ジクロフェナク坐薬と血圧低下(111129)

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ジクロフェナク坐薬と血圧低下(111129)
ジクロフェナク坐薬と血圧低下の関係について話題となった。研修医の頃、心筋梗塞で ICU 入室
中の患者にジクロフェナク坐薬を使用したら血圧低下して、自分も血圧が低下しそうになったこと
がある・・・。それ以降、慎重に使用していたせいか、それとも単に運が良かっただけなのかは不
明だが、あまり同じような経験をすることは無かった。研修医の時には深く考えることもなかったの
で、これを機会に勉強してみる。
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細菌やその内毒素などの外因性発呼物質に刺激され、単球やマクロファージなどが内因性
発熱物質(インターロイキンー1、インターフェロンなど)を産生、それらが視床下部の体温調
節中枢のセットポイントを高体温にセットし直す。すると、血管内皮細胞などからのプロスタグ
ランジンの産生が促されて、熱産生の増加(筋収縮による震え、シバリング)と熱喪失の減少
(末梢血管の収縮)が起きて発熱するとされる。NSAIDs は、このプロスタグランジンの産生を
抑制し、解熱作用を発揮する。1)
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NSAIDs の坐薬は吸収効率が良好なため、血中濃度の上昇が速く、解熱剤として使用すると
過度の体温低下と血圧低下が合併することがある。1)
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脱水や発汗などによる hypovolemia の状態であったところに末梢血管拡張が起こるとショック
を引き起こすことがある。1)
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(重症熱傷患者 9 例の解析)血圧は低下するものが多く特に拡張期血圧に比べ収縮期血圧
の低下が顕著でショックレベルに近い高度な低下もみられ、平均 21mmHg の低下であった。
血圧は挿入 1 時間後に低下しているものが多く、特に拡張期血圧に比べ収縮期血圧の低下
が顕著であった。多くの症例で血圧低下は投与後 2 時間まで(しばしば 2 時間以上)継続す
る傾向があった。時間尿量は増量例もみられたが 200ml 以上の減少もあり平均 52ml 減少で
あった。これら体温、血圧、尿量変動はいずれも一過性であり数時間後に概ね回復した。2)
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数時間は定期的にバイタルサインをチェックすることが必要。1)
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特にジクロフェナクナトリウム(ボルタレン®)坐薬は即効性で、強力な作用を持つが、その反
面、解熱目的で使用した場合、時に予期せぬ血圧低下を招くことがある。特に高齢者、
hypovolemia の状態、持続鎮痛、人工換気中の患者では起こりやすいとされる。1)
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(37 名の食道癌術後患者を対象とした研究)ボルタレン坐薬初回使用において、解熱目的で
使用した場合、総 out 量が少ない場合、人工呼吸管理中、鎮静剤持続投与中の状況下で収
縮期血圧は 90mmHg 以下に下降しやすいことが推察された。3)
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(37 名の食道癌術後患者を対象とした研究)血圧低下群が保持孔に較べ、ボルタレン坐薬を
解熱目的で使用した割合が有意に高かった。ボルタレン坐薬を解熱目的で使用した場合に
血圧低下を来たしやすい理由としては、発熱による脱水と解熱過程にみられる熱放散の増
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加によって、より hypovolemia な状態になるためと推測された。3)
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そもそも発熱の患者には解熱剤は必要かどうかにはさまざまな意見がある。特に感染による
発熱に対しては、解熱が有効であるといった明らかなエビデンスは無い。むしろ、発熱は生体
防御の機序であり、解熱剤の有害性を指摘する研究もある。しかし、臨床で解熱剤が多く使
われるのは、発熱による不快な症状を取るためである。発熱があれば解熱薬を投与するとい
った単純な考え方は正しくなく、デメリットもに考えるべきである。1)
今回読んだ論文のキーワードは以下のようなもの。こういうキーワードには敏感でいたいと思う。
目的がはっきりしないなら使用しないのがベストだが、使用する場合でも、特に数時間(2~3 時間
くらい)はバイタルを十分にチェックすることが必要だ。それに加えて、患者の状態に合わせて、血
圧が下がったら補液や昇圧剤などで速やかに対処できるような準備をしておかなければならない
と思う。
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脱水

総 out 量が少ない

発熱

解熱目的

高齢者

人工呼吸管理中

持続鎮痛

鎮静剤持続投与中
参考文献
1.
水島靖明.熱発している高齢者に NSAIDs 坐薬を挿入したらショック状態に! NSAIDs の危険性.
ナーシング・トゥデイ 19(12): 117-119, 2004.
2.
吉川佐栄子, 桂田菊嗣.解熱用ジクロフェナクナトリウム坐剤の副作用-とくに血圧低下につ
いて.治療 77(7): 2131-2136, 1995.
3.
岩田恵子, 日永田恵美, 久門裕子.ボルタレン坐薬により血圧低下を来たしやすい患者の状
態.ICU と CCU 27(2): 159-165, 2003.
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