戦略ケース オートバイテル・ドット・コム 苦悩するネット自動販売業の寵児に明日はあるのか アメリカのインターネットビジネスベンチャーの中でも、成長力と顧客満足度の高さで 大きな注目を集めているのが、インターネット自動車販売仲介サービス事業のオートバイ テル・ドット・コム社(以下オートバイテル)だ。1995年にピート・エリス氏によっ て設立され、1999年にはNASDAQへ株式公開を果たしている。 しかし、設立以来、赤字が続いている。株価も1999年3月の公開直後には58ドル まで上昇したが、その後ほぼ一本調子で下落。現在は12ドルと低迷している。 一体、オートバイテルに何が起こっているのか。その光と影を検証する。 1.自動車インターネット販売の現状 (1)自動車インターネット販売の市場規模 1999年、アメリカでは年間約1,500百万台の新車が販売されたが、その内10% に当たる約150百万台がインターネットで販売されている。その利用率は1995年の オートバイテル設立以来、急速に伸長した。ここ3年間の利用率をみると、1997年- 6.4%、1998年-7.8%、1999年-10.1%となっている(市場調査会社 J・D・パワーの調べ)。J・D・パワーによると2000年のネット販売利用率は12. 0%、2003年には30%に達するだろうと予想している。 また、J・D・パワーは、現在、自動車購入者の40%が何らかの形でインターネット から自動車購入に関する情報を得ており、2000年末には65%になるだろうと予測し ている。 (2)自動車インターネット販売の参入企業 自動車インターネット販売に参入している企業数は大小あわせると20~50社位ある と言われているが、その多くは独立系と言われる企業であり、自動車メーカー系列の企業 は少ない。 オートバイテル、カーポイントの2社がほぼ市場を独占しており(オートバイテル48. 2%、カーポイント32.2%)オートウェブ(Autoweb)、オートバンテージ(Autovantage)、 カーズ(Cars)、カーズダイレクト(CarsDirect)が続く。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 1 戦略ケース (3)自動車インターネット販売の主な顧客層 インターネットサービスを利用して自動車を購入する顧客の年齢層は平均35.5歳、 裕福層が中心で、本気で新車を買おうと思っている人が多く、販売成約率が高くディーラ ーにとっても魅力的なセグメントである。 顧客属性は地域によって3つに分類される。アメリカ中西部は価格訴求中心の顧客層が 多い。東海岸、西海岸は車を早く入手できる、簡単に入手できるなどの利便性を追求する 顧客が多い。自動車インターネット販売でよく売れている車種はホンダシビックなどの比 較的安い価格帯か、BMWやメルセデスベンツなどの高級車で中間は少ない。 (4)自動車インターネット販売が伸長する背景 自動車インターネット販売が伸長している背景には売り手と買い手の両方がメリットを 享受できる点にある。 顧客メリットは、ほぼ全メーカー、全車種のカタログ情報、卸価格、メーカーからのリ ベート(値引き額)などの情報を好きなだけWEBページから入手できることである。ま た、電子メールでの価格交渉も可能である。 一方、売り手である販売店やディーラーにとっても広告宣伝や車の展示などに関わる人 件費や販促費を削減できるため、その分車両価格を安く設定できるメリットや数多くの顧 客と接触できるメリットがある。 2. オートバイテル・ドット・コムのビジネスモデル (1)会社概要 オートバイテルは1995年にWEBサイトを立ち上げ自動車インターネット販売を開 始した(図表1)。現在では新車、中古車の紹介をはじめ、自動車保険やリース契約、自動 車ローンの仲介までWEB上で実現している(図表2)。オートバイテルが担当するのは基 本的には仲介業のみであり、個別商品の受け渡し、支払いは各提携会社と顧客との間で行 われる(しかし2000年より直販販売を実施。詳細は後述)。 (2)実績 1999年には250万件の新車見積依頼を受け、その内約30%がオートバイテルの 仲介によって成約した。販売台数はアメリカ総自動車販売台数(新車)の約4.8%にあ たる72万台。仲介した1999年の年間取引金額は約1兆円に達する。 売上高は4,032万ドル(42億3360万円 105円換算)だが純損失額は6,7 10万ドル(70億4550万円)に達し、設立以来、赤字の状態である。この赤字に関 してリーマン・ブラザーズなどの証券アナリスト達は「黒字転換は2001年第2・4半 期だろう」と推測している。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 2 戦略ケース 契約販売店は1999年現在、約3,000店である。また全米15,000拠点の整備 工場と契約し顧客へのアフターサービス体制を万全としている。 図表1 図表2 表 1 オートバイテル・ドット・コムの概要 オートバイテル・ドット・コムの歴史 1995年 3月 ProdigyとTimesLinkの通信ネットワーク上でサービス開始 1995年 7月 インターネット上にWEBサイトを開設 1996年 3月 カナダで営業開始 1997年 3月 中古車の取り扱いを開始 1997年 4月 ローン取り扱い開始 1997年 6月 マイクロソフトがAutobytelとの提携を解消し、CarPoint (http://www.carpoint.msn.com/)上で見積サービス開始 1997年 8月 リースの取り扱い開始 1997年 11月 Autobytelの利用者が100万人を突破l 1999年 3月 AutobytelがNASDAQへ株式公開 1999年 4月 Autobytel・イギリス、スウェーデンを開設l 1999年 6月 Autobytel日本法人を設立 *オートバイテル・ドット・コムHPより copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 3 戦略ケース (3)一般ユーザー向けのビジネス 1) ポータルサイトの提供 顧客が自動車購入する際 図表3 オートバイテル・ドット・コムのビジネスの仕組み には、見積もり依頼に至る 1 サービス提 供 以前に自動車に関する情報 を多岐に渡って積極的に収 集するが、オートバイテル はそのような顧客の情報収 集活動をインターネット上 提携会社 提 携会社 販売 販売店 店 ディー ディーラー ラー 金融機関 金 融機関 オートバ イテル オートバイテル ドット・コム ドット・コム www.autobytel.com www.autobytel.com でサポートする。そのひと つが自動車情報サイトとの 顧客 顧客 保険会社 保 険会社 顧客紹 介 提携だ。現在、約50社近 PC端 末 PC端 末 PC端 末 見積 サービス申込 み 支払い くの自動車関連サイトと提 携して顧客に情報発信をしている。 ふたつめが検索サイトとの提携である。これにより、オートバイテルへの顧客の誘導を 行っている。さらに自動車の修理、アフターケア、車検案内、自動車保険の加入、自動車 ローンなど自動車購入に関するあらゆるニーズに対応できるワン・ストップ・サービスを 提供できるWEBシステムを構築している。 こうしたインターネット上の各種コンテンツ、機能と有機的にリンクすることにより、 効果的な集客を実現している。 2) 仲介サービスの提供 オートバイテルの新車販売仲介サービスの流れは以下の通りである。 ・車購入を希望する顧客がインターネットで希望する車(車型と仕様)の価格見積もり をオートバイテルに依頼 ・オートバイテルは契約しているメーカー系列の販売店に顧客を紹介し、販売店が見積 もり価格を顧客に直接伝える(電子メールで48時間以内に顧客に返信) ・オートバイテルは顧客との取引には全くタッチせず、ディーラーの紹介のみ行う。商 談はディーラーと顧客間で行う。よってオートバイテルと契約ディーラーは競合しない ・加盟ディーラーはオートバイテル専従のマネージャーとスタッフを置き、オートバイ テルとの窓口業務に専念する。また、オートバイテルによる研修を受ける ・顧客からの見積もり依頼は、オートバイテルのホームページ(http://www.autobytel.com/) で受ける 以上のようなサービスから車両コストも一台あたり平均1,500ドル安くなりなり、安く しかも迅速に車が入手できるようになったのである。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 4 戦略ケース (4)販売店、ディーラー向けのビジネス オートバイテルの提供サービスは販売店、ディーラーと顧客の間の単なる仲介ビジネス だけではない。販売店、ディーラーに対してもネットを駆使したサービスを提供している。 主なサービスは2つある。 1) 顧客情報管理サービス オートバイテルはインターネット上に存在する自動車購入を検討している潜在顧客を集 める機能に加え、ディーラーにその潜在顧客を紹介し、さらにはディーラーが顧客とイン ターネット上でコミュニケーションをとるための手段を提供している。 例えば新車の見積もりの例でみてみると、顧客が見積もり依頼をしてくると、販売店に いるオートバイテル専任のディーラーのために用意された画面に、電子メールにステイタ ス表示(初めてのメールなのか、既に何度かやりとりのあるメールなのか、など)を付け た、見積もり業務の進捗管理情報を含んだ情報として表示される。これに対してディーラ ーは48時間内に見積もり内容の返信を書き、返信することで顧客に電子メールとして届 くというシステムになっている。 2) 営業進捗管理サービス インターネット上で収集された顧客情報はオートバイテルにも蓄積される。 オートバイテルはそれらの顧客情報を基にインターネット利用者特有の購買行動に対応 した販売ノウハウ、経営戦略を販売店、ディーラーにコンサルティングする。 オートバイテルが提供するコンサルティング活動の内容は幅広い。 販売店各社がインターネットでの自動車販売営業活動を円滑に行えるようにABTU (Autobytel University)という研修制度を設置しディーラーへインターネット顧客応 対ノウハウの提供などの教育プログラムを用意している。また、定期的に販売店、ディー ラーを訪問し事業の改善提案などを行っている。さらに、顧客の分析リポート、販売デー タ集、顧客対応の満足度調査の結果、成約決定の要因分析、インターネット上での売り筋 分析などのコンサルティング活動を行っている。 これらのオートバイテルが提供するコンサルティングサービスは販売店、ディーラーと の契約時の1つのパッケージとして提供される。 また、一部の販売店では、営業を支援するシステムと自社の会計システムを連動させ、 車一台当たりの収益性や、営業担当者一人当たりの生産性などを数字で出せるシステムを 導入している。 以上のようなサービス提供の結果、オートバイテルと契約しているディーラーは1人あた り月平均25~30台の販売が可能になった(アメリカのディーラーの1人あたりの月平 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 5 戦略ケース 均販売台数は9~10台。日本のディーラーは4~4.5台)。 また、販売店は経費の63%を占めるといわれる広告費と人件費を大幅に削減できるよ うになった。従来のディーラーの経費は新車一台売るのにマーケティング費用200~3 00ドル、人件費800~1100ドルの計1000ドルかかっていたが、オートバイテ ルでは190ドルで十分としている。 これらのサービスを実現するネットワークシステムは、オートバイテルと販売店、ディ ーラーがエクストラネットによって接続されることで実現している。 3.オートバイテルの課題 オートバイテルは1995年の創立以来、ネット自動車販売会社としてトップを走り続 けてきた。しかし、ここにきて株価の低迷、1999年には純損失6,710万ドルを計上 しており、累積損失は増える一方である(図表4)。その要因はなぜか。 三つの要因が考えられる。 図表4 オートバイテル・ドット・コムの売上高と総損失額の推移 (万ドル) 8,000 6,710 7,000 6,000 5,000 4,032 4,000 3,282 3,000 2,383 2,000 1,530 1,441 売上高 1,000 0 総損失額 97 1 *95、96年は未公表 98 2 99 3 (年) *オートバイテル・ジャパンHPより (1)収益構造の欠陥-「課金システムの限界」 オートバイテルの収益は販売店、ディーラーとの契約によって得る加盟料と月500~ 3000ドルの維持費、保険会社やローン会社から得る顧客紹介手数料であるが、一番の 収益源である加盟料と維持費は固定費としての徴収である。よって、売れば売るほどシス テム維持費、顧客管理費がかかり、儲からない仕組みになっている。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 6 戦略ケース (2)広告宣伝費の増大-「ブランド維持費の圧迫」 オートバイテルは一般の顧客にブランドを浸透させるために売上高を超す広告宣伝費を 投下してきた。その結果、全ての電子商取引業界の中で8番目に高い認知度を達成するこ とができたが(J・D・パワーの調べ)同時に膨大な累積赤字を生んだ。 現オートバイテル社長兼CEOロリマー氏は「総コストは既に減る傾向に転じている。 2001年に利益が出せれば、これまでの投資は取り戻せる。」と発言しているが、今後も 広告宣伝費を増大させる予定であり、未だにコスト回収の時期がはっきりしていない。 (3)競合他社の脅威-「大手自動車メーカーの反撃」 自動車ネット販売をこれまでオートバイテルやカーポイントなどに委託していた大手自 動車メーカが自らネット販売に乗り出した。今、アメリカで新たなネット販売会社として 注目を集めているのはGMが設立した「Buy Power」である。「Buy Power」は現在G M車のみの扱いだが近い将来GMと提携しているメーカー車を取り扱うと発表した。自社 製品を直接扱えるので徹底した価格訴求とアフターサービスなどが顧客メリットとなる。 4.オートバイテルの今後の戦略 オートバイテルは以上のような課題を克服すべく、2000年より、新たなサービスと 経営戦略を実行する。 (1)収益構造の改善-「直販システムの構築」 収益構造の改善のために、販売店やディーラーを介さない直販サイトを置する。これま でのネットによる仲介サービスでは契約先のディーラーからは車が売れても成約料を徴収 していなかったが、直販サイトでは一台成約するごとに車両価格に応じて100~300 ドルの成約料を集める。 (2)事業領域の拡大-「取扱い商材の拡充」 「ネット販売業」から「カーライフニーズに応える総合サービス業」への転換を図るこ とで、自動車関連ビジネス企業としてのブランドの構築を図る。そのために、1999年 12月15億ドルものマーケティングプロジェクトを打ち上げた。その中身は宣伝広告費 の重点投下、新事業構築のための設備投資である。新事業としてカーアクセサリーのネッ ト販売、メンテナンス業、販売店やディーラーへのコンサルティング業への重点化などで ある。 (3)規模の拡大-「大型合併による市場シェア率のアップ」 自動車メーカーのネット販売に対抗するため、2000年2月、ネット自動車販売3位 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 7 戦略ケース のカースマート・ドット・コムの買収した。同社はこれにより累計顧客数6,500万人、 契約販売店も4,800店と業界でも群を抜く規模になった。 オートバイテルは今、岐路に立っている。設立から続く赤字経営、競合他社の猛烈な反 撃などが原因である。一方で直販サイトの設置や事業領域の拡大などネット仲介業に頼ら ない収益構造を構築しつつある。オートバイテルが生き残るには、これまでの経営戦略を 見直し、今まで築き上げたネット自動車販売会社のトップ企業としてのブランドを新事業 に活かすことが必要であろう。 5.日本市場への進出 図表5 オートバイテル・ジャパンの概要 図表 オ イテ ジャ 概要 1999年6月、オートバイテ ルは日本企業6社(インテック、 会社名 オ ー ト バ イ テ ル ・ジ ャ パ ン 株 式 会 社 伊藤忠商事、トランス・コスモス、 資本金 18 億 6 49 0円 リクルート、オリエントコーポレ 主要株主 (持 株 比 率 ) ・オ ー ト バ イ テ ル ・ドッ ト ・コ ム ・イ ン テ ッ ク ・伊 藤 忠 商 事 ・ト ラ ン ス ・コ ス モ ス ・リ ク ル ー ト ・オ リ エ ン ト コ ー ポ レ ー シ ョン ・イ ー ソ リ ュ ー シ ョン ズ めている(図表5)。営業開始か 代表取締役 佐々木経世 ら2週間で見積依頼数25,00 会社設立 19 99 年 6 月 0件を達成。販売ディーラーの数 サービス開始 は300数に達した(2000年 本社所在地 ーション)と新会社「オートバイ テル・ジャパン」を設立、11月 1日から本格的な営業活動を始 4月現在)。オートバイテル・ジ ャパン社長の佐々木経世氏は「2 007年までには、日本の新車 市場のうちネット利用を20 ~25%に引き上げる」と発言 している(図表6)。 (33. 3% ) (16. 6% ) (13. 4% ) (13. 4% ) (13. 4% ) (5. 4 % ) (4. 5 % ) 19 99 年 1 1月 東 京 都 江 東 区 新 砂 1- 3- 3 * オ ー トバ イ テ ル ・ジ ャ パ ン H P よ り 図表6 自動車の電子商取引の市場規模(日本) 1 (千億) 16,000 14,000 12,000 しかし、系列という厚い壁が 立ちはだかる日本の自動車市 場で、アメリカ流のシステムの オートバイテル・ジャパンがど こまで通用するかは未知数だ。 トヨタ、ホンダはオートバイテ ルを警戒して自社系列でのネ ット販売を決定した。 10,000 8,000 6,000 4,000 2,000 0 1 98 299 3 2000 4 01 5 02 603 704 (年) 予測値 *通産省調べ copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 8 戦略ケース オートバイテルの日本での成功の鍵は事業システムを日本流にアレンジすることである。 前述のように日本の自動車市場は系列店販売が主流だ。系列店の利益を確保しなければメ ーカーの協力は得られない。系列店にとっていかに魅力あるサービスを提供できるかが、 当面の課題になるだろう。 copyright (C)2002 JMR Lifestyle Research Institute,Ltd all rights reserved 9
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