頚性めまい(100601)

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頚性めまい(100601)
頚性めまいについて勉強する機会があったので、いくつかの論文を読んで知識の整理をしてみ
ることにした。
めまいに関しては以前も勉強したが、狭義の頚性めまいについては含まれていなかった。(広
義の頚性めまいに関しては頚椎症や椎骨脳底動脈循環不全というカテゴリーで記載していた)こ
こでは特に狭義の頚性めまいを中心に大事なポイントをまとめてみたい。
「めまい(幻暈)のまとめ」
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
定義/分類

頚性めまいの定義は、日本平衡神経学会(1987)の定義によれば「頚部に原因があり、多く
の場合、頚の回転、伸展により誘発されるめまい、平衡感覚の異常」、「頚部の症状、特に頚
部神経痛、交感神経圧痛、自律神経症状を伴うもの」、「頚部からの異常な求心性 input で惹
起される dizziness、imbalance で、前庭の器質的機能障害の認められないもの」である。 1)

発生機序は次の 3 つに大別される。1)
① 頚部交感神経活動亢進説
② 頚部の深部受容器活動亢進説(頚反射説)←狭義の頚性めまい
③ 椎骨・脳底動脈の循環不全説

一般的に狭義の「頚性めまい」は、頚部の固有感覚異常に原因がある場合とされているが、
広義の「頚性めまい」は、頚部の動きに関連しためまい全体を指すことさえある。2)
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狭義のめまいに含まれる疾患に、Barre-Lieou 症候群があるが、これは、①後頭部に最も強
い頭痛、②めまいが頭部を回旋した瞬間突然起こり、③耳鳴を伴い、④視力低下を伴わない
視障害(長時間読書ができない)⑤頚部に関する局所症候として声がかすれる、などの症状
をあげており、深部頚交感神経の障害と考えられている。2)

Barre- Lieou 症候群は椎骨動脈の周囲にある椎骨神経および椎骨神経叢が頚部脊椎症に
よる骨棘や頚椎不安定性によって刺激されてめまい、後頭部痛、頚部痛、耳鳴、視障害が起
こるものをいう。この発症機序に関しては不明な点が多い。浮動感や眼前暗黒感が多い。3)

Powers 症候群は、頚部の回転や過伸展により椎骨動脈起始部が屈曲し、めまいが生じる。
原因として椎骨動脈の走行異常と前斜角筋による圧迫で動脈が屈曲する。随伴する症状と
して、上肢の感覚異常や冷感、Adson 徴候を認めることが多い。(Adson 徴候:過呼吸して首
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を回転すると、橈骨動脈の拍動が消失し、上肢のしびれ、鎖骨上窩の血管雑音(bruit)が聴
取される。)2)
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椎骨動脈は第 2~6 頚椎の横突起孔内を通過するが、頭部を左右に回旋すると動脈が圧迫
され、ときに閉塞し、めまいを生じる。特に、Bow hunter’s stroke は弓を引くように強く頚部
を回転させると、第 1・2 頚椎レベルで椎骨動脈が圧迫されめまいを生じる。2)

頚部脊柱管狭窄症などにより頚髄に障害があるときにめまいが出現する。脊髄から小脳、前
庭核への経路が障害を受ける病態全体に生じうるため、頻度はかなり多いと推測されている。
頚髄の血流障害が生じうる頚部の角度を維持したときにめまい症状が生じる。錐体路症状、
上肢の感覚障害、脱力感などの症状を合併することが多い。2)

頚部を伸展(後屈)させた際のめまい感は健常人でも起こりうる。これは視覚情報が固有知
覚と矛盾すること、および頚部伸展位においては耳石器が至適範囲から逸脱することが原
因とされている。同様の機序で前屈性めまいも存在する。2)
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病態生理
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狭義の頚性めまいの病態は、頚部痛症候群患者における上位の左右頚髄神経根からの入
力の不均衡が平衡機能制御にミスマッチを生じさせるとされている。実験的には上位頚髄後
根の局所麻酔により浮動感を伴うめまいが生じることは確認されている。2)

回転性めまいは、首の神経が損傷した場合にも認める。これらの神経が損傷されると、脳が
首と胴体の相対的位置関係をうまく感知できなくなるためである。4)

前庭神経と自律神経間の強い相互関係、頚部神経根と前庭神経核との間の強固な連携、頚
部交感神経から前庭系への異常な input の存在、さらに上部頚椎の関節、靱帯、筋紡錘の
joint receptors に存在する proprioceptors の異常な input が vestibulospinaltract を介して求
心性 input として前庭神経核、前庭皮質領野に投射されバランス、体勢の保持の認識を障害
する。1)

頚反射の障害は頚部の深部固有受容器からの異常刺激により前庭系の機能も障害されて
めまい、眼振や平衡障害が発現する。外傷、椎間板や椎間関節の障害で頚部筋の異常な緊
張が起こると発現することが考えられる。(頚部の筋、靱帯、椎間関節にある深部固有受容
器からの刺激は C 1、2、3 神経根を通り脊髄に入り、前庭や視覚とともに平衡機能の維持
のための1つの入力経路となっている。) 浮動感が多い。3)

椎骨動脈循環不全は椎骨動脈が骨棘などにより圧迫され発症。回転性めまいのことが多く、
他の中枢神経症状を伴うことが多い(霧視や複視、意識障害、構音障害、運動失調)。めま
い誘発頚位での椎骨動脈造影にて血管の閉塞、狭窄や偏位などの異常像が得られる。蝸牛
症状は少ない。3) 定義/分類の部分の Barre- Lieou 症候群、Bow hunter’s stroke も参照
を。
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診断のポイント

頚椎の回旋や後屈などの運動で発現、増悪する。通常頚部痛や肩痛を伴う。3)

患者にフレンツェル眼鏡をかけて回転いすに座ってもらい、医師が患者の頭を支え、患者に
いすを左右に回してもらう。その結果、眼振と回転性めまいが起これば頸性めまいと診断さ
れる。(←前庭を刺激せずに頚部に負荷をかける)4)

頚部症状と密接な関係があり、頚椎の運動、回転により惹起される確率が高いもの、またそ
の時間帯(特に、朝起床時に多い)。→この論文の著者は朝起床時にめまいが頻発するの
は、夜間睡眠中、枕の位置、寒冷などにより頚筋の緊張が強くなり、起床時の頚の回転・屈
曲・伸展などの刺激で頚性めまいが惹起されるためではないのかと考察している。1)

頚性めまいは、むち打ち症、頭頂部への鈍器による外傷、重度の首の関節炎(頸椎症)など
で起こる。4)

頚椎変性などが頚部神経痛の原因となっているもの、また職業、過重労働の有無。1)

学童の場合、かばんが非常に重い、また片方の肩のみにかばんを懸けていないか。1)

頭痛、頭重にいろいろな自律神経症状(霧視、dry eye、眼前閃輝、耳閉感、易疲労性、不眠、
物忘れ、根気がない、impotence、いらいら、うつ状態など)を伴うか。悪心、嘔吐、下痢、腹痛
など腹部症状を伴うか。1)

頚筋のマッサージ、体操、温罨法などで軽快、改善するか。1)
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治療

頚部痛症候群に対する理学的療法(優しくゆっくりと動かすこと)、薬物治療(疼痛コントロー
ルなど)が有効である。2)

疼痛部位にトリガーポイント注射を行うことが有効なケースがあることを症例検討会で学ん
だ。

頚部筋のマッサージ、温罨法、柔軟体操が基本である。特に入浴時の僧帽筋・胸鎖乳突筋
の入念なマッサージが必要である。1)

枕の高さに注意、寒冷期の夜間には頚を冷やさないようにする。1)

パソコンを長時間使用する人は、仕事中にも頚の運動、マッサージ、ストレッチが必要である。
編み物などをするときも同様。1)

かばん、ハンドバッグの重さに注意。1)

症状に応じて適宜、鎮痛薬、minor tranquilizer、抗うつ薬などを投与する。1)

外傷によって生じた頚性めまいには頚椎カラーが効果を示す可能性がある。2)
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シクロベンザプリンなどの筋弛緩薬を経口投与することがある。4)
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参考文献
1.
近藤明悳.頚性めまい ―診断と治療.脳神経外科速報, 19(2) : 203-207, 2009.
2.
望月仁志.頚性めまい.Medical Practice, 25(2) : 368-369, 2008.
3.
今日の診療 Vol.13 (C)2003 IGAKU-SHOIN Tokyo
4.
回転性めまい.メルクマニュアル家庭版.
http://mmh.banyu.co.jp/mmhe2j/sec06/ch080/ch080b.html
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