指しゃぶりについて

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指しゃぶり(130117)
11 ヶ月。おしゃぶりだこが親指にできているとのこと。母指の掌側に小さな血腫を認めるが、痛
みなどは無さそう。放置してよいかと相談された。
調べてみることにした。

指しゃぶりは胎児にもみられる。1)
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出生時にすでに吸いだこのある新生児も見られる。2)
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指しゃぶりで生じるタコのほとんどが母指であるが、白くふやけていたり、爪の変形を伴って
いたりとその程度はさまざまである。まれながら指しゃぶりで指の骨の変形が生じた報告もあ
る。4)

出生後も、乳児にとって“しゃぶる”行為は自然なものである。吸畷反射は自力で哺乳するた
めには必須のものであり、乳児期のしゃぶる行為はこの反射の延長線上にあるものと考えら
れる。1)
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しゃぶり続けるかどうかには個人差があり、授乳時間や母乳が不足していたり、吸啜本能の
強い乳児では、しゃぶっている時間が延長するといわれている。1)

しゃぶる行為には、不安や不快を和らげて精神的に安定させる効果(スージング効果)があ
ることが知られている。泣いている乳児におしゃぶりをくわえさせると泣きやんだり、指しゃぶ
りをする乳児の方が寝つきがよく夜泣きが少ないという報告もあり、乳児期にもこの効果が大
きいものと考えられる。1)
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指を吸うことで乳首を吸う時と同様の感覚的満足を味わうと、しゃぶる時間が長くなる児もで
てくる。3~4 カ月になると、手を目の前に出してじっと見る(ハンドリガード)行為から、その手
を自分の口にもっていってしゃぶるという行為がみられるようになり、これは反射とは異なる
目と手、手と口の協調的な随意運動の始まりとして意義の大きいものと考えられる。このころ
から、反射的な吸畷の動きによる指しゃぶりばかりでなく、手や指をなめしゃぶる口遊び的な
指しゃぶりもみられるようになるが、これは自分の身体の認知行動としても価値があると解釈
されている。1)
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母子保健手帳の後半部分が改正された際に「赤ちゃんは指をしゃぶったり、おもちゃを口に
入れたりして遊びます。食べる、話すなどの口の発達が促されますので、おもちゃなどは清
潔にして与えましょう」という記載が追加された。1)
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乳児期のしゃぶる行為は生理的なものであり、指しゃぶりには機能発達的意義もあるため、
見守ることが勧められる。1)
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生後 12 か月頃までの指しゃぶりは乳児の発達過程における生理的な行為なので、そのまま
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経過をみてよい。3)
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幼児期になると、指しゃぶりの機能発達面での意義はなくなるが、精神面での必要性は高ま
ることもある。1 歳を過ぎて歩行が可能になり、有意語がでるころになると、未知な世界で新し
い体験をする機会も増え、緊張や不安を味わうことも多くなる。哺乳やその代替としての指・
おしゃぶりを吸う行為は、緊張や不安を鎮めて精神的安定を得るための最も手近な手段とな
る。1)

積み木を積んだり、おもちゃの自動車を押したり、お人形を抱っこしたりする遊びがみられる
ようになると、昼間の指しゃぶりは減少し、退屈なときや、眠いときにのみ見られるようになる。
3)
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乳歯が生え、上下の歯の咬み合わせができてくると、口の動きも吸畷から咀噛へと移行し、
哺乳やなめしゃぶる行為もそろそろ卒業の時期を迎える。幼児期になってから長期間しゃぶ
る行為が継続すると、歯科的な影響もみられやすくなるため、対応が必要となる。1)
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乳児期から始まったものは、乳児期以後まで長期に続くと、瘢痕形成にまで至ることもある。
2)
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1~3 歳までのしゃぶる行為の発現状況をみた我々の調査でも、1 歳 2 カ月児ではほとんどの
小児に何らかのしゃぶる行為がみられ、指しゃぶりは 3 歳まで継続する割合が最も高かった。
1)

この時期(幼児期前半:1~2 歳まで)はあまり神経質にならずに子どもの生活全体を温かく
見守る。ただし、親が指しゃぶりを非常に気にしている、一日中頻繁にしている、吸い方が強
いために指ダコができている場合は 4~5 歳になって、習慣化しないために親子に対して小
児科医や小児歯科医、臨床心理士などによる対応が必要である。3)

スキンシップを図るために、例えば寝つくまでの間、子どもの手を握ったり、絵本を読んであ
げたりして、子どもを安心させるようにする。絵本を読むときは 1 冊だけといわないで、好きな
だけ読んであげるというと、子どもは眠りながら夢の中でも読んでもらっている気がして親の
無限の愛情に包まれる。3)

親や兄弟・友達とのかかわりを増やす方向で親が何らかの工夫を行うように促す対応が求
められる。4)
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幼児期ではトウガラシエキスなどの吸指癖防止薬を用いて無理に指しゃぶりを止めさせるこ
とは決して好ましい対応とはいえない。また指しゃぶりの代わりに使用するゴムの乳首(おし
ゃぶり)の使用もあまり勧められない。4)

しゃぶり癖の歯科的影響は、歯列の発育段階としゃぶっている時間や期間で異なる。一般的
には、乳歯の咬み合わせが完成する 2 歳半から 3 歳を過ぎてもしゃぶり癖が継続すると、歯
並びや咬み合わせへの影響がでやすくなる。1)

最も多くみられる親指しゃぶりでは、上顎前歯は唇側に傾き、下顎前歯が舌側に傾き、上下
の前歯に隙間が生じやすい。1)

2 歳・3 歳まで吸指向がみられたが癖の消失した者では、5 歳時点での開咬や上顎前突が
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各々5%以下であったとして、3 歳までの吸指癖による不正咬合は癖の消失により自然治癒
する確率が高い。1)

全体として指しゃぶりについては 3 歳頃までは、特に禁止する必要がないものであることを保
護者に話すようにすることが大切である。それと同時に保護者は子どもの生活のリズムを整
え、外遊びや運動をさせてエネルギーを十分に発散させたり、手や口を使う機会を増やすよ
うにする。3)

4 歳以降も長時間の指しゃぶりが続くと開咬が顕著になり、口唇閉鎖不全や嚥下時の舌突出
を伴いやすくなる。このような口腔筋機能の異常がみられるようになると、顎態にまで影響を
生じやすくなり、指しやぶりをやめても口腔の形態・機能の自然治癒は難しくなる。1)

4 歳以降でもおしゃぶりがやめられない時や、学童期になっても指しゃぶりがやめられない場
合には、小児科医、小児歯科医、臨床心理士などの連携による積極的な対応が必要となり、
日常生活行動や他の習癖の発現状況などをみながら心理面での問題を配慮することが大切
になる。1)

6 歳になってもまれに昼夜、頻繁に指しゃぶりをしている子が存在する。特別な対応をしない
限り消失することは少ない。3)
現段階では積極的な介入は必要なさそう。スキンシップや子供を安心させるような対応を組み合
わせることで、少しずつ気長に改善していくのを見守るのが良いと思う。もちろん、強く吸いすぎて、
傷や炎症が起こるようだと何らかの対応はした方がいいのかもしれない。
参考文献
1.
井上美津子.指しゃぶりとおしゃぶり.小児科臨床 61(5): 945-952, 2008.
2.
橋本武夫, 竹内豊 244 指しゃぶり吸いだこ/245 Hay-Wells 症候群.ネオネイタルケア 23(12):
1194 -1195 2010
3.
前川喜平, 小口春久, 高木祐三, 井上美津子, 伊藤憲春, 丸山進一郎, 前田隆秀, 巷野悟
郎, 松平隆光, 神川晃, 河野陽一, 吉田弘道.指しゃぶりについての考え方.小児保健研究
65(3): 513-515, 2006.
4.
南光弘子.くせによる皮膚症状.小児科臨床 60(増刊): 1305-1310, 2007.
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