味覚障害について

ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
味覚障害(120221)
数年前より味覚障害があり、近医でも検査したことがあるという。その時には亜鉛が欠乏してい
ると言われたようだ。一時期良くなったものの、今もまだ味覚がはっきりしないとのことで相談を受
けた。これを機会に味覚障害の診断、治療について勉強してみる。

診断

味覚障害を訴える患者は、耳鼻科、歯科、内科、脳外科など数々の医療機関を受診している
が、その原因はわからないままになっていた症例も少なくないと推測される。3)

味覚障害の訴えは多岐にわたる。最も多いのは、「味がわかりにくくなった」という味覚減退
すなわち量的な異常であるが、「おかしな味がする」「食事が美味しくなくなった」などの食事
に関連した抽象的、質的な異常もある。また、「常に口の中が苦い」「チョコレート味がする」な
ど食事に関連しない訴えもある。さらに、口腔のほかの愁訴、すなわち舌痛、違和感、ザラザ
ラ感、しびれ感、口腔乾燥などの訴えを合併することが多い。3)

味覚が障害されると、塩分・糖分の過剰摂取による血圧・血糖値上昇だけでなく、食欲低下
による免疫力低下、意欲低下を引き起こすことがある。5)

味覚障害は味蕾にある受容器細胞へ味物質が届くのを阻害される(運搬性障害)か、受容器
が阻害を受ける(感覚障害)か、味覚の求心性神経と味覚中枢の障害(神経性障害)で起こ
る。1)

味覚障害の原因は、特発性、亜鉛欠乏性、薬剤性が三大原因であり、他に感冒罹患後、全
身疾患によるもの、鉄欠乏性(女性に多い)、手術後(鼓室形成術、扁摘、喉頭微細手術)、
心因性、などが挙げられる。4)

味覚障害の原因は特発 性(18.2%) 、心因性(17.6 %)、薬剤性 (16.9%) 、亜鉛欠乏性
(13.5%)、感冒後(12.5%)、全身性(6.0%)、医原性(4.8%)、鉄欠乏性(4.2%)、外傷性
(2.8%)、その他(3.5%) 2)

問診事項は、発症時の状況(感冒、頭部外傷、歯科治療、薬剤の内服など)、味覚障害の期
間、ロ腔の症状(舌炎、口内乾燥など)、全身性疾患の有無、常用薬剤(薬剤名と服用期間、
味覚障害の出現時期)、嗅覚障害の有無(風味障害の鑑別)、耳・鼻疾患の有無(特に耳手
術歴)、心因性要素の有無などである。2)

検査は、電気味覚検査、ろ紙ディスク検査、採血(末血、亜鉛・銅・鉄)、マクロスコープによる
舌乳頭の観察(外来の観察用顕微鏡の最高倍率でもよい)、安静時および刺激時の唾液量
測定、SDS などの心理学テスト、などである。2)

血液一般検査(貧血の有無)、微量元素(亜鉛、銅、鉄)、ビタミン B12 などの検査を行う。ま
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
た、鑑別のために糖尿病、肝機能、腎機能などの検査も行う。3)

唾液量検査:味覚障害に口腔乾燥が伴うことが時々あるので唾液量測定を行う。忙しい外来
中に行えるように簡単な重量法を用いる。患者に 10 分間の唾液をコップにためてもらい、そ
の重量を測定しコップの重量を差し引く。安静時では 10 分間に 3ml 以上の唾液量を、刺激時
(10 分間ガムをかんでもらう)では 10 分間に 10ml 以上の唾液量を正常とする。2)

味覚障害の原因は従来、亜鉛欠乏の関与が一般に広く知られているが、当科で検討したと
ころ、カンジダ症や鉄欠乏などの舌炎、口腔内乾燥などの口腔疾患が全体の 3 割を占め最
も多かった。3)

亜鉛欠乏性味覚障害:味蕾には亜鉛が豊富に含まれている。味細胞が基底細胞から分化し
新生する turnover の遅れが味覚受容体の感度の低下、味覚低下につながると考えられてい
る。偏食、不規則な食習慣、食品添加物(ポリリン酸フィチン酸 EDTA 含有)などが原因となり、
亜鉛の吸収を妨げたり、体内の亜鉛が排泄されることによると考えられている。診断は一般
的には、血清亜鉛値が 69μg/dL 以下を低値とする。3)

ヒトの全身の亜鉛量は体重 70kg の場合約 1.4~2.3g といわれているが、血液中にはそのうち
のわずか 0.3%が含まれ、血清中の亜鉛量となるとさらにその 10~20%となりきわめて微量
である。そのため、血清は生体内の亜鉛栄養状態を正確に把握するための、理想的なサン
プルとは必ずしもいいがたい。血清亜鉛値が正常範囲内にある症例においても、体内の亜
鉛栄養状態が不良な例があるものと推察される。6)

血中の亜鉛の多くはアルブミンと結合しているため、腎機能障害で出現するタンパク尿は、
尿中への亜鉛排泄増加の原因となる。また、腎障害で行われるタンパク質の摂取制限は、
体内亜鉛量を減少させる要因の一つとも考えられている。6)

急性肝炎例では、極期に尿中亜鉛の排泄量が増加し、血清亜鉛値の低下が見られる。慢性
肝疾患では、その進行に伴って血清亜鉛値の低下が見られる。これには、尿中亜鉛の排泄
量の増加や、消化管における亜鉛吸収能の低下、血清中のアルブミンの減少など、複数の
要因の関与があげられている。6)

糖尿病では、重症度に比例して尿中への亜鉛排出が増加し、血清亜鉛値が低下する。本症
における味覚障害の発症には、ニューロパチーに加え、亜鉛欠乏の関与も示唆される。6)
味覚障害の原因 1)

運搬性味覚障害

Sjogren 症候群

口腔乾燥症

重金属障害

放射線治療

薬物(薬剤が体内の亜鉛とキレート結合することにより体外に排出され、二次的に亜鉛
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
欠乏を来す。3))


感覚性味覚障害

ウイルス感染(特にヘルペスウイルス)

加齢

カンジダ症

口腔腫瘍

天疱瘡

内分泌異常

放射線治療

薬物(抗甲状腺薬、抗腫瘍薬)
神経性味覚障害

外傷

口腔腫瘍

口腔内手術

甲状腺機能低下症

上気道感染症

腎疾患

糖尿病

脳卒中およびその他の中枢神経系異常

放射線治療

治療

神経性の味覚障害には有効な治療法がない。1)

特発性の味覚障害患者では、症状は不変か、または悪化する。1)

亜鉛とビタミンによる治療の効果は十分に実証されていない。1)

亜鉛欠乏症例に関わらず亜鉛内服療法を行う。硫酸亜鉛 300mg/日かポラプレジンク(プロ
マック®150mg/日)を最低 3 カ月間行う。亜鉛補充療法による自覚症状の治癒率(VAS で
80%以上を示す)は亜鉛欠乏性 73.3%、感冒性 70.7%、薬剤性 62.6%、特発性 60.9%と 60
-70%である。改善も含めると(VAS で 10%以上の上昇)、70-90%と高率になる。鉄欠乏
性は鉄剤も服用し治癒率 88.6%、改善以上は 97.2%となる。2)

薬物に関連した味覚障害は、投薬の変更によってしばしば解決することが出来る。1)

現在一般的に行われている治療法のうち、有効性が証明されているのは、亜鉛剤の補給で
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
ある。有効率は、亜鉛欠乏性および特発性味覚障害で 70%前後である。しかし上記のように
味覚障害は、亜鉛欠乏以外でも様々な原因で起こる。適切な診断原因に基づいた治療法を
選択しなければならない。口腔疾患の中でもカンジダ性味覚障害では、ミコナゾール、アムホ
テリシン B、イトラコナゾールの抗真菌薬を投与し、カンジダ培養と VAS で評価する。3)

亜鉛欠乏性味覚障害/特発性味覚障害:ポラプレジンク(プロマック®)を中心とした亜鉛剤の
投与が有意に有効である。ビタミン B2(フラビタン®)などの併用投与も行われる。6)

口腔乾燥には、麦門冬湯、エポザック®やアシノン®などの唾液分泌促進作用のある薬を用
いる。また、食事の最初に酢の物を食べるよう指導する。4)

心因的要素が強い、またはうつ傾向の一症状として味覚異常を訴える場合は、抗不安薬、抗
うつ薬、SSRI(selective serotonin reuptake inhibitor)を使用する。特にベンゾジアゼピン系
は摂食促進効果もあるため、味覚機能低下が軽度な割に食欲低下を示す症例には併用す
るのもよい。5)

亜鉛を多く含む魚介類(カキ、数の子)、海藻類(ひじき、のり)、大豆製品(きな粉、味噌、豆
腐)、種実類(ごま、アーモンド)、緑茶などの食品を多くとるように指導する。4)

当科でも以前、酸刺激による唾液分泌効果、消化促進効果とミネラル、フコイダンを多く含ん
だモズク酢に注目をして治療法として考案した。難治性味覚障害の 56%、口腔乾燥にも約
60%で改善傾向がみられた。しかし、1 日に 3 パックと量が多いこともあり、下痢の副作用が
みられたことにより、適応を慎重に決める必要がある。5)
特発性味覚障害に対する亜鉛の効果を検討した RCT を読んでみた。
●PECO
P:Fifty patients with idiopathic dysgeusia
E:Zinc gluconate (140 mg/day; n=26)
C:placebo (lactose; n=24)
O:The two primary endpoint were the scores of the taste test and self-rated sysgeusia.
特発性味覚障害の患者に対して、グルコン酸亜鉛を投与すると、プラセボを投与した場合と比
較して、味覚テストや味覚障害の自己評価の結果が改善するかどうかを検討した論文であること
が分かる。
●妥当か
抄録中に randomly assigned とあるが、ITT 解析については記載がない。全例解析されているよ
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
うなので、ここでは特に問題はないと思う。
●結果
亜鉛群で、味覚テストや自覚症状を改善した。
少なくとも 5%以上の改善を現実的な改善としてカットオフにすると、亜鉛群は 50%の患者で味
覚症状に変化がなかったのに対して、プラセボ群では 75%に改善を認めなかった。これをもとに
RRR、ARR、NNT を計算する。
RRR:1-50/75=0.33 33%
ARR:75-50=25%
NNT:1/ARR=4 4 人(3 ヵ月)
The patients on zinc improved in terms of gustatory function (p <0.001) and rated the dysgeusia as
being less severe (p <0.05).
In terms of patient rating of improvement in dysgeusia, actual improvement was seen in
13 of 26 patients receiving zinc treatment (50%), while in the case of those receiving placebo
(25% ), improvement was found in only six of the 24 patients.
(参考文献 7 より引用)
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html
なかなか決めてが無いといっても、原因は様々なので、まずその評価が大切なのだと思う。治せ
るものは治してあげたい。
参考文献
1.
福井 次矢ら(監訳).ハリソン内科学 第 2 版.東京,MEDSI,2006.
2.
阪上雅史.味覚障害の診断と治療.日本耳鼻咽喉科学会会報 115(1): 8-13, 2012.
3.
北川善政, 山崎裕.高齢者と味覚障害 update.Geriatric Medicine(老年医学) 49(5): 573-579,
2011.
4.
阪上雅史.味覚障害の診断と治療.日本耳鼻咽喉科学会会報 114(4): 270-271, 2011.
5.
任智美, 阪上雅史.内科医が留意すべき耳鼻科疾患の診断と治療, 予防 ―患者の症状から
見逃さないためのコツとポイント― 5)味覚障害.PROGRESS IN MEDICINE 30(4): 1049-1053,
2010.
6.
池田稔, 平井良治, 関根大喜.味覚障害.治療 91(増刊): 1343-1346, 2009.
7.
Heckmann SM, Hujoel P, Habiger S, Friess W, Wichmann M, Heckmann JG, Hummel T. Zinc
gluconate in the treatment of dysgeusia--a randomized clinical trial. J Dent Res. 2005
Jan;84(1):35-8. Erratum in: J Dent Res. 2005 Apr;84(4):382. PubMed PMID: 15615872.
ROCKY NOTE
http://rockymuku.sakura.ne.jp/ROCKYNOTE.html