプロジェクトⅡ
1,2
3
環境・遺産デザインプロジェクトⅢ
1,2
3
インターンシップ
1,2
2
環境・遺産デザイン特別演習Ⅰ
1
4
環境・遺産デザイン特別演習Ⅱ
小計(6科目)
1,2
−
4
8
11
8
59
合計(30科目)
−
修 了 要 件 及 び 履 修 方 法
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必修科目8単位、選択科目22単位以上を修得し、かつ必要な論文指導を受けた上で、本学府が行う修
士論文又は修士作品の審査及び最終試験に合格すること。
【博士後期課程】
科目区分
授業科目の名称
配当年次
単位数
必 修
修士課程との共通開設 芸術工学府専攻修士課程授業科目において
科目
選 択
1,2,3
193
−
193
1,2,3
2
環境・遺産デザインプロジェクト研究
1,2,3
4
環境・遺産デザイン特別演習Ⅲ
1,2,3
2
−
8
−
201
各コースの特別演習Ⅰ及びⅡを除く科目
小計(95科目)
博士後期課程独自開設 環境・遺産デザイン特別研修
科目
小計(3科目)
合計(98科目)
修 了 要 件 及 び 履 修 方 法
修士課程との共通開設科目から4単位以上、博士後期課程独自開設科目から6単位以上を修得し、かつ
必要な論文指導を受けた上で、本学府が行う博士論文の審査及び最終試験に合格すること。
4.開設予定授業科目一覧(芸術工学府)
別紙のとおり
Ⅲ.募集定員
修士課程
18人
博士後期課程
5人
Ⅳ.学位
本コースの修了者には、次の学位を授与する。
修士課程修了者
修士(芸術工学)
博士後期課程修了者
博士(工学)または博士(芸術工学)
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