知の知の知の知 - 社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会

い~な
あまみ
中 央
しらさぎ
さくら
大阪+知的障害+地域+おもろい=創造
知の知の知の知
社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会 社会政策研究所情報誌通算 1436 号 2013.7.16 発行
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障害者福祉基礎築いた糸賀一雄の生誕100年業績発信
京都新聞 2013 年 7 月 16 日
滋賀県で戦後まもなく近江学園を設立し、日本の障害者福祉の基礎を築いた糸賀一雄(1
914~68)の生誕100年記念事業を計画する実行委員会は、糸賀の誕生日に当たる
来年3月を中心に、記念式典や関連資料の展示を行うことを決めた。実行委に加わる県は
「糸賀の業績と普遍的な意義を全国に発信したい」としている。
実行委は県や県医師会、福祉団体などで構成。総事業費は2450万円を見込む。
記念式典は、糸賀の誕生日の3月29日と翌30日に栗東市内で開催。障害のある人や
高齢者らの歌やダンスなどを交えたパフォーマンスや、記念講演会などを行う。
糸賀一雄展は3月中に県立近代美術館(大津市)で開く予定。文献などを展示し、糸賀
の取り組みと理念が現在にどう生かされているかも伝える。糸賀の思想の今日的意味を明
らかにする懸賞論文も10月末まで募集し、最優秀作や佳作を論文集にまとめる。
糸賀一雄記念館(仮称)の設立準備については、実行委による準備が単年度で完了でき
ないとして、本年度は福祉関係者などを集めた懇話会を設置し、資料の調査、整理の方法
や公開のあり方を検討することにした。
本県に司法センター新設へ
長崎新聞 2013 年 7 月 16 日 長崎
知的障害などの疑いがある容疑者や被告を、検察捜査や裁判の段階で福祉的なサービス
につなぐ「入り口支援」の専門機関「高齢・障がい者司法福祉支援センター」が、早けれ
ば年度内にも本県に新設される見通しとなったことが15日、分かった。本県で試行した
後、新たな枠組みの入り口支援を全国に広げる狙いがある。
障害が原因で罪を繰り返す「累犯障害者」の更生支援に先駆的に取り組む社会福祉法人
南高愛隣会(雲仙市)が、本年度の厚生労働省社会福祉推進事業(モデル事業)に申請し
ており、近く採択されれば、設立の準備を始める。
累犯障害者の支援をめぐっては、各都道府県の「地域生活定着支援センター」が、障害
者が刑務所を出た後、福祉につなぐ「出口支援」に取り組んでいる。昨年度は長崎、滋賀、
宮城の3県の定着支援センターがモデル事業で入り口支援を試行したが、センターの業務
が加重になることから、
「出口」と「入り口」の支援は別々の組織が担うべきだとの意見が
出ていた。
新設されるセンターは、NPO法人県地域生活定着支援センター(長崎市)に置くが、
専門の職員を新たに配置し、入り口支援と出口支援を分ける。逮捕されたり裁判を受ける
障害者の情報を集めたり、不起訴、あるいは執行猶予付きの判決が出た場合、受け入れ施
設を探す業務などを想定している。
障害がある容疑者や被告について、福祉の専門家が障害の程度や福祉支援の必要性を論
議する「障がい者審査委員会」は「調査支援委員会」に名称を変え、昨年度の長崎、滋賀、
宮城に加え、島根、和歌山の5県で取り組む予定。
関係者は「累犯障害者について、東京地検が社会福祉士を採用するなど障害特性に見合
った処分をしようという動きが検察で出ている。『入り口支援』の段階で、福祉と司法がど
う役割分担をした方がいいのかも含めて検討し、全国に広げたい」としている。
勤務先の障害者施設で少女にわいせつ…元職員を淫行容疑で逮捕
スポーツニッポン 2013 年 7 月 16 日
兵庫県警少年育成課は16日、勤務先の障害者施設で、入所する10代後半の少女にわ
いせつな行為をしたとして、児童福祉法違反(淫行させる行為)の疑いで、児童指導員で
元職員の男(34)を逮捕した。
少年育成課によると、6月に、ほかの職員が少女の様子の異変に感づき、施設で調査し
たところ発覚した。男は2003年から働き始め、6月30日に施設を解雇された。
逮捕容疑は、5月28日ごろ、少女が18歳未満と知りながら兵庫県内にある施設でわ
いせつな行為をした疑い。
論説:子どもの貧困 対策法の本気度問いたい
福井新聞 2013 年 7 月 16 日
日本は子どもの貧困率が先進国の中でも高い(経済協力開発機構=OECD=6月公表)
。
先般、
「子どもの貧困対策推進法」が成立した。政府が本腰姿勢を鮮明にしたと受け取りた
いところだが、貧困率をどれほど減らすのか肝心の数値目標の設定が見送られ本気度が伝
わらない。目標に向けた取り組みを国民が評価できる指標としても必要だった。
政府には子どもの貧困対策に関する大綱の制定、都道府県には計画策定の努力義務が課
される。法制化の根底にはもちろん親から子への「貧困の連鎖」を断ち切る目的がある。
大人の事情がどうあれ子どもは社会全体で守らなければならない。子どもが受けるべき最
低限の生活、教育は社会が保障すべきだ。
OECD調査で、国内総生産(GDP)に対する教育機関への公的支出割合は、比較可
能な先進国の中で日本は3・4%(OECD平均5・4%)と2008年から4年連続の
最下位だった。政府総支出に占める割合をみてもイタリアに並び9・4%で最下位。12・
9%と2桁台のOECD平均に届かない。
文部科学省の中教審は本年度から5カ年の教育振興基本計画で「将来的にはOECD諸
国並みの公的支出を目指す」と答申した。ところが閣議決定は「OECD諸国など諸外国
の教育投資状況を参考とし…」に後退してしまった。貧困対策への本気度はここでも疑問
符が付く。
18際未満の子どもが経済的に苦しい家庭で育っている割合を示す「子どもの貧困率」
は09年に15・7%の最悪水準に達した(厚生労働省10年国民生活基礎調査)
。本人の
努力とは関係なくその将来が生まれ育った環境で左右されてしまう経済的格差は一種の虐
待ともいえる。
貧困問題に詳しい国立社会保障・人口問題研究所の阿部彩さんもネグレクト(子育て放
棄)はカウンセリングではなく経済的援助で解決することもあると述べており、教育、医
療、食料(給食など)といった現物給付と児童手当などの現金給付の両輪拡充を強調して
いる。
ひとり親世帯の経済状況は相変わらず厳しい。09年の貧困率は50・8%と年々下が
ってはいるものの、なお高い水準にあり、貧困の連鎖に深刻な懸念が残る。参院選後の8
月には生活保護費の基準額引き下げが控えている。この影響が心配されるのが就学援助制
度だ。
経済的に就学困難な子どもを支援するこの制度は全国で公立小中生の16%が利用して
いる。生活保護基準が適用の目安となり引き下げで対象から外れてしまう子どもが出る恐
れもある。
大綱には具体的な指標と改善策が盛られるはずだ。子どもの貧困対策は待ったなしであ
る。スピードと実効性ある支援策が切実に求められている。推進法が理念倒れになっては
ならない。多くの人的資源が格差社会の中に沈んでしまっては日本の大きな損失である。
息子さんとぶつかり携帯壊れた…障害者から詐取
読売新聞 2013 年 7 月 15 日
障害者に言いがかりをつけて現金をだまし取ったとして、静岡県警清水署は14日、住所
不定、無職神田貴久容疑者(42)を詐欺容疑で再逮捕した。
発表によると、神田容疑者は5月17日午後、「JR三島駅で息子さんとぶつかって携帯
電話を落とし、壊れた」と言いがかりをつけ、知的障害がある三島市の男性の父親(65)
宅を訪れ、携帯電話の買い替え代金の名目で現金4万5000円をだまし取った疑い。県
警には昨年以降、県中部や東部で同様の被害にあったとして、少なくとも5件の報告があ
るという。
播磨灘遊覧で交流 加古川の障害児とボランティア
神戸新聞 2013 年 7 月 15 日
海の日の15日、障害のある子どもたちや支援団体、ボランティア団体の会員らが海辺
で交流を深める「しおかぜ遊イング」が、兵庫県加古川市尾上町の尾上港周辺で開かれた。
あいにくの雨となったが、参加者らは漁船に乗って播磨灘を遊覧し、気持ちよさそうに潮
風を受けていた。
障害者と地域福祉に携わる人々との関わりを深めようと、市内のボランティア団体「松
風会」
「青葉会」などでつくる実行委が主催し、25回目を迎えた。市内の特別支援学級や
小規模作業所などから参加者を募り、約300人が参加。クルージングには東播磨漁協の
漁船7隻が協力した。
参加者は救命胴衣を着けて漁船に乗り込み、遊覧へ。上下に揺れる船の中で、沿岸の工
場を興味深そうに眺めるなどして楽しんだ。
漁船「ひかり丸」の漁師津田基光さん(66)は「海から見るわが町はまた違った景色。
漁船の揺れも味わってほしい」
。参加した男性(31)は「ゆらゆら揺られて楽しかった。
雨交じりの潮風も心地よい」と話していた。
尾上港北側の松風公園では、ボランティアらがカレーを振る舞い、ビンゴ大会も催され
た。
(井上 駿)
社説:食品ロス削減 消費者の意識改める第一歩に
読売新聞 2013 年 7 月 15 日
まだ食べられるのに廃棄される「食品ロス」が増えている。企業と消費者、政府が連携
し、削減に取り組みたい。
日本では年間1700万トンの食品廃棄物が発生し、このうち食品ロスは推計で500
万~800万トンに上る。国内のコメの収穫量とほぼ同規模で、あまりにも巨大な損失で
ある。
対策を検討してきた政府が主導し、食品メーカーや卸業者、コンビニ、スーパーなど約
40社が加工食品の賞味期限に関する商慣行の見直しに着手することを決めた。削減に向
けた第一歩と言える。
食品・流通業界には「3分の1ルール」と呼ぶ商慣行がある。製造日から賞味期限まで
の3分の1にあたる時期を小売店への納品期限とし、残り3分の2の期間を店頭での販売
期間とする。
納品期限を過ぎた食品は、卸売業者からメーカーに返品され、ほとんどが廃棄されるた
め、食品ロスが増える要因となってきた。
約40社は8月から3分の1ルールを改め、菓子や飲料など加工食品の一部の納品期限
を賞味期限の2分の1まで延ばす方針だ。
これによって、在庫を削減できれば、廃棄される商品を減らす効果が期待できよう。
返品や廃棄、在庫管理にかかる費用を抑えることで、商品の値下げにつながり、消費者
にも恩恵が及ぶのではないか。
ただ、ルールの見直しが業界全体に広がらないと、削減効果は限られる。政府と業界は、
参加企業の拡大を図ることが大事だ。
企業は、容器や包装の改良で賞味期限自体を延ばすなど技術開発にも力を注ぐ必要があ
る。
併せて問われているのは、消費者の意識改革だろう。食品ロスの半分は家庭で発生する
からだ。政府は消費者の啓発活動にも積極的に取り組むべきである。
3分の1ルールが定着した背景には、少しでも新しい食品を好む消費者の「鮮度志向」
がある。
加工食品の賞味期限はおいしく食べられる期限であり、期限を過ぎても直ちに捨てる必
要はない。期限を過ぎたら食べてはいけない生鮮食品の消費期限とは違う。
鮮度を過度に求めると、価格が割高になって、かえって消費者の利益を損ねる場合もあ
る。消費者が食品の安全性に厳しい目を向けることは大切だが、過剰な鮮度志向は改めて
もらいたい。
世界の食料需給が逼迫する中で日本は食料の6割を輸入に頼る。社会全体で食品ロスを
減らす努力を続けていかねばならない。
安楽死合法化に慎重 議論は続く
読売新聞 2013 年 7 月 10 日
7月1日付で、オランド大統領は、かねてから公約していた積極的安楽死の合法化につ
いて「現時点では慎重な論議が必要である」とし、公開討論をするなどして、今年度末ま
でにレオネッティ法の補完及び終末期の法案につなげるとの声明を発表した。フランス国
家倫理諮問委員会では、過半数が自殺ほう助や安楽死法に反対の姿勢をみせている。
以下、フランスでの安楽死についての今までの流れを追ってみる。
2003年 バンサン・アンベール事件
交通事故により四肢まひとなった青年バンサン・アンべールが2002年に母親と医療
アシスタントの力を借りて、シラク大統領に「僕に死ぬ権利を下さい」と手紙を送るが棄
却。2003年に母親の手によって大量投与された鎮痛剤により昏睡状態になる。その後、
医師が人工呼吸器などの延命治療を中止し、塩化カリウム投与で死亡させた事件。母親と
医師は殺人罪で書類送検された。その後、2006年に2人は無罪となった。
2005年 レオネッティ法
バンサン・アンベールの事件を受けて、医師であり地方議員であったレオネッティ議員
が医師、哲学者、医療倫理各界の意見をまとめてリポートを提出した。レオネッティ議員
を代表とする国会調査委員会の約1年半による議論を経て、2005年4月22日「終末
期医療の権利法」としてレオネッティ法が策定された。死の時まで尊厳ある生を各人に保
障するための方法として、生命の人工的な維持のみをもたらす治療は停止もしくは差し控
えることができる。しかし、その後の緩和ケアの義務は退けられないとする。また医師に
対しては、その責任が法的に裁かれるというリスクが増大しないように特別な手続きを定
義する。
2007年 「安楽死に手を貸した」
2007年には、
「私は安楽死に手を貸しました」と2134人の医師や看護師が声明を
発表し、治療を施しても肉体的精神的な苦痛の耐え難い患者への安楽死の合法化を求める
動きが起きる。
2008年 セビルさんの死
2008年には、嗅覚神経芽細胞腫という悪性腫瘍による顔面の極度な変形と激痛に耐
えかねたシャンタル・セビルという女性が、ディジョン地裁に安楽死の許可をもとめたが
棄却。その2日後、自宅で死亡しているところを娘に発見される。死因は大量の睡眠薬に
より自ら命を絶ったとされる。セビルさんは、サルコジ大統領(当時)に法改正を求める
手紙を書いたり、テレビやラジオなどでも安楽死の合法化を訴えたりしていた。同日、ベ
ルギーの作家でノーベル賞候補にも挙がっていたユーゴ・クラウスがアルツハイマー病を
発症したことから積極的安楽死により死去したというニュースが流れた。
2012年 シカール報告書
2012年には、前国家倫理諮問委員会名誉会長であるディディエ・シカール名誉教授
がオランド大統領のもとに、終末期の回復の見込みのない患者への自殺ほう助の可能性を
検討するシカール報告書を提出した。ただし、積極的安楽死については退けられている。
では、消極的安楽死と積極的安楽死の違いはどこにあるのか。先日、テレビのインタビ
ューで、フランス緩和ケア・看取り協会長のバンサン・モレル医師はこう答えていた。
「緩和ケアはまず第一に、患者の苦痛を和らげることです。患者の激痛を和らげるため
にモルヒネなどの鎮痛剤を使います。でもそれは決して致死量であってはならないのです。
患者は治療を拒否したり、延命措置を拒否したりすることができ、緩和ケアを行うことに
よって苦痛を和らげることができます。そのためにレオネッティ法があるのです。致死量
の鎮痛剤を投与して死に至らしめれば、それは積極的安楽死となるのです。今後はもっと
緩和ケアの充実と促進を図るため、医療関係者の教育、患者とその家族の理解と対話を促
進し、もっと緩和ケアが普及することに力を入れなければなりません」
フランスは現時点では、あくまでも患者の意思を尊重しながら、緩和ケアを施し、自然
死を迎えさせるという立場をとっている。緩和ケアが生命を短縮するという副次的な可能
性があることを前提に、患者の苦痛を軽減するということである。しかしその裏で、20
12年の声明にもあったように、患者と家族の同意のもと、積極的安楽死に手を貸す医師
や看護師がいることも否めない。終末期、重篤な状態になった時、安楽死を選ぶことを人
間の尊厳であるとみなすのか、それとも患者の苦痛をぬぐい去りつつ、最後まで緩和ケア
を施し、生を全うするということを尊厳とみなすのか、まだまだ論議は続きそうだ。
フランス終末期医療(1)胃ろうは治療の一環
読売新聞 2013 年 4 月 9 日
昨年10月にヨーロッパ出張の機会があり、1週間足らずとわずかな期間ですがフラン
スの終末期医療を取材しました。要点は1月に解説面の記事に書きましたが、書き足りな
かった点や印象に残ったことを5回に分けて紹介します。地理的にも文化的に距離はある
国ですが、終末期医療を考えるひとつの材料になればと思います。
解説面の記事に書いたように、特に興味があったのが胃ろうです。自分の口で食べられ
ない患者が、腹部に開けた穴から胃に管を通して水や栄養をとる方法です。日本の胃ろう
患者は約40万人ともいわれますが、近年、延命手段的な利用の増加に疑問を持つ人も増
えています。欧米では、そのような胃ろうの利用は少ないといわれています。フランスも、
認知症末期での胃ろうは基本的には行わない国といわれていますが、本当にそうなのか、
現地で聞いてみようと思いました。
結論から言うと、確かに日本とは全く状況が違いました。パリに向かう道中でたまたま
知り合ったフランスのがん専門病院の医師に「胃ろうに関心をもっている」と話すと、「胃
ろうはベリーグッド。食道がんなどで口から栄養を十分取れない場合、手術前から胃ろう
にして栄養補給すると、術後の回復がとても早いよね」と予想外の答が返ってきました。
胃ろうは、あくまで治療のために一時的に行う医療という認識だったよう
です。
消化器内科医のジャック・セーさん
パリ近郊で開業し、胃ろうの手術を600件近く行っている消化器内科
医のジャック・セーさんにインタビューした時も、日本の状況は容易に理
解されませんでした。
「胃ろうは栄養失調の改善法。回復見込みのある人
に積極的に使い、延命のために機械的に行うことはない。使い方が日本と
全く違うようです。なぜ日本ではそんなに多いのですか。命の尊厳を大切
にすることは、必ずしも延命ではありません」と、逆に質問されてしまいました。「えー、
やはり命が何より大切だし、少しでもそれを延ばせるのだから……」などと答えると、「国
によって考え方は違いますよね」とセーさんは肯定的に応じてくれましたが、いまひとつ
納得できない表情でした。
◇藤田勝(ふじた・まさる)
2008年から医療部。終末期医療、大腸がん、皮膚疾患、耳・鼻の病気などを
取材。アホウドリとアムールトラ好き。
フランス終末期医療(2)患者本人はどう考えるか
読売新聞 2013 年 4 月 10 日
客観的なデータがないので説得力が今ひとつですが、フランスの胃ろうは確かに日本よ
りも実施頻度は少ないようです。とはいえ、食べられなくなった高齢者に対する選択肢と
して、最初から完全に除外されている訳でもないようでした。
母親と叔母がアルツハイマー型認知症になり、胃ろうの選択を迫られた
経験があるアニー・ミルタさん(59)に話を聞きました。アニーさんは
パリ在住で、以前は看護師として働いていたので、医療全般に関する知識
も豊富です。
アニー・ミルタさん
母親の場合、認知症で食事への興味を失いました。一人暮らしでは栄養
失調になるので、食事介助を受けるため、老人ホームに移しましたが、そ
こでも食事を拒絶します。1か月で10キロもやせたため、入院して鼻か
ら胃に管を入れて栄養をとることになったのですが、それもいやがるので外しました。胃
腸自体には何の問題もなかったそうです。
退院時に医師から「胃ろうにするか、何もしないか」という選択肢を示されました。日
本ではこんな時、
「何もしなければ餓死する」と半ば強制的に胃ろうにされたという話をよ
く耳にしますが、アニーさんによると、フランスでは医師の押しつけは全くないそうです。
家族や親戚で話し合った結果、結論は全員が胃ろうに反対。家族でできるだけ食事の介
助をしながら、自然な最期を迎えさせることになりました。理由は単純で、本人に意識が
あれば、胃ろうで少しばかり長生きするようなことは望まないはずだから。そして母親は
胃ろうはせずに亡くなりましたが、アニーさんは「少し早く亡くなったとしても、彼女の
人生をまっとうさせることの方が大事です」と強調していました。
叔母も認知症が進み、食べ方も忘れてしまいました。ただし、母親と違ったのは非常に
活動的で一時もじっとしていないことでした。でも食べません。叔母の夫から、胃ろうの
相談をされたアニーさんは、今度は胃ろうを勧めました。母親のケースと矛盾するようで
すが、
「叔母は動きたいのだから、胃ろうで栄養をとるのもいいと思った。体はその人のも
のだから、その人の条件による」と胃ろうを勧めた理由を説明しました。
アニーさんの話が、フランス全体にどこまで一般化できるか分かりませんが、終末期医
療の選択に際して「本人にとってどうか」を家族がとても大切にしていることが伺えるエ
ピソードだと思いました。
フランス終末期医療(3)緩和ケア病棟でも治療可能
読売新聞 2013 年 4 月 11 日
患者の肉体的、精神的な苦痛を和らげる緩和ケア。日本で緩和ケアと聞くと、治癒が見
込めない患者が入る専用病棟、いわゆるホスピス病棟をイメージする人が多いと思います
が、フランスではもっと幅広く緩和ケアをとらえているようでした。
パリのポール・ブルス病院緩和ケア病棟の医師シルバン・プルシェさん
に話を聞きました。この病棟は1990年にできたパリ初の緩和ケア病棟
だそうです。写真がその緩和ケア病棟ですが、右半分は歴史を感じさせる
古い建物を利用しています。左のモダンな外観部分が患者の病室で、個室
が10部屋ありました。
シルバン・プルシェさん
プルシェさんが最初に口にしたのは「アメリカやイギリスのホスピスは、
いったん入ったら治療しませんが、フランスでは治療も可能です。必要ならCTスキャン
も使います。緩和ケア病棟も、あくまで病院なのです」という意外なことでした。患者は
平均15日間で亡くなるとのことですから、終末期患者が多いのは確かですが、緩和ケア
病棟に来たからといって、その日から医療がガラリと変わる訳ではないということのよう
です。また、日本の緩和ケア病棟は、がん患者とエイズ患者に限られますがが、フランス
ではそのような制限はなく、呼吸系に問題がある人、出血が多い人、精神状態が悪化して
いる人など、専門家による苦痛の緩和が特に必要な患者がやって来ます。
プルシェさんは「フランスの緩和ケアは7、8年前から、このように考えられています」
と3段重ねのケーキのような図を見せてくれました。一番下の幅が広い部分は、どんな医
療施設でも在宅でも行われるべき基本的な緩和ケア。フランスの医学部や看護学部では緩
和ケアが必修化されているので、理想的には、すべての医師や看護師が緩和ケアの基本を
おさえていることが求められているということだと思います。
ポール・ブルス病院緩和ケア病棟
その上はLISP(緩和ケア認定病床。4686床)で、これは専
用病棟ではないけれど、必要に応じて一般病床から緩和ケア用に転用
できる病床だそうです。在宅で緩和ケアが十分できないなら、このL
ISPを利用し、それでも間に合わなければ、さらに専門的なの緩和
ケア病棟(1180床)を利用することになります。そのほかに、緩
和ケア用の病床はなくても、緩和ケアの院内モバイル(移動)チームがあり、一般病床で
緩和ケアを行う病院もあります。個室に緩和ケアチームが来れば、その部屋が緩和ケア病
棟のようなものになります。
この理想のイメージがどこまで実現できているかは分かりませんが、基本的な緩和ケア
がどこでも受けられるなら、一般病床でも緩和ケアが受けられるし、プルシェさんがいる
緩和ケア病棟に来る患者は本当に特別なケアが必要な患者だけで済みます。中には、専門
的な緩和ケアは必要だが、まだ治療の余地がある患者もいるでしょう。治療と緩和ケアを
排他的なものと考えなければ、緩和ケア病棟での治療も不自然ではないと思いました。
フランス終末期医療(4)充実したボランティア組織
読売新聞 2013 年 4 月 12 日
これもわずかな見聞による印象ですが、終末期ケアに携わるボランティアも、フランス
はなかなか充実しているように感じました。
フランス緩和ケア・看取り協会(SFAP)は、緩和ケアの普及啓発を目的とする国内
最大の組織で、1990年に設立されました。会長で医師のビンセント・モレルさんによ
ると、この協会には5000~8000人のボランティアと、5000人の医療従事者か
ならなる会員がいるそうです。パリの事務局には30人のスタッフが勤務し、会長には秘
書や会計士までついているそうです。
モレルさんは「フランス人は緩和医療をよく知っていますが、まだ終末期患者だけのも
のと思って怖がる人も多い。よく理解してもらう必要があります。国全体として緩和ケア
の体制は整備されましたが、まだアクセスが難しい地域もあります」と言います。
フランスの様々な協会組織は、国が定めたグレードに分けられているそうですが、この
協会は最もトップレベルに権威がある協会だそうで、政治への影響力も大きいようです。
「すべての緩和ケア関連の法案は、この協会と厚労省で原案を作っています」とモレルさ
んは胸を張ります。行政にかかわる一方で、ボランティアは在宅や病院、
老人ホームなどの現場に入り、介護やヘルパー、傾聴などを通して患者や
家族を支えています。
終末期ケア協会事務局長のシモーヌさん
国内には様々な終末期ボランティア組織があるそうですが、もうひとつ、
終末期ケア協会という団体の事務所にもおじゃましました。こちらは純粋
なボランティアだけの組織ですが、全国に71支部あり、1850人の会
員がいるそうです。事務局長のシモーヌさんは「ボランティアは患者をみ
とるのではなく、一緒に生きていくという立場で心のケアに当たります。患者にとって家
族は一番近い存在ですが、家族には話しづらく、ボランティアなら話せることもあるので
す」と話していました。
ボランティアは誰でも応募できますが、すぐには活動できません。応募者は2度の面接
でやる気や人柄を見られた後、3日間の机上学習、そして経験豊富なボランティアに同行
しての実践を経て、最終的に採用が決まります。晴れてボランティアになると、最低でも
週4時間の活動が義務づけられます。応募者は20歳代から70歳代までと幅広く、女性
が多いそうです。パリには250人の会員がいて、医療スタッフに同行して毎月5000
人ぐらいの終末期の患者のケアにあたっているそうです。
フランス終末期医療(5)
読売新聞 2013 年 4 月 13 日
日本ではまったく議論になっていませんが、ヨーロッパでは安楽死の是非についての議
論が盛んなようです。オランダ、ベルギー、ルクセンブルクが安楽死を法律で認めている
ほか、スイスは安楽死法こそありませんが、もともと法的に自殺ほう助を認めているので、
自国で安楽死できない人がやってくる「自殺ツアー」もあるそうです。
フランスでは2005年に、延命措置の中止による尊厳死を認める法律ができました。
この背景には、交通事故で全身がまひした青年が、当時のシラク大統領に安楽死を望む手
紙を書いても認められず、2003年に母親に安楽死させられた事件が影響したようです。
ただし、結局、安楽死は認めませんでした。ところが昨年5月に就任したオランド大統領
は安楽死の合法化に賛成らしく、国内で激しい議論になっているそうです。せっかくの機
会なので、取材で会った緩和ケア専門医に安楽死について聞いてみました。
パリのポール・ブルス病院緩和ケア病棟の医師プルシェさんによると、緩和ケアを受け
ている患者の中には時々、安楽死を希望する人がいるそうです。理由を尋ねると「苦しみ
たくない」
「家族に迷惑かけたくない」
「(終末期の)悪いイメージを残したくない」などと
答えるそうです。そんな患者にプルシェさんは「痛みは軽くできるし、家族に迷惑もかか
りませんよ。それに、どんなにやせ細っても、家族はあなたに会いたいはずです」などと
丁寧に説得するそうです。
プルシェさんは「本当はまだ生きたいのに、ひどい状況になるのがいやで安楽死を望ん
でしまう。どのようにすれば、よりよく生きられるか、考えないといけません。さらには
本人だけでなく、みとる側の家族のケアも大きな課題です」と話していました。
パリの別の病院の緩和ケアの専門医は「もし安楽死法が可決されたら、医師をやめるか、
その処置だけは他の医師に任せることになるのか、何とも言えません。国の決定は尊重し
たいと思いますが、自分にはできません」と正直な気持ちを語ってくれました。
フランス緩和ケア・看取り協会(SFAP)のビンセント・モレル会長も「安楽死を望
む人は、死ぬことで苦しみを消せると考えますが、緩和ケアはその苦しみを取り去るのが
目的です。無理な延命もよくないですが、安楽死には反対です」と立場は明確でした。メ
ディアでも積極的に安楽死法案反対の論陣を張っているそうです。
簡単には安楽死法案が通るとは思えませんが、今度の動向に目が離せません。
月刊情報誌「太陽の子」、隔月本人新聞「青空新聞」、社内誌「つなぐちゃんベクトル」、ネット情報「たまにブログ」も
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