裂肛について(基本、保存的治療)

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裂肛 Anal fissure(081010)
裂肛の患者は非常に多い。慢性裂肛でも、なかなか手術まで思いきれない患者もいる。難治の
場合には手術と思うが、エビデンスに基づいたアドバイスなどは無いだろうか?病態と治療につい
て勉強してみた。治療に関しては保存的療法を主に勉強してみることにする。
まず、参考文献 1、2 をまとめてみる。
裂肛とは、肛門縁から歯状線までの肛門上皮に生じた亀裂、糜爛、潰瘍の総称。幼児期から老
人まで、男女を問わず診られる疾患であるが、好発は 20~40 歳代の女性。乳児や成人では女性
にやや多く、高齢者などの括約筋機能が低下した人には少ない傾向がある。
急性裂肛は発症後数日~1 週間程度のもので、原因は肛門の物理的な外傷、つまり径の大き
い、硬い便の通過による肛門管上皮の裂創がきっかけとなる症例が多いとされる。アルコールや
食生活で習慣的に下痢傾向である場合も、肛門の伸展性が低下し、同時に肛門管静止圧も上昇
して裂肛を発症しやすくなると考えられているが、以下のように諸説あるようだ。
①硬便による肛門上皮損傷説
②局所感染説
③内肛門括約筋緊張説
④組織脆弱説
⑤門狭窄説
症状は排便時や排便直後の疼痛(刺すような、ぴりぴりした)と出血であり、疼痛は排便直後の
数分程度で消失するものが多いが、時に 2~3 時間持続するものもある。出血は排便時のみであ
り、時に滴下するものもあるが、ほとんどが紙に少量付着する程度。指診での触知は困難であり、
肛門鏡で裂創を確認できる。
慢性裂肛は繰り返す急性裂肛や創の感染、疼痛に伴う括約筋の痙縮、阻血などが複雑に絡み
合うことにより病態が慢性化し、潰瘍、見張り疣、肥大乳頭、肛門狭窄などを認める。
治療法は、まず保存的療法が原則であり、再発を繰り返すもの、疼痛が強度でスパスムが強い
もので手術が考慮される。急性裂肛の治療の原則は保存的療法である。慢性裂肛であっても早
期であれば保存的療法で症状の改善や治癒を期待でき、保存治療で効果がない場合に手術療
法が考慮される。まずは便秘や下痢の症状を改善するために食事指導や薬物治療、生活指導が
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必要とされる。
これらの論文の中で、ニトログリセリン軟膏の効果が紹介されている。慢性裂肛の治癒率は 50
~80%としている。投与期間は 2~8 週間。痔疾治療用坐剤や緩下剤の併用例の方が効果は高
い。頭痛の副作用の頻度が 20~40%と高い。0.5%ニトログリセリン(2%バソレーター軟膏)を白
色ワセリンで希釈して肛門皮膚に 0.5g、1 日 2~3 回塗布する。投与数分で括約筋の弛緩が得ら
れ、疼痛も軽減するという。ただし、添付文書上を確認したら適用外であった。ニフェジピンゲル、
ジルチアゼム軟膏、硝酸イソソルビド軟膏などの効果も報告されているがこちらも適用外。
参考文献 3 によると、確かにニトログリセリンの効果はありそうである。ただ、その効果も大きくは
無いとしている。再発も多いとされる。ボトックスやカルシウム拮抗薬もニトログリセリンと同様の
効果が期待できるとされる。ただし、どの外用薬も手術の効果には遠く及ばないと結論している。
やはり、保存療法で効果がなければ手術がよさそう。日本ではステロイドや局麻剤入りの軟膏や
坐剤を使用することが多いと思うが、それほど大きな期待は出来ないようだ・・・(もちろん、使わな
いよりは効果はある)。
ステロイドはカルシウムブロッカーの効果には及ばない。
ステロイドは局麻剤よりは優れている。
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ステロイドはふすまの効果とほぼ同様。
参考文献 4 は慢性裂肛患者に対する外用薬の小規模な RCT である。下記の軟膏を 1 日 2 回
塗布している。脱落はなく、ITT もされていると思う。
□ ニトログリセリン:0.2% nitroglycerine (GTN)
□ キシロカイン:5% xylocaine
□ プロクトセディル:Proctosedyl (hydrocortisone acetate, heparin, framycetin sulfate, esculoside,
ethoform, butoform)
□ ワセリン:petroleum jelly (Vaseline)
この結果によると、ニトログリセリン軟膏が 6 ヶ月後の成績が最も良く、しかも効果が早い。最終
的にはニトログリセリンはキシロカインとワセリンと有意差がついていた。この論文の結果でも、ス
テロイドはまあ、中間ぐらいの効果といえる。
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(参考文献 4 より引用)
参考文献 5 は急性裂肛患者の小規模 RCT であるが、以下のような軟膏又は処置が用いられて
いる。7 人が脱落している on treatment analysis なので注意。
□ リドカイン:lignocaine ointment (n = 33)
□ ヒドロコルチゾン:hydrocortisone ointment (n = 35)
□ 温座浴+ふすま:warm sitz baths combined with an intake of unprocessed bran (n =35)
温座浴はあまり馴染みが無いが、1 日 2 回(可能であれば排便後も)、40℃のお湯に 15 分間座
浴するというものである。血流は良くなりそう・・・。
最終的には(4 週間後には)、温座浴+繊維(ふすま)の群とステロイドの群で良好な結果であっ
たが、温座浴+繊維の群のようで効果がより速い。この論文では、安くて、副作用が無く、より速
効性のある治療として紹介されている。
Warm sitz baths plus unprocessed bran-Patients were instructed to take their usual diet plus 10 g
of unprocessed bran in the morning and 10 g at bedtime and to use a warm sitz bath for 15 minutes
at these times and (if possible) after each stool throughout the day. Patients were told to use a
bathtub or simply a bowl filled with hot water (40℃).
(参考文献 5 より引用)
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先日、ドイツ居住歴のある患者が、器具を用いて自分で肛門管を拡張したと言っていたのでビッ
クリしたが、どうやら機械的に広げる治療法というものも存在するらしい。BMJ(参考文献 6)には昔
のやり方として紹介されていた。効果の程はあまり期待できないが、もしかしたら効く患者もいるか
もしれない・・・。保存的療法にも限りがあるので、害がなければチャレンジしてもいいとは思う。
(棒のようなものを使ったとのことだが、見たことがないので想像できない・・・)
(参考文献 3 より引用)
(参考文献 3 より引用)
●まとめ
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プライマリケア領域では、便を柔らかくするような下剤、一般的な痔の軟膏や坐剤、ふすまなど
の繊維を増やすこと、排便習慣を整えること、座浴などの指導が妥当な線だと思う・・・。どうしても
難治で困っているようなら、やはり手術がいいと思う。
便秘の指導(下剤以外)に関しては「便秘の一般的指導/治療(下剤以外)」
http://rockymuku.sakura.ne.jp/syoukakinaika/bennpinoippanntekisidou.pdf の項目も参照を。
参考文献
1.
松島 誠. 裂肛の標準治療と最新治療. 外科治療, 96(2) : 137-144, 2007.
2.
松田直樹. 痔核の治療-保存療法から手術療法まで. 外科治療, 89(6) : 630-640, 2003.
3.
Nelson RL. Non surgical therapy for anal fissure. Cochrane Database of Systematic Reviews
2006, Issue 4. Art. No.: CD003431. DOI: 10.1002/14651858.CD003431.pub2.
4.
Maan MS, Mishra R, Thomas S, Hadke NS. Randomized, double-blind trial comparing topical
nitroglycerine with xylocaine and Proctosedyl in idiopathic chronic anal fissure. Indian J
Gastroenterol. 2004 May-Jun;23(3):91-3.
5.
Jensen SL. Treatment of first episodes of acute anal fissure: prospective randomised study
of lignocaine ointment versus hydrocortisone ointment or warm sitz baths plus bran. Br Med J
(Clin Res Ed). 1986 May 3;292(6529):1167-9
6.
Banerjee AK. Treating anal fissure. BMJ. 1997 Jun 7;314(7095):1638-9.
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