フランス日本語教育委員会報告 フランス教育委員会設立経過とその意義

第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
フランス日本語教育委員会報告
フランス教育委員会設立経過とその意義
石井陽子(ISHII Yoko)
フランス日本語教育委員会副委員長
Comité pour l’Enseignement du Japonais en France
(CEJF)
フランスで日本語教育に携わるすべてのものを結集するフランス日本語教育委員会
が 2005 年 3 月に設置されたことは、フランスの日本語教育にとって歴史的かつ画期
的な出来事である。その設立にいたるまでの一連の動きを時間を追って述べ、設立の
意義を明らかにしたい。
I.フランスの中等教員資格試験制度と日本語
この動きの発端となったのは 2004-2005 年度の日本語日本文化中等教育教授資格
試験(agrégation de langue et culture japonaises)(以下アグレガシオンと記す)が中
止されたことにあるが、その意味を正しく理解するために、まずフランスにおける中
等教員資格試験制度を概観し、制度の中の日本語の場合を述べる。と同時に教育委員
会設立を必然的なものとしていたフランスの日本語教育の現状を観てみたい。
1.アグレガシオン(中等教育教授資格試験)
アグレガシオンとは「各専門分野について、その年の秋から採用する高・中校教員
の人数を公表し、春から夏にかけて全国で行われる筆記試験と数日間にわたる口頭試
問によって、それぞれの専門分野の新しい教諭を選ぶ」1 、もので、フランス教育省
が行う国家試験であり、中・高校の正規の教員になるための非常にレベルの高い選抜
試験(コンクール)である。この試験を受験するには maîtrise / master 1 (バカロレ
ア+4 年)の資格が必要である。アグレガシオンに合格したものはアグレジェ(agrégé)
と呼ばれ、中等教育の正教員になれると同時に、大学でも教える資格がある。ちなみ
に大学の助教授(maître de conférences)になるにはさらに博士号が必要である。
日本語のアグレガシオンは故オリガス INALCO 教授の尽力により 1984 年の法令
により設定され、1985 年より実施された。表 1 にあるように、1985 年、1986 年は
2 年続けて 2 名が採用されているが、1986 年以降は 2 年毎に 2 名という条件で 1998
年まで定期的に行われていた。2000 年には 4 名と採用数が増えているのは、当時は
J-J オリガス 「 フランスにおける日本語教育概観」 in『日本語と日本語教育、 第 16
巻 日本語教育の現状と課題』
、明治書院、P. 188,189
1
271
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
社会党政権の時代で恐らく教育に力を入れた政策が取られたのであろう。ジャック・
ラングが教育大臣であったときのものである。また、翌年の 2001 年も日本語アグレ
ガシオンには 4 名採用との公募があったのであるが、ハイレベルのこの試験に合格
しえる優秀な受験者がなく、結局 1 名しか採用されなかった。その後は 2 年後の
2003 年に 1 名だけの公募に終わり、2005 年には日本語日本文化教育関係者の期待に
もかかわらず、日本語のアグレガシオンは中止という憂き目に会ったのである。
表1
アグレジェ Agrégés
年
氏名
所属先(2006 年 4 月現在)
1985
Marion SAUCIER
INALCO
Christine LEVY
Univ. Bordeaux 3
Chikako THOYER-INUI
INALCO
Pascal GRIOLET
INALCO
Reiko VERGNERIE
定年退職 (Lycée Racine)
Cristiane SEGUY
Univ. de Strasbourg
Anne SEGOT
Lycee Jean de la Fontaine
Chiyo OGER-KUNIMURA
Univ. Rennes 1 - Institut de Gestion de
1986
1988
1990
Rennes
1992
Patrick GIRAUD
Hisano
Lycée Français de Tokyo
MARRET- Univ. Lyon3
YAMASAKI
1994
1996
1998
2000
François LACHAUD
Ecole Française d’Extrême Orient
Daniel MENINI
Univ.de Toulouse-Le Mirail
Jean BAZANTAY
Univ. d’Orléans
Frédérique BARAZER
Lycée Ampère
Gerald PELOUX
Lycee Jean de la Fontaine
Jacqueline-Yuki FAVENNE
Lycee Honoré Daumier
Lione MERAND
Lycée Jean de la Fontaine
Caroline MUSCAT
Olivier MAGNANI
Lycée Jean de la Fontaine
Vincent PORTIER
Lycée Jean de la Fontaine
2001
Junko MIURA
Lycée Racine
2003
Estelle FIGON-SHINA
Lycée Jean de la Fontaine
2.
カ ペ ス CAPES (Certificat d’Aptitude au Professeur de l’Enseignement
Secondaire)
272
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
一般に頭文字をとってカペス(CAPES)と呼ばれる中等教育教員適性証書取得試
験がある。この試験は Licence (バカロレア+3 年)の免状を持つものに広く開かれて
いるもので、Concours externe(外部に開かれたコンクール)と呼ばれる。これに
受かったものは professeur certifié とよばれ、アグレジェとともに中等教育の正教員
となれる。
中国語には 1964 年より定期的にこの試験が行われ、例えば 2004 年は 7 名、2005
年は 14 名が正教員が採用されている。日本語のカペスは未だ存在しない。2
3.
カペス相当資格 (CAPES réservé)
2.で述べた CAPES の concours externe に対して、CAPES réservé と呼ばれる
concours interne がある。これはすでに公立の中等教育機関で補助教員(maître
auxiliaire, contre actuel)として 5 年間以上教鞭を取った者を対象に開かれている
試験である。補助教員は短期契約の法的保障のない不安定なポストであるので、この
ような教員にチャンスを与え、謂わば、救済する暫定的な措置である。試験の内容も
筆記試験もなく concours externe に比べて、レベルは低い。
日本語に関しては、表 2 に示すように 1998 年よりこの試験が適用され、13 名
(ニューカレドニアを含む)が正規の教員として採用されたが、この措置も 2005 年
を最後に日本語への適用はないとのことである。1
そのほかにも勤務年数が考慮されて補助教員にカペス相当資格が授与される道もあ
るようだが、フランスにおいて現在約 50 名(ニューカレドニアを含まない)の中等
教育の日本語教員がいるが、大多数が補助教員として働いているわけである。
表2
カペス相当資格保持者 CAPES réservés
所属先(2006 年 4 月現在)
年
氏名
1998
Daniel BOUBAULT (死亡)
1999
Laurence CLAROT
Yoshie
Nouvelle-Calédonie
PONCHEELE- Lycée Européen Montebello
KOKUBUN
2000
2001
2
Frédérique SAURON
Lycée de Sept Mares
Astuko DELRIEUX
Nouvelle-Calédonie
Sylvie LECLAIR
Nouvelle-Calédonie
Akiko INUKAI
Lycée Jean de la Fontaine
Flaurence BERGAMINI
Lycée Ozenne
Stephane LAMACQ
Lycée Camille Claudel
Nadine NERVI
Lycée Racine
フレデリック・バラぜール
2007 年発行予定
「カぺス小委員会報告」in『フランス日本語教育 No.3』
273
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
2002
2003
4.
?
Nouvelle-Calédonie
Sandra LEILLOUX
Nouvelle-Calédonie
Aude SUGAI
Lycée Watteau
中等教育の日本語教育の現状
アグレガシオンとカペスのような高度な国家試験が実施されるということは大学で
の日本語日本文化のカリキュラムが高度に保たれることを意味し、また中等教育の教
員の質も保証されることなのである。それならば、日本語に対してはなぜこのシステ
ムが正常に適用されていないのであろうか。
中等教育の日本語教育環境の不整備さが指摘されて久しい。公式の日本語プログ
ラムが存在しない。そのため教師が各自の学習プログラムを立てながら教育に当たっ
ているので、教育全体に一貫性がない。バカロレアの試験問題も何らの基準もなく作
成されており、口答試験も同様に審査官は基準なしで採点している。また、正規教員
採用についても不十分であり、中国語に比して後れを取っている。これは教師の質の
問題に繋がっていく。などの問題であるが、中等教育の日本語がこのような状態に陥
ってしまっているその原因は何であるのか。まず、現在非常な発展を続けている中国
語の例を見ながら、探ってみたい。
前にも述べたように現在フランスでは中国語ブームである。そのブームの原因
はもちろん中国の経済発展にあるが、他の要因も大いに手伝っていると思われる。第
一の要因は教育省付中国語視学官が若手の言語学者であり、中国語教育に非常に熱心
で情熱をもって取り組んでおり、教育省の動きにも積極的に参加している。また中国
政府も中国語普及政策として、中国語が学習できるセンターをフランス国内に設立す
るるなど、力を入れている。このような要因が働きあって現在の中国語ブームが生み
出されているのだと思う。
それに比して、日本語はどうかというと、まず、日本語の視学官に関しては、従
来からフランス日本学のトップにいる教授がその役割を果すという考え方が通用して
おり、日本語学・教育とは関係のない分野の専門家であり、日本語教育には関心が薄
い。また、視学官をサポートする何らの組織もない。教育省における日本語の存在は
非常に薄い。教育省の言語政策の流れから日本語は取り残されている状態にある。例
えば、欧州評議会(Council of Europe)が 2001 年に発行した「ヨーロッパ言語共通
参照枠組み」(The Common European Framework of Reference for Languages :
learning, teaching, assessment)が欧州各国で適用され、フランスでも各言語がこの
基準に則って中等教育プログラムを作成している。中国語の中学のプログラムはすで
に完成しており、2003 年度から現実に適用されているのである。日本語に関しては、
2005 年まで「ヨーロッパ言語共通参照枠組み」の存在を知る者もほとんどなく、ま
してやそれに準じたプログラムを作成するなどという動きは微塵にもなかったのであ
274
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
る。3 , 4
II.
2004-2005 年度日本語日本文化アグレガシオンの中止に伴う動き
2004-2005 年度日本語日本文化アグレガシオンの中止が発端で起こった動きを時
間を追って以下に詳述する。
-フランス教育省への抗議書(2004 年 9 月 28 日付)
本稿の冒頭に記したように 2004-2005 年度日本語日本文化アグレガシオンが中止
になった。フランス教育省が日本語に関しては新しいアグレジェのポストを開設する
必要なしと判断したわけである。この教育省の決定に対して、日本語日本文化教育関
係者、特にアグレガシオン審査委員会のメンバーがこの事態を憂慮し、日本語教育関
係者に働きかけ、日本語日本文化アグレガシオン審査委員会新旧メンバーはじめ各大
学の日本セクション長、ヨーロッパ日本研究学会前会長、フランス日本語教師会会長
と計 20 名の連名で、日本語教育視学官マセ教授の名のもとに 2004 年 9 月 28 日付け
の抗議文が教育大臣に送られた。
その内容は 2004-2005 年度日本語日本文化アグレガシオンの中止を遺憾に思うと
同時に、2002-2005 年間に唯一のポストが与えられただけであり、日本語のアグレ
ガシオンのこのような不定期な施行はこのコンクールの存在自体を危険にさらすこと
になる。また優秀な学生のアグレガシオン受験の意思を削ぐことになる。日本語日本
学のカリキュラムを高度に保つためにはアグレガシオンの定期的実施が必須条件であ
る。故に 2005-2006 年度より日本語のアグレガシオンの定期的な実施を要望する。
さらに、中学高校の教師養成が正常に行われるように、アグレガシオンと交互に行
う形で日本語のカペスの新設を要請する。
日本は世界第 2 位の経済大国であるのみならず、日本語教育も現在世界的に増加し
ており、フランスにおいても高等教育においては 7600 名の学生が日本語を学んでお
り、この数字は 1960 年代より間断なく増加してきている。故に中等教育の日本語教
育への努力をさらに推し進めていくべきである、というものであった。
-当時フランス日本研究学会の会長をされていた坂井セシル教授が日本大使館に抗議
文のコピーと共にこの現状を報告し、日本当局の支援を仰ぐ旨の手紙(2004 年 10
月 9 日付け)を当時の日本国大使であった平林博大使に送る。
-抗議書への教育省の返答書(2004 年 10 月 21 日付)
3
大島弘子「CEF(ヨーロッパ共通参照枠)の日本語教育への応用の可能性と難点」
」in
『フランス日本語教育 No.3』2007 年発行予定
4 石井陽子「フランスにおける日本語教育の課題と新しい動向」in『アジア遊学』(勉誠
出版)2007 年 5 月発行予定
275
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
この抗議書への返答が教育省教員人事部(direction des personnels enseignants)の
Pierre-Yves Duwoye 部長より 2004 年 10 月 21 日付け書簡にてマセ視学官におくら
れた。
その内容は、ポストの開設はどのような要素を考慮して決定されるかがまず説明さ
れ、2000 年からの日本語のアグレガシオンとカペス相当資格の開設ポスト数の確認
が続き、2004 年と 2005 年の日本語アグレガシオンが行われなかった代わりに、カ
ペス相当資格が 2000 年に 2 名、その後毎年 1 名に授与されている(表 2 との相違が
あるが全体数は合致する)と述べ、2004 年度の新学期の教師数は需要に十分応える
ものであるとしている。さらに、2005-2006 年度には日本語アグレガシオンはすで
に予定されているとしている。抗議文に述べられている日本語カペス新設にはまった
く触れていない。
-教育省のこの返答書のコピーがマセ視学官より 2004 年 11 月 4 日に日本大使館文
化広報部に送られる。
-教育省のこの返事のコピーが 2004 年 11 月 23 日付けでマセ視学官より抗議書に
連名した 20 名に送られた。
-日本大使館文化広報部での 2004 年 11 月 24 日の事情説明会合
アグレガシオンの中止、さらには中等教育の日本語教育の現状などの事情を聞くた
めに文化広報センター所長山田公使が 2004 年 11 月 24 日にマセ視学官が文化広報セ
ンターに招請し、坂井日本研究学会会長(欠席)と石井フランス日本語教師会会長も
オブザーバーとして呼ばれ、蝦名一等書記官出席のもと会合が持たれた。この会合は、
マセ視学官より事情説明を聞くことであり、大使館の動きの第一歩であったと言える。
-日本大使館文化広報センター所長山田公使のイニシアティブで日本語教育振興策に
ついての会合が 2004 年 12 月 22 日にパリ日本文化会館にて行われた。
出席者:日本大使館
山田公使、蝦名一等書記官、北村二等書記官
国際交流基金
岡日本語事業部部長
パリ日本文化会館
中川副館長、福島事務局長、望月事業局次長
仏日本語教育関係者 坂井セシル日本研究学会会長
石井陽子日本語教師会会長
この会合では、まずフランスにおける日本語教育の代表者として出席していた両会
長によりフランスの日本語教育、特に中等教育の現状についての説明がなされた。
次に、現状打開対策として、大使館がフランス政府に働きかけるとしても、その裏
づけとなる体制を作る必要があるとの要請が山田公使よりなされた。
そのためには視学官(Chargé de mission pour le japonais auprès del’inspection
générale)をサポートする委員会を創る。その委員会は視学官を中心にフランス日本
276
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
研究学会とフランス日本語教師会の代表メンバーから構成されるのが望ましい、とい
うことで意見が一致した。
国際交流基金は委員会の活動の資金援助をする準備がある。また日本語教育アドバ
イザーの派遣の用意もあるとの発言が岡事業部長よりなされた。さらに、委員会の活
動計画と活動資金としての助成金申請を早急に交流基金に提出することとの要請もな
された。
III. フランス日本語教育委員会の設立
1 委員会設立のための会合
2004 年 11 月 24 日の事情説明会合での話し合いに基づき、フランス日本語教育委
員会を設置すべく、2006 年 3 月 26 日にイナルコにて以下のように会合が持たれ、
委員会が発足された。
日時:2005 年 3 月 26 日(土)10 時-12 時
会場:イナルコ
出席者:石井陽子(エコール・ポリテクニック)、フランソワ・マセ(F. Macé、イ
ナルコ)、大島弘子(パリ第七大学)、セシール・坂井(C. Sakai、パリ第七大学)島守
玲子(リヨン第三大学)、マリオン・ソシエ(M. Saucier、イナルコ)、
本会議には、フランス日本研究学会(SFEJ)、フランス日本語教師会(AEJF)を
代表する日本語教育関係者が、教育省日本語中等教育視学官であるマセ教授を中心に
集まり、仏中等教育における日本語教育の現状を把握し、問題を解決し、発展させる
ために、何をするべきかが検討された。
当会議では、まず 2005 年の日本語アグレガシオンが中止になってからの動きのま
とめが坂井教授より述べられた。次にマセ教授から現在中等教育の日本語の授業が閉
鎖され、その代わり中国語の授業が開設あるいは増設される傾向にあり、日本語のア
グレジェの中には日本語の授業数が少なく、要求されている時間数をこなすことが出
来ないでいる状態にあるものがいるとの報告があった。また、カペス相当資格試験で
は教育能力の評価しかなく日本語の実力を測るテストがないので、非常に不十分なシ
ステムである。この試験はすでに補助教員として長年教えている教師を救済するため
に暫定的に3年間行う予定であったのが、すでに6年間続いている。補助教員達の日
本語能力は往々にして低い、などの現状の報告があった。坂井教授は日本語カペスの
新設がこのような教師達の日本語レベルを向上させる重要な手段であると強調された。
そして、中等の日本語教師の会合、または会議を開催する必要があると説かれた。
この話し合いの結果、フランス教育省に対して正当性を保証し、教育省へ向けての
活動の基盤を作るため、フランス日本研究学会(SFEJ)、フランス日本語教師会
(AEJF)の代表者とアグレジェ、カペス相当保持者で構成されるフランス日本語教育
277
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
委員会を設立すること、そして中等教育日本語教員全員に参加を呼びかけ、第1回連
絡会議を 2005 年 6 月に開催することと意見が一致した。委員会が掲げる課題は、1.
日本語カペス(Capes)新設、2.中等教育日本語(第 1、第 2、第 3 外国語)プログラム
作成、3.教員研修(教習生研修、現職教員研修)の実施、の3点に絞られた。
2. フランス日本語教育委員会 設立
このようにして 2005 年 3 月 26 日にフランス日本語教育委員会(Comité pour
l’enseignement du japonais en France CEJF)が発足された。最終的構成メンバーは
以下の通りである。
会長:フランソワ・マセ(INALCO 教授、前フランス日本研究学会会長)
副会長:セシル・坂井(パリ第七大学 教授、前フランス日本研究学会会長)
石井陽子(国立理工科大学 専任講師、フランス日本語教師会会長)
事務局長:マリオン・ソシエ(INALCO アグレジェ、フランス日本研究学会会
計)
大島弘子(パリ第七大学 助教授、ヨーロッパ日本語教師会役員)
委員:アニック・堀内(パリ第七大学 教授、前フランス日本研究学会副会長)
島守玲子(リヨン第三大学 助教授)
ジャン・バザンテ(セーヴル高校 アグレジェ)
フレデリック・バラゼール(リヨン・アンペール高校 アグレジェ)
リオネル・メラン(ジャン・ド・ラ・フォンテーヌ高校 アグレジェ)
ナディーヌ・ネルヴィ(ラシーヌ高校、カペス相当資格保持者)
会計責任者:石井陽子(国立理工科大学専任講師、フランス日本語教師会会長)
3. 日本当局への委員会設立報告とプロジェクトの提案
フランス日本語教育委員会の任務は、多くの問題を抱え、停滞状態にあるフランス
中等教育の日本語教育の環境を改善し、安定を図り、教育レベルを向上させ、将来の
発展へと繋げていくべく、活動基盤をつくり、活動を推進させていくことにある。
その具体的な活動を始めるにあたって、まず現状を把握し問題を総括し認識する必
要があった。そのためには中等教育の日本語教育を主に対象とした連絡会議を開くこ
とであった。そして、問題点を明らかにした後に緊急を要する課題を具体的に解決に
向けて活動する小委員会を結成することであった。
しかし第一回連絡会議開催を実現するには日本当局、特に国際交流基金の強力な支
援なくしては不可能であった。委員会は当基金に全面的な協力援助を求めるための申
請書(プロジェクトの趣旨書、第一回連絡会議プログラム草案、予算書)を急遽作成
した。
委員会設立を報告し、連絡会議開催プロジェクトの趣旨を説明し応援を仰ぐべく、
委員会は日本国大使館と国際交流基金/パリ日本文化会館に会合を要請し、2005 年 4
278
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
月 14 日にパリ日本文化会館で会合が持たれた。出席者は以下の通りであった。
出席者:日本大使館:山田公使、蝦名一等書記官
国際交流基金/パリ日本文化会館:福島事務局長、望月事業局次長、
フリードマン日出子氏
仏日本語教育関係者:マセ視学官、坂井日本研究学会会長、
石井日本語教師会会長
この会合において委員会は連絡会議開催を提案したのであるが、基金側はむしろ年
間を通した研究プログラムを考えており、委員会活動への双方の見解の相違があるこ
とが分かった。委員会は中等教育日本語教員を集合させる連絡会議なくしては、具体
的活動は始められないことを主張し、数週間委員会と基金との話し合いが続いたが、
結果的には連絡会議を開催するという同意を国際交流基金/パリ日本文化会館より得
ることが出来た。
IV. 第 1 回連絡会議開催
かくして第 1 回連絡会議が開催されることが決定され、委員会はプログラム作成
に乗り出したのであるが、委員会は何ら事務能力を持たない任意組織なので、ロジス
チックな面はパリ日本文化会館がすべて行う形になり、日本文化会館が当会議を主催
するという形式で第一回会議が開催された。会議のプログラムは以下のとおりである。
第一回フランス日本語教育連絡会議
パリ日本文化会館 / フランス日本語教育委員会
主催 パリ日本文化会館
協力 フランス日本語教育委員会
後援 日本国大使館
開催日 2005 年 6 月 18 日 13 時~18 時 30
会場
パリ日本文化会館
プログラム
13 時 中川正輝パリ日本文化会館館長、国際交流基金代表のご挨拶
山田文比古公使(在仏日本大使館)のご挨拶
フランソワ・モナントュイユ教育省外国語教育視学官長
フランソワ・マセ(CEJF 会長、フランス教育省日本語教育視学官)挨拶,
本会議のプログラムの発表
13 時 30 分―14 時 30 分:中等教育における日本語教育の現状
- 中学校、高等学校/第一、二、三外国語とニューカレドニア
279
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
ジャン・バザンテ(セ-ヴル高校、アグレジェ)
- カペス(現職教師用)
、補助教員/公立、私立
ナディンヌ・ネルヴィ(ラシーヌ高校、カペス相当資格)
14 時 30 分―15 時:高等教育における日本語教育の現状
大島弘子(パリ第 7 大学助教授)、マリヨン・ソシエ(INALCO、アグレジェ)
15 時―15 時 15 分:問題の在り処と展望
セシール・坂井(パリ第 7 大学教授)
15 時 15 分―15 時 45 分:休憩
15 時 45 分―16 時 15 分:日本語のアグレガシオン
フランソワ・マセ(INALCO 教授)
16 時 15 分―16 時 45 分:
日本語カペスについて
島守玲子(リヨン第 3 大学助教授)
フレデリック・バラゼール(アンペール高校、アグレジェ)
16 時 45 分-17 時 15 分:第一、二、三外国語としての日本語教育カリキュラム委員
会
フランソワ・マセ(INALCO 教授)
リヨネル・メラン(ジャン・ド・ラフォンテーヌ高校、アグレジェ)
17 時 15 分―17 時 45 分:教員研修(教習生研修、現職教員研修)
マリヨン・ソシエ(INALCO、アグレジェ)
東伴子(グルノーブル第 3 大学助教授)
石井陽子(国立理工科大学専任講師)
18 時 15 分―18 時 30 分:一般的討論、結論、今後のスケジュール
フランソワ・マセ(INALCO 教授)
参加者は中等教育の教員を中心に高等教育の教員も交えて計 36 名であった。また
教育省外国語教育視学官長であるフランソワ・モナントュイユ氏が参加したことは注
目に値する。会議の内容はプログラムにあるとおりフランスにおける日本語教育の現
状を把握し、問題を明確に認識することであり、その問題解決には何をすべきか、緊
急課題は何であるかが討議され、結論とし、各問題を解決に向かって具体的に取り組
んでいく以下の 3 つの小委員会が設立された。5
3 つの小委員会
- 中等教育日本語プログラム作成小委員会
責任者: ジャン・バザンテ(オルレアン大学、アグレジェ)
リヨネル・メラン (ラ・フォンテーヌ高校、アグレジェ)
メンバー:13 名
この連絡会議の議事録(フランス語)は「フランス日本語教育 No.3」に付録として掲
載されている。
5
280
第八回フランス日本語教育シンポジウム 2006 年フランス・パリ
8ème Symposium sur l’enseignement du japonais en France, Paris France, 2006
-
カペス新設小委員会
責任者:
フレデリック・バラゼール(アンペール高校、アグレジェ)
フランソワ-ズ・ゲル(リヨン第 3 大学、助教授)
島守玲子(リヨン第 3 大学、助教授)
-
日本語教育研修小委員会
責任者:東伴子(グルノーブル第 3 大学助教授)
石井陽子 (国立理工科大学専任講師)
マリヨン・ソシエ(INALCO、アグレジェ)
メンバー:10 名
V.
結論
このように中等・高等教育の日本語教育関係者が一堂に会し、一緒に問題を考え、
解決に向かって行動を共にするということはフランス日本語教育史において未だかっ
てなかったことであり、全く画期的なことである。
フランスにおける日本語教育、特に中等教育の現状をこれ以上放棄しては置けない
という認識は関係者全員が多かれ少なかれ抱いていたのであるが、それをまとめ結集
できる組織が存在しなかったのである。そのような状況の中、この動きのきっかけを
作り強力な推進力となったのは日本大使館と国際交流基金/パリ日本文化会館、つま
り日本当局であったという事実を明記しておきたい。
一度動き出したダイナミズムは関係者をどんどん巻き込み、特にアグレジェたち、
様々な問題を抱えながら、それを訴える場所がなかったのであるから、それだけ、彼
らは自分たちの問題として積極的かつ真剣にこの動きに参画している。この事実は大
変喜ばしいことであり、心強いことである。
さらに、フランス日本語教師会会員も活発に小委員会の各種企画に参加しており、
フランス日本語教師会の組織力がこの動きに貢献していると思う。
3 つの小委員会は各プロジェクトに向かって 2005 年秋の新学期より真剣且つ活発
に活動している。また、この動きの強力な援助者であるパリ日本文化会館は、従来は
日本語教育支援にはむしろ消極的であったのだが、この動きを契機に日本語教育に力
を入れており、国際交流基金から日本語アドバイザーをパリ日本文化会館に派遣させ、
会館独自の現職者研修を組織するほか、各小委員会の活動には多大な支援を惜しまな
い。各委員会がその目的に達した暁には、フランス日本語教育が抱えていた長年の懸
案がひとまず解決することになる。それにたどり着くにはまだまだ道のりは長く険し
いが、現在のダイナミックな動きをもってすれば可能であると明るい展望のもとに小
稿を閉じたいと思う。
281