経済広報センター活動報告 経済広報センター活動報告 統合通貨ユーロと 欧州経済の課題と展望 経済広報センターは2010年11月15日、経団連会館にて、欧州委員会で経済・金融総局副総局長や ユーロスタット(統計局)総局長などを歴任されたエルヴェ・カレ氏を講師とする講演会を開催した。コメン テーターは、みずほ総合研究所の中島厚志専務執行役員 チーフエコノミスト。参加者は約110名。 応は異なっており、時期ごとにコメントしたい。 金融危機直後の第1期は、金融バブル崩壊の影響 を抑えつつ経済を回復軌道に乗せるかが焦点であっ た。この時期、公的資金注入や金融規制見直しは主 要国共通の課題だったが、ストレステストで金融機 関選別を早期に行った米国では金融機関の収益は回 復し、調整が進んだ。一方、欧州では、米国型の金 融バブルが生じた国があった上に、ストレステスト の遅れや主要銀行の高い不良債権比率など、バブル 崩壊後の調整が遅れた。 第2期は、ギリシャの財政赤字問題が発生した後 の時期である。この時期は、EUとしてソブリン債 で ん ぱ 務危機のユーロ圏各国への伝播を抑え、ユーロの信 講演 エルヴェ・カレ 元 欧州委員会 総局長 ティ (景気循環増幅効果) の緩和、④危機管理の推進 認確保が焦点であった。そして、EUで金融安定を ないであろう。財政再建とのバランスも重要であ (預金保護額を5万ユーロから10万ユーロに拡大、 図る金融安定化メカニズムが整備され、ユーロ圏参 り、公共財政の質を改善する必要がある。 銀行倒産処理規定の整備など) 、⑤金融規制や金融 加各国に不均衡是正を強く求める枠組みを整備した 監督の範囲拡大 (信用格付け機関、ファンドやデリ ことは、ユーロの信認確保のみならずユーロ圏の不 Q ECB(欧州中央銀行)の金融政策は、日米の政 バティブ処理機関の創設など) を想定している。 安定化を防止することに効果があった。世界にとっ 策(積極的な量的緩和)と温度差があるように見え ても、このEUの動きが世界経済と市場の安定につ る。現状認識と今後の展望について伺いたい。 EU域内の不均衡問題に対しては、①制裁措置を 伴う財政ガバナンスの強化 (安定成長協定への適合 ながったことは大きなプラスであった。 強化と財政協力の深化) 、②中期的に財政均衡が達 しかし、足元、アイルランドやポルトガルで国 A ECBと日米の金融当局では付託事項が違うの 成できなかった参加国については、中期的に歳出増 債価格が急落し、ギリシャなども財政健全化が予定 で、実施可能な手段も異なる。ECBに付託され が経済成長を超えないようにする、といった対応を 通り進んでいない。経済と市場の安定に努めてきた ているのは物価の安定のみである。ECBと各国 行っていく予定である。 EUの努力は大きいが、まだ途上ということができ 政府は定期的に政策の擦り合わせを実施してお る。 り、適時・適切な対応を行っていく。 ギリシャ財政危機の発生により、債券安とユーロ 安でユーロ金融市場が混乱しているが、ユーロの変 現状は、第3期に当たる。ドル安と経常収支不均 動はドルの問題でもあり国際通貨問題であるともい 衡問題が世界経済の問題になっている状況であり、 える。 国際的に通貨を安定させ、経常収支不均衡是正を求 上で必要な、安定した国際通貨体制とはどのよう なものか。 EU(欧州連合)各国政府は金融危機の発生後、E 今後のシナリオとしては、世界の資本市場はセグ める枠組み作りが焦点になっているといえる。この UのGDP(国内総生産)の30%にも及ぶ保証や公 メント化され、ソフトな資本規制や国家規制が導入 段階では、EUの危機というよりも通貨統合を実現 的資金などの金融支援を行ったが、ソブリン債務危 される、国際的に収れんした金融システムと規制が したEUの経験が生きるといえる。 機問題で銀行のバランスシートはさらなる健全化が 資本市場に導入される、の2つが考えられる。ただ 必要である。 し、この国際金融システムは安定しないので、国際 各国の過去20年間にわたる財政健全化の努力が 後戻りし、2010年のEU財政赤字はGDP比7.5% コメント 84%)と、安定成長協定の3%、60%をそれぞれ大 きく超えている。公的債務が60%に回帰するのは 20年になる見込みである。 EUの新しい金融規制の枠組みとしては、①効果 的な金融監督の枠組み作り、②資本規制の充実(中 質疑応答 な か じ ま あ つ し 中島厚志 みずほ総合研究所 (株) 専務執行役員 チーフエコノミスト Q 現在、ユーロ圏の経済成長は悪くないが、ユー り、特にギリシャなどでは、財政健全化の政策に 考になる。 Q 新興国が存在感を高める中で、EUの将来は。 よる経済成長はほとんど見込めない。財政健全化 が過剰に景気を下押しするリスクが十分にある が、今後のユーロ圏経済をどう見るか。 A EUは政治的なプロジェクトである。経済的な 困難があっても、EU統合の原点である「戦争の ない共同体をつくる」という理念は参加国で共有 として同2.5%)、レバレッジレシオの導入、大手銀 金融危機後の世界経済の状況は、3つの時期に分 A デフレのリスクはあるが、イノベーションと構 行に対する追加資本規制など)、③プロシクリカリ けられる。それぞれの時期に合わせてEUの政策対 造改革を実施することで、マイナス成長にはなら 〔経済広報〕2011年2月号 した、国際通貨「バンコール」のような考え方も参 し今後、財政健全化による景気下押し圧力が強ま 核的自己資本を2%から4.5%に引き上げ(バッファ 18 主導して変動相場制を強化するしかない。ケイン ズがブレトンウッズ連合国通貨会議で創設を提言 ロ安での外需が支えているとの見方がある。しか (11年6.9%)、公的債務は対GDP比79.3%(11年 A 国際的に、どのような通貨体制がよいのか、本 当に難しい問題である。IMF(国際通貨基金)が 的な共通金融規制と新たな流動性 (マネー) といった 強力なインフラが必要不可欠である。 Q 不均衡の是正や健全な経済金融政策を実施する されている。EUの崩壊は決して起こらない。k (文責:国際広報部主任研究員 北井優康) 2011年2月号〔経済広報〕 19
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