「教えて考えさせる授業」から見た協同学習

「教えて考えさせる授業」から見た協同学習
-有効な協同には何が必要か-
市川伸一(東京大学教育学研究科)
http://www.p.u-tokyo.ac.jp/lab/ichikawa/
2013/8/20
なぜ協同なのか : 協同学習の意義とは

手段としての協同
学び合い・教え合いによる理解の促進
意見交換による相互の見識の高まり
アイデア交換・相互検討による高度な問題解決

目的としての協同
社会に出てからの重要な資質・能力
情報・意思の伝達
チームで行う協同的問題解決
協同は、学習を促す手段であるとともに、協同する力
を伸ばすこと自体も目標
情報の保存・加工
表現
記憶・思考
知 識
内的リソース
道具・他者
外的リソース
出力情報
入力情報
理解
認知心理学から見た「理解の深まり」

浅い理解から深い理解へ
知識の関連づけの成立
断片的な知識から構造化された知識体系へ

理解の深まった状態とは
自分の言葉で説明できる
質問に答えられる
類似問題に応用できる

理解を深めるための習得学習のサイクル
受容学習/能動的表現/問題解決・討論/教訓の抽出
疑問
予習
授
共有
表現
業
教師の説明 課題設定
理解確認
計画
理解深化 実施・考察
自己評価 発表・討論
復習
定着
習得サイクル
触発
追究
探究サイクル
「教えて考えさせる授業」の提案
「教えて考えさせる授業」 (市川、2001, 2004)
「詰め込み」「教え込み」:旧タイプのわからない授業
教えずに考えさせる授業:新タイプのわからない授業
教えて考えさせる授業
予備知識の教授により、理解・問題解決・定着を促す
中教審答申 (2008年1月17日 p.18)
「‥‥教えて考えさせる指導を徹底し、基礎的・基本的
な知識・技能の習得を図ることが重要なことは言うまで
もない。」 (教材・教具の工夫、理解度の把握)
「教えて考えさせる授業」構築の3レベル
段階レベル
方針レベル
教材・教示・課題レベル
教える
(予 習)
授業の概略と
疑問点を明らかに
 通読して分からないところに付箋を貼る
 まとめをつくる/簡単な例題を解く
 教科書の活用(音読/図表の利用)
教材・教具・説明
の工夫
教師からの
説明
 具体物やアニメーションによる提示
 モデルによる演示
 ポイント、コツなどの押さえ
 代表生徒との対話
対話的な説明
 答えだけでなく、その理由を確認
 挙手による、賛成者・反対者の確認
段階レベル
方針レベル
教材・教示・課題レベル
考えさせる
理解確認
疑問点の明確化
 教科書やノートに付箋を貼っておく
生徒自身の説明
 ペアやグループでお互いに説明
教えあい活動
誤りそうな問題
 分かったという生徒による教示
 経験上、生徒の誤解が多い問題
 間違い発見課題
 より一般的な法則への拡張
理解深化
応用・発展的問題
 生徒による問題づくり
 個々の知識・技能を活用した課題
試行錯誤による技能
の獲得
自己評価
理解状態の表現
 実技教科でのコツの体得
 グループでの相互評価やアドバイス
 「わかったこと」「わからないこと」
授業例 :平行四辺形の面積の公式の理解

教師からの説明
面積の公式とその理由 (教科書と演示)
底辺と高さの意味/傾けのワザ/切り貼りのワザ

理解確認課題
さまざまな向きや形の平行四辺形
底辺のわかっているものには高さを記入/その逆

理解深化課題
情報過多問題 (平成19年度全国学力調査算数B問題)
地図の中の平行四辺形の土地の面積
授業例 :てこのつりあいの理解

教師からの説明
バット問題を例に、分割モデルで説明
軸に垂直な方向にスライス(分割)して、「積の和」

理解確認課題
ニンジン問題を例に、自分で「積の和」を計算
理論モデル(計算)/具体モデル(てこ実験器)/実物

理解深化課題
棒曲げ問題の予測
自分でモデルを選択、操作して予測・説明すること
有効な協同には何が必要か

領域固有の基礎的知識の共有化
予習や教師の説明による情報提示

領域横断的なスキーマ
概念説明のための一般的方針 (市川、2000)
科学的仮説検証のスキーマ (小林、2012)

陥りやすい学び合い・教え合いの自覚と克服
高校授業での教え合い行動の問題 (植阪ら、2013)
一方通行型、クイズ大会型、・・・
関連図書紹介
『学力低下論争』 (市川著、ちくま新書、2002)
『学力から人間力へ』 (市川編、教育出版、2003)
『学ぶ意欲とスキルを育てる-いま求められる学力向上策-』
(市川著、小学館、2004)
『「教えて考えさせる授業」を創る』 (市川著、図書文化、2008)
『新版 教えて考えさせる授業 小学校』 (市川・鏑木編、図
書文化、2009)
『教えて考えさせる授業 中学校』 (市川編、図書文化、2012)
『「教えて考えさせる授業」の挑戦-学ぶ意欲と深い理解を
育む授業デザイン-』 (市川著、明治図書、2013)