「お金とは何か」 -メディアからのイメージを通じて考える- 大矢 哲 (広島学院高等学校1年) はじめに 「お金とは何か」と聞かれると返答に困ってしまう。物体的な説明はできても、本質的 な説明はできないのである。 しかし、テレビや新聞等メディアを通して毎日「お金」と接しているのも事実である。 メディアから受ける「お金とは」について考えてみることにする。 消費者金融のイメージ 毎日、これでもかというほど、何社ものコマーシャルがテレビで放送される。派手でリ ズム感よく、思わずコマーシャルソングを口ずさむこともある。近所の人が言っていたの だが、あれだけコマーシャルを見せられて、甘い言葉をかけられたら、何も考えずに、ふ らっと簡単にお金を借りる若い人がいても、不思議ではないと思えるそうだ。 コマーシャルの最後には、「借りすぎに気をつけましょう」とか、「借り入れは計画的に」 とか、「余裕を持って」など注意はしているが、その前のコマーシャル自体が頭に残るので、 「お金は簡単に借りることができる」とイメージされるのであろう。 そして、そこには、消費者金融の金利の高さとか、昔のように高利貸といったイメージ はなく、消費者金融イコール便利な所というイメージしか残らないのだろう。 最近では一般銀行のコマーシャルも目にするようになったが、冷静に考えてみて、あれ だけのコマーシャルを流すということができるのは、会社に大きな利益があるからで、そ の利益を生むのは、お金を借りた時の利息であるということに気付かないといけないであ ろう。 街中を歩いていて、ポケットティッシュをもらうことがしばしばあるが、ほとんどが消 費者金融のものである。こういうことができるほど充分な利益があることは考えず、消費 者金融はサービスがよいという安易なイメージしか持てない若者が多いというのは、残念 であるが、根本的に金銭知識が低いことを除いて、メディアが与える影響がいかに大きい かということを示していると思われる。(消費者金融の便利さのみしかインプットされて いない。) お金の獲得へのイメージ 宝くじのコマーシャルで、息子が宝くじで大当たりして、贅沢ざんまいに高級寿司を食 べている所に、親が出会って「いいなあ」とつぶやく場面がある。 宝くじを買うことや、宝くじが当たることには別に罪はないことだが、問題は、当たっ たお金を贅沢に使ったり、それを見て「いいなあ」としか言えない親、当たったお金を一 人占めしている若者の姿であろう。 本来、お金とは、労働によって得るか、一部の才能のある人がそれを生かして(ピアノ や野球など)得るかであったはずである。昔から、「あぶく銭は身につかない」と言われて おり、このコマーシャルは、それも表わしているが、どうも、お金を楽して手に入れよう というイメージが残る方が強いようだ。一攫千金を夢見るなとは思わないが、地道に一生 懸命労働しようというイメージは残らない。また、子どもに何も言えず、「いいなあ」とし かつぶやけない親に、情けなさを感じてしまう。 これが日本の現状のすべてではないが、このコマーシャルを見て不安を感じないのであ 2 れば、「お金」だけでなく、この先の日本社会もあぶないかもしれない。 ニュースを見て 「お金」がからんだ事件がたくさん報道されている。その中で記憶に残った事件を考え てみたい。 1. 保険金獲得のための事件 保険金という大金を手に入れるために、人を殺してしまっている。我が子まで手にかけ た事件もあった。 人を殺してまで、大金を手にしないといけないほどの理由は、単に無駄使いだったり、 男の人に貢いだりと信じられないようなことばかりである。 2. いじめでの金品のまきあげ 同級生等をいじめ金品をまきあげるという事件は、日本各地で多発している。金額的に も多いのから少ないのまで多種多様である。しかし、名古屋の事件には驚いてしまった。 何百万というお金の動きがあったのである。まきあげられた被害者も、どうしてそんな大 金を出すことができたのか、家の人が気付かないのはおかしいなどの声もあったが、被害 者は、いじめられまいと一生懸命だったのだろう。 3. 気をひくための金のばらまき いじめとは反対に、同級生の気をひきとめておきたいがために、百万円近くのお金を友 だちに、ばらまいていたという事件もあった。 いじめや仲間はずれが多い現代で、なんとか仲間でありたいと必死だったのだろう。 4. 巨額脱税 最近、脱税により逮捕される有名人が多い。納税というのは、所得よりは決して多くな いのだから、真面目に納税すればよいのにと思ってしまう。脱税額の大きさにも驚いてし まう。 5. 外務官僚の無駄使い 一時期、外務省のお金の使い方についての報道が毎日のようにあった。公費を私用に流 用していたらしい。その額がまた、大きかった。自分が労働して得たお金でなく、国民の 税金の流用である。大金を目の前にすると、道徳心というものは、なくなるのだろうか。 6. その他 営利誘拐や汚職、強盗等、お金にからむ事件が多数ある。 また、消費者金融をまきこんだ集団詐欺事件、親がパチンコに熱中する間に子どもが死 んでしまった事件も、背景にあるのは、お金である。 7. 事件の背景を考える 3 1~5の事件の背景には、安易にお金を手に入れたいという気持が存在する。 また、お金は、ものを売ったり、買ったりする経済行為の手段であるということが忘れ られている。 つまり、お金は、うばったり、むやみに与えたりしてはいけないのである。お金は労働 の報酬であると考えれば、お金をうばうということは、その人の人格までをうばうという ことまで考えるべきであろう。反対にお金をばらまくということは、お金で自分を売るの と同じことなのだ。 お金についての知識もないが、よく言われる「金銭感覚」というものの欠如が様々な事 件を起こしているのだろう。 世界の中の日本 日本国内でもお金にからむ事件が多いが、世界経済の中での日本という立場でニュース を見た時、いくら不況とはいえ、アフガン難民等の生活とは、比べられないほど日本の方 が物質的には豊かである。悲惨なニュースを毎日のように目にすると、感覚が麻痺してし まうのか、「かわいそう」という口先だけの言葉で終わってしまっているのが実情である。 海外旅行に行く人も多いが、現地の人が食糧難の中一生懸命提供してくれる食べ物をち ょっと口をつけて捨ててしまう日本人のことを聞いて悲しくなった。資源に限りがあるよ うに、お金にも限りがある。日本だけが資源やお金をひとり占めにしたらいけないという ことをニュースから考えないといけないであろう。 まとめ メディアから感じる「お金」について考えてみたが、「お金とは何か」という哲学的な問 いだけでなく、知識の低さ、金銭感覚のなさを強く感じてしまった。 「お金」は、決して安易に手に入るものではないこと、努力(労働)の結果として、手 に入れるものであり、手段を間違えば、他人も自分も不幸になるということを若者が今一 度考えなおさなければならないであろう。 4
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